今回割と独自解釈オブ独自解釈の山な気配・・・
ST31.Get Closer To Conviction!
一言でいうと、兄サンの周りはやばかった。一体全体どんな手練手管を使ったのか、二人の不死者の女共の兄サンへの距離感がヤベェ。痴情のもつれでもれなく全員死にかねねーのに、何よりそれを薄皮一枚でギリギリ回避してる兄サンがヤベェ。その恵まれた「ありふれた」生活っていうのに思う所もあったのだけれど、間近で見たらありふれたとかじゃ全然ない。正直お近づきになりたく無ぇ距離感だった。……人間の子供の、私と同い年くらいの奴もなんかヘンな距離感だし、マジでやべぇ。
いや、だからといって「ネギ様」の問題もある。一切近づかないとかそんなことは出来ないし、認めたくはないけど料理は美味かったし(ちゃんとミニトマトなかったし)、何よりパクティオーカードを取られたままだ。アレを取り返すまでは一時休戦というのでとりあえずは納得「したことにした」のだから、その話はいったん保留だ。
「別にそんな恰好良くもねーと思うんだけど……」
私たちが壊した教会の瓦礫を片付けながら、私はため息をついた。
これは一応、曲がりなりにも血筋が繋がってるからそう思うのかは分からないけど。兄サンの印象としては、カッコ良いカッコ悪いとかの感想はない。なんとなく「噛み合っていない」が一番近いかもしれない。まるでそう、兄サンの「母親」だっていう
フツー命を狙われて、しかも全く面識のない相手から兄妹呼ばわりされたら、あんな余裕ぶった顔じゃなくもっと動揺するものだ。少なくとも私ならそうなる。だってのにテキトーに受け流すは、受け入れてるようで実に巧妙に「私の距離感」を壊して同調させようとしてくるような……。ある意味で老獪というか、そう、人の距離感を踏み砕いて、いつの間にか身内にするような。そんなヘンな雰囲気が、私は怖い。
まるですべては悪夢で、ふと目を開けたら温かな家庭が存在してるような――――。
そんな錯覚すら抱いてしまう自分が、自分の弱さが嫌いだった。
「――――おや、ここに居ましたか」
来たよ、あの女だ。昨晩散々、私から話を聞き出そうとして、それで失敗しても無言でじっと見て来て、頭撫でたり猫かわいがりしてくる女。私とは無縁なくらい綺麗だしスタイルも良いし、おまけに不死性としても完成されてる。妬ましいったらありゃしない、私が欲しいもの全部持ってるようなそんな女。ユウキカリンとか言ったはずだ。
ついでに言うと兄サンが一番ドギマギしてるっぽい女だ。それをネタに色々引っ掻き回してやろうかと昨晩は思っていたけど、あのトキサカクローマルとかいうのに手を出してそりゃもう酷い目に遭った。というか怖かった、なんだあの女のあの目。決死隊のそれじゃねーか。なんで兄サンと並んでのほほんと過ごしてそーな奴があんな火薬庫一歩手前みたいな目ぇしてやがんだって話だ。お陰でそんな度胸消えた。どこにヘンな地雷が潜んでるかわかったもんじゃねー。
出来るだけ近づかないようにしようと考えるしかなかった。むしろそういう意味では、兄サンの近くが一番安全かもしれない。……変な話なんだけど、絶対に嫌なラインはそれ以上踏み込んでこないみたいな安心感がある。
ユウキカリンは私の横に並んで、一緒に片づけの手伝いを始めた。いや、何なんだよアンタ。私、アンタ嫌いなのわかってるだろ。そんな視線を向けても、女は無言のままじっと私を見据えて来ていた。
「貴女、本当に刀太のことが嫌いなの?」
「あ゛? …………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………、いやこっちが根負けするまで視線無理に合わせようとしてくんなよ怖ぇ」
顔を逸らすたびにその視線の先に先回りしてくる女とか完全にホラーのクリーチャーじゃねぇか。
なんで兄サンの周りの女共はこんなやべぇのか。やっぱ不死人っていうのが良くないのかもしれない。肝心の兄サンも不死人ではあるけどまだ感性はこっち寄りのはずだ。あのシノブとか言ってたのを変に愛でてた気もするし、色々とストレスがやべぇんだろうとは思う。不覚にも共感してしまい、ちょっと胃が痛かった。
ユウキカリンは「ふむ」とか言って、勝手に何かを納得したらしい。……その勝手に納得っていうのが怖すぎて、思わず私は問いただした。何納得したんだアンタっていう疑問に、女は平然と答えた。
「いえ。貴女も――――刀太の『素』は知らないのだろうな、と」
「素? も何も、あのノーテンキな感じじゃねーの?」
「本人が嫌がるので話しませんが、きっとそれは、大したことではないのでしょう。むしろそういう意味では、やはり貴女は刀太とは遠い所にいる存在…………、同じ場所で育ったわけではないのかと思ったのです」
「…………いや、まー、確かに2か月しか一緒にいなかったけどよ。昔の兄サンって滅茶苦茶体弱かったし。正直、私が
又聞きした話だけど、どうも代理母になった親の問題だったというか。生まれた「私たち」兄妹たちの中では、一番の基礎魔力量を誇っていたらしい。
最初は「金星の黒」と「火星の白」、その両方を一番体にストックしておけるということで成功例かと期待値も高かったけど、それが災いしたのか両方の力のバランスが一番悪かったのが兄サンだったとか。それでも代理母がスポンサーにでもなったのか、常に研究者とメンタルケアしてる奴の二人がついていて、他の子供たちの……、私みたいにロールアウトされた連中とか、その死体とかの実験データとかを投入して無理やり生かして引き伸ばして……、後のことはよく知らない。
ただ私がネギ様の所にいるようになってからは、もう「闇の福音」の元で平凡に、それこそフツーの子供のように過ごしていたって聞いた。
だから、それに心底腹が立った。私たちが「こんな身体」にされて、行きたくもない場所でやりたくもない仕事をして。痛いのを与え、痛いのを与えられ、何度も死にそうになりながら、そんな場所にいるのに。選択肢がないのに、兄サンだけ特別扱いを最初から最後まで受け続けているようなのが。
話は全部していなかったけど、所々漏れた感情でも聞いたのか。ユウキカリンは「戦場、ですか……」と痛ましいものを見るような目を向けてきた。気持ち悪ぃから、変に同情すんな。そういう意味じゃまだ兄サンが向けてくる視線の方がマシだ。……嫌な奴は最期まで嫌な奴らしく、こっちのことなんて考えてないような顔してくれてた方が、恨みがいがある。
「…………で、何だその目は」
「いえ。……普通の兄妹には決してなれないのでしょうが、それでも似ている所はあるのだろうと」
「意味わからねぇんだけど」
「私がこの世で最も敬愛するお方の言っている言葉です。『血は争えない』」
「それ絶対、その相手以外にも言ってる奴いっぱいいるだろ」
「私がこの世で最も敬愛するお方『も』言っている言葉です」
「訂正雑か、マイペースすぎんだろ」
「ですが、刀太もそうですが……、貴女も『痛いのは嫌』なのでしょう? 本当は」
「……………………」
一瞬言葉に詰まると、女は少し力なく微笑んだ。やめろ、その実の妹か義理の妹の成長でも見守るようなヘンな距離感の目。
「刀太自身、あの血装術を使ってる際はどうやら『痛みを感じていない』らしいので積極的に使っているようですが。
「…………痛み感じてねぇってそれ、いや、心臓から出してるんだろ? 直接。つまり痛すぎて感覚麻痺してるだけじゃねーの?」
私もそう思いますとかしれっと言うこの女、やっぱりちょっと怖い。
「別に兄サンほど魔力とか無理やりひり出せる訳でもねーし。ただ……『この身体』にされるのは、そりゃ、嫌だったよ」
既に体内の骨格のうち、超合金となっているのは何割か。不死身の実験兵士ということで、戦闘に必要のない臓器をいくらか無理やり「別な武器」だの「機能補助装置」だのに入れ替えられる経験なんて、フツーは絶対しないし、したくもない。子供すら産めない……、元々産むつもりとかもなかったけど、それすらもはや私にはないのだ。
それでも研究者連中は言う。戦闘中に「金星の黒」に真の意味で覚醒すれば、この作り替えられた人体も、もとの人体に戻ることが出来るって。……無茶言うなって話だ。兄サンですら一体何人分のサンプリングの結果、今の状態になってるのかすら分からないのだ。私程度、木っ端みたいな扱いで所詮は
だから私は――――。
「…………私たち、UQホルダーの元に来ることはできませんか?」
「そりゃ
私は、こんな私たちを生み出した運命を、この世界を否定する。
でなければ誰も報われないし、私たちはなんのために生まれたんだって話だ。
ただ…………。
「とりあえず仕事はしてやるよ。認めたくねーけど、でも、確かに兄サンの手料理っていうのは……悪くなかったから」
私のその一言に、女はそれ以上何も言わなかった。
※ ※ ※
「痛いのは嫌だって言ってたと思ったから。だから――――精神をギリギリに追い込むよ」
九郎丸のその一言に、私は恐怖以外の何も感じ取ることが出来なかった。
午後、場所はスクラップの山が並ぶ廃材置き場。向こうでリサイクルの為か回収クレーンとかが動いているが、つまりは原作において近衛刀太が「瞬動術」の練習をしていた場所だということだ。
そこで待っていた九郎丸曰く、気の修行というのは心身を追い込むことでその限界値を引き上げることに繋がるとのこと。かつて一月、デスマーチのごとく
「あの時って、課題のクリアを優先していたからね。時間もそんなにとれなかったし、僕も前より刀太君のことをもっと知ったつもりだから」
「あー、で何すんだ?」
「うん。刀太君がすることは簡単だよ――――そこで、いつもみたいに重力剣を膝に乗せて、座禅みたいな状態になって、ずっと『僕を見てる』だけ」
「…………」
僕を見てるだけ、のところに妙に力が入っていた気がするのはともかく。九郎丸が言うには、つまり姿勢を固定したまま、九郎丸が繰り出す神鳴流の技の数々の「寸止め」を体験するというものだった。
「刀太君、見切りは悪くないと思うんだけど、デスクラッド覚えてからちょっと疎かになってる気もしたし。技を実際に体感するようなのを味わって、ついでに見切りの力も上げるっていう目的があるんだけど、大丈夫?」
「…………痛いのは嫌なのだが。後苦しいのも」
「大丈夫! 僕も昔さんざん兄様にしてもらったけど、慣れてくると結構面白いから!」
目をきらっきらさせる九郎丸のこの様子を見ると、どうやら昨晩の反動でテンションが跳ね上がっているというよりも、かつて兄にしてもらった修行を私に施せるというシチュエーションが嬉しくてたまらないといった様だ。そのハイテンションっぷりは大変可愛らしいものがあるが、実行される修行内容が私からすれば物騒極まりない。あの、一応メンタルは凡人なんですが?(震え声)
「慣れるまでは大変だけど、慣れたらまた別な修行に切り替えるし。あー、でも、ちょっと失敗したら御免ね?」
「だから物騒極まりねーんだって!」
「あ! 待って、えっと、『
思わず泣いて脱走しようとした私に「アデアット!」と小声で九郎丸。完全に変身するのではなくアーティファクトだけでも呼び出せるのか、神刀(なんか本来より小さい)を投擲具代わりにぶん投げて進路を塞いできた。動きにためらいがない。どうやら私を強くしようという意思もあり、テンションも上がってはいるのだが、昨晩のアレによって普段存在する精神のタガ自体は外れているらしい。真面目に恐怖以外何も感じないのだが……。それでも恐る恐る九郎丸の顔を見れば、まだ正気の色をしている。
正気なのに話し合い通じないっていうのも中々のホラーなのでは?
結局私が折れ、
「じゃあ、行くよ――――神鳴流・百花繚乱!」
何が起こったかと言えば、私の鼻先やら目先やらにひゅんひゅんと風圧を伴うレベルの剣の軌跡が迫るというアレである。一種の達人のみに許された動きはいっそ外から見る分には美しいのだが、目を開けてる眼前1センチもない距離に実物の刃物が飛んでくるのは――――いや待て前髪切れた! 今ちょっと切れた!
思わずのけぞる私に「ダメだよー」と技を一度止める九郎丸だが。いやお前、もっと神鳴流だと実体を傷つけない技とか色々あるだろ。いくら不死身だからって実際に人体を傷つけるような技を使うなっていう話なのだが……。それだと精神追い込みにならないよね? とにこにこ言う九郎丸には、Sの気配というより病んでるような気配を感じて、上手く切り返せない私である。
「大丈夫! 刀太君は僕に全部委ねてくれれば、悪いようにはしないからさ?」
「いや……、だからさぁ……」
「どうしたの?」
踏み込めない。下手に踏み込むと次に何が飛び出してくるか分かったものではないという事情もあるし、九郎丸の内にどんな感情がどれくらい溜め込まれて(貯め込まれて)いるのか分からないのも大きい。甚兵衛の話ではないが、心の知恵の輪はちょっと失敗すると普通に刺される可能性もあるらしいので気が気ではない。八方ふさがり、夏凜風に言えばデッドロックと言う奴だ。
言葉を選び、躊躇する私に。無邪気そうな笑みを向けてくる九郎丸。外見からは判りにくい地獄のような心理戦である。(真顔) しばらく膠着状態が続くかと思ったが、どうやら私の祈りが師匠にでも通じたのか、第三者の乱入で事態は動いた。
「ハッハッハー! そこまでにしといてやりなお嬢ちゃん! ソイツはまだ『心構え』ってのが出来てねぇ!」
とぅ、とかヒーローっぽい叫びと共にくるくる空中で数度回転し、地面に降りて来る男。黒いシャツ、ツナギ、頭にはバンダナな長身の青年である。「だ、誰だ!?」という九郎丸の妙に純朴な反応が気に入ったのか、彼は大笑いして変身ポーズじみたのを極めた。
「ハッハ! 通りすがりの格闘家だぜお嬢ちゃん! ついでに言えば冒険家で、愛の伝道師だ!」
「愛の……? って、僕はお嬢ちゃんじゃないです!」
「お、そうか? さっきの見事な剣捌き、相手に対する深い愛がこもっていたと思ったんだが……」
「愛!? え、えっと、でもそれは――――」
「あー、そこのところデリケートなんであんま触れないでやってもらって良いッスか?」
「そうか? おー、まぁいいか」
このあたりのさっぱりした気質は、原作からそのまま引き継がれていると見るべきか……。しかし初対面とはいえこのハイテンション、おまけに子供好きそうに私と九郎丸の頭をポンポンしながら大笑いする様は、一緒に居て妙な安心感を覚える。
自称・格闘家、
と、撫でてた手を放して突然私を指さす灰斗。
「それはそうとお前だ、イカした和服の坊主! 何だ、そこのお嬢ちゃんがあれだけ丁寧に見切りの練習をやってくれてるっていうのに。ゼータクもんだぞ? あれだけの練度の技をこんな間近で見れるっていうのは」
「だ、だから僕は女じゃ……」
「間近で見れるってのは確かにありがたいって言えばありがたいッスけど。でも正直、あんまり気が進まないというか…………」
私の意図するところを直感でもしたのか「つまりエサは先に食べたい派だな?」とかいきなり言い出す灰斗。……いや何を直感したのか全く分からないのだが。とりあえず九郎丸の今の方法だと私に向いてないということだけは理解したのか、うーんと唸り出す灰斗。
「坊主たちは、刀を使うのか?」
「一応メインは。ただこっちの九郎丸が格闘技も使えるから、そっちも教わる流れかなって」
「へ? あ、はい!」
「そーかそーか。じゃあ……、俺も一枚噛める話だな?」
ニヤリと笑った彼は、どうせだから現役格闘家の俺が直々に修行みてやるぜ! とハイテンションに笑った。
こう何というか……、向こうから来てくれるとガバにならないで楽だね。(放心)
『(こんな流れだったのかな、あの時の刀太君も……、っていうより僕ってこんなだったっけ。あれ?)』