光る風を超えて   作:黒兎可

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毎度ご好評ありがとうございます・・・!
今回ちょっと懐かしいかもしれないアレです(?)


ST34.心のドアは如何か

ST34.The Gate of The Heart

 

 

 

 

 

 後日、足の訓練について夏凜から徹底的に嫌がられた。お説教タイムである。

 

「衛生的に非常にダメです。毎回毎回洗うようなことは出来ないでしょう? 刀太はともかく九郎丸まで。しばらくは黙っていましたが、そろそろ限界です」

 

 大変にごもっともであるが、このあたりは原作通りの修行なので難しい所がある。

 住宅施設が連なる一時避難先、屋上。腕を組んだ夏凜に正座する私と九郎丸二人は見下ろされており、全く頭が上がらなかった。

 

 灰斗の修行案として、つまりは日常生活のそれを、すべて手ではなく足で行えるようにする――くらいの柔軟性を身に着ける、ということだ。扉を開けるのも歯を磨くのも、料理を作るのも料理を食べるのも、遊ぶのだって足でやる、といったところ。……流石に料理を作るのは「危ないですよ!?」という忍の指摘に我に返って手でやりはしたが。

 実際面白がって、例のルキをはじめとした何人かの子供たちも一緒になって足を使い始めているが、私の側から注意するわけにもいかないし、九郎丸も「僕が率先してやってるから注意しても説得力ないよー!」と涙目である。

 そこで早々に叱り始めたのが夏凜なので、私も九郎丸も何一つ弁明が出来ないでいた。むしろ忍がフォローに入ってくる始末であり、カトラスは白い目で私と九郎丸の有様を見ていた。

 

「せ、先輩たちも頑張ってますし……」

「こういうのは甘やかし所ではありません、忍。まあ腕が上がるのなら問題はない、と言ってあげたいところではありますが。時と場所は考えなさい。真似した子たちが怪我をしたらどうするというのです」

「弁明の余地がないッス……」「ごめんなさい……」

「カトラスちゃんも真似し始めたらどうするのですか」

「いやしねーからな!? アンタ、俺のこと何だと思ってるんだ!」

「そうですか? 九郎丸から原理を聞いてた時に靴を脱いで親指を――――」

「あーやめろストップ! ストップ! べ、別に俺そーゆーの全然必要ないしっ」

「カトラスちゃん慌てるとますます……」

「ユウキシノブ、黙ってろ!」

 

 慌てているカトラスだが、実際問題あちらも私と似たような状況なのだろうから、「金星の黒」と「火星の白」に加えて当人の魔力、および気のバランスがしっちゃかめっちゃかなはずだ。少しでも何か吸収できるものがないかという貪欲さは、この先、生き残るために必須なそれと言えるかもしれない。

 実際こっちの妹チャン本人がどんな末路を辿るかについては関知しないつもりだが、出来れば穏便に済ませて欲しい所である。料理を毎回なんだかんだで一番きれいに完食してる様を見ていると、どうしても情が湧いてしまうのだった。とはいえそんな私の視線を、カトラスは鬱陶しそうに睨み返してくるのだが。

 

「修行案については私も何か考えましょう。しかし……、それだけの『気』の使い手がぽんぽんこの場にいるというのもおかしな話ですね。部下たちに後で調べさせましょうか」

「それは……、そうですね。僕、頭が回ってませんでした」

「まあ貴女は直前までそんな余裕もなかったでしょうし、そこは目を瞑ります。しかしその修行とやらを始めて一週間ですか……。ふむ」

 

 と、夏凜は忍に下へ降りるよう指示を出して、こう言った。

 

「実際、どの程度使えるようになったか、みてみましょう。まず刀太から」

「マジっすか……。いや、血装全然使えないと太刀打ちできる気、しないんスけど……」

「私も『神聖魔法』は今回ナシにします。今できるのを、出来るようにやってみてください」

 

 だからそう優し気に微笑まれると色々と来るものがあってどうしたものかとなってしまうのだが……。

 

 とはいえやることと言えば「内血装」で無理やり気を回す程度の話しかない。斬りかかる私に、夏凜は直接ではなく、ハンマーを地面に設置した状態で振り下ろしを受けた。一撃と同時にコンクリートのような感触が黒棒を通して私の腕に響く。……なるほど、こちらの一撃を見極めて、どういう風に受けるのが妥当かという判断か。灰斗の言っていたようなことを思い出すが、このあたり夏凜は今までの経験値か何かで賄っているような気がした。

 

 伊達に年は重ねていないということか――――痛ッ! 殴った! 今この人、人中殴った!

 

「なんで!」

「いえ、ぶしつけな視線を向けられた気がして思わず……」

 

 鼻血を流す私に謝る夏凜だが、こちらもちょっと気が立った。いや、確かに年寄りを見るような目を向けたかもしれないのは悪かったが、何もこんなストレートに顔面ぶん殴ってくるとかちょっと予想してなかったわ! しかもハンマーで! 不死身じゃなかったら普通に死んでると声を大にして言いたい。

 そんな意志が乗ったわけでもないだろうが、体内で運用している魔力の具合がおかしな方向にそれている気がした。とはいえ速度が多少上昇する程度だ、別に大した問題ではないだろうとタカをくくっていたのだが…………。事件は起こった。

 

「おら――――! って、は?」

「へっ?」

 

「はい!?」「いや、マジで『ネギ様』みてーじゃねぇか……」

 

 振り下ろした黒棒を剣で受けたと同時に、私の腕が裂け。そこから噴出した血液が夏凜の服に触れた瞬間、制服のブレザーやらスカートやら下着やらが一気に消し飛んだ。

 ちょっと待て、いや、これって完全にアレだろ「風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー)」! 元祖「ネギま!」でネギぼーずが一番の頻度で使用してた、というかくしゃみと同時に暴発していた武装解除魔法!? 威力が高すぎて攻撃性の武器やら鎧やらに関わらず「身に着けているもの」すべてを風と同時に魔法的に吹き飛ばすやつ。確かに雪姫の言で血風の内部には少しこれが含まれている的な話は聞いたが、いやこんな変な形で暴発するのはちょっと聞いていないのだが!?(困惑)

 お風呂でもなくニーソックスと革靴を残して全裸状態になった夏凜は、目を見開いた後にすごすごと身体の局所局所を隠し……、いえ、あの、原作でも戦闘中でも貴女そんなに上目遣いにこっち見てきたりとかしていないだろ、止めろ、そんな顔されたらいよいよもって抑えが効かなくなるから、お願いします何でもしますから。(ガバ発言)

 

「その…………、こういうのはもっと、二人きりの寝室とかでして貰わないと」

「いや、あの完全に想定外なんで謝りますけどそういう話でもないでしょうに!? っていうかその場なら良いんスかちょっとー!」

 

 思わず絶叫しながら顔を覆い隠しその場にうずくまる私に、絞り出すような夏凜の声。いくら何でも、色々と思春期が限界を迎えそうな有様すぎて、カトラスの「まー、どんまい」が癒しに聞こえた。

 もっと格好良く(オサレ)に……、もっと格好良く(オサレ)に生きたいです……!

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 夏凜先輩が着替えた後、今度は僕の番ということになったのだけれど……、先輩は僕の顔を見て、刀太君に下へ降りるように言った。

 

「とりあえず気張っていた問題は解消されたようですね、九郎丸。嬉しく思います」

 

 微笑む夏凜先輩。完全に戦う体勢にないのだけれど、なんというか凄い、一発で僕の感情というか、意図と言うかを悟ってくれた。いつの間にか展開した「神聖魔法の結界」で内外の音は遮断されていると微笑む先輩は、カトラスちゃんの方をちらりと見た後に続けた。

 

「それで、何やらビンビンと敵意……ではないですが、強い意志を感じますが。どうしました? 刀太に告白でもしましたか」

「し、してません! してませんけど……、というより僕、男ですから!」

「そうそう、その話も気になっていました。雪姫様に連絡を入れてもはぐらかしてきますし、そのあたりは本当のところどうなのでしょう? 肉体的に女性、精神的に男性、というには無理もありますが……、何かしらの儀式のような習わし?」

「その…………」

 

 夏凜先輩だけに話すならまだしも、という思いもあってカトラスちゃんの方を見れば。別に興味ねーからと、何故か引きつった表情をしていた。

 

「…………正体を明かせば、その、僕は純粋な人間ではないというか……」

 

 UQホルダーでも働いている人もいたり、保護していたりする子供たちも多くいる「亜人」、その一種。「八咫の烏族」と呼ばれる種族の生まれが僕だ。背中に翼の「もと」が存在する僕らの種族は、亜人の中でもかなり特殊な生物的特徴を持つ。

 

「…………つまり、男でも女でもないと?」

 

 僕の語った話に、夏凜先輩はこめかみを押さえていた。

 

「元服前後、つまりえーっと、十六歳まで男でも女でもない、あるいは男でも女でもある、みたいな感じです」

「ちょっと待って、どういうこと?」

「言葉通りなんですけど……、えーっと、つまり『元服』、成人の時に男として育つか、女として育つかを自分で選ぶんです。僕みたいにその儀式を受けられない場合は、自然とどちらかに落ち着いていくみたいなんですけど」

「それは……、貴女も中々大変なのね。難儀だったでしょうに」

 

 同情の乗った視線は少しくすぐったいものがあったけれど、実際それを最近はあまり感じたりはしていなかった。……このあたり、刀太君がけっこう気遣ってくれていたお陰だと今更ながらに思う。お風呂に入る時間も熊本のころから自然とずらしていたし、体育の授業があるときは朝の段階で教えてくれて先に着替える余裕を持たせてくれたり。どうしても一緒に体を洗わないといけない時とかは、ある程度距離を取ってくれたり、それでいて「そういう」ヘンな視線を向けてたりしないでくれた。

 

「それで、今の貴女はずっと『女性側』に寄っている気がしていますが。そんな貴女から強い意志を向けられるような何かがあったかと、少々疑問なのだけれど」

「…………夏凜先輩は、刀太君の何を知ってるんですか?」

 

 それを知りたいと言うと、夏凜先輩は表情を無に戻した。

 

「特に何かあるとは思わないけれど、それは、どうして?」

「ずっと刀太君と一緒にいた自信があります。でも、どうしてもどこか、一線みたいなものがある気がして……。だけど夏凜先輩とやりとりしてる時だけ、その境界みたいなのが、刀太君の振る舞いにない気がするんです」

 

 そしてそれは夏凜先輩も同様で。明らかに先輩のパーソナルスペースの距離感は、刀太君に対して常軌を逸するレベルのように見える。刀太君自身、その、大人の女性の身体とかにドギマギしているのがあるにしても、夏凜先輩に関しては一歩進んだ距離感というか、近さと言うか。そう、僕が寄っていく時よりも「拒否していない」感が強いというか…………。「ひぇっ」というカトラスちゃんの声が聞こえた気がしたけど、僕はずっと視線を夏凜先輩から外さなかった。

 

「どうしてそれを知りたいの?」

「……刀太君が、僕を受け入れてくれたから」

 

 こんな、彼をこんな世界に引き込んでしまった僕ですら、受け入れてくれた、正面から手を差し伸べてくれた優しい彼なのだから。

 

「だから、僕はもっと彼を守れるような僕でありたい。誰より刀太君の近くに立てるような、そんな僕でありたいんです」

「それは――――嫉妬かしら?」

「…………い、いえ、たぶん。きっと違うんじゃ」

 

 僕の言葉に、夏凜先輩はたたみかけるように「わかります」と言う。

 

「自分という存在がありながら、一番近いところでずっと一緒にいる存在がありながら、少し自分にないものを持っている相手のところにホイホイと行ってしまうなんて納得がいかない……、私も覚えがありますとも。相手をズタズタに引き裂いてち○こ捥ぎ棄てるくらいには」

「ヤベェ……」

「○んこ言っちゃダメですよ!? っていうより何の話を……!?」

 

 

 

「誤魔化しようもないわ。やっぱり貴女、彼のことが大好きなのね?」

 

 

 

 

 どーん! という効果音が聞こえた気がして、思わず僕はその場でフリーズしてしまった。

 そ、そうなのか僕……? いや、でもそんなことって簡単に認めるような話でも……、って、認めちゃってそれでいいのか僕! 完全に性別、女で固定しちゃっていいのか!? でも考えたらずっと女に寄ってる身体のままきてるし、ここ数日胸も大きくなってきてるような……。

 でも、僕がそんな責任を感じて負わなくて大丈夫だって言ってくれたなら、僕は友として、同志として彼の隣に立つのが誠実なのでは……?

 

「迷っている時点で答えは出ているような気もしますが、まだまだ青い」

「うぅ、その………‥、夏凜先輩は、どうなんですか?」

 

 腕を組んで、一息入れてから。夏凜先輩は堂々と。

 

「別に競うものでもないし。大体、私たちは不死身なのですから……、取り合いになればそれこそ地獄でしょう?」

 

 それは、というより取り合いって…………。

 

「だったら別に独占を諦めれば良いんじゃないかしら。後は刀太本人の選択次第、ということにしておけば、それなりに割り切りもできるでしょう」

 

 大体それ以前に、刀太は貴女を気遣いすぎだし、と。夏凜先輩に言われて、僕は顔が熱くなってきた。そうなのかな、でも僕から見れば夏凜先輩に対してだって刀太君は…………。

 

「…………結局答えてなくね?」

「へ? あ、そうだった」

 

 と、カトラスちゃんの一言でごまかされかけた事実に気づいた。僕は夏凜先輩に改めて問いかけると、彼女はため息をついて。

 

「…………最終的にどう接すれば良いのか、私自身、決めあぐねているところはありますが。まあ、諸々の状況や意図や個人的な話をふまえて、嫌いではないんじゃないでしょうか」

「面倒くせぇ女……」

「カトラスちゃん、今晩は刀太に言ってミニトマトをサラダに追加してもらいます」

「な!? アンタそれ反則だろ!」

 

 わめくカトラスちゃんを見事にスルーして、例えばですが、と夏凜先輩は続ける。

 

「もし仮に、私と刀太が結婚するとして」

「い、いきなり話が極限状態なんですけど!?」

「結婚するとして。そうすると刀太は雪姫様の息子となりますから、つまり私も雪姫様の娘ということに……、ひひ、へへへ……」

「か、夏凜先輩、ちょっと色々と女の人としていけない顔してませんか!?」

「おっと、失礼。まあつまりこのように、一概に一つの感情だけで刀太をどうこう、と言い切ることが出来ないのですよ。なまじ、私も生きて来た年数が長いですし、しがらみも、過去の経験もそれなりに、ですから」

 

 ロクな恋愛経験はないに等しいのですが、と自嘲する夏凜先輩。さっきの顔はともかく、その力ない微笑みには色々な感情が乗っている気がして、僕は何も言えなかった。

 

「なのでまぁ、色々と選択肢は増やしてあげるのが、出来ることではないかなと。…………流石に全員囲う様な甲斐性があるかは、まあ、今後に期待かもしれませんが」

「ぜ、全員……!? そんな背徳的な……っ」

「おい、それまさかと思うけど、私、入ってたりしない? しないよな、なあ、ちょっと聞いてるか二人ともさぁ、あ゛? ……ダメだこりゃ。完全に酷ぇし、ヤベェ……」

 

 さてそれはそうとして、と。夏凜先輩はハンマーと剣を取り出し、僕に向けて構える。

 

「夕凪でしたか、貴女の刀。はやい所構えてください。ああ言った手前、ちゃんと『どれくらい強くなったか』はみますので」

「…………わかりました、よろしくお願いします」

 

 僕も仕込み刀「夕凪」を腰に構えて、夏凜先輩と距離を測る。と、斬りかかってくる夏凜先輩の「瞬動」に、抜刀した夕凪で威力を足元に逃がす。この感覚が以前より鋭く感じられてるような気がして、思わず僕は微笑んだ。

 だから、僕はカトラスちゃんの言葉を聞き逃してしまったのだけれど。

 

 

 

「…………で結局、ユウキカリンは兄サンの何を知ってるんだ?」

 

 

 

 

 

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