本当はこの話スキップするつもりだったけど、夏凜ちゃんさん書きたかったから頑張ったです・・・
ST35.Venundatus
こちらに来てからシャワーを浴びるのは久々だった。
もともとスラム街において水を大量に使うのは贅沢だと前時代の知識が色濃く残っているのだけれど、春日は気にするなと隣でシャワーを浴びながら笑っている。
「大丈夫大丈夫! この辺の女連中、オバちゃんたち含めて皆でお金寄せ集めて買ったやつだし。『魔法炉』とか言ったっけ、アレのお陰で簡易のアプリだったら全自動で発動してくれるから、水も電気も問題ないし。国が魔法解禁以降、格安お掃除アプリとか提供してくるお陰で衛生問題とかも大丈夫だしねー。一昔前は『魔素汚染』とかも酷かったけど、ちゃんとお掃除アプリとかで解消できるって導入に積極的な議員もいたし、捨てる神あれば拾う神あり?」
「神職の貴女がそんなこと言っていいのかしら」
「厳密には悪いけど、この国来て多神教文化受け入れられない宗教者ってカルトとかなっちゃいそうじゃない? シスター・カリンもお婆ちゃんに匿われるまで散々だったって聞いたけど」
「そうね。…………正直今でも狙われてる気がするから、あまり気はすすまないのだけど」
私の言葉に「それだけで長編小説一冊くらい書けそうやーなー」と変な訛りが返ってきた。
結城夏凜になるまでの私は、当時はホルダーですらなかった十蔵に甚兵衛の依頼で
……なのでロクな恋愛経験がないのは私自身のせいではないのです、九郎丸っ。
「まー足で物を食べたりし始めたらどーしよーもないけど。昔、ヒデヨシの爺さんが居たころもそんなことやってたっけねー」
「そこは本当に御免なさい……、言って聞かせはしたけど、食事以外は今でも隠れてやってるみたいだし」
「でもまー、ルキとか全然笑ってるしへーき、へーき。子供は笑ってるのが一番! 下心がないのに限るけどねー。
と、そーゆー意味じゃシスター・カリンもさー」
「シスターはもう止めて。今は結城夏凜だから。……大体貴女、私のシスター時代は物心ついてなかったじゃない」
「細かいことはいいじゃんいいじゃん? で、最近どうだったりするのん? 主に男性事情」
「…………は?」
「おトボケなさんなって! 前に来たイケメンだけどテキトーそーなフェイマ(※コンビニ)の店員みたいな人とか、メガネのクールさんとかはそんなに脈ありそうな感じじゃなかったけどさー。あのチャン刀よチャン刀! ちょっとヒネた感じの!」
「ちゃんとう…‥、
アポがなんか呼び始めて、語感良くってつい、と春日。確かあの麦わら帽子をかぶっていた女の子だったかしら……、意外と物怖じしない子なのだろうか。
もっともその刀太がどうしたのかと聞けば、春日は壁越しでも分かるくらいにニヤニヤとしたような声を掛けてくる。
「シスター・カリンってば、気が付くとすーぐ目で追っちゃってるし。しかもチャン刀の方もそれとなくシスター・カリンの方を追ってたり、たまに目が合ったりしちゃってるし。あのアイコンタクト……、兄妹以上とかじゃなくって、もはや婚前初夜は終えてるものと見た! 子供好きだとは思っていたけど、いやまさかシュミまでそのテのものとは……、えっちだねぇ。何々、お誕生日にイロイロとヤッてもらう算段だったり? 八月だったっけー」
「犯罪じゃない、神職である自覚を持ちなさい貴女……。いえ、そもそも別にそういうことはないのだけれど。誕生日だって祝う習慣がない時代の生まれだし、そういう算段なんて――」
「うっそでしょ! だってチャン刀の目線が身体に行っても全然嫌がる素振りすら見せないしぃー。ウチの所の子たちがちょっとエロい目で見た時のそれとも微妙に反応が違うしぃー。で実際のところどうだい? だい?」
実際に刀太と私がどうだというか、何をどうしたかという話ならば…………、旅館で寝ぼけた刀太がひたすら泣きはらしていたのを慰めた時のアレは置いておくとして。
「軽く殺し合った関係ね」
「えっらい物騒!?」
ずっこけたようなガチャガチャとした音が鳴ったけれど、すぐに立ち上がったのがわかるので特に追及はしない。
「何何? でつまり、殺し合いから殺し『愛』ってな感じで始まる関係もあるってことかねー」
「大体、私の事より貴女、自分の心配をなさい。見た目は結構若いけど貴女今年でアラ――」
「ア゛ッー! ア゛ッー! キコエナイ! キコエナイ!」
「そんなに慌てるなら自分から墓穴を掘りに来なくても良いでしょうに…………」
再びガチャガチャと音を立て慌てる春日だったけれど。
その音が突然途切れて、シャワーだけが垂れ流しになったような音が聞こえる。
嫌な沈黙。
「春日……、美柑?」
私の声に応答がなく、思わず振り返ろうとした瞬間――――私のこめかみが、銃撃された。
咄嗟のことに一瞬頭が白くなりかけた私。でもこういった修羅場は慣れている、自然と、砕ける魔法アプリに紛れるように「間近に現れた」狙撃者の腕をつかみ、銃口を腕ごとひねって変えて狙撃し返した。
全身黒ずくめ、頭に麦わら帽子を被って左に眼帯をした半眼の男……、何者? いくら華奢に見えるからって私よりも高身長。直前まで殺気も気配も感じないのは明らかに異常。
ニヤニヤ笑い何事かこちらの腕を褒める男。そういう相手も銃撃を小さいナイフで躱しきっている。手練れ、というより手馴れているこの雰囲気に、嫌な感覚を覚える。
「完全奇襲の拳銃連射に素手で割り込むとか普通するー? 避ければいいのに、不死身になっても基本的な技能鈍ってないとかさー。可愛げねー。
でも、そういう所も好み♪」
「気持ち悪いです。……それよりその帽子。表にも隣にも人がいたはずですが、どうしましたか? 返答次第によっては――」
「返答次第じゃナニしてくれちゃうのかな? ま、こっちとしちゃゾンブンに愉しめるならそれで良いんだけど――――『鋼鉄の聖女』サン?」
懐かしい、そして嫌な呼び名に一瞬動揺したのが拙かった。ナイフと素手でCQCまがいの攻撃を仕掛けられる。
拳銃はあらぬ方向に投げ捨てられ、素手での対応を強要される。「聖句」を唱えようにもその隙を与えない手さばき。プロ、その中でもかなりの手練れ。
おまけに気のせいでなければ「こちらの手を研究し尽くしている」?
攻撃が何度か私の人体を通ることにより、痛みと、そして背中に「焼けるような」感覚が浮かび上がる。……私の罪、その証明あるいは断罪の数が。
攻撃の応酬は私の勝ち。壁に叩きつけ、首を蹴り上げ抑え込む。
……少なくともこの「罪の証」が出ている以上、私が
「貴方は只の人間ですね。魔法アプリの痕跡もない。目的は何? 早く言って、命が惜しくば去りなさい」
「――――ククク、甘いなぁ夏凜ちゃんは♪」
逆襲――――激痛で脳が焼かれるようだけれど、これでも「当然」死なない。
シャワールームに逆戻り。口の中に拳銃を突っ込まれるのは想定していなかったものの、一体どこから? 収納アプリの痕跡はない。
「やっぱり! 手応えがあるのに傷はない。なのに痛みは感じるんだろ?
そういう仕組みか……、最高だよぉ、惚れ惚れするよ君は! 君みたいな
僕はPMSCS―――民間軍事警備会社『パワフルハンド』所属の
「ヘンタイッ!? じゃない、プロの傭兵? ……貴様のような下衆を相手する暇などないのです!」
前に戦ったサイボーグ男、おそらくそれと同じ所属なのでしょう。言うなればカトラスちゃんが臨時で雇われた組織とも。とするなら、それがわざわざ「足止め」に私を襲うということは、刀太たちが危ない……、私よりも「弱点の多い」あの子たち、一刻も早く向かわなくては!
収納アプリからワイシャツを取り出して羽織りながら、「聖句」を唱える。と、やはり私に神聖魔法を使わせまいとしてか、男は背後から抑え込みにかかる。
今の妙に「ぬるり」とした気持ちの悪い移動法は何なのでしょう……。刀太が血装術を使っていた場合も、いつの間にか移動していることは多々あったものの、あれとて一応は風圧のような「移動した」痕跡を感知できるというのに。
とはいえ流石に手馴れている、私の腕を引っ張り関節ごと体重を反対側にかけ――――っ、激痛に思わず声が出ると、チャウと名乗った男は愉しげに笑った。
「良いじゃないか、随分とカワイイ声で♪」
雪姫様や刀太に言われるならまだしも、この男に言われても鳥肌しか立たなかった。
「でも不思議なものだ、普通これくらい関節に負荷をかければ、あっという間に外れてくれるっていうのに。まるでそう、鋼鉄みたいな。…………でも傷つけることが難しくても、痛みには弱いってことか。これは、愉しみがいがある」
「――――調子に、乗るな!」
抑えられてる腕の角度を無理やり変えて畳みつつ、曲げた膝をひねって蹴り上げる。
そのままタックルからアッパー、上段回し蹴りをして距離をとる。……神聖魔法で結界を張る余裕もないので建物がボロボロになってしまう。後で弁償しなくていけないわね。
「くふふ、あはははははは――――――なんてね♥」
次の瞬間、男の背後から「無数の黒い手」が出現する。質量を持った何か? 判断に迷い蹴り飛ばそうとするも、感触を得られず「貫通し」、そのまま黒いそれは私の脚をからめとった。
一気にその影は私の脚を起点に全身を絡めとり、壁に拘束した。
「影……?」
「そ、ご・明・察♥ 正真正銘、伝統の『影の精霊』を操る魔法使いだよ。
ついでに言えば、この影を起点に実物も操ることができる。魂が無い対象に限るけどね♪」
男の背後に、続々と子供から大人くらいの大きさのデク人形のようなものが現れる。それらは服を着用しており、遠目で見る分には普通の人間と変わりない。
こんなものを大量に投入されでもしたら――――。
「その顔、お察しかな? コイツらを使って『
「貴様――――ッ」
「ま! それはそうとして少しお話しないかい? 夏凜ちゃん」
言いながら男は私の胸部にナイフを刺す。……傷つかないとはいえ、刀太とおそろいの様な形にされ、しかも相手が見ず知らずのこの男であることに痛み以上に苛立ちを覚えた。
「強がってる強がってる♪ ……流石時価70万の超電動高周波ナイフ。人体でもバターみたいにすいすい刺さる。……で、いやこれ、本当凄いじゃないか! 傷どころか血も出てこない! まるで『実体のあるホログラム』でも切ってるみたいな感覚だ! それなのに痛みは残ってるだなんて、酷い呪いじゃないか! 一体どこのサディストだい?」
「……っ、貴様に、言われる筋合いは、ない」
「おいおいおい、僕は誰より君を理解してあげられるオトコなんだよ? そうカリカリするなって『鋼鉄の聖女』イシュト・カリン・オーテ!」
捨てた名で呼ばれ、やはりいら立ちが募る。雪姫様と出会う前の頃、魔女狩りに遭った際に一切の傷を負わず魔女と呼ばれながらも、数多くの妖魔を退治していた時代の記憶がよぎる。
「君なんだろ! 決して傷つかず、しかし誰よりもそんな自らを殺す民衆を守ってきた聖女サマってのはさァ! 健気すぎて涙が出るよホント!
かの
なのに何だい! 僕が、某国のプロジェクトで生存を知ってからずっと探し求めていた君みたいな女がさぁ! 今じゃこんな島国の片隅で取るに足らないクズ共をまーた助けてる!
わかってるだろ? そんなクズ共はまた君のことを怖がり殺す! 今は大丈夫でも、その『変わらなさ』は絶対に周りと軋轢を生み恐怖を生み、そして君をまた殺し尽くす!」
馬鹿じゃねぇの! と。笑いながらも、彼の目は真剣そのものだった。
嘲笑いながら、どこか心の底で納得できていないような目をしていた。
「とっくの昔に見捨てられてるんだよ、俺たちは! 何やったって無駄なんだよ!」
「…………っ、貴方も、かつては『そんな』子供だったのかもしれませんね」
「……ふふ、いけない、僕としたことが……。
でもだから判るよ、夏凜ちゃんのことなら何でも――――怖いんだろう? 永遠が」
っ、舌を、這わせるな……!
「大丈夫、大丈夫……、身体が壊れなくても心は壊れることが出来るから。そしたらずぅっと一緒に居られるからね?
愛してるよ夏凜ちゃん……、出会う前よりもずっとずっときっと前から。大丈夫さ。たとえ神様が見捨てても、僕が永遠に愛してあげるから――――」
それは、禁句だった。
神が見捨てる? ――――あの方が見捨てるなど、そんなバカげた一言で、一気に頭が冷えた。痛みなど無視できるほど、思考がクリアになり。
「――――『
自らの内側から「神聖魔法を放ち」、影を照らし、浄化し、消滅させた。
は? と驚く男の局部目掛けて蹴り上げ、顔面を殴り飛ばす。その余波で周囲の壁も破壊され、床に転がって拘束されてる春日の姿が見えた。今の衝撃で意識を取り戻したのか、木偶人形に拘束されている。
「し、シスター・カリン……! ちょっ、お胸になんか刺さってるけど!?」
「……問題ないわ、この程度」
抜きその場に捨て、チャウを名乗った男を睨む。私の「光輪」、あるいは「神聖なる光」を前に気圧され、嘘だ嘘だとわめいていた。
「う、嘘だ、嘘だ……! だって君は、君の正体は――――なら君は神に呪われているはずだ! 呪われていなければいけない!」
「ええ、それは私自身、何度も思ったことですとも。でも、どうやらこの程度で許してくれるほどあのお方の『愛』は生半可なものではないのでしょう」
「愛だって? それを『愛』と解釈するのかッ! 君は、狂ってる!」
神聖魔法のベースにある「信仰の力」を直接用い、私は男を無理に持ち上げる。
そしてそのまま、ありったけの力と感情で男の腹をぶん殴った。
「――――
男の身体にありったけの「信仰」を叩き込み、彼を中心として張られていた根の「影」自体を浄化させる。本体とつながっているパスが切れれば、男の操っている人形はもう動けない。
既に気絶してひっくり返っている男に向かって、私は私怨を混ぜあらん限りに蹴り飛ばした。……バスタオルを巻いた春日が「待って、いくら悪人でも殺しちゃいけないでしょシスター・カリン!?」とわめいているので、仕方なく足を下ろす。
「……貴方がかつてどんな立場で、その今の有様に至ったかは知りません。ひょっとしたら、私が庇護するべきだった子、だったのかもしれません」
しかし、と。私は白目をむいて口を開けてる男に投げかける。
「今の貴方を選択『し続けている』のが貴方である以上、それはもはや貴方の選択です。だから人の事を偽善だと断じたところで、私は気にしません。
大体『愛してる』と言うのなら、トップクラスに変態なその姿勢でどうこうできるなど考えないことです。それに大体――――」
それに大体、と。……あの時の、誰も自分の味方になってくれないと泣いていた刀太に言った一言を思い出し、少し心拍数を上げながら。
「――――私は既に『予約済』な上、クーリングオフ不可のつもりですので。探すなら他を当たりなさい」
がくり、と。意識があるわけでもないでしょうに、私の一言に合わせて男は完全に沈黙した。
…………その後の春日による「予約済って何? やっぱシたのかぁ? シたんだな!?」という反応が鬱陶しいことこの上なかった。