光る風を超えて   作:黒兎可

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ST36.小さな羽搏きと大きなばた足

ST36.Small Fluttering, Big Fluttering

 

 

 

 

 

「チャン刀兄ちゃん慣れてるな、けっこー!」

「まぁこういう仕事に覚えがないわけじゃねーしなぁ……、というか『チャン刀』に『兄チャン』だとチャン被ってるじゃねーか、何かもっと上手い呼び名考えとけっ」

「先輩、このデバイスまだ使えそうです!」

「おー! お手柄じゃん忍!」

「ひゅぇ!? あ、は、はい! ありがとうございます……(て、手を放してくれないかな……、照れちゃう……)」

 

 修行というか練習の傍ら、大量に都から破棄されるスクラップだの粗大ごみだのといった山の中から使えるものを探していた私、忍、ルキの三人である。既にこうするのも四日目か。足で拾おうとしたのをルキが真似しようとして「何をやらせているのですか」と夏凜に怒られたので、流石にこれは手作業であった。

 忍は廃材から修理やら何やらに使えるパーツ探しであり、ルキは特定の資源ゴミを集めるバイトだ。確か1キロ1円、引き取りは十キロからだったはずなので、この年代の少年にさせるには中々過酷である。

 かつて軌道エレベータ基部で使用する予定だったエネルギー資材の運搬中、スラムで事故が起き「魔素汚染」が発生したとシスター春日から聞いた。その結果、耐性がない人間は身体を妖怪やらに乗っ取られ怪物となったり、あるいは妖魔そのものが大量発生して大問題になったらしい。もっともそれらは、とある議員が奮戦した結果、スラム自体の衛生環境の改善と共にある程度は解消されたらしいのだが。

 

 しかし「魔素」に「妖魔」か……。

 

「どうしたんだ? 兄ちゃん」

「いや、何でもねーけど。しかしお前も大変だなールキ」

「ですね。田舎だったけど、私、結構恵まれてたんだなって思っちゃいます……、お爺ちゃんとか普通に都会と行き来してたみたいだし」

「そんなの関係ねーって! 『世の中恨むな、ひねくれるな』『お前がどれだけ頑張れるかだ!』ってシスターも言ってたし。夢だってでっけーのあんだぜ! うんと金稼いで学校に入って勉強してジツギョーカになって、こことか全部りっぱにするんだって!」

「そりゃ大した夢じゃねーか。ははは」

「……なんか兄ちゃんキョウミねーの? じゃあ兄ちゃん夢とかあんのか! いえよー!」

「ほう、それを俺に聞くか。…………って言ってもアレだな、喫茶店とかのマスターだ。なんかこう、昔の友達とかが気が向いたときにフラフラっと立ち寄って、いろんな話したりとか、近況くさしたり貶したりケンカしたり笑い話したりテレビ見たり麻雀やったり、まーそんな場所を作るのが夢って言えば夢か」

「…………? それ夢か? なんかジミー」

「はっはっは、まだまだこの優雅さ(オサレ)が理解できる年齢ではないか」

「おされ?」

「あはは、せ、先輩はなんかこんな感じだから……。でも、そういうのってなんか、素敵だと思います!」

 

 忍のヨイショっぽい何かに少しだけ気をよくしながら、ルキの資源ゴミ回収を手伝う。こう、未来にまっすぐ向かっていく少年のバイタリティは見習うべきなのかもしれない。いくら想定外の事態が連続してしまっている現状においてもである。諦めながらでも前を向いて前進しなければ、得るものはないということだろう。

 

「お疲れ様……」

「あ、九郎丸さん!」「九郎丸の姉ちゃん!」

「ぼ、僕は男だからね! 何度も何度も訂正してるけどっ」

 

 と、スクラップの山の上に居る私たちに、下から九郎丸が声をかけた。足は裸足のままだが汚れている風でもないので、気づかなかったがひょっとして「虚空を蹴って」こっちまで来たのだろうか……、若干、原作よりも技術的に上昇してるらしい。

 その手にはペットボトルが四本。投げ渡してもらったそれを軽くジャグリングしてから、忍とルキに手渡した。

 

「しかし何て言うか、九郎丸はホント上手くなったよなぁ足使うの」

「そ、そうかなぁ……。まあ世間体にさえ目を瞑れば、確かに良い修行だよね」

「そういう先輩も、足で似顔絵とか普通に描いてたりするからあんまり当てにならないんじゃ……」

「めっちゃ上手いからな! 兄ちゃんの似顔絵!」

「でも似顔絵描けたところで主目的が違うからなぁ。忍とかに言ってもアレかもしれねーけど、こう、二重の衝撃(キワミ)みたいな動きをしたところで肝心の『気』のコントロールが上手くいかないっていうか。あんまり踏ん張りすぎると足から出血するし」

「何でです!?」「きわみ?」

「やっぱり血装術を使わない方法、考えてみたらどうかな」

「と言っても基礎的な話からだからなぁ。大地を掴む、っていう感覚がどうにも上手くいかないっていうか、力みすぎるっていうか…………」

 

 内血装をある程度扱い慣れた上で改めて言えるのは、瞬動は思ったよりもセンスが必要であるということだ。原作の記憶をなぞるなら、確か「足の柔軟性を最大限に生かして加速を引き起こし、一瞬前の全てを背後へ置き去りにする」始点と、「接地の瞬間に再び足の柔軟性を最大限に生かし発生した運動エネルギーを最大限やわらげ大地へと衝撃を返す」終点、であったはずだ。

 これに関して私的に一番ネックなのは、つまり「足の柔軟性を最大限に生かして」のところである。灰斗の言う通り足の指で二重の衝撃(KWM)的な考え方を実行してはみるのだが、それだけでは方向性が上手く定まらなかったり、あるいは踏み込みのバランスが崩れる。どうにも感覚的な話として、指でもう一段階の踏み込みのようなものを発生させる「と同時に」、全身の運動やら体幹などのバランスも調整してやる必要があるということだ。無理にやろうとすれば、先ほど言っていた通り魔力と血の連動が狂って「足が裂ける」。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、なにせついこの間までそういった全てを半マニュアルかつ適当に実行してきた私である。死天化壮はそれが実現可能であり、また「変な姿勢」やら「変な重心移動」やらから全く違う動きを行えるのが最大の利点でもあった。実際、甚兵衛を相手にした時も死天化装が何故有効だったかと言えば「剣の心得がある相手の予測」に対して、全く反した動きを連発するからに他なるまい。

 

 つまりは、邪道からいきなり王道に回帰しようとしているのだ。それも高速で。体感ではあるが、流石に無茶であるらしい。

 どうしたものかと頭を悩ませている私である。いまだ瞬動の目的にはいまいち合致しているとは言い難く、原作刀太ほど「気」の運用に才能がないという星月の言い回しにもっともさを感じてしまっていた。

 

 ままならぬ、と呟こうとした瞬間、ルキが「火事だ!」と声を上げる。急いで後をついていくと、ゴミ山の上で四方、あちらこちらから火を噴いているのが見えた。

 

「――――敵の攻撃だ! 近代兵器を用いない形で『不審火』を多く焚き焼け野原にしてしまえば、人が避難して誰も居なくなる、万一残っても『死んだ理由』を作って焼き殺す!」

 

 お前「下界」の情報全然知らないくせに何故そういうことばっかりと思わなくもないが、それはそうとして私はこめかみを押さえた。……そうか今日か、原作でいう所の中ボス戦のようなもの。つまりは灰斗の修行がほとんど身になっていない状況でのイベント進行である。もはや完全にガバだ。だがどうしろと、どうしようもないじゃないですかァ!(涙)

 いろいろやり切れず思わず脱走してしまいたくなった私であったが、しかし夏凜の顔が脳裏に浮かんでその手段をとれない。……なんというか、どこに逃げても草の根分けてでも探し出してきそうな印象が勝手にあるのだが、一体どうしてこんなことに…………。

 

 とにもかくにも急ごうという話になったが、しかし走り出そうとするとパーカーなんだかジャンパーなんだかを着用した、適当な顔の人形に阻まれる。黒棒を背中から抜いて斬りかかった感触は鈍く重い。鉄製? アンドロイドか何かかと思いはしたが、しかし内部でパーツが軋むような音がしない。球体関節の人形のようだ。

 その後重量を変えてぶった切ったりを繰り返してなんとなく察した。確か影使いだったか、今頃夏凜の所に行ってお楽しみ(意味深)しようとしている奴だったはずである。正直その影の精霊とかそのあたりは興味津々(オサレ)極まりない有様で個人的にどうしようもないのだが、操る当人の人間性はあまり宜しくない。

 

「傀儡術……、たぶん影を経由したものだ刀太君」

「つまり? どゆこと? っと、危ねぇ忍!」

「きゃっ」

 

 庇いながらの戦闘は実質初のようなものなので、正直言ってだいぶやり辛い。いい加減に血装術を使ってしまいたいのだが、カトラスとの約束があるのでそうも行かない。下手に使用がバレて裏切られても困る。この段階で敵対されたって面倒極まりないのだ、多少手間でも「痛くない」なら我慢する他ない。痛くないは全てに優先される。

 

 とはいえ原作展開的にも大丈夫なはずだ。となるとこの人形共を操ってる「影」に関しては時間制である。…………しかし夏凜の素肌を傷つけてたなあの男。それはこう、あまり宜しくない。(謎の怒り)

 早い所救援に行きたいが、しかし数が多い。

 

 下っ端たちなど応援を呼ぼう、と言いかけた九郎丸だったが、前方に巨大な狼男が降ってきた。巨体、しかし異様に軽い足音。見覚えがあるようなズボン、灰色の全身…………。

 

 PMSCS「パワフルハンド」所属、「狼男」の灰斗である。

 彼が「敵として」眼前に現れた時点で、私の腹は決まっていた。

 

「刀太君、下がって――――!」

『ん? お前ら……』

「…………その身のこなしの軽さ、ひょっとして灰斗の(アン)ちゃんか?」

 

 えっ、と九郎丸が声を上げるのとほぼ同時に、灰斗自身も一瞬頭が真っ白になったように動きを止めた。誘いではない、その証拠に構えている全身の筋肉に力が入っていない。

 

 このタイミングである。先行で一撃、虚をつく形で一発加えて後はダメージ差で押し切る他ない。現実問題、今の私がこの狼男こと灰斗と対峙して一切勝てるわけがないのだ。ならば何でもあり、多少の痛みは引き受けて後の痛みから逃げなくては――――。

 この一瞬を狙い、内血装を走らせる。この際「足が裂けても良い」、第一歩で巨大な衝撃を――――。無理に「理想的な動きの瞬動」を実現しようとし、着地は完全に無視して問題ない。黒棒の荷重を千倍にし、軽く構えた姿勢のまま直進――――。

 

 

 

「――――そうやって遊びが抜けないのは、お前の悪い所だぞ『灰斗』」

 

 

 

 次の瞬間、背後から横一直線。上半身と下半身とが「分かたれた」。

 速度、荷重のバランスを失いあらぬ方向に飛んでいく身体。このタイミングで九郎丸が気づき男に斬りかかるが、彼は直接九郎丸のそれを受けることなく、ひらりひらりと躱して後退した。……嗚呼そういえば忘れていた、原作でもこの場にはもう一人来ているのだった。黒いマントに所々をサイボーグ化した剣士、パワフルハンドの実働部隊リーダーたる盲目の剣士・南雲である。甚兵衛程とは言わないがその戦闘経験は長く、そして隙の無さは間違いなく重ねてきた年数が伊達ではない老練さである。

 再生しかかってる途中で、見えないはずの目で私を捉える彼に舌打ちをこらえる。にやり、と笑うその様からして、おそらく私の狙いなど一発で看破していることだろう。私の現時点での実力と相手との差を踏まえて。

 

 お互い見合い、沈黙。 

 悪ぃな南雲のオッサン、と言いながら構える灰斗に、九郎丸も事態を飲み込めてきている。再び立ち上がると忍たちの姿が見えないが、九郎丸の首肯からして隠れてもらったと見るべきか。

 

「…………つまり、本当に灰斗さん?」

『だぜ、九郎丸のお嬢ちゃん。仕事中だからわざわざ変身は解かねぇがよ。

 しっかし刀太、なんで分かった?』

「着地の時の音」

「「音?」」

 

 南雲と九郎丸が頭を傾げるが、灰斗はそれで言わんとしていることが分かったのか大笑いした。嘘ではない、実際実物を前にして、原作展開からの正体推測ではあったが。確信に至ったのは、着地の時の音である。

 ……実際重量こそ変身前と後で大きく違うが、着地の時の足の入り方と音の鳴り方はかなり近いというか、つまり「動きに反して音が小さすぎる」。まるで瞬動の終点のそれのように。つまり常日頃から、どれ程瞬動を使い続け使い慣れてクセのように出ているかという事でもあり……、相手がいかに強敵かというのを証明しているようですらあった。

 

「血装術使えないのがマジで手痛いなこれ…………、というか肝心のカトラスは何処にいるんだ?」

 

 私の呟きに答えはない。次の瞬間、灰斗が猛烈な速度で目の前に現れた……、ほとんど風圧を感じさせないその気の抜けた「フヒュッ」とでも言わんばかりの音が気持ち悪すぎて逆に変な笑いが出て来る。そして今の状態の私では、それに対応する速度が足りない――――。

 

 身体に指抜き、十字の模様――そこに十字架を叩き込まれ、簡易の魔法アプリが発動する。名前は忘れたが、確か原作でも吸血鬼の性質を封じる類のそれだったはずだ。

 

「させ、るか――――っ」

 

 魔法アプリが起動する直前で、無理に内血装を全身に発動させる――――裂けた胴体の血、そこに含まれるらしい「武装解除魔法」で封印術式を破壊しようとするが、タイミングが悪かった。

 首――――逃れられたのは首から上程度である。

 それ以外は打ち込まれた封印術の餌食となり動けない――――つまりは「首から上だけ」ちょんぱ(ヽヽヽヽ)の状態で転がってしまった。いかにも殺してくれと言わんばかりの有様でこれは……、ひどい(低オサレ)……!? なんたる屈辱、しかし胴体は動くに動けないので、激痛に叫ぶくらいしか出来ないでいた。

 

『マジか、緊急脱出みたいな感じだが、いやーこうやって見るとカワイイもんじゃねーか。ハハハ』

「…………いや、頭だけ持ち上げるの止めてもらって良いッスか?」

 

 言いながら灰斗は私の頭を後ろからアイアンクローで持ち上げ、どこか楽しそうである。個人的にはプ○デターの「頭蓋脊椎の標本(トロフィー)」扱いされてるようで一切楽しめない、というか血の気が引くので止めてもらいたい。……というか、この状況で頭単体で生き続けているということは、一応は「金星の黒」自体は発動しているということか。とはいえ万全ではなく、再生できない以上はロックがかけられてると考えるべきか。普段よりも何かこう、重いものを全身に取り付けられているような、味わったことのない不快感があった。

 

「刀太君を離せ――――っ、邪魔をするな!」

「そうはイカンなぁ、若人」

 

 灰斗に斬りかかろうとする九郎丸を、南雲が背後に回って妨害する。鞘と刀で応戦するも、相手の動きはどこか手馴れていた。「後で遊んでやるからちょっと待ってろ」と適当に放り投げられる私の頭……、いや痛い! 冷蔵庫のカドにほっぺ当たった今! というかそれどころじゃない、回転が収まった時点でクギが目の前にあって恐怖以外の何物でもないのだが……、三半規管もひどく回転してるし、吐きたい、吐きたいが吐くべきものが胴体側なので気持ち悪い感覚だけが残ってる。

 確実に自律神経が変なダメージを負うぞこれ…………。

 

 既に涙目で、どうしようもない。血装術を使おうにも、意識したところで血がこちらに流れて来る感覚もない。……つまりは「心臓が自由」でないとアレは使えないという事か。原理的には納得がいくのと、出血多量以外での弱点らしい弱点だった。

 まあ今分かったところで、まったくもって使いどころがない話なのだが。

 

「ままならぬ…………、というかコレで死なないのってある意味拷問なのでは?」

 

 思わず素で呟いてしまった私の目の前に、ピンク色のジャージズボンが見えた。何故か草鞋を履いてるその誰かは、私の髪の毛をつまんで持ち上げ。

 

 

 

「…………何やってんだ兄サン」

 

 

 

 ゴミでもつまむように私を持ち上げたカトラスは、明らかに引いた目で私を見ていた。

 いや全く以って私のせいではないのだが。(断言)

 

 

 

 

 




次回:アデアット!(実戦)
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