今回も独自解釈やや多めですナ
次回予告で、アデアットすると約束したな・・・、アレは嘘だ(延期)
ST37.Mars and Venus
いや普通にあの気持ち悪いの使えば良いじゃねーか、と。カトラスの感想はまずその一言だった。カトラスの腕の中でおいおいと思うも、カトラス本人はむしろ何故使わないのかと言いたげな目で私を見下ろしていた。
九郎丸とパワフルハンドの二人が戦っているのを二人そろって眺めつつ、簡単に事情の説明を行った私。それに対するカトラスの返答はなんとも前提を根底からひっくり返す類のそれだった。
「いや、そしたらお前敵に回るだろ約束的によー」
「回るっていうか逃げるって感じ? 『私』だって命は惜しいし、もともとクライアントじゃんかあの爺さん。合わせる顔がないって言うか、それに……、あの狼男に今のままだと勝てる気がしない」
現状、血装を使っていない状態の私では追うことも出来ない速度で移動する灰斗。明らかにそれに追いついていない九郎丸。剣で受ける分にはダメージを上手いこと地面に逃がせているようだが、それを見て不利を察したのか背後やら通り抜け様に横切りされている。南雲自身はむしろ私の胴体の方を監視しており、頭が何処に行ったのか警戒を続けているらしい。
……どうやら私たちは現在、南雲の感知できる気配の外側にいるらしい。それが幸か不幸か、私とカトラスに交渉の余地を発生させていた。
「で、何でお前そんな普段着のままこっち来てるんだ?」
「なんか昼寝してたら息苦しくなったから。…………建物が火災で、悲鳴とか鬱陶しかったから逃がしてやったんだけど、デク人形みたいなのが一杯出て来たんだよ。それも『
「お前もケッコー状況に流されてるのな……」
「そのいかにも血のつながった兄妹みたいな目で見るの止めろっ」
ぎゅ、と私の頭を更に抱きしめて頬を引っ張るカトラス。痛いから止めろと言うとややサディスティックな顔をして両側の頬をひっぱってくる。……いやこんな、それこそ兄妹らしいじゃれ合いをしている場合ではないのだが。もっとも話を聞く限りどこに絆される要素があったのかわからないが、一応はスラムのためにカトラスなりに手を尽くしてくれたらしい。
しかしそれはそうと、ハマノツルギ・レプリカ……、お前それアーティファクトじゃなかったのか。パクティオーの。そう聞くとカトラスは酷く嫌そうな顔をして自分の胸元を指さした。
「…………厳密にはハマノツルギ、のレプリカ、のレプリカみたいな感じ。限定的に私の『火星の白』をその形に成形して表出させてるって感じだから、あんまり気分が良いもんじゃないっていうか」
「火星の白?」
「あー、そっからか。…………私や兄サンの身体には、二つの力が宿ってる。
片方は『
もう片方は『
ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!? その情報を今いきなりわっと浴びせるなお前、適当に説明を求めた私も悪かったかもしれないが懇切丁寧すぎるぞ! 原作で言えば今が大体3巻くらいのあたりのはずだから後4巻くらいは後の情報、しかもキティから教えられる情報である以上お前、そのお株を奪うのは色々とまずいのでは? ある意味死亡フラグに近いぞ、命を投げ捨てるんじゃない!(混乱)
「あー、なんか判んねーけど、二種類あるっていうのはわかった。俺の体感的にもそんな感じだし」
「そーかよ。…………体感的?」
うん、と首肯を……、首しか残ってないので頷けないが、まあそれでも少し首肯するニュアンスを乗せた。実際「血装術」の中身を分解してみれば、確か
だがそんな私の反応に、カトラスは意味が分からないという顔をした。
「…………体感って何だよ兄サン、え? そんなの判るの?」
「お前、むしろ判んねーの? こう、胸のあたりから二本、なんか線なんだか帯なんだかみたいなのが伸びてどっかに繋がってるような感か――――」
「判るわけねーだろ!? は、ハハハハハ――――――――! そうかよ、これが、成功例と失敗作の差って訳かよ、はは、はは…………、死んじまえよこんなクソ世界……」
言いながら、カトラスは私のことを更に強く抱きしめた。幾分八つ当たりが含まれていそうでもあるが、しかし私の視線を動かさないようにしている理由は察した。……頬に私のではない液体がぽつり、ぽつりと流れて来る。感じからして涙だろう。
それに私は何も言えない。…………星月の言葉が正しければ、そもそも「造物主の掟」がないとこの二つの制御が上手くいかないという、もっと根本的な問題もあったりするが。その話を今の私が知っているのは明らかにおかしいからだ。そもそもカトラスの事情も、現状は全くと言って良いほど確認していないのである。迂闊な言葉で慰めることは、今後の
我ながら不出来な兄である。謝罪の言葉すらいえない。ただ、泣くがままにさせてやるしか出来なかった。
だが、灰斗に勝てる気がしないと言った理由もおおよそ得心がいった。私がカトラスから奪ったパクティオーカード、アレのアーティファクトは時間操作系の能力を持っている。だからこそ瞬動など使えなくとも問題はないということではあったのだが、今の状態、私よりもバランスの悪い魔力やら気やらの構成のカトラスでは、あれ程鍛え上げられたプロ相手ではどうしようもないということだろう。
「ままならぬ……、カードを返すのも今の状況じゃ無理だし」
「……へ? フツーにあの、兄サンの転がってる首チョンパ死体からあさってくれば良いんじゃないの?」
「いやあのカードって夏凜ちゃんさんに預けてあるから」
「なんでよりにもよってあのヤベェ女に預けてるんだよ馬鹿兄貴っ!?」
ぺしり、と頬にしっぺ一発。ちょっと痛い。
お前そりゃどうして夏凜に預けたかっていえば、お前が一番苦手そうにしている相手だからだぞカトラス。夏凜相手なら下手に絡みに行くこともないだろうし、万一何かあっても神聖魔法という我々に対する致命打が存在する。保管場所としてこれほど安全な場所はないだろうに。
「兄サンわかってねーのか? あの女、本当にヤベェからな? 何か選択肢間違ったらずーっと監禁されて、えっと、大人しか見れない映画みたいなアレな目に遭わせられる感じの!」
「普通に十八禁とか言えばいいだろお前……って、あれ? ひょっとして妹チャン照れてるか?」
「うっざい! ばーか、ばーか! へんたい!」
「あっコラ、今頭しかないんだから適当に殴るんじゃねーっての!」
「ばーかばーか!」
語彙が少ないカトラスとの醜い攻防戦(一方的)はともかく。第三者であるカトラスから見て今の夏凜はそう見えるのか…………? その、痛くされる可能性が限りなく低くなった今、もうちょっと落ち着いてくれたら大河内さんレベルとは言わずとも好みドンピシャではあるのだが、中々世の中上手くは行ってくれないらしかった。
「(…………大体それ言ったら、私たちだって全体のDNA的にはたぶん7割くらいイトコ並に離れてるし)」
「はい? 何か言った?」
「へんたい!」
「だから殴るんじゃねーって! って、話進まねーけど……。とりあえずアーティファクトについては諦めてくれ。たぶんすぐ夏凜ちゃんさんが駆けつけてくれる、なんてご都合主義な話はねーからさ」
「そりゃもう、分かったけどさ……。で? どうしろって? 兄サンやあのトキサカクローマルほど不死身じゃない私に、兄サンみたいな無様なさらし首になれって?」
「確かに
「あ゛?」
私の話した提案に、カトラスの目は明らかにドン引きした。……いやスマンな、お前ここに来てからそんな顔芸ばっかさせちゃって。(良心)
※ ※ ※
「九郎丸さん!」「だ、大丈夫かよ!?」
駆け寄ってくる忍ちゃんとルキくんに、僕は笑みすら返せないでいた。切断された半身、上半身側に毒でも回っているのか再生が遅い。胴体にも傷多数、「夕凪」を握る手もほとんど力が入らない。
二人に逃げるんだと、力不足に涙がにじむ僕。刀太君の方を目指そうにも、首から上のない刀太君の今の状況じゃどうしようもない。ネオパクティオーカードを使うにしても博打が強すぎて使うに使えず、またカードを引く時間すら与えてもらえない。明らかに僕よりも場慣れした「不死殺し」らしい不死殺しだった。
刀太君の身体を見張っている老剣士が、灰斗さんに確認する。
「…………さっきから気になっていたのだが頭はどこにやった」
『あ? あー、なんかこう……、その辺?』
「だからそう遊びを含むのを止めろと何度言ったら判るのかお前は……」
『い、いやだって首チョンパだぜ首チョンパ! 流石にあの状態じゃもう何もできねーだろ常識的に考えて! 女だって口説けねーだろ!』
「…………」
首一つで女を口説けるかどうかはともかく、刀太君なら何かしでかしてくれるんじゃないかって言うのは僕の期待しすぎだろうか。
それはともかく、魔法アプリを展開して何か僕と刀太君の身体をまとめて氷漬けにしようとする灰斗さん。『全部終わってまだ生きてたら遊んでやるぜ』と笑っているのに、僕は何もできず――――。
「――――ご、ごめんなさーい!」
「何?」『おぉ!?』
そんな灰斗さんに、ホバーバイクが突っ込んでいった。……完全な交通事故だよこれ!? いくら獣人で頑丈だからって、それを強行した忍ちゃんはいくら何でも行動力がありすぎる!
その背後から降りて、刀太君の身体を庇う様に立つルキくん。老剣士はため息一つ。がれきから身を起こして「マジかー!」と絶叫する灰斗さんは、どこか楽しそうだった。
『いやホント、全然殺気がないからマジでびっくりしたぜ! 根性あるじゃねーかお嬢ちゃん……、ん? お前さんも坊主の
「戯れるな灰斗。気は進まないが、殺すぞ。全員」
「――――っ! 逃げて、ルキくん! 忍ちゃん! その人たちは全然甘くない! 本当に殺されちゃう!」
「……それでも、俺は、守るんだ! ここは俺たちの街で、俺たちの帰る場所だ!」
「わ、私はそこまで意気込みないんですけど……」
大型ホバーバイクを盾に隠れる忍ちゃんと、啖呵を切るルキくん。ルキくんはその場にあったバールのようなものを拾って襲い掛かるけど、灰斗さんに軽く持ち上げられた。罵倒も聞き流し、むしろ大笑いで軽くあしらう。……その間、忍ちゃんは僕の胴体をバイクの背後に引っ張っていた。なんかこう、思ったよりちゃっかりしてる娘だ……。
「くそ……、何だよテメーら、なんでこんな酷ぇことしやがるんだよ! 人の心がねーのかよ!」
『ない訳じゃないが、まー、趣味と実益だな俺は。こーゆー「俺みたいな境遇」の奴を作る仕事はあんま好きじゃねーけど、どうせ俺もゴミだ。大した差はねぇ』
「おしゃべりが過ぎるな、灰斗。
ふむ……、私たちの立場からすれば、そもそもここは君たちの土地ではないのだがね。帰る場所? 大いに結構、存分に土に還ってくれたまえと言おう」
「ふざけんじゃねぇ!」
「説明してあげよう。21世紀中盤に様々な理由から発生した多くの難民、君たちはその二世や三世が大半だ。我々のクライアントはあの塔の上にいる。彼らのほとんどは2050年代の『火星帰り』だが、もともとは彼らがこの土地を有していた。
死亡扱い、失踪扱い、行方不明扱い、あるいは詐欺、横領、紛争による境界線の曖昧さ…………、時と場合、立場によって正義や悪の見方は変わる。
彼らからすれば、君たちは自分たちの土地を奪って居直っている強盗のようなものだ――」
「ふざけんじゃねー! ウチはれっきとした日本国民だ!
父ちゃんは都の方で稼ぎ少ないけどちゃんと税金払ってるし、ここだってシスターの教会が持ってる土地だ! それを奪ってお前らの土地じゃねーとか言ってるんじゃねー!」
ルキくんの慟哭に、身につまされる思いだった。……思えば僕は恵まれていた。「桃源」――――宇宙にある僕の故郷で、一体僕は、僕自身のこと以外の何に気を遣ったことが有ったろうか。兄様があれだけ僕のことを気にかけてくれていたのに……。それだって呆れられて、今じゃ捨てられてこの有様だし。
と、ぎゅっと忍ちゃんが僕の手を握った。不思議に思い顔を見ると、忍ちゃんは真面目な顔で。
「大丈夫です。なんか分からないけど、たぶん大丈夫です……!」
「えっと、それって……」
「だってほら、先輩は、ヒーローだから……、こういう時に何もしないでいる訳なんて、きっとないです!」
果たして――――ルキくんに灰斗さんが爪を振り下ろそうとした瞬間、二人の間に現れたのは。
「…………我ながら似合わねぇ、こんな真似」
「あんま文句つけるなって。とりあえず俺の身体解放するまで、な?」
カトラスちゃんだった。いつか見たマントで、ただ下は何故か夏凜先輩のジャージと草履で、……そして左の小脇には刀太君の頭を抱えていた。
カトラスちゃんは、いつか見た鈍い色の大きな剣を持っていなかった。代わりとばかりに、右手からは真っ黒な魔力が立ち昇っていて…………、どこかそれは、悪魔的なシルエットを思わせた。
『お? お前ぇは、なんかどっかで見た顔だな』
「一瞬顔合わせたくらいだし、そんな認識だろうよ人狼のオッサン」
『お兄さん、ダっ! オラっ!』
瞬間一気に後退して、瞬動の勢いのまま殴りかかる灰斗さん。その手には氷結系の魔法が渦巻いているけど、カトラスちゃんは気にした様子もなく右手を差し向けて、受け止める。
「――――っ、『反転』!」
瞬間、カトラスちゃんの足元に、えっと、太極図みたいなのがうっすらと魔力で浮かび出た。そしてその模様が回転すると同時に、彼女の右手に受けた魔法が「そっくりそのまま」灰斗さんに反転した――――!
叫びながら灰斗さんは右腕を切断し後退。老剣士も彼のサポートの為か、同じ位置のところまで後退した。
『おいおい南雲の爺さん、こんな隠し玉聞いてねぇけど』
「ふむ。…………君はもともと私が雇っていたのだと思ったのだがね? いつの間にか消息が知れずに気にしてはいたが」
「俺もそのつもりだったんだけど、まぁ…………、今回限り手を貸してやろうかってな。『兄妹のよしみ』って奴だ」
よく見れば、カトラスちゃんの左手は血まみれで……、手のひらに傷があるのか、そしてそれは刀太くんの首の位置と丁度重なるようになっていた。
「トキサカクローマル! パクティオーカード使え! 再生と準備する時間くらいは俺の方で稼いでやる!」
言いながら、カトラスちゃんはその変化した右手を構え直し。
「――――『
「……お前も結構、素質あんじゃねーか」
「何のだっ」
刀太君のぼそりとした一言に、照れたように叫んでいた。