ふとブレソルに手を出てみて想像以上に郷愁(?)でテンション上がったのと、ルキアの立ち絵結構可愛いなってなってちょっと執筆遅れました汗(爆)
ST39.Hole at Heart in Hollow
僕が二回目のスカカードにより小さい姿に変貌した頃、夏凜先輩が走って駆け付けて来た。少し髪が湿っていた感じからして、急いで来たのがわかる。それはそうと、二度目のアベアットにより変身を解除した僕を、夏凜先輩は不可思議そうな目で見てきた。
「なんで貴女、そんな愛らしい姿にまたなっているのかしら……」
「こればっかりは僕の任意で変更できないですから! えっと、そのですね」
「って、刀太!? 一体これはどういうことなのっ!!?」
「それはですねぇ……って夏凜先輩!?」「きゃっ」
刀太君の身体を忍ちゃんがびくびくしながら介抱しているところを見た夏凜先輩は、普段の冷静な表情が崩れた。青い顔をして忍ちゃんから奪い取る勢いで刀太君の身体を引き寄せ……って、ちょっと加減してあげてくださいよ! びっくりして尻もちついちゃってる忍ちゃんを引き起こして、事情を説明する。カトラスちゃんと協力してなにやらやっているというのに一瞬目を見開いたけど、そのまま話を中断することはなかった。
刀太君の見立てだと「神刀・姫名杜」を使えば彼の封印状態――――胴体に浮かんだ十字を消滅させられるというものを説明すると、夏凜先輩は普段通りの無表情に戻った。
「確かに行けそうと言えば行けそうかしら。たぶん、能力というかパワーの制御とか関係なしに、基部になってるデバイス……、ロザリオ型かしら? この浮かんでる模様的に。それ自体を破壊できれば、問答無用で封印術式を破壊できると思うわ」
「そうなんですけど、さっきアーティファクトの簡易召喚だけを試したら、ヒナちゃん封印に弾かれちゃって…………」
「つまり『本来の状態』じゃないと性能を十分発揮できないということかしら。…………それはそうと如何して刀太はこんな悲惨な有様に……、下手人を仕留めないといけないやつ?」
「えっと…………」
刀太君が意識まで封印されないためなのか、逃げるためなのか自力で無理やり解除しようとして、結果こうなったみたいだと。横で見ていた挙動をそのまま話すと、夏凜先輩は無表情になった。……本当に感情が乗っていないタイプの無表情だった。目の色もこう、水面みたいにあら綺麗な感じで。
「…………下手に血装術を封じたのが、変に作用したかしら」
「あ、あはは…………」
「まあそこの是非とかは帰ってから雪姫様に相談するとして。
忍、貴女たちも無茶をしないで。私や九郎丸のように、死とはやや遠い場所にいるわけではないのだから」
だけどここは俺たちの故郷だから! と声を荒らげるルキくん。その目元は赤く、泣きながら立ち向かっていたことをうかがわせる。一方の忍ちゃんは、そんなルキくんの肩を背中から押さえてた。
「でも……、私だって戦ったり出来ないのは、全然できないのは百も承知です! それでも先輩が、『刀太さん』が何とかできるまでは時間を稼がないといけないって、それだけはわかってました!」
「…………そう。なら、後は私から言うことではないかしら。二人ともよく頑張りました」
その一言の何に納得したのか、夏凜先輩はうんうんと何度か頷いた。ルキくんと忍ちゃんの頭を撫でながら、夏凜先輩は僕の方を見る。気のせいじゃなければ、その目にはなんというか、もんのすごい期待が乗っている感じがした。
「後は九郎丸、貴女です。覚悟を決めて早い所アーマーカードを引きなさい」
「そ、そうは言ってもですね? これってランダムだから、何度もスカが出てしまうのは……」
「雪姫様はおっしゃられました。『意外と空気は読んでくれる』と。であるならこの状況、これだけの『展開』がそろっていて引けないのは、きっとカードだけではなく貴女に何かあるからでは? と思いますが」
「そんなこと言われても……」
じぃっと夏凜先輩は僕を見ながら…………、思ってもないことを指摘してきた。
「九郎丸、貴女ひょっとして恐れているのでは? ――――もう一度、刀太の胸を自分の手で貫くという、その行為に」
一瞬頭が真っ白になって、でも、僕はそれに反論できなかった。
「…………そういう側面も、ないとは言い切れません」
「その点はある程度解消したのだと見たけれど、そう簡単な話でもないようね。だったら……、こう考えたらどうかしら」
「こう考えたらと言うと?」
言いながら、夏凜先輩は目を伏せて淡々と続けた。腕にはどこか力が入っていなかった。
「貴女が神刀を使わないというのなら、私が刀太の身体全身に『神聖魔法』を流して、一度完膚なきまでに蒸発させる。そうすれば、封印の状態から完全に外れるから、刀太の身体は自動で再生される」
「……!? そ、そんなことをしたらっ」
「大丈夫のはずよ。雪姫様いわく、刀太の不死身強度は私並。しかも雪姫様以上だと言っていたわ。かつて雪姫様は骨一つ残らないレベルで砕かれても未だに生きているのだから、それ以上に不死身である刀太ならどうということは――――」
「それじゃ、刀太君の心が死んじゃうかもしれないじゃないですか! 感覚、繋がってるんですよ!?」
僕並か、それ以上に刀太君のことを視ているはずの夏凜先輩。その彼女の口から出てきたその言葉に、思わず僕は叫んでしまった。痛いのを嫌がっているという事実に、夏凜先輩が気づいていないはずない。肩を掴んで引き寄せて真意を問おうとしたけれど。
でも見れば、夏凜先輩の握った手は震えていた。
「…………ええ。でも、他に手が無いのなら、それをするしかないでしょう。私も本意ではありませんし、嫌われてしまうかもしれません。でも、それで助かるのなら――――迷いはないわ。
だからこそ、九郎丸。すべては貴女にかかっています」
貴女がどれだけ覚悟を決められるか。後は僕の選択と、心構え次第だと。
僕は……、僕の手は、二度も…………。だけど。夏凜先輩でさえこれだけ覚悟しているのだ。刀太君の相棒の僕が、最後まで彼と一緒に戦い続ける僕が、こんな場所で立ちすくんでたらダメだ。
夏凜先輩の言葉に、僕は震えながらカードを起動し―――――――。
「
果たして、ヒナちゃんは応えてくれた。
・ARMOR CARD
・KUROUMARU TOKISAKA
・RANK:Lightning Sword
・EQUIP:Sacred Sword HINAMORI
※ ※ ※
『(やった! 何とかなった……、やったね僕! 頑張ったよ、すごい泣きべそかいてたけど! ……僕も刀太君、桃源以来また刺しちゃったけど……、そのうち謝れるといいなぁ…………)』
刀太の封印を、直接心臓に刀を突き立てて破壊した時点で、九郎丸のアーマー状態はすぐ解除された。ぐったり倒れている姿はどうにも空腹そうだった、そういえば以前、雪姫様も空腹になるみたいなことを言っていたかしら。
携行のカロリーバーを手渡すと力なく咀嚼しだしたけれど、それと同時に刀太の胴体が煙を上げて消えた。
「…………心臓はこちらにあっても、本体はあっちの首の方、ということですか」
ご丁寧に服ごと消えているのは、なんというか私のようなものがいうのは変なのだけれど、ますます吸血鬼じみていた。
あの子、デスクラッドだったかしら。やってることは色々滅茶苦茶に見えるのだけど、原理原則だけを鑑みるとすごい吸血鬼らしいことしてるのよね…………。
「九郎丸、立てますか?」
「が、がんばります……」
手で目元を隠す九郎丸に、深く追及はしない。このあたりは同じ女としての情けしかなかった。
「…………デートくらい取り付けてもバチはあたらないと思うけれど」
「で…………!? え、えっと、全然そんな話とかじゃなくてですね!?」
「大人だ」「大人です…………」
「ともかく、通信機器は通じないことは把握していますね? ……でしたら、何か目立つ手段をお願いします。飴屋一空も監視をしているでしょうけれど、要点に目印があった方がよりわかりやすいでしょう」
消耗から回復したら街の方の救援に回ってと言い、刀太を探そうとすると。遠方で赤黒い剣戟の軌跡みたいなものが巨大になったようなのが見えた。
あえてカトラスちゃんとの約束というか、希望を優先させていたみたいだけれど、それをあえて違反したということは…………。
立ち上がり「瞬動」に神聖魔法の「信仰の力」を乗せて、虚空を蹴りながら一気に向かうと。その先では長身の男と斬り結ぶ刀太の姿があった。
恰好はいつか見たローブのような赤と黒のコート姿で、腕単体で瞬動でもしていそうな速度を出していた。……後左手はどうしてかポケットに入れたまま。
その構えというかポーズみたいなのってよくやってるけど、どうしても左手はポケットの中が良いのかしら…………。
『ハハハ、マジかよお前! それが奥の手か? いや前に言ってた「本当は使える」奴的なのか!』
「本当は使うつもり無かったんスけどね…………。俺と違ってカトラスの場合、心臓ぶち抜かれたらたぶん即死なんで。四の五の言ってられねーんだよ!」
よっと、と言いながら刀太は男の膝蹴りも往なしている。一撃を上手く足を経由して、地面に逃がしている?
こっちに来て修行と自称するそれをして一週間と少し、それでも中々上達しなかったのに、どうしてか今の刀太はその動きに不安を覚えることが無かった。
「やっぱ『気』は才能ねーのかなぁ……、悲しくなってくる」
『オイオイ、今のそれは十分「瞬動」の基礎が出来上がった動きだぞ! 戦ってて体得したんじゃねーのか?』
「いやこれ、力業というか……(死天化壮使って内血装で人体が裂けちゃうの、無理やり誤魔化してるだけだし)」
言いながらも刀太は背後に視線を向け……、腰でも抜けてるのかへたり込んでるカトラスちゃんに、不敵に笑った。ちょっと可愛いわね。
「大丈夫だ妹チャン――――お前の
「いや意味わからねーから、馬鹿兄貴っ!」
私も意味が分からないわ。
意味が分からないけどそれはともかく、ちょっとその横顔はカッコイイ気もするけれど。見ればカトラスちゃんの右腕はまるで火傷でもしたみたいに赤く染まっていて…………、でも煙のようなものが昇って、徐々に再生しているように見えた。
そんな様子を見て、刀を構える老剣士――――踏み込みの動きを見るまでもなく、カトラスちゃんと彼の間に立ち、十字剣を向けた。
「貴方のことは甚兵衛から聞いています。PMSCS「パワフル・ハンド」の南雲士音。
特に貴方が『不死者』に対して強い敵意を持っていることも」
「…………ロクなことをしないなあのロートル。作戦目標は半ば達したが、新たな問題が出て来たと言うのに」
「新たな問題?」
言いながら、南雲は腰に長刀を構える。抜刀術? 時折九郎丸もそんな構えをしているけれど…………、防御用の魔法アプリを複数起動し、私もハンマーと剣を構えた。
南雲は私の言葉に、目を閉じたままニヤリと笑った。
「嗚呼、新たな問題だよ『鋼鉄の聖女』。いや『地獄からも締め出された裏切り者』とでも呼ぶ方が好みかな? 小娘」
「安い挑発です。それに……、私の知る事実はもっとややこしいものですから」
「それは失礼。…………だが私からすれば、君のような存在がそちらに付いていることの方が違和感バリバリなのだが。特にあの小僧と、そこの小娘を守るというのは」
意外と若者言葉も使う老剣士だった。けれどそれよりも、刀太とカトラスちゃんを警戒している口ぶりに、私は違和感を覚えなかった。
遠くで花火のようなものが上がる。……アレは九郎丸の仕業かしら。確かに目立つ目印にはなるけれど。
それを一瞥するように顔を向けてから、南雲は続けた。
「――――
「それは……?」
「究極の不死転生の秘奥、無尽蔵の再生と魔界『そのもの』と言わんばかりの魔力。私が知る限りにおいて、この保有者は二人しかいない――――。
一人は『
もう一人はその女の弟子の『
雪姫様とその弟子…………、とすると聞いた話が正しければ、それはつまり刀太の――。
懐かしむような、それでいて忌々しいものを思い出すように表情を歪める南雲。
「…………『
今からおよそ二十年前、我々不死狩りは火星事変の元凶たる存在を追い詰めたことがある」
二十年前……、UQホルダーがまだない時代。
「敵もさるもの、流石に長年生きてきた不死身のバケモノなだけある。異界から呼び出した魔物共に、ことごとく我々は殺され、壊滅寸前に追いやられた。
そこを、あの男たちに助けられた。…………特にあの『
「昔話に付き合うつもりはないのですが」
「ふっ、定命の老人の会話くらい付き合うものだぞ。……圧倒的だった。幾千もの術で蹴散らし、幾万もの速度で蹂躙し、全てを破壊するその様は――――まさに最強最悪のバケモノだ。あんなものの存在を許してはいけない。ただ一つだけ、ただ一つの気まぐれで国を、星を滅ぼしかねないような。たった一つで全てを滅ぼす、まさに『人類の敵』のような存在を」
目をうっすらと開ける南雲。色は濁っており視界がないのは判るものの、それでも浮かぶ敵意は隠しようもない。隠すまでもなく「お前たち全員に当てはまる」と訴えていた。
「我々は恐れるのだよ、だからお前たちとは相容れない。中でも『
そして、と。私の後ろを指さしながら、南雲は吐き捨てる。
「――――そんなものが量産でもされてみろ。世界などあっという間に滅びる。
だからこそ解せない。あの小僧とそこの小娘は兄妹だと言う。そして両者ともに、明らかに『只の吸血鬼の枠を逸脱している』。そうまるであの男のように――――お前たちは何だ? 三人目、四人目? これからまだ増えるつもりなのか? 増やすつもりだとでもいうのか?
――――そんなにヒトの世界を滅ぼしたいのか貴様らはっ!」
南雲は言う。むしろ私たちですら、カトラスちゃんや刀太を殺す側に回るべきだと。只の不死身の域を大きく逸脱するそれは、あまりに人の手に余り、たやすく世界を滅ぼすのだと。
南雲の言いぶりに、背後のカトラスちゃんが大声で笑った。……嗤ったの方が正確かもしれない。
「そんなの俺らに聞くなよ! ……こんな身体で『作られて』さぁ! こんな身体に『作り替えられて』さぁ! お前は失敗作だって、人を殺すために再利用できるとか笑顔で言ってさぁ! 量産するとか結局『製作者』の側の都合だろ!
今更、今更どうやって普通に生きろって言うんだよ、オイ……!」
「……っ、カトラスちゃん――――」
「………………
もうそんなの、遠い所に置いてきたよ。初めから私に『そんな願いなんてなかった』んだよ。だから……、兄サンは毒なんだよ…‥、見ててイライラする…………」
カトラスちゃんを見れば…………、カトラスちゃんは右目だけ泣いていた。腕が震えて、堪えているようだった。
その言葉の真意を問いただすことは、流石に憚られた。刀太の出自にも関わってくるだろうそれを、ひょっとしたら彼が抱えている「素」に関係するかもしれないという疑念もあるけれども。
「製作者、か。…………となると、こちらも真意を問い正さなくてはいけないか――――ぬ?」
猛烈な轟音。南雲が何かを言う前に、驚いた顔をする。それにつられて私とカトラスちゃんも視線を向け――――。
そこには、胸部を右腕で貫通されながら「頭部に」「悪魔的な」シルエットを形成しはじめた刀太の姿があった。