ペースは相変わらずですが、出来る限り無理せずやります。
ST42.SAMURAI 2 and 7
頭を抱え「雪姫が来る前に回収できればと思っていたのだが」などというフェイトはともかくとして、直近で私はまず聞きたかった。
「知り合いなんスか?」
「おぉ? 言ってなかったっけ。アイツ一応、元同僚というか、な? 俺も雪姫の奴にだいぶ前だが
「………‥あの、ひょっとしてですけどさっきの会話とか聞いてました?」
「そりゃまあ、場所がわかればこう、チョチョイと周囲の空気をイレカエて振動をだなぁ」
何でもありかイレカエ! そんな変な使い方してなかったろ原作でも!
いやそれはともかく。ネギ・スプリングフィールド自体、知ってておかしくはないだろうが、いやそれは……。原作でそんな描写が匂わされたことはない気がするし、しかして甚兵衛の設定とか描写からしてそういう可能性が全くない訳でもないだろうし、どう判断するべきなのだろうか。
ひょっとすると私が知らない間にこの世界、既に大量のガバというか乖離が存在しているのでは……? 夏凜のキャラとかそう考えると色々納得がいきそうなところもあるが、しかしその場合今後の展開やらガバの影響度やらが全く読めなくなるので、出来ればそうあって欲しくはない話だった。
ま、ここは俺が受け持ってやるぜと。腕を組んでニヤリと微笑む甚兵衛。……恰好はコンビニ店員のままなのだがそういう風に佇むと酷く様になるのは、ずるいというか、私の一つの理想形将来の姿なのかもしれない。
燃える街をバックに普段通り崩れない姿勢の甚兵衛と、少し苛立っているらしいフェイト。
「南雲チャンと旧交を深め合うのも悪くはないが、今のホルダー連中じゃコイツの相手は荷が重いだろうからな。刀太、お前だって速度的に負けこそしないだろうが、本気『出されない』限り千日手だと思うぜ?」
「そう言われると何かむっとするッスねぇ……、いや別に粘りませんけど」
「ナイス判断だ」「良い判断だ」
甚兵衛とフェイトの二人にそろって言われると変な気分になるのだが。甚兵衛はともかくフェイトに関してはお前完全に敵というか道具扱いだろ、どうしてそんな友人の孫でも見るような微妙に生温かい対応をする。何か私の挙動でネギぼーずポイント的なものを稼いだことがあったか? 別にそんな気質から何から何まで全然違うだろうに。むろん、それは原作主人公と比較してもなのだが。
「雪姫を『引き取り』に行った時はてんで戦り合いはしなかったけど、実力は十分把握してるつもりだぜ?
まあ俺もそんな過保護じゃねーけど、仮にもリーダーだったんでね。後進は可愛がるものだ」
「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――バーシリスケ・ガレオーテ・メタ・コークトー・ポドーン・カイ・カコイン・オンマトイン――――」
おっと、と言いながら、甚兵衛は何かを「イレカエ」る。と「プノエー・ペト――――」と不自然にフェイトの声が途切れた。驚いた顔をするフェイト、おそらく何かしら魔術の発動が阻害されたことに対する驚きなのだろうが……、おそらく物理的にフェイトの呪文とその意味合いなどを「イレカエ」て術の構成そのものを崩壊させたとか、そんなものなのだろう。
ならばと言わんばかりに「ドリュ・ペトラス!」とだけ言い放つフェイト。次の瞬間、地面から複数の槍が出現して放たれ、甚兵衛がいた座標を串刺しにしたのだが――――何故か一瞬、一秒経過する間もなくその座標が「イレカエ」られ、槍に貫通していたのがフェイトそのものになっていた。いやいくら何でもそのイレカエはおかしいというか、絶対「喰らって死んでから」発動しただろ今のイレカエ。ひょっとしなくても原作から考えて「奥の手」こと「無極太極盤」使っただろアンタ!
「なん…………、だと…………?」
「まっ、ネタが割れてりゃやりようは有るんでね。逆もまたしかり……って、お?」
もっとも槍に貫通されたフェイトの身体は、土くれに姿を変えて崩れ落ちる。流石に本体そのものが出張ってきてはいなかったということだろうか、わずかながらにホッとする私と、奇妙なものを見るようなカトラス。夏凜? いつも通りというべきか無表情に事の推移を見守っている……って、一体いつまで私ハグしてるつもりだろうか。(困惑)
夏凜の腕を(謎の抵抗を見せてくるが)頑張って剥がすと、頭半分残っている土くれのフェイトがため息をついた。
『なるほど。どうやら言うだけの力はあるらしい』
言いながら再び甚兵衛が唐突に座標を「イレカエ」る。と、その地面から再び複数の槍が現れる。「完全に小手調べじゃねぇか」と引きつった笑みを浮かべる甚兵衛に、土の中からドロドロと現れたフェイト(なお当然のように服装は汚れていない)は表情を一切変えなかった。
「だが、見切った。戦闘経験などの脅威度は別にして、その座標をイレカエる技に関しては、置換可能なものは視界に入ったモノとモノとの座標程度か。ベクトル操作までは対応できていないのを見るに、言葉通り以上の意味合いがなさそうだ。その『イレカエ』る力は」
「オジサンの手の内見破って得意げにもされないってのはちょっと傷つくなぁ、ハハ」
「タネが割れてれば、そっくりそのまま言葉を返そう」
言いながらも甚兵衛とて苦笑い一つ浮かべず煙草をふかす。そんな彼にフェイトは無言で指を弾いた。どどど、地面から四角柱の杭のようなものが伸び、甚兵衛の四方及び上下を覆う。色は黒く、彼の視界を完全に奪っていた。馬鹿な、
もっとも出現と同時に内部を圧殺したりする仕様ではなく、外部から再び四角柱状のうねうね…、ところてんみたいだな。黒くて硬いところてん的何かがいくつも表出し、甚兵衛が囚われたはずの黒い檻を潰した――――。
「終わりだ……」
「そう言うの、フラグっつーんだったか?」
はっとした顔になり勢い良く振り返るフェイト。そこにはエプロンがボロボロになりながらも、本体は一見無傷に見える甚兵衛の姿があった。ふぅ、とタバコをふかす様はかなり余裕そうに見え、フェイトの攻撃がまるで通じてないことを伺わせる。
石の剣をどこからともなく出現させ斬りかかるフェイトだったが、甚兵衛はそれに剣のようなものすら使わず左手をくいっと回転させなにかを「イレカエ」た。
「これは……ッ」
「よっと」
フェイト周囲の空間を「イレカエ」で囲い、ある種の牢屋のように。それに向かっていつかの私と戦った時のように鈍い光の棒のような「断空剣」を形成すると、振りかぶって何度か振り回した後にバットでボールをホームランする要領でぶん殴った! 飛んでいくフェイトの様は明らかに物理法則を逸脱しているが、一体どんな原理が働いてるのやら。ただ殴り終わった後に甚兵衛は右の腰と尻の間あたりを押さえた。まだぎっくり腰治ってないのだろうか、流石に長い……。
「いや無茶苦茶すぎんだろ、ヤベェ……」
そしてカトラスはカトラスでお前、何かドン引きするノルマでもあるのかな?(謎)
無限の彼方へと飛ばしてからしばらくすると、フワフワと小型ドローンカメラのようなものが飛行してくる。確か原作でこちらの状況を確認するのに使っていたか……。と、ヘロヘロの灰斗に肩をかしながら、南雲が嫌な顔をしながら現れた。甚兵衛は「おーおー、あの南雲ちゃんが後進の面倒見る年たぁ、おじちゃんも年をとったもんだぁ」とか言いつつ半笑いである。半眼を開ける南雲は、焦点こそ定まっていないが明らかにキレていた。
「余計なお世話ッスよね昔から、ジンベエさん」
「口調、前に戻ってるぜ! その見た目で余裕のない様は完全にチンピラじゃねーか」
「黙っとけジジイ。……いや、そうではないな。一応、これも仕事だ」
「おー?」
す、と携帯端末を起動する南雲。そこからホログラム映像のようなもので、フェイトのバストアップが映し出された…………、ずぶ濡れの様を見るに海にでも落ちたか。
『………………なるほど。流石に雪姫やネギ君が評価するだけのことはあるらしい。宍戸甚兵衛、真価を見誤っていた』
「見誤ってなんか全然ねーぞ? 今の俺はしがない、ただの商品の消費期限にてんてこ追われてる一般店長だ。さっきだってこの売れ残りで賞味期限ぎりぎりのおにぎりをお前さんの胃袋に『イレカエ』てブッ込んでやろうかと思ったくらいだし」
『それは止めてもらって感謝するべきだろうか……、胃もたれは意外と効く』
「ま! そりゃそーだな。どれだけ強靭でも『生物』って縛りから俺たちは逃れられねぇからよ」
『そういう全てを諦めた物言いを、僕は認めない。だから、こういう手段もとろう――――南雲』
了解、と言いながら、南雲が一瞬で私たちの方に間合いを詰めて現れる――――原作からしておそらくは何か転移系の魔法アプリなのだろうが、私からすると
それと同時に、私の首は切断された。
※ ※ ※
「
「貴様――――」
兄さんの首が一瞬で落とされた。何でこんな一日に何度も生首になってんだあの馬鹿兄貴っ! いくらシシドジンベエが強いのだとしても、こうやって隙をついて動くやり方は出来ないというか、流石に想定していない慢心があるのだろうか。
ユウキカリンが武器を取り出しかけるのと同時に、兄サンの首を掴んで老剣士がどこかに消えようと――――。
「――――血風」
そう、兄サンの生首が言ったのと同時に、兄さんの首の切断面から巨大な、何だろう、プロペラというか卍というかよくわからないんだけど、そんな感じのが現れてがんがん回った。慌てて手を離したものの、回ったそれは老剣士の身体とか服とかにぶち当たって、同時に「ぱきん」って音と共に魔法だとか左腕の義腕だとかをぶっ壊したけど……。
いやだから、いくら緊急と言ったって気持ち悪いものは気持ち悪い。
ちょっと吐き気を覚えるけど、ユウキカリンが転がった兄サンの首を速攻で抱きしめて回収して胴体につなげた。と、首の接合部と胸部からわっ! と血が漏れて、まるでそれが当たり前のように血のコート的なものを再度装備して立ち上がる兄サン。
「タネが割れてりゃ何とかなる、って話だったっけ。手段はともかくやり口は予想してるッスからね。少なくとも灰斗の兄ちゃん程『それっぽい訳じゃない』んだろうって予想くらいは」
「フッ……、今日はそういうことにしておこう。不意打ちすら失敗して、何か言ったところで恰好は付かないからな」
さて、と。兄サンは
不思議とそれを見てたら、なんか、さっきより力が抜けた気がした。
兄サンは、珍しく? かなり不機嫌そうに製作者に文句を垂れる。
「まずさー、最初に言うけどアンタの事情も雪姫の事情もてんでさっぱりなんだわ、俺。このカトラスだって色々あるんだろうしってことで話は全然聞いてねーし。
……でもそんなの関係なしにアンタが来るって言うのなら、せめてきちんと『話し合い』から始めろってんだ。ネギ=スプリングフィールドの友人ならそれが出来るだろ。
まずアンタの話を聞く。で雪姫の話も聞く。最終的にどーすっかは、その時点で考えるから」
『…………成程。いや、妙な抜け目のなさは意外と母親かその血筋譲りなのかな? それにそろそろあの女も来てしまいそうだ。
では近衛刀太。テナ・ヴィタ。またいずれ会おう』
「来るんなら今度はアポ取ってからにしてくれよなー」
『フフ……、善処はしよう』
引き上げて良いぞ、と言って立体映像は消える。と、老剣士は「では今度こそ……」と言いながら狼男と姿を消した。ぬるって言ったらいいのか、二人がもともといた場所に変な歪みみたいな光が走って消えた。
ふぅ、と息をつく兄サンを、当然という風に抱き留めるユウキカリン。……やっぱヤベェ女だ、シシドジンベエの方を見ながら「ダメではないですか、全く反応できず首を斬られては」と文句を言ってた。苦笑いするシシドジンベエと、表情の見えない兄サン。
「いやタイマンか何かならいざ知らず、いきなりじゃ俺も後手に回るのは仕方ねーだろ? 結果的に刀太で対応できたんならそれで良いじゃねーか」
「そういう訳でもないのです。それに…………」
「お? 何で照れた夏凜」
「ええ、い、いえ何でもありません。今後とも全員、精進が必要と言う話ですか」
「どうでも良いけど少し離してもらって良いッスか? コレ解くんで」
「嫌です」
「「何で!?」」
「いえ何となく…………」
やっぱヤベェわあの女。
その後しばらく兄サンに説得されてユウキカリンが手を離すと、兄サンは血装術を解いて重力剣を背負った。……? ん? あれ? ふと見ると、その立ち姿に何か違和感がある。
思わず立ち上がって、兄サンの方に寄ってみて……。
「あれ? 背、伸びた?」
へ? と。兄サンが「コイツは何を言ってるんだ」みたいな目を向けて来たけど、いや実際問題、背が伸びてる。私とかユウキシノブとかとそんなに変わってなかった背丈だったはずなのに、今じゃ少しトキサカクローマルを追い越していそうな感じになってる。そして何より普段袴で隠れてる足袋が見えている。足首が見える程度には、全体的に伸びてるような気がする。
「ほう、成長期ですか。ふむふむ…………」
「一体何を納得したんスか夏凜ちゃんさん!?」
「ふふふ、いえ、何でも」
「おー、あれ? お前って確か成長止まってるって雪姫に聞いたんだが」
「一応俺もそう聞いてるんスけど……、ってあー、…………」
と、唐突に兄サンが「動くなよ」と私に言ってくる。その手はすっと私の右目の方を撫でるように………………? つう、と。その時ようやく、右目から透明な雫が滴っていたことに気づいた。
泣いてた? 私。
それに気づくと同時に、今、兄サンに拭われたことが強烈に恥ずかしくなった。
「は、はァ!? ヘンタイか馬鹿兄貴ッ」
「いやお前、妹自称するならそれくらい別に大したモンでもねーだろ」
そういう問題じゃねーんだよ私たちの場合!? 遺伝子の乖離度合いを上げて疑似クローン同士での交配で子供産んだら「白」と「黒」の融合が上手くいくんじゃないかみたいな話で、後半ロットだと最初から大人で設計された奴らだっているんだぞ何考えてるんだ!!? 大体、と、年頃の妹相手にそんな距離感の近さやるんじゃねー! 子供だって産めないんだぞ私!?
ちょっと自分でも何を考えてるか分からなくなってきたころに「おっ刀太お前、何だ? まーた新しく女引っ掛――――」「違います、妹だそうです」みたいな妙にアレなやりとりが聞こえてきた。…………いや、マジで何であんな積極的に兄サンを落とそうとでもしてる感じの女相手に平然と接してるんだ。雰囲気的に意識はしてそうだけど堕ちてはいないくせに、なんかまるでそれをわかった上で飄々と往なしてるような……。
ひょっとして兄サン、女の敵? 私みたいなのが女語るのはちゃんちゃらおかしいけど。
思わずその気だるげな頬を素手で殴ろうとすると、当然のように片手で受け止められるし。
「ままならぬ…………」
発された兄サンの一言は、相変わらず意味不明だった。
次回:変な因縁