今日はちょっと頑張った・・・!(某語録のお陰ともいう) 後で誰とは言わないけどセリフ増えるかもです…
ST44.Moon face
率直に言うと、和尚を名乗る男はかなり強かった。
「くっ――――特殊な技術もなく、純粋な身体能力だけでっ」『(やっぱり強い!)』
「これでも伊達に『和尚』は名乗っていないものでなぁ」
一体全体その和尚というのは僕の知る和尚という概念と同じなのか、ちょっと疑問に思っちゃうくらいの強さだった。両手に持つ錫杖、片方の先端は槍のようにとがったもの。それらを駆使して僕の剣戟を捌き切り、あまつさえ一撃、一撃が重い。見たところ灰斗さんみたいに気を修めてる訳でもなく、かといって僕やあの老剣士のように剣術を修めている訳でもない。
どちらかというと甚兵衛さんのような、ひたすらに「経験値」に裏打ちされた戦い方だった。決まった型のない動きは刀太君に通じるし、それでいて動きに僕の想定以上のずれがあるが妙な引っ掛かりを覚える戦い方だった。
今だって距離をとり斬空閃を当てようとしたものの、それを見切っているのか錫杖で「受け流し」、でもこちらの隙を伺う様に踏み込んできたりはしない。戦い慣れているはずなのに妙に素人のような動きが入っていて、こちらのペースが乱される……!
苛立ちと共に、ヒナちゃんから「黒い煙」のようなものが噴き出していて、不思議と身体が軽くなった。それでも有効打が与えられず、いら立ちが募る。
彼は「むふぅ」と鼻息を鳴らしながら、訝し気に僕を見ていた。
「…………やはりその業は少女が抱えるものではないな。一つ間違えれば世界を滅ぼしかねぬ。
ここで会ったのも何かの縁だ。小娘、一度しっかり話せ」
「だから僕は――――男だ!」
「
接近した僕に正面からわっと大声量を浴びせる――――声の大きさのせいか一瞬、三半規管が乱されふら付いた。その時、彼は僕の夕凪を払いのけ地面に突き刺した。何故か深く刺さり、抜けない……!?
でもそんな僕に追撃はせず、和尚は錫杖を地面に突き刺し腕を組んだ。
「立場上、敵同士ではあるがどうにも放っておけぬ。少なくとも拙僧とて『救われたことのある』身。であるならば、義を見てせざるは勇無きなり、である。そしてそれ以上に、お主の業は他の優先順位を捨て置いても処さねば取り返しがつくまい」
「意味がわかりません……! 大体、そんな高尚なことを言いながらどうして貴方はそちら側にいるんですかっ」
「色々理由はあるが簡単に言うなら自己顕示欲のためだ。
……拙僧の寺、財政難で名が欲しかった」
「台無しじゃないですか!?」『(台無しだよ!!?)』
「本音と懐を隠すのは出来ない気質だ。耳が痛い。
だがそれは半分の理由でしかない。あの雇用主の理念に共感したのもまた事実――――待遇はともかく、そこに『愛』があるのだから」
愛? と。困惑する僕に、和尚は頷く。
「あの男は、友への『愛』のために世界を救おうとする男。なればそれが行き過ぎて狂わぬよう、傍で見て手を差し伸べるは拙僧のような求道をする者しかおるまい。あそこで嬉々として斬り合ってる婆さんなど古い付き合いらしいが、あれは道具にはなれても言葉を交わすことはできぬ。誰かが歯止めにならなければならぬのなら、それこそ奴と『同じ男』に救われたこの身がいさめるべきだろう」
「…… 一体、あなた達のボスは何を目的としているんですか?」
「ネギ・スプリングフィールド――――
意味が、わからない。……ネギ・スプリングフィールドというのが、刀太君の祖父であるのは知ってる。熊本で墓参りに行った時、刀太君が実感のないような遠い目をしてたのを覚えてる。そんな彼から話を聞いたことがある。いわく、昨今の世界にあふれる問題を救うために奔走していた偉人。魔法技術の公開に積極的に手を貸した人物。
太陽系――――「桃源」の方にいた僕はほとんど知らないのだけれど、地上では知っている人は知っている、ものすごいレベルの人物だと。
『全然実感っていうか、そういうの全然ねーけどなぁ』
肩をすくめる刀太君の、どこか現実感のないような顔を思い出す。事故に遭う以前の記憶を失っている彼からすると、そのつながりは情報以上のものではなかったのだろうと察してしまい、胸を痛めた覚えがある。
「そう、その顔だ」
「えっ?」『(あー……、確かに)』
和尚が僕の顔を指さす。その目はどこか微笑ましいような、それでいて怒っているような目だった。
「小娘。お主の事情は知らぬとも。何故男を名乗るかということについては『
何故、想い人を思うその顔に『闇』がちらつくのだ。それでは、その男が殺されでもした時に、復讐の為なら世界全てを滅ぼすことに厭わぬようではないか」
「お、想い人って……!? でも、いや――――刀太君は死にません!」
「
再びの大声に、僕の全身が震える。……今度は錫杖をもって、地面に叩きつける。
「判っていないようだな。史上、人間というのは大半がその自国や自分自身への愛ゆえに判断を誤り、そして重大な間違いを引き起こす。時にその愛は誰かへのものであり、そして刃を手に取り人を殺し、世界を殺す。
わかるか? 愛は時に世界を滅ぼすのだ――――お前がその男を愛し、滅ぼしかねないように」
ヒナちゃんを持つ手が震える。思わず構えてしまった僕に、でも和尚は構え返さない。
「その拗れは、己の
まずは認めるのだ。自らはその相手を愛しているのだと」
「そ、そんなこと――――『そんな資格』、僕には……」
「愛に資格はいらぬ。ただ見返りがないものを尽くし続けることだ。開き直って言えば、愛は無償なのだ。返してくれるかもわからない。しかし、それでも尽くすのを――――」
思わず僕はヒナちゃんを夕凪に当てて、地面から引き抜いた。……何かしらの術、おそらく魔法技術に頼らない錯覚めいたものでも使っていたのだろうか。ヒナちゃんでそれを「切れ」たのか、今度はすんなりと地面から抜けた。
それ以上、彼の言葉を続けさせてはいけない――――何か重大なものを壊されてしまいそうな恐怖に襲われて、僕は彼に斬りかかる。ただ、和尚はそれを当然のように受け流した。
自然、距離が空く僕ら。
「じゃあ、何ですか……、す、好きになることは。愛することは罪だとでも言うんですか!」
「そうとも言えるし、そうでもないとも言える。小娘、お主は結論を焦りすぎている」
「意味が分からない!」
一撃、一撃を当然のように往なしながら、和尚は言葉を続ける。
「つまりだな。愛は世界を滅ぼすが――――それでも、愛は世界を救うのだ!」
和尚の掌が、僕の頬を叩く――――威力が尋常じゃないということはない。それでも、僕はその一撃を受けて、その場に倒れてしまった。動けない。また暗示のようなものだろうか、しかし全身が揺さぶられたように、胸がえぐられたように重い。
「……その言葉を、拙僧はもっと早くにあの方へ言うべきだったのだ。言えなかったから、あの方は失ってから、どうしようもなくなってからでしか何事も為せなかった。それが拙僧は悔しい」
「…………それが、貴方の愛ですか? だから貴方は、そっちに居るんですか?」
「これを愛というのは、あまりに遅い。人が人を愛するのは、男が女を愛するそれとはまた違うものではあるが、だからといってそんなものを全部放り込んだところで、順当に行くこともなければ、今までの何かを超えるものになるわけでもない」
まるで禅問答のようなことを言われた。でも、それを言われて……ふと考えてしまった。
僕の刀太君への感情というのは、きっと、一言で片づけられるようなものじゃない。
熊本に居た時の同居人のそれとか、気遣ってくれて嬉しかったこととか、ふとした距離が近くて変にどぎまぎしたこととか。……そんな彼を殺してしまった時の混乱とか、悲しさとか、やるせなさとか、自分への怒りとか。それでも彼が僕を受け入れてくれた安堵とか、その時の胸の温かさだとか。
そういったものをひっくるめて、僕は今まで彼と接しているのだろう。……当たり前だ、人間なんだもの。そんな感情を、簡単に整理できるようなことなんてあるはずはない。
ただそれでも、そういったものを突き付けていった先に――――。
「………… 一緒に居れたら、いいな」『(あれ? 僕?)』
その感情だけは、きっと。どんな感情に紐づいたとしても、それだけはずっと根底にあって、言い訳のない、嘘じゃない感情だった。
その一言と同時に、不思議な充足感が生まれた。…………嗚呼そうなのかもしれない、今更だけど、あまりにもいろいろあって認めるのも変だけど。
僕は、刀太君が好きなんだ。
今こんな場所で時間を稼がれてなんていないで、一刻も早く刀太君の元に駆けつけて、一緒に戦いたいくらいに。できれば彼と守り守られるような、背中を預けてくれるような、そんな一つのものを超えた関係に。
和尚は僕の顔を見て、ふと満足げに頷いた。
「その顔は、悪くない」
「…………『
ヒナちゃんを一度戻して、ネオパクティオーカードを手に取る。「気が付くと」身体は不思議と軽く。
立ち上がった僕に、和尚は構え。でも追撃してくることはなった。
「――――後悔しないでくださいよ。今の僕は、きっと無敵ですから!」
何も言わずこちらを見る彼。嗚呼、きっと僕がこのカードを使おうとも、彼は追撃してこないのだろう。そう確信できる何かが、今の僕と相手の間にはあった。まるで兄様とかに稽古をつけてもらってるような、変な感覚があった。
ただ――――迷いはなかった。
『我が身に秘められし力よここに――――』
空腹感も飢餓感も薄れ、あるのは胸を満たす不思議な温かさ。早鐘を打って、今か今かと何かを待ち望んでいるような感覚。……こ、これが恋とかそういう感情なのだとするのなら、きっと上手くいく。その確信と共に――――僕は光の中から、カードを抜き取った。
『――――
・ARMOR CARD
・KUROUMARU TOKISAKA
・RANK:Lightning Sword
・EQUIP:Sacred Sword HINAMORI
身に纏う白と緑の長ランのようなものと、黒い袴みたいなもの。
そして手にするヒナちゃんからは――――山吹色の光が立ち上っていた。
「行きます」
「
ヒナちゃんを構え、接近して一閃。横に凪ぎ払う一撃に、でも彼は錫杖で受け流すことが出来なかった――――今さらだけど気づいた。彼の動きはどういった技術なのかわからないけど、こちらの視線や力の入れ方を「暗示めいて」誘導してくるものだった。ただそれも、ヒナちゃんの力が全身に満ちているせいか、今の僕には効いていない――――いや、きっと違う。これは、僕の心が定まったからこそだ。
さっきの告白剣――――自らの思いを重ねて叫び斬撃を放つってだけのシンプルな技だけど、そこに込められた情念が強ければ強いほど、相手の一撃を寄せ付けない技だと兄様に教えられた。
さっきの、彼を守りたいって叫びに嘘はないけど。でも――――。夕凪を手に取って、僕はまた叫んだ。
「神鳴流変則・告白剣――――――――」
刀太の傍に居るために。だって、僕は―――――。
「――――刀太君が大好きだから!」『(アレ!? 何か早すぎないかな僕!!?)』
長刀、二刀、重ねて唐竹割。全身に満ちるヒナちゃんの力を振るい、瞬動に合わせて振り下ろす。
和尚も受け流せないと見たのか魔法アプリを起動して、さらに頭上に錫杖二本重ねて構えたものの。それすら「当然のように」真っ二つにして、僕は一撃を見舞った。
倒れる和尚。胸には縦の傷。
「殺しは、しなかったか……。それで?」
「……愛が世界を滅ぼすとか、救うとか。そんな大層なことが言えるほど、僕も生きていません」
だから、と。夕凪を鞘に戻しながら、僕は言う。
「――――その結論は、僕が決めることにします」
ぬぅ、とうめきながらも、でも和尚は僕にうっすらと微笑んだ。
「拙僧、お主の中に『愛』を見た」
それだけ言って気絶したのか、目を閉じて寝息を立て始める和尚に。僕はそうする義理もないだろうけど、それでも頭を下げた。
※ ※ ※
「あらまぁ、青春やぁねえ。素子はん思い出すわぁ。そう思わへんかぁ? 斬りがいのない源五郎はん」
「…………無為にこちらを百回ほど殺しておいて、その言いぶりはどうかと思うけれどね」
時坂九郎丸が「夜明けの剣」の称号を得たのを横目で見つつ、僕は「解体されていた」。
祝月詠。実年齢は……、いや、見た目はともかく女性の年齢にとやかく言うつもりはない。一空のごとくすでにその身はほぼ義骸のそれであり、しかし修めている剣術は超一流。「独自流派開拓者」「夜の二刀流」「神鳴流破門生」「刹那を逃した者」「異端児」「剣鬼」「赤いの大好き」「ゴスロリ
彼女の剣は、正直言って僕のキャパシティを超えていた。こんなの
「――――ほら、また一本」
会話しながらも平然と首を飛ばしてくるこの姿勢からして、明らかに戦闘狂だというのに……。しかしどうにもやり辛い。個人的な感傷のせいだという自覚はあるのだが、だからといってこれくらいの達人相手だと「取り繕っている」ことで生じないはずの隙すら「取り繕っている」という隙と見なして攻撃してきている感覚がある。
彼女の背後にリスポーンしながらそんなことを考えつつも、しかし再生中の僕の心臓に平然と刀を刺してくるのも止めてもらいたい。ある意味で、何から何まで苦手な相手だった。
そんな彼女を蹴り飛ばして距離をとりながら、心臓の剣を抜く。
「んん、アンさんの不死身っていうのも、なんか変な感じしーよるね。死ぬこと、生きることに関する動きの執着、全然あらへんもん。痛みも感じてないような軽い死に方やし、全然滾らへんわ」
「それは残念」
「なにより源五郎はん、やる気あるん? 私、普通に殺すつもりでかかっとるのに、捕縛とか生ぬるいこと考えてへん? 銃だって全然使わなってきたし」
「…………それを言われると色々弱いのだけれど、僕としても少し困っていてね」
多少は相手の動揺を誘えないかと、剣を当然のように構えている彼女に苦笑いを向けた。
「……どうにも君の容姿が、僕の死別した恋人のそれに似て思い出してしまうんだ。笑みを向けられる度に躊躇してしまう」
そう。僕の視点からすれば、いわゆる
そんなことを言えば、流石に意外だったのか一瞬目を見開き、視線を逸らした。
「あー、はは、なるほどな…………。私、言うのはヘンだけど、堪忍しぃ? もともと私の二十代ごろの顔ベースやし」
「そういうのは察していても、いざ戦うとなると、ね」
「源五郎はんも甘い、甘いわぁ……、チョコラテ深夜に2リットルペット一気飲みしたみたいに甘くて胸焼けするわぁ……」
「そう言いながら人の胴体を袈裟斬りにするのは止めてもらいたいのだけれど……」
残機はまだ桁的に問題はないとはいえ、本当、最悪の相性の相手と当たってしまったらしい。そんな僕の耳に「……お前そんなにロマンチストだったか」と、