ST5. Renewing Innercircle
橘が警察に連行された後。おおむね予想通りと言うべきか、あの後「村に居られない!」という話に早々なった。雪姫自身が賞金首であることもそうだが、私、九郎丸含めて一般人からすれば不死身のバケモノである。引き上げは適当というか、周囲に迷惑をかけられないというごく当たり前の判断だった。
仲の良かった四人と別れる際、私自身それはもう泣いてしまった。てっきりもっとドライな性質かと思っていたのだが、いかんせん本来の素性を話せないにしても、彼らと夢を語ったり色々馬鹿やったりフォローしたりという日々は、生活に潤いや、楽しさ。そして毎日を鮮やかなものとしてくれていたらしい。気づけばもう感情が溢れて、色々おさまらなかった。
原作主人公ならまずありえない湿っぽさを発揮した結果、全員に伝染してそれはもう男泣きに泣く五人組となってしまった。オロオロする九郎丸に苦笑いする雪姫。都、こと新東京での再会を誓いながら、べそをかきながら笑顔で手を振る私たちであった。
なお「いいなぁそういうの……」とボソっとつぶやいた九郎丸であるが、声質が完全に女の子のものであったため、そういうのはちょっと止めてもらいたい。好みでなくても意識してしまうので、今後の生活に差し障る。
「刀太、事情を話した時もそうだが意外と驚かなかったな」
「いやだって、フツーに考えて雪姫みたいな美人でめっちゃ強い奴、こんな田舎にフラフラ流れ着くもんかね? 絶対何か厄介ごとがあると思うって」
「いや、私が吸血鬼であるということもそうだが。それ以上にお前が……」
「雪姫に血を吸われて出来た吸血鬼だって? あー、まぁ結果的に生き残ったのそのお陰だし、今更どうこうってことでもないだろ。むしろ結果的にだけど、そういう意味でも親子ってわかってホッとしたというかさ、カアちゃん」
「親子……、うん、まぁそうだな、親子だ」
「何だよ?」
「いや、何でもないさ」
空気を読んでか黙っている九郎丸には悪かったが、そんな訳で。私たち三人は UQ HOLDER 本拠地を目指すことになった。もっともその話は雪姫本人の口からされてはいないので「ツテを辿る」と言われているばかりなのだが。
九郎丸も私も、とりあえずそんな彼女についていく……、というより九郎丸は何か、妙に私を目で追ってくる。その視線が妙に湿度の高いもののように感じられて、違和感と言うか不安がある。原作を知る身としては特に
そんなこんなで数日。廃棄された高速道路やボロボロになった国道沿いを歩き続け、無人施設で宿泊したり野宿したりを繰り返しながらな私たちである。位置的にはまだ県をいくつか跨ぐか跨がないかといったところで、思ったよりもスローペースだ。村が熊本であったことを踏まえると道のりは長い。
当然だが理由はある。移動を兼ねながら、雪姫との戦闘訓練じみたことをしているからだ。このあたりは原作通りなところもあるが、どうにも私のアレ……、結果的に
「ホラホラどうしたどうした! 遅いぞ刀太も九郎丸も――――!」
「いや少しは手加減しろって何全力で氷魔法ぶっ放してんだよ! ってア゛ー! 九郎丸ゥ!」「きゃあっ!」
悲鳴が完全に女の子だというツッコミは置いておいて。この時点で原作より強度が上がっている関係か、攻撃一つ一つに容赦がない。九郎丸は丁度胴体が弾き飛ばされて転がり、私は私で胴体に風穴が開いた。
座して死を待つ(死なないが)のも癪であるし、一矢報いなければ訓練に終わりはない。とっさに転がりながら「心臓のあたりに」「右手をあてる」。九郎丸に刺された胸部はほんの少し刀傷が残り、そこを起点に血と魔力を体外に排出できるようになっていた。理屈の上では再生しない胸部を延々と再生し続けてるため、魔界由来の魔力と血が延々と渦巻いているということか……、意図せず小さい「回天」のような現象が起こっているらしい。
事故的なものなのだろうが技を使うたびに毎回身体を切開しなくて済むので、そういう意味では痛みが少ない。実に私好みである。皮肉ではないが、九郎丸は良い仕事をしてくれた。
とは言え私自身、最近はイメージが多少安定したのか出せる形状は
もっともそれを指でつまんで止めるのは、どう考えても人間技じゃない。少しだけ楽し気に、血の回転兵器を「一息で」飲み込んだ………………、ってそれ食べれるのかい!? 吸血鬼か! 吸血鬼だった。
「首をもがれても投げるのを止めないのは全くもって問題ないぞ? 問題はない。
ただこう、フリスビーみたいに投げる関係でどうしても隙が大きいな。
前にも言ったが弾丸とかみたいな形状で撃てないのか刀太」
講評とばかりに私の首をくっつけたり、九郎丸の外れた肩を戻したりしながらの雪姫である。正直に言えば厳しい。最終的には「黒棒」を併用した
「…………単体の射撃だと狙った方向にちゃんと飛んで行かなくって」
「ふむ?」
とりあえず実演とばかりに、輪ゴム鉄砲のように指を銃のような構えにして、先端に血と魔力を集める。そしてボロボロにさびた看板に狙いを定めて狙撃――――! と、それはあらぬ軌道を描いて上空に飛んでいき、いつの間にか見えなくなった。漫画とかなら「キラッ」と星にでもなってそうなノーコン具合だ。
ふむ、と訝し気な雪姫。
「お前のそれは
まぁ予想でしかないが、無意識の影響でも受けているんだろう」
「無意識?」
「明らかに普通の軌道じゃなかったろ? さっきのは。二次関数のグラフめいて上昇していったじゃないか。そう考えると、むしろお前の潜在意識にある『銃は嫌だ』みたいなみみっちぃ拘りでも反映されてるのかとな」
「みみっちぃって何だよカアちゃん……」
「別にそれ、必殺の一撃でも何でもないだろ? 性質的に」
「真空〇動拳じゃなくて波〇拳みたいな?」
「何だその例え……? ともかくだ、今はまだ使い慣れてないというのもあるだろうが、どこかで使い勝手にロックがかかってるということだ。荒治療でもいずれどうにかせねばな……」
「お、お手柔らかに頼むぜ」
「ちょっと何言ってるか聞こえなかったなぁ、厳しくいくぞ」
「絶対聞こえてただろ!?」
「……あ、れ? 僕は……」
意識の戻った九郎丸ともども、その後も当然のように襤褸雑巾のように蹴散らされる我々である。それでも雪姫いわくの「ロック」が中々解除されないのか、弾丸とかのような運用は少し難しい。
訓練終わり、廃墟になってる販売所の奥に転がっていた非常食を「もったいないから」という理由で山賊のごとくかっぱらってきた雪姫。中に入っていたレトルトカレーを湯煎しながら、俺と九郎丸は雑談していた。
「レトルトカレーが十五年前の奴なんだけど……、それでも賞味期限あと一年くらいあるってヤバいな現代技術」
「食べて大丈夫だよねこれ……」
「まぁ皆不死身だから腹下して死ぬことはないだろうけど。でもこーゆー所くらいちゃんと整備しろって思わなくもないなぁ政府」
現代社会においては急激な環境変化に伴う資源不足や地域紛争、日本など先進国はそれに加え少子高齢化が加速したり技術発展の影響もあり、ほとんどの人口は都市部に集中しており、過疎化が致命的に近いレベルで進んでいた。首都圏を除くとゴーストタウンが散見され、スラムが発生するまでもなくそもそも人が居ない。
田舎の方に自給自足で生活している人々もいるが、それだって都市部との経済的なやりとりが必須である。これは魔法技術の公開によるインフラの局所自給自足、技術発展の影響で自動トラックなど物資のやり取りの高速化など様々な要因あってのことだろう。もっとも民間的には、かろうじて一日に数本の電車が行き来するかしないかくらいだ、やはりその断絶は大きい。
結果的にこうして廃墟のようになってしまってるコンビニとかも多く、そして割とその食材とかも「電気が通ってる状態で」放置されていたりするものもあった。
「しかしアレだなー、やっぱ銃弾は無理だなぁコレ…………」
「銃弾…………、刀太君のアレだよね、えっと、なんか黒くて赤い光みたいなのが混じった……」
「名前まだ決まってないんだ、悪ぃ。とりあえず『
「血風……、良いんじゃないかな。カッコイイと思う」
「そうかぁ? 自分じゃよくわからないけど……」
とはいえ隙だらけと言われてしまえば、確かにその通り。私としても何か対策は考えないといけないのだろうが……。
これはどちらかというと、やはり初回のアレの威力というか、被害規模で私自身が怖がってるということなんだろうか。銃火器イメージになるとそれこそ連射できそうだし、あの威力を連発となると躊躇うのも頷ける。
取るに足らぬ……訳ではないが痛みに対する恐怖心だけではない、周囲に被害を与えること、命を奪いかねないことへの恐怖心だろうか。完全に
慣れる他ないと言えば慣れる他ないのだろうが、中々に難しい話である。
「――――た君! 刀太君! 手! 手、燃えてる!?」
「っておわ!?」
ぼうっとしすぎたせいか、コンロに腕が近すぎて引火したらしい。何だろう慣れた訳ではないんだろうが、一度死んだせいかそのあたりの警戒心が薄くなってるのか……? とはいえ、次の瞬間には「ぞぞっ」と血が箇所を覆って鎮火させてるあたり、我ながら生存本能は強いと見えた。
※ ※ ※
夕食を食べ終わった後、刀太君は一人瞑想にふけっている。「なんか疑似人格でも出て来てくれりゃもうちょっとやりようがあるんだが……」とか言ってたけど、一体何の話だろう……? 先に入っていいと言われたので、宿泊施設のシャワーを先に借りた。
「はぁ…………、まだ慣れない」
雪姫先生……、いや、雪姫さんは僕の身体の事情も何故か知っていた。僕が今「女の子の身体」になっていることも。多少からかいながら「良い機会じゃないか」と笑っていた。今の身体でも戦闘に慣れておけば、いざというときにどちらでも戦うことが出来るだろうと。
『それは確かに、そうですけど…………』
『まぁ何十年かかるかわからんが、私を倒すつもりなら精々……、どうした?』
『……僕は』
そう、元々僕は彼女を、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを殺すために来たのだ。でも刀太君たちと友達になって、なんだか分からなくなった。
そして何より……。
『僕が来たから、刀太君は不死身になってしまった、ってことなんですよね』
『……気休めは言わないが、結果的にはそうなる、かな?
間違いなく、お前がアイツを一度殺した……、殺し直したことで、アレの奥底にあるものが動いてしまったとも言える』
『刀太君は、その、普通の男の子だと思ってました。今でもそれは思ってます。僕らみたいなものの世界に来ちゃいけない、そんな人だって。だから……』
『「自分のせいでそうなってしまった」。だからそれが負い目か。
…………責任感があるというか、律義と言うか。
じゃあどうするんだ? 責任とって結婚でもするか? 丁度女の身体だし』
『け……!? い、いえそんなそれこそ無責任というかですね、明らかに問題があるというか、そ! そもそも僕は、刀太君の友人で!』
思い出して、訳もなく顔が熱くなってゴンと壁に頭をぶつけた。雪姫さんはニヤニヤとしていたなぁ……。揶揄っていたのだろう。
『やれやれ…… (愛が重いな、
まぁあまり自分を追い詰めるな? 意外とアイツはそういう所は見ている。
むしろそれが、アイツの側の負い目になるかもしれない。下手に責任を背負わせてしまったという』
『そんな! だってそもそも僕が……』
『そのあたりは何かあれば相談に乗ってやるから、気楽に話せ? 私としても弟子だし、「息子」の友達だからな。そう曇った顔をするな』
雪姫さんはそう言ったけど。でもやっぱり、彼がああなってしまったのは僕がきっかけで。
だからこそ、それについては僕自身が何か結論を出さないといけないと思う。
少なくとも、何もなしで許されて良いはずはない。
だからこそ。それが何か見極めるまで、結論が出るまで。僕は刀太君の傍に居よう。雪姫さんを殺すのは、それまで止めだ。
「……で、なんでこんなに心臓がバクバクいってるんだろう……」
それでもあの時、死にかけてたのに僕に笑いかけてくれた刀太君の顔が意識にちらつき、僕はしばらくシャワーから出ることが出来なかった。
師匠作画のUQホルダーをテキトーに考えてみた。
・刀太:たつきちゃん系
・雪姫:目つきを鋭くした織姫に乱菊さん的なニュアンスを添えて
・みんな大好き九郎丸:白夜とルキアを足して侘助で割った感じ
・夏凜パイセン:ネムと砕蜂と1:1でカクテルして最後に雛森を搾る
・キリヱ:ちびリルカ(系)
・忍:清音っち系か雛森系
・みぞれ:わ か ら ぬ