今回は以前アンケートで予告してた番外編の一つになります
・雪姫:刀太が髪を染めるの目撃してキレる話
ST66.“You must amend!!!!!!!”
世界には、意外と崩壊の危機みたいなものがゴロゴロと転がっている。
特に今の時代、
とはいえ、時には直接それに繋がらないものも多かったりはするのだが、何事にも限界はある。
そんな時にどうするかと言えば、まあ私一人が出て解決できることなら私が出るのが正しいのだろうが。それでも私は「ぼーや」じゃない。一人で出来ることは多いが、限界値というものは見極めがついている。
一人で抱えられるものの限界を知っている――――つもりだ。
だから、安全策を取れるなら安全策をとる。もちろん「それなりに」許容できる犠牲を払ってならば。
「――――それで私を呼ぶところが、実にエヴァンジェリンらしいと言えば良いだろうか。大体一応、私は木乃香の頼みで『学園長』をやらされてるんだがな。それなりに金額も貰っているしスケジュール的に無理がなかったとはいえ、多少は面子を鑑みて欲しいのだが。学校に長期間いない学園長なんて、かつての高畑先生以上にアレだろ」
「そんなもの気にする女だったか? お前」
「ナメられは今更しないだろうが、サボってると思われると指示が中々通りにくくなる。これは龍宮神社の方も同じ話だ。金になるから何でもやる訳でもないし、えり好みするのを相手に認められる程度には、こちらの存在感が必要になるものだよ」
ただ木乃香からは相当な前払いこそあったが、と肩をすくめる龍宮に、私は苦笑いを浮かべる。
サグラダファミリアの一角、ヨーロッパ支部に転移した後に「射程ポイント的にはアソコが最適だろう。何、観光費くらいは追加で出してくれるだろう?」という強気の押しに思わず負けてしまったが、いや思ったより普通に観光した上で「認識阻害」をかけて塔の上の一角を占領しているのだからちゃっかりしているというか何というか……。
いや、こんなことを思うだけ、私も丸くなったということだろう。
「まぁ『魔人』相手だからな。私もそれなりに警戒はするし、特に相手が相手だから『こういう施設の方が』防御力が高い。いたずらに狙ってくることもないだろうから、許可はしたが……」
「ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン、だったか? かつてネギ先生の故郷を石に変えた」
言いながら双眼鏡でターゲットの位置を確認する龍宮の見慣れた姿。……これを見慣れた姿というのだから、年月が過ぎるのは早い。
とはいえ、コイツも何というか、外見はほとんど変わらないなぁ……。もっともザジほどじゃないが、アイツ未だに高校生になるかならないかくらいだし。
今の龍宮は「八〇年前と」比べるなら、肉体的には二十代前半か中ごろというところだろう。背がさらに伸び、胸や尻が大きくなり。
茶々丸に聞くところによると、未だに生理も来るらしいのだから、なんというか……。
ため息をついて、私も「焦点を合わせる」。視線の先、とあるレストランの一角で。黒ずくめの老紳士「のような姿をした」悪魔が、十代前半くらいの少女に食事のマナーを教えている姿が見える。
額が見える、視線の鋭い少女だ。黒いツーサイドアップと、白い肌が目立つ。
彼女は両手にナイフとフォークをもって厚切りステーキを切り分けようとしているようだが、カチャカチャ音が鳴ってしまうのか適宜注意されて苦い顔をしている。
同じ光景を見ている龍宮は、その少女の姿に苦笑いを浮かべた。
「…………しかしこう、変な気分になるな。実際に『産んだわけでもない』のに、ネギ先生と私の血が混じった子供がああして生きている姿を見ると」
「ネギとお前だけじゃないだろう。神楽坂アスナもそうだし、あの『研究所』の実験だと、最低でも二人分の遺伝子を使っていたはずだから」
「だろうな。あのデコの出方はおそらく綾瀬だろう」
「……髪型で判断するのはちょっと可愛そうじゃないか?」
「いや、意外と重要だぞ。ザジはそれで何人か血のつながりを判断して、しかも全員正解していたらしいし。
とはいえ遺伝子上は孫くらい離れているにしても、私的にはやっぱり娘だな」
だが、そんな少女は手に持っていたナイフとフォークを皿に置き食事を中断(置き方を注意されてまた不機嫌になっている)、そして横に置いてあったバッグから――――パクティオーカード?
「まずい、気付かれたぞエヴァンジェリン」
「っ!?」
アデアットして少女の額に出現した「第三の目」。どういったアーティファクトかは分からないが、そこにピース状態にした両手を当てて、光線でも撃つみたいに「こちらを向く」。
そんなこちらに向けて、あの悪魔は指先を向け――――。
「石化光線か。よくやる……」
「迎撃する――――『
龍宮もキャットスーツの胸元を大きく開き、谷間から取り出したパクティオーカード――――「ネギとの」仮契約カードで呼び出したアーティファクト「
巨大な電磁式ライフル(たぶん
ファミリア、我々の部屋まで到達まで50メートルの位置で激突。
閃光と共に鈍い色のエネルギードームが展開し、あの光線を消し去った。
「ふふふ……、見敵必殺は常在戦場の心得だな、流石我が娘」
「楽しそうにしてるところ悪いが、逃げられたぞ」
「だろうな。さて…………、ちゃんと料金は置いて逃げたか。律義だな、流石我が娘」
変な親バカを発揮している龍宮はともかく、テーブルの上にユーロリア現通貨を置き、二人は何処かへと消えていた。
だがそれを見て、どこか楽しそうに笑う龍宮に私は辟易する。
コイツ、今回の私の依頼を忘れちゃいないか?
一応確認するが、問題ないとばかりに龍宮は笑った。
「嗚呼、大丈夫だとも。把握してる。『魔人の手元で育てられているネギ先生の血筋の子供を奪還する』、だったはずだな」
「最悪の場合は射殺することも含めて、だ」
「……それを親である私に依頼するんだから、流石は『
フェイトが進めた「あの計画」において、戦場に売り出された子供以外にも行方知れずになっている子供が何人かいる。
そのうちの一人が、あの少女。
数カ月前、刀太が地下から出て来てすぐの頃。
ザジから唐突に「『魔界』での目撃情報です」と来ていたメールがアレだった(アプリも端末も持っていないくせにどうやってメールを送ってきたんだアイツ……)。
「お前なら、私情とそれは切って分けられると判断してだ。……最悪『金星の黒』の扉がヨルダ側に回りかねないのだから、警戒するのは当然だ」
「まあ、私が言えた口ではないが……。あんまり隠し事を『子供相手に』するのは良くないぞ。特に、刀太君だったか。彼からすれば兄妹の一人なんだろうに」
「…………」
アーティファクトを「還した」後、双眼鏡越しに「魔眼」を展開して足跡を確認する龍宮にそう言われて。
言葉に詰まった私は、話題を変える意味でも全然違う話を振った。
「しかしだ、まさかお前がネギと仮契約する日が来ようとは思ってなかったな。あれだけ『今の実家』に入れ込んでいたというのに」
「
「まあ、あの時も既に良い歳だったからなぁお前」
「年齢の事でいじるのは止めろ、撃つぞ」
「カードを構えるなカードを……。いや、でもまぁザジも何だかんだ好きだったようだからな、3-Aのことは」
「体育祭の時とかもそうだったな。アレは、私的に少しは意外だったが……。だがそれ以上に、意外とネギ先生を狙っていたというのがびっくりしたが」
「…………」
「どうした?」
「いや、それは直に見せつけられたから、嫌でも知ってるというか、なぁ?」
………………まさか「あんなタイミング」で現れて「そろそろ食べ頃かと思いまして」とか言ってあっさり
「まあ元々学園祭で、ネギ先生を自分の出るサーカスに誘っていたらしいのに来なかったりとか、意外と不憫な所もあるからなぁ。拗れても不思議じゃないだろう、魔族だし。お前としては色々複雑だろうがな」
「い、いや、私は別に…………」
「フフ、そういう反応を見ると丸くなったと思うよ、エヴァンジェリン。特に最近は。やっぱり『母親』になったのは、経験値として大きいか?」
「…………否定はしないよ。ただ……」
実際はもうちょっと複雑な事情なのだが、どうしてもそれを素直に誰かに話す気にはならなかった。
どう解釈したのか、龍宮はそれを聞いて面白そうな目で私を見て来る。
「何だ? 反抗期にでも遭ったか」
「ある意味ずっと反抗期だよ。最初の頃から隙あらば髪だって染めようとするし」
ほぅ、とやはりどこか揶揄う風である龍宮に、私も苦笑い交じりに答えた。
※ ※ ※
近衛家ゆかりの研究者から連絡を受け、刀太を発見したあの日以来。
もともと奴らが逃亡先に予定していた熊本で、刀太を育てることにした。
実際、魔法も使えるし学もある私だ(教員免許はネギについて回る途中で必要になったので取ったことがある)。村もすぐに歓迎してくれ、数日する間もなく教師として村に赴任するという形に落ち着いた。
……大体その頃に野乃香から「フェイト君、陥落したでー!」と嬉しそうに報告の手紙が送られてきたりといった珍事もあったが。
刀太はとにかく笑わなかった。
自分が養子の立場にあるということを理解して、最低限の礼儀と礼節で。
最初アイツが、私が両親と事故を起こした事実を重く受け止めて――――私のことを警戒して、というか嫌っているものと思っていたのだが。話してみればそういうわけでもなさそうで。
だから上手く言えなかったが、私もまだアイツと距離感を測りかねていた時期があったのだが。
それでも人間、付き合いが長くなれば長くなるほど、お互い距離を置いたままでいられないこともある。
今ではすっかり「母ちゃん」と慕ってくれて……、母親冥利には尽きるがちょっと複雑な感情を抱かせるまでに仲良くなったが。
そんなアイツと付き合いは半年……、慣れない中華鍋での料理に悪戦苦闘していた頃だったか。
かつてなら幻術の作用なども関係なくその程度は簡単だったのだが、今の私はネギと同行し続け――――吸血鬼としての「神秘が」弱まり切った状態。
まあ、子育てに苦戦するくらいはよくあるし、それも慣れたから今ならかつてよりもっと上手く全身を動かせるんだがな……料理とかも。
「動物園?」
「そっ、近所にないか?」
そう、そしてあの日も、そんな風に会話をしていたか。
大体半年、小学校の卒業式はとっくに終えて、中学のゴールデンウィークに差し掛かるころだったか。
再放送のテレビ番組を見て、なんというか妙に目を輝かせていたことは覚えている。
結局近所にないという話になり……、この時の話でチケットをそういえば準備してなかったな。
新東京なら数か所に動物園はあるし、今度買って持って行ってやろうか。
いや、それはともかく。
風呂上り……、適当にシャツを裸に身に着けて、扇風機に当たっていた私だったが。ふと刀太の風呂が長いと思い、ちらっと覗いてみると……。そこには腰にタオル姿で、何か聞いたことのない歌を鼻歌しながら、ノリノリで髪にブリーチ剤を梳かしてる刀太の姿があった。
まだやり始めなのか、それとも検証でもしてるのか、頭の右側横髪の一部ともみ上げだけだが、茶髪、赤毛から白になりかかってる色。そして洗面所の台の上には、どこで買ったのか赤と黄色と金のヘアカラー。
「ルルールル・ルルールル・ルールー・ルルールル・ルルールル♪ ……っと。よし、こんなものだろうか? 確か下地が暗いと上手く発色しないと書かれていたような――――って、雪姫!? 何てカッコして入って来てんだ早く服着ろっ!」
「いやお前の方が何てカッコで何やってるんだこのお馬鹿っ!」
「ひでぶっ!」
「この! この! 一体どうしてこんなことしようとしたんだ言え! 言いなさい! 『ぼーや』でもこんなアホなことはしなかったぞこのお馬鹿さんが! 私が更生させてやるっ!」
この時、一体どんな顔をしていたか自分では自覚がなかったが、思わずチョップ数発かまして両手に持っていた道具を取り上げた。
前にテレビ番組でグレる子供たちの話をワイドショーで取り上げていて、完全に他人事のつもりでいたが。その時の親の気持ちというか焦りと言うかが、嫌なくらいに理解できてしまった。気が付けば話を聞く前の早々、取り上げていた。
「よ、容赦なさすぎなんじゃないッスかねぇ……」
「子供の非行に容赦する親は居ない! 私のような親なら特に、だ。で? どんな出来心なんだ?」
話を聞くと、なんでも友達になった奴が髪を染めており、やり方を教わってみたとか何とか。
「
「べ、別にグレた訳じゃねーけど……(
項垂れる刀太を正座させているが、未だに顔を合わせようとしない。まあ全身湿りっ気が抜けてなかった刀太に抱き着くような形で奪い折檻したのもあるから、シャツが透けてるとかそういう事情もあるだろうが。それにしては腰に巻いてるタオル的に
グレた訳じゃないとすると何だ、とバリカン片手に迫ってみれば、言い辛そうというか言いたくないというのが露骨に表情に出てはいたが、それでもポツリ、ポツリと吐かせることに成功した。
まあ、ちょっと面食らってしまったが。
「…………色、一緒だったら、もうちょっと親子っぽいかなって思って」
「………………はっ?」
問いただすに、どうにも私を「母親」と慕いながらも、自分が「息子」という感じじゃないのではないかと。
そんな風に微妙に思っていたらしい。悩みと言うほどの悩みではないのだろうが、そういったわだかまりを少しでも払拭できないかと、それゆえの暴走だったように聞こえた。
………………。
一瞬呆けてしまったが、大笑いしてしまった。
そして正面から抱きしめ、乱暴に頭をぐしゃぐしゃにする。
「や、止めろっての! 脱色剤、指に当たるだろ雪姫の!」
「はっはっはっは、別に構わんぞもう、それくらい『親子なんだから』。大体だな、髪の色どうこう気にする話でもないだろうに。ん、ということは赤とか黄色とかも用意したのは、色味を調整してより私の色に近づけようとしたからか」
「…………」
黙り込んで動かなくなる、その反応一つとっても変に愛おしく感じて。
だからそのまま一緒に風呂に入り、恥ずかしがる「息子」の頭を洗ってやることにした。
刀太に気付かれない程度に「金星の黒」を流し込みながら、早い所コイツの髪色が元の黒に戻るように。
そんな小さなことなど、「家族」であるのに何ら障害ではないのだと教えてやるために。
※ ※ ※
「親子のろけ、と言ったらいいのか…………、ちょっと胸焼けするな」
「フフン、良いだろう。やらんぞ?」
「狙わないって。ネギ先生とは仮契約したけど、私の人生計画はやっぱり埋まってるからな。
だが確かに反抗期か。子供が自立しようとして、親と衝突する……、ウン、実に母親らしい話だ」
苦笑いする龍宮にそんな自慢話交じりのことを言ってやってると、その手元にバイブレーション音が鳴る。
手の甲を見ると、通話アプリに着信が来ているらしい。
慣れた手つきで捜査して右手を耳に当てる龍宮だが……、どうやら刀太たちの関係の話らしい。
通話を切ると、私に苦笑いを向けた。
「その自慢の息子さん達からだ。ちょっと協力要請をされたので、どうする?」
「…………契約延長はナシの方向で、だな。コッチよりも、あっちの方が緊急性も重要性も高い」
「わかった。後で春日にもそう言っておく」
「…………春日? ひょっとして春日美空か」
「嗚呼」
年齢は重ねてるくせに、老いても相変わらずというか全然変わってないぞと言う龍宮に、私もつい苦笑いが浮かび。
「それから、どうやらモテモテらしいぞ刀太君。良かったじゃないか、ネギ先生そっくりで」
「…………そういう揶揄い方は止めろ」
おぉ怖い、と龍宮が微笑み肩をすくめ、私の顔から眼を逸らした。
この時も、私がどんな顔をしているのか。自分ではよくわからなかった。
番外編なので以下ちょこちょこメモ…
・悪魔に育てられてる額に目のある少女
増える妹(原作に居るような居ないような…)
・ネギ先生と契約してる龍宮隊長
・ネギ先生を狙ってるザジしゃん
この辺りは過去編で少しやる予定(盛られた過去編)
・刀太の両親(戸籍)
・陥落されたフェイト
フェイト短編とかアンケートで予定したらやろうかしら…?(盛られた過去編)