また深夜で大変申し訳ない・・・。
ST69.Memento Mori:She Held the Future In Her Hand
大体二百回くらいは時間を巻き戻し続け、この力に目覚めたと聞いた時点で、私は猛烈な頭痛に襲われた。
「リセット&リスタートを使ってそれくらいの回数、何度も何度も色々なパターンでやり直してたって訳よ」
「いやちょっと待って、ちょっと待て……。さっきの話を聞いてアレだ、二百回くらいぶん殴ろうとしてたって話と今のそれでつながったけど……、えっと、アレだアレ」
「何よ? アレじゃ何言いたいかわかんないんだけど」
とりあえず胡坐をかいて座ると、キリヱもそれにならってか正座して座り込み、ちょっとスカートの裾を直してから顔を赤くしてる。いやそんな話は大した問題ではないので(断言)、状況を整理しよう。
何を整理するかと言えば、キリヱの発言が「どこからどこまでを指しているか」、だ。
まず大前提として、キリヱのメンタルは相当防御が薄い。夏凜と違いをあげるなら、あっちは普段からカチカチに固めているふりをしている分、一度折れると自力で再起するのが難しいっぽいように思っている。対してキリヱの場合はちょっとのことで傷つくものの、芯の部分はそのダメージを受け止め受け入れ、無理にでも前に進む気合のようなものがある。精神的なバイタリティというべきか、夏凜は一見強そうでもろく、キリヱは柔らかそうで強いのだ。
さてそんなキリヱだが、とは言え大元となるメンタル自体はやわらかお豆腐なことに変わりはない(断言)。だからこそ過去に一人で死に続けたことがトラウマになり、人の気配を感じられない場所に長いこと居られないとか、そういう弱点があるのだが。そんな彼女だからこそ、何か精神的にダメージを負うと「死のう」の一言とともにリセット&リスタートを発動させようとしたりもする。死に対する忌避感がないわけではなく、あくまで死ぬというそれも自分の状況を改善するかしないかという一つの選択肢になっているという話なのだが。
そんな彼女だからこそ、おそらく原作においては。意外と「大した理由じゃない」死因も多くあるのではと考えていた。
だからこそ、それこそ数えたら二百回くらいはどうということなく発生しているだろうと思っている。思っているが、それで原作においてキリヱがレベルアップをした気配はない。未だ見知らぬ師匠(矛盾)の下で修業をつけて応用的な能力に目覚めもするが、それとてここまで抜本的に、能力の質が変わるようなものではないのだ。
だとするならば――――あえてキリヱ本人が話していない「セーブポイントが消滅した状態で」「死に戻った」場合のことを踏まえるのならば。
「…………お前さ。ひょっとしてだけど、二百回って嘘だろ」
「? いや、嘘じゃないんだけど……って、何でアンタそんな話すんのよ?」
「いや、嘘って訳でもないんだろうけど『死に戻った回数が』二百回って言い回しは、なんか嘘っぽいっていうか、あえて真実を語っていない感があるっていうか」
「へ、へぇ? いや、だから何言いたいかわかんないんだけどさっきから」
こうやって正面から詰めると、キリヱは動揺が激しくなり割と表情に感情が出やすくなる。そしてこの微妙なリアクションが、私に確信をもたらした。
「――――二百回は死に戻った回数じゃない、『この場所』つまり『四歳くらいの』『餓死し続けていた頃に』戻り続けた回数、の間違いじゃないか?」
「――――――――」
私の確認に、キリヱは目を大きくして口が開きっぱなしになった。
こちらの確認がよほど予想外だったのか、それとも「なんで当てられたのか」という衝撃が勝っているのか、微動だにしない。
ただ、段々と我に返ったのか、呼吸が荒くなり、過呼吸一歩手前になりそうなくらいで言葉が出て来た。
「なん…………、なん…………、で……、そんな、こと…………わかんの、よっ」
「いや、お前そんな死に戻った回数とか記録付けるようなマメな性格してねーだろ?」
「誰がガサツで片付けできない家事ダメ女よっ!」
「いやそこまで言ってねぇって」
一瞬で我に返って殴りかかってくるキリヱ。座高の身長差もあって年上のお兄さんに食って掛かる姪っ子か妹のように見えなくもないが、まあ微笑ましいと思っているのが伝わるのか顔を真っ赤にしてさらにヒートアップして殴りかかってくる。もっとも殴りかかってくると言っても小さな子供がやりがちなお手々ぐるぐる大車輪(直喩)での攻撃なので、大して痛くもないのだが――――っ!
く、唇にお手々が当たって、か、噛んだ…………!
再生こそするがちょっと痛かったので左手でストップをかけて抑えた。こちらのリアクションが急に変わったのを見て、キリヱ本人も急速でリアクションが変わり「大丈夫? 消毒する? ……ってこの部屋の救急箱触れないじゃない私!?」とか絶賛大混乱だ。
一旦、ちょっと小休止。
「……まあ要するにだ。一々ちょっとしたミスでの死に戻りとか、お前そんなに数えてないっていうか、数えてられないだろって話。たぶんこう、細かいイベントっていうか、事件とか、あるいは行動のミスとかはある程度覚えているんだろうけど、それだって完全に覚えられない…………というかメモしねーイメージがある」
「メモくらいするわよ! いや、したいんだけど!
でも、ここにメモ帳でも持ち込めればそれで行けるんだけど、そんなものセーブポイントの先の方には反映されないし、なによりここって『出入り』したら『状態がリセットされる』から、持ち物置いていくと無くなっちゃうのよ」
「そりゃ、悪かった。…………とすると、あー、つまりキリヱさ。それでもなお数えてるってことは、相当大きなイベントみたいなのがあった時くらいしかしねぇんだろうなって思ったんだよ」
「な、何よ」
つまり、相当大きなイベント――――また一からやり直すというレベルの事態とか。そういう非常に頭や心を痛めることなら、忘れたくても嫌でも忘れられないと。そういうことなのではないかと考えた。
私の言葉に、キリヱは腕を組み…………、ため息をつくと自嘲げに笑った。
「…………いや、まさか話してすぐにバレるとか全然予想してなかったんですけど」
「じゃあ、えっと……」
「そっ、正解。アンタの予想通り、私が『最初からやり直した回数』が、二百二回よ。って言っても、レベルアップしてからはそんなに苦労はしなかったんだけどね」
もう最初の百回くらいで「十六歳」くらいまでのルートは何やったら問題ないか完全に把握しちゃったし、と。肩をすくめて笑うキリヱに、私は言葉を続けられなかった。
「最初は早くホルダーに接触したりとか、アマノミハシラ学園とか、色々調査できないかって手を出してみたりしたのよ? でも全然ダメ。逆にホルダーに入れないルートとかも出てきちゃったし、むしろ『ヒデヨシのお爺さん』とかに『殺される』場合とかもあったわ。少なくとも最初の百回くらいで、最初の十二年間は下手に私の行動を変えると問題が発生したりとか、命を狙われたりとか、そういう事態ばっかってことに気付かされたわ。そこからは早かったけど。どう動いたら殺されないか、命を狙われるような脅威と認識されないか、どう動けば両親から早く離れられるか、雪姫に違和感を持たれないよう接触が出来るかとか、ね? 唯一違ったのって言ったら、株の回し方っていうか、お金の稼ぎ方だけはスキル的に上達しちゃったものだから、徐々に徐々に私の資金が上昇していったってことくらいね」
ただ、レベルアップしてからは事情が大きく変わってしまったらしい。
「…………レベル2は、『主体』となる私が『固定された』能力なの。つまりこの『リトライ&リベンジャーズ』を使用して振り出しに戻った時、私は『今の姿のまま』その場で再構成される…………、餓死していた少女の私は、もうそこにはいなかったわ」
「……………………なんっていうか、こう、二周目プレイとかみてーだな、なんとなく」
「あはっ、悪くない例えね。つまり、今までの周回を少なからず『蓄積』できるようになったの。いくら私が小さくて幼児体型だからって言って、あのバリケードくらいは簡単に外せるし、鍵だって開けられる身長だもの。そこからは外に出て、偽の戸籍をとって、早々に今までの知識経験をもとにお金を集めたり…………、『仙境館』の建設にちょっと出資したり。そのくらいなら、ギリギリで問題なかったわ」
「マジでか…………」
「そっ。まぁ、アンタのお祖父さんと面識はないんだけどね」
てへっ、と。少しだけ悪戯っぽさを出そうとしたのだろうその表情からは、力が、覇気が、全く見て取れなかった。どこか遠く寂しそうな、そんな力のない仕草だった。
「まーでも、『死なないでも』やり直しできるようになったから、その分だけちょっと楽になったのは間違いないわ。だからこうして今だっている訳だし、昨日だってお昼のために『何度も』巻き戻したくらいだから。……だから別に、そんなに気にしなくっても―――――わっぷ!?」
力なく「大丈夫」と笑うキリヱが見ていられず…………、それでも抱きしめるのに躊躇いがあり、抱きしめたら折れてしまいそうに思ってしまい、私は彼女の頭を撫でるくらいしか出来なかった。
以前、「予知」という触れ込みで話した時の距離感から、このくらいは問題ないだろうと見ていた。実際、キリヱは驚いたようだったが拒否はしなかった。
「…………あんまり無茶すんなよ」
「……そんな、無茶なんてしてないし」
「まぁそうやって気張ってるなら、俺がどうこう言ってそれを折るような話でもないって話なんだけど。でも…………、辛いってことまでは、忘れなくってもいいんだ。だってホラ、人間だから。どうしても無理なときは、言ったっていいんだ」
「…………そんなこと、アンタに言われたくないわよ。だって――――」
頭をなでる手を両手でつかみ、キリヱは小さく呟いた。
「――――前のアンタは、全部抱えて、結局心だけ、私に置いて、逝っちゃったから」
……………………。
心はここに置いていける、と。
あっどうにもこれ以前の上書きされただろう歴史における私のガバですね、わかります(諸悪の根源)。
というか
『……自覚があるだけまだマシって見るべきかねぇ……』
!?!!?!?!?!???!!?!?!?
親方ァ! 親方ァ、今どこからか未だ顔も声も知らぬ師匠の声が!?(大矛盾)(大混乱)
唐突に響いたその声に、未だ面識のない声へ驚き慌てて周囲を見回す私とキリヱだが、特に風景が変わったわけでもなくこれは……。
「な、何っ!? っていうか今の声って誰かいるってことこの場所にっ!!?」
『ん? 嗚呼、おっといけない。『こっち』だとぼやきも聞こえるんだったねぇ…………、まぁシステムボイスとでも思っておきな、桜雨キリヱ』
「流石に無理あるわよっ! っていうかアンタ誰なのよ――――」
その後キリヱが色々と文句を言い募ったが、結局二度ともその場で妙に迫力と存在感のある女性の声は聞こえることはなかった。
※ ※ ※
どうにも私がどんな感情で発したかわからない
『…………』
何やら息遣いのようなものが聞こえないでもない気がするが、一旦私の精神衛生上スルーさせてもらおう。そもそも未だ知人ですらない師匠(矛盾)自身、「UQホルダー」原作においても色々と既に私や雪姫やらの情報とかを集めて観察していたようなことを言っていた覚えがあるし…………、いや、そう考えると「私」という存在自体に色々と何か言われたり制限でも課されそうで恐ろしい所はあるのだが、
「と言う訳で話題変えるけど」
「いや無理無理、何さっきの声!? 知り合いなのアンタ、ねぇちょっと!」
いや知り合いかどうかで言えば「まだ」知り合いじゃない、と言うのが正解ではあるのだが…………。
「いや知らねぇけど、でもちょっと考えてみろよキリヱよー」
「な、何よ……?」
声を潜めてキリエの耳に寄り。
「(あんなスゲー感じの声の相手とか、どう考えてもラスボス級みてーな奴の声だろ。下手に藪をつついて蛇を出すよーな話になるんじゃね?)」
「(…………まー確かに、そんじょそこらのオバさんの声じゃなか―――――)」
「(止めろ! 絶対地獄耳とかそーゆー類の声だからアレ! そんなこと言ったら後が怖い奴だからマジで多分!)」
「(なんで多分の割にそんな妙に迫真なのよ……)」
『…………(ア゛ン゛?)』
なんかこう「イラッ」とした感じの息遣いが聞こえた気がするが、たぶん気のせい気のせいスルースルー、誰が何と言おうと何も聞こえない、ジッサイ正しい現実である。これだけは真実を伝えたかった。何も聞こえない、イイネ?(震え声)
閑話休題。
「で話を変えるけど…………、そもそも今回、何で失敗したっていうか、何がキーになったかって話しようぜ。建設的なやつ」
「自分から建設的な話とか言い出すんじゃないわよ、薄っぺらく感じる……。
でもまー、確かに話さないといけないのよね。って言っても唐突だったから、また今朝からやり直しする話なのかしらとは思ってるんだけど」
「いや、割と目星はついてるんだが」
「は、はぁ!?」
ちょっと何それ言いなさいよと掴みかかってくるキリヱの肩を抑えてなだめること数秒。
「い、言って見なさいよ。一応、素直に聞いてあげるわ。前のときもなんかスっと当然のように事態進めてたし」
「あー、そうか? いや別に良いんだけど……。まず前提の話として、たぶんだけど俺たちが追ってた能力者って、さっき出て来た三太って奴」
「……………へ? そうなの? っていうか何で分かったの?」
「声と背丈とパーカーが一緒」
いや確かにそれならそうかもしれないけど、と頭を抱えるキリヱ。
「……実際、相対したアンタが『そう』判断するなら、まー、それが正解って言うか本当なのかもしれないけど。でも、それがどうしたっていうの? あの様子だとなんか、全然『ウィルステロ』とか知らなかったみたいだし」
「そう、そこなんだよ。…………んー、どういう理屈かは分からねぇんだけど。少なくともあの三太がキーマンっぽいのは間違いねぇと思うんだけどなぁ。それがどうキーになっているかっていうのを、上手く言えねぇっていうか」
「それ何ていうか、結論ありきで話してない? アンタ。私たちって演繹的、つまり頭から尻尾に向けて推理推測を展開して事態に当たらないといけないんであって、帰納、尻尾から頭に向けて結論ありきで考えてたんじゃ、見失うじゃない。
ドラマとか映画とかでよくある、初動捜査のミスってやつになっちゃうわよ?」
ここが辛いのが、実際に私は「結論ありき」というか「原作ありき」というか、「背景事情を把握している」からこそ、推測の精度を上げることが出来ているという点か。
直近でいうなら、原作であった九郎丸に水無瀬小夜子が接触するイベントが発生していないため、今の状況ではうまく説明することが出来ないのだ。……否、そういう意味だと本日、三太を連れ歩いて遊びに行かなかったからこそ、そのイベントが発生しなかったと見るべきだろうか。
ただ、今までの前提条件から色々と「それっぽい」言い回しをひねり出す。
「結論ありきって言うより、前に言った推測分の話をひっくり返すと、って感じだなー。アイツ本人が知ってる知らないってのはともかくとして」
「サヨコさんだっけ? ってことは…………、うーん、やっぱり良くわかんないわ。能力が似てるっていうので、上手につなげられないっていうか」
実際問題どうしたものかと色々話し合うが、上手い説得が出来ず。とりあえず一度、今朝の時間軸に戻って調査を繰り返すべきかとなったそのタイミングだった。
「――――アイヤ、流石にこれ以上はこの時間軸『パンクする』ヨ、先輩たち」
私にとっては聞き覚えしかない声がしたと同時に、『誰も開けられないはずの』部屋の扉が開かれる―――― 一切干渉できなかったその向こう側に、シニョンと三つ編みの、赤いへそ出しチャイナ服な少女が入室してきた。
とりあえず私は困惑しかない状況だったのだが、キリヱは彼女の姿に、頬が引きつる。そんな私たちに、彼女はニコニコ顔で話しかけてきた。
「ヤーヤーヤー? ン、先輩、驚いてないネ。意外と肝据わてるカ?」
「いや、っていうか、お前まず誰的な発想が先に出るっていうか」
「おぉ、コレは失礼したネ! って、そこのキリヱサンからまだ話、聞いていない感じか」
腕を組み、にかりと微笑み。
「
「…………あぁ! タイムパトロール! ってアンタかよ胡散臭いなぁ……」
よく言われるネなどといいながら、彼女、超はニコニコと気前よく笑っていた。