光る風を超えて   作:黒兎可

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毎度ご好評あざますナ!
深夜ェ・・・


ST82.死を祓え!:救いなんて無かった

ST82.Memento Mori:Paradise Lost

 

 

 

 

 水無瀬小夜子、今回の案件のラスボスと言うに相応しい悲劇の少女――――。そんな彼女は、私と相対しても苦しみながら、しかし微笑みを浮かべた。その様子は切羽詰まっているようではあるが、いくらかまだ余裕がありそうにも見える。

 と、例の色々とアブナイ電気ねずみ妖魔が、彼女の周りをうずまく魔力にかじりついた。

 

「あら? また食べに来たのアナタ。……ふふ、全部はダメだよ? 私『壊れちゃう』から」

『ふみゅー! ぴかチュちゅ!』

「だからマテ、お前絶対確信犯だろ!」

 

 鳴き声にツッコミを入れる私を「ふみゅ?」とさも無害な一般生物でも装うかのように見て首を傾げ食事を続行。どうやらここが一番食事処? としては上等らしいが、彼女に弾かれて満足には食べさせてもらえないらしい。

 他の妖魔が一律、スポットに涌いたら涌いたでその場を中々動こうとしないのを考えると、相当に頭が良い可能性が高い……。

 

「へ? ダメなの? 可愛いじゃない、ピ〇チュウ。せっかく教え込んだのに」

「をのれ元凶はお前か……! って、いや確かに可愛いけど! 実写映画版死ぬほどこっちに来る前に見てたけど! 一挙手一投足にめっちゃ可愛い可愛い言ってたらカアちゃんから『キモいから止めろ』ってストップかかったくらい好きだけど!」

「あら、趣味が合いますね! 私も好きなんだー。でも年代は結構古いもので――――」

 

 いやそんな普通の女子中学生的(にしては2080年代という意味で随分レトロな)トークがしたいわけではなく。

 どこか苦しんでいるようではあるが、水無瀬小夜子はまだ理知的に会話が出来るだけの余裕があるらしい。原作においてはその身に集まり続けた怨霊が彼女の魂を昇華(あるいは堕天)させ、一種の祟り神の域にまで押し上げたのだが。現在の彼女からそこまでの圧は感じない……というより、何も感じ取れない。

 びっくりするくらい、一般人というか。下手すると一般人よりも「存在感が薄い」。

 

「えっと、一応聞いておくけど……、アンタが『トイレのサヨコさん』?」

「ええ。……まぁ昔の話って言うか。もうアレって『システム化』しちゃってるから、私の手を離れちゃってるんだけどねー」

「システム化……?」

 

 うん、そうと彼女は微笑む。

 

「大体、私の『能力の制御』が利かなくなる頃に、勝手にその七不思議通りの現象が発動しちゃうの。腕の良い法師様とかシスターさんとかだったら何とかなりそうだけど、シスター・シャークティもシスター・ミソラも二人とも『亡くなってしまった』し……。今の麻帆良で私をどうこう出来るのって、『本当の』学園長くらいじゃないかしら? 」

「情報が多い! 一気に浴びせるんじゃないッ!」

「えっ? あ、ごめんなさい」

 

 ぺこり、と頭を下げて来る様は普通に育ちの良いお嬢さんという感じで、しかし周囲にうずまく魔力とわずかに漏れ出る瘴気がその印象が一面でしかないと私に教えていた。

 いや、ちょっと待てそれよりまず一つ気になる話があるのだが……。

 

「は? …………へ? いや、ミソラってお祖母ちゃんシスターだろ? 春日美空。懺悔室を管理してる。亡くなってるってどういうこと!? 夏凜ちゃん先輩からそんな話聞いてねぇけど!!?」

「あれは、いっつも一緒にいる魔法世界のシスターさんのアーティファクトの力だねー。ゾンビ映画とかのそれじゃないけど、今のあの人は外部からの魔力で命を繋いでいらっしゃるから」

「えぇ…………」

「たぶん本人は気付いていない……というより『気づかせてない』んだろうから、そっとしておいてあげて?」

 

 もしくは普通に接してあげてねー、と胸元を押さえながらも楽し気に話す彼女に、どんなリアクションを返して良いか判らなかった。

 でも確かに……、シスター・ココネは幼少期からシスター・春日こと春日美空と一緒にいて、姉であり母のようでもあり、とても大切な相手であったことに違いはあるまい。とするならば、どういったアーティファクトかは不明だが、そういう能力を持っているなら実行しても不思議ではないのか……?

 

 不意に、原作「UQホルダー」第一話における、エヴァンジェリンの語りのシーンが想起させられる。そこにおいて「別れ」として映った面々に、確かに春日美空の姿はあったはずだ。

 ……いや? そう考えると村上夏美やら「このせつ」やら「ちう様」やら色々と「原作」後の展開と微妙にそれる部分もあるような無いような……。一概にアレがすべて真実を現していると考えるのは、それはそれで間違いかもしれない。

 だが、頭には入れておこう。

 

 と、そんな混乱している私の周りを、例の雷獣がふわふわ飛んで様子を伺っている。ちらりと目を向けるとこちらに寄ってきて、くい、くい、と頭をこちらに寄せてきた。

 

「あら? どうやら懐いてるみたいねー。撫でてあげたら良いんじゃないかしら」

「いや、フラグとか全然なかったんスけどねぇ……」

「フラ……? えっと、たぶん、速度かしら? その子、すごい早く動くみたいだけど、スピードについてこれる子が全然いないから、それでかしらねー。貴方も凄く速かったから、『近衛刀太』くん」

「生憎ペットとか飼ったことがないんスけど……、っていうか何で名前を?」

「うふふ……?」

「笑っても別に誤魔化されないんスが」

「あれ? あー、そうなんだー。三太君はすぐ固まっちゃうから、てっきりイケるものかと」

「そりゃ、まぁ惚れた側の弱み、みてーな奴じゃねぇかと」

「惚れた……、んん、でも、どうなのかな。違うんじゃないかなって思うんだけど」

 

 三太君は一緒にいてくれる誰かが居たらそれで良かったと思うから、と。そう語る彼女の目は寂し気で、同時にその考えに明確な確信があるようにも見えた。その寂しさを紛らわすためか、こちらに歩み寄り雷獣の腹をごろごろして……いや実際にゴロゴロ電気放つやつがあるか! 普通は危ないわ貴様!(普通じゃない)(危なくない)

 しかしペットとかそういうのは、鹵獲とか捕獲とか売買ならまだしも、「私」的にそういう動物はカフェとかで戯れる程度の関係が一番気が楽だった。というよりも割と抜けている自覚があるので(ガバの発生数でお察し)、一人でまともにお世話できる気がさらさらしていなかったのが大きな理由だったりするのだが。

 とはいえ一応頭を指先で撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて―――――って何かこう、少し軽いめまいが。

 

「お前、ひょっとしてちょっと俺の魔力少し食ってるか?」

『ふみゅ?』

「可愛く頭傾けても誤魔化されねぇぞ」

『ぴ、〇ちゅー!』

「あらあら、お腹が空いてるのかしらー」

「そういう問題じゃないんスけど……」

 

 私の所から逃げるように退避した雷獣を、水無瀬小夜子も同様に撫でていた。

 

「でも、意外とこの子って便利だから。貴方も懐かれたなら、お世話してあげたらどうかしら。きっと色々役に立つと思うの」

 

 そしてまさかのボスキャラ(?)から直々にサポートキャラとしての推薦を受けるという謎の展開である。そうかそうか、お前もガバの申し子だな? ……最近多いなガバの申し子。こんなガバばっかり発生している地域に長くいると、もしかしなくても拙いかもしれないという危機感が出て来る。名残惜しい話ではあるが、アマノミハシラ学園こと麻帆良学園からは早々に退散した方が良いのかもしれない…………、一月か二月くらいで(日和)。

 

「いや、って言うか、えーっと、アンタ、アレ、なんて言ったらいいか…………。見るからにヤバそうなのは全然わかるんだけど、えっと……。『トイレのサヨコさん』、の七不思議として動いてるって訳じゃねぇんだよな。ってことは、今アンタかなり危険ってことか? こう、不安定的な意味で」

「うふふ……、別に取り繕わなくても良いわよ? どう見たって悪霊の類じゃない、私」

「それにしちゃぁ随分話せるなって思って」

「まともな幽霊は『ゾンビウィルス』作って人類滅亡とか企まないから」

 

 その一言に、はっとして彼女の顔をみる。

 ウィルステロの話に関しては、出来る限りの情報封鎖を行ったつもりだが。どうやらその程度は特に問題なく情報を集めてしまっているらしい。こちらの驚きと困惑を前に、水無瀬小夜子はくすくすと笑った。

 

「ホント、どうしてそんな情報をあなた達が持ってるのかとか、全然知らないんだけどね? でも、今の私に『この街で』集められない情報はほとんどないから……、図書館島の地下とか、手品師みたいな恰好をした魔族さんとか以外はね?」

「………‥それだけ、えっと……強くなってる?」

「あー、説明が全然出来てないかな? って言っても、あなたはもしかしたら『知ってる』か『予測がついてる』のかもしれないけれど」

「?」

 

 と、周囲に漂っていた魔力と瘴気が消え、快晴の空が彼女を照らす――――その足元、世界樹に彼女の影は映らない。

 

「今の私は神様一歩手前……、みたいな感じなのかな? それも、人間の悪い情念ばっかりで。トイレのサヨコさんが『システム』になっちゃったのも、私の存在が人間のユーレイからどんどん離れていってるって証拠だから」

「神様、ねぇ……」とすると、何も感じないのはハンペンマン(オサレ)なアレかもしれない(語弊)。

「だからこうやって、時々魔力溢れから集まってくる分の魔力を、世界樹さんが集めてる魔力を少しもらって、『私の自我』を維持してるの。最近はちょっと怪しい気もするけれど」

「怪しいじゃ困るんだよなぁ……」

「ごめんなさい? でもこれが限界なの。コノエモ……、あっ今は『ぬらりひょん』さんだった。ぬらりひょんさんのお化けから、それしか方法がないって」

「ぬらりひょん!?」

 

 別にゲゲゲな御大による妖怪軍団の首領的なアレだったりOSR(オサレ)つながりでジャ〇プ的には任侠だったりとかを想起したという訳ではない。どちらかといえばその直前の途中で止まった呼び方、おそらくは「コノエモン」というところに問題があった。

 近衛近右衛門。「ネギま!」における麻帆良学園学園長であり、近衛木乃香のお爺様。見た目は仙人とぬらりひょんの特徴的な所を足して引かなかったような方で、その割には西洋魔術師とかいう中々に盛りに盛られたキャラクターだったりする。つまりは一応血縁者だったりするわけだが、何故に元学園長は水無瀬小夜子を除霊しにきたネギぼーず達に手を貸さなかったものか。そもそもコノエモン学園長の依頼だったのでは? それ。ひょっとしたら死後、そのまま幽霊か化けて出たのだろうか……。色々疑念はつきない。

 

「あっ、ちなみにラーメンたかみち麻帆良駅前南口店によく出没してるらしいわ?」

「いや、まぁ、その話は置いておいて……、百歩譲って置いておくことにして! えっと、何だろう。そもそもアンタ、俺誘導してねぇ?」

 

 思わず(ピカ)の字(直喩)的なことを言い出した雷獣に気を取られて、ついつい追いかけて来てしまったが。考えてみれば学園内のことは大体わかると言っていた以上、私がどういう相手なら興味を引くかというあたりも察して、何かしら理由があって呼び出すために遣わせたのでは? と。そんなことを聞いてみると「ちょっと自意識過剰かな~」と苦笑いを浮かべた。

 

「あっでもこの子、頭すごい良いから。ひょっとしたら『私が限界』が近いことに気付いて、あえて色々手を回してくれたのかもしれないわ」

「限界……、さっきも最近怪しいみたいなこと言ってたけど、それって?」

 

 お願いがあるの、と彼女は両手を合わせて、まるで何かに祈るかのように。

 

 

 

「――――私を、殺して欲しいの。私が私でいられなくなる前に」

 

 

 

 それを聞いて、思わず固まってしまった。

 私が何か言うよりも先に、彼女は続ける。

 

「あっ、もう死んでるけどね。つまり、成仏じゃなくてもいいから、今の私をどうにか消して欲しいの」

「いや、そんな簡単な問題じゃねぇだろ。大体そもそもゾンビウィルス――――」

「ウィルスは、ちゃんと破棄したわ……、少なくとも私が管理してる、生物感染系のものは」

「――――は? えっ、何で」

「だって、三太くんと仲良くしてくれたでしょ?」

 

 最初に追いかけてた時も、全然殺そうとかしてなかったし。

 

 そう微笑む彼女に、やはり私は二の句が継げられなかった。……正直に言おう。水無瀬小夜子、彼女の能力自体を甘く見ていたのかもしれない。いくら怨霊、祟り神の類とはいえ、かつて麻帆良学園に通っていた生徒なのだ。そこから八十年近くたっても、未だに成仏させられていない怨霊なのだ。その力の規模と言うのは、ひょっとしたらそれこそアマノミハシラ学園都市全域に及ぶレベルなのかもしれない。それこそ本当に○染隊長(オサレ一本勝負)崩○(オサレ)を使い、自らの霊格(オサレ)を引き上げ、その高すぎる次元の力を誰しも知覚できなくなってしまったかのように。

 

 少なからず原作でも、脈絡なく唐突に出現したり消えたりということは朝飯前。キリヱによるリセット潰しすら行っていたことを前提にすれば、警戒心が上がる。

 

 だが……、それでも、今の彼女は見ていられなかった。

 

「どういう訳か知らないけど、三太君と私につながりがあるって察して。でも、その上で『こんな私』を三太君に見せないように気を遣ってくれた。三太君と『トイレのサヨコさん』が別だって判断した上で、それでも今だって、いきなり斬りかかってこなかったじゃない?」

「いや、まぁ、ソイツにちょっと唖然としてたってのはあるけど……」

『ふみゅー!』

 

 鳴き声を上げながら突進してくる雷獣を左手でアイアンクローして掴みとる。手の中で暴れているが、ハッハッハこんなものまだまだ可愛いらしいものだ(現実逃避)。

 彼女は手を背中に回し、少し前傾姿勢になってこちらの顔を覗き込むように見る。少し引っ込み思案そうだが、その目は、しっかりと私を見据えていた。

 

「それに最初の夜だって、三太君を守ってくれたみたいだし…………。三太君だってもう、ちゃんと心を開き始めてるから。だから、嗚呼、もう私がいなくても大丈夫かなーって。もともと私、あなた達『UQホルダー』に三太君を保護してもらえないかって思ってて。私もそろそろ限界が近いから、壊れちゃう前にどうにかできないかなーって、ね?

 そしたら思っていたよりも、ずっとずっと良い人みたいだったから。……あのお姉さんは、ちょっと、どうかと思うけど」

 

 あのえっちさで元シスターはダメなんじゃないかなー、とか言ってるがはて? 一体誰のことやら(すっとぼけ)。正直下手に噂をすると影から迫ってくるんじゃないかとヒヤヒヤしてるので、助かっている部分はあるが頼りすぎは色々禁物だろう(戒め)。

 

「いや、そうは言ったってまだ三日四日くらいじゃね? ちょっと判断が早すぎるんじゃねーか……」

「私、これでも人を見る目はあるつもりよ? 『良い人』も『悪い人』も。三太君が良い人だって、はじめて会った時からわかったし。『先生』が悪い人だっていうのも、初めて話した時から解り切ったことだし。そして、もちろん君も」

「…………その先生ってのは、協力者ってことか?」

「うふふ、本当にどうしてか知ってるみたいねー。そう、私の共同研究者さん。自分は金星人だーって名乗って、ちょっと最初は面白かったかなー」

 

 やっぱりデュナミスじゃねえか(呆れ)。

 

「だから、その話をしたら――――先生にトラップを仕込まれちゃったの。もう、こうやって『私』を維持するのだって、色々と精一杯になっちゃった」

 

 おかげで連日、魔力集めをしないといけなくって、と。どこか遠くを見るような彼女の目には、何も、光が映っていなかった。

 ……つまり、彼女はこう言いたいのだろう。

 

 このままずっと待ち続けていても、いずれ自分を失って只の怨霊になる。つまりはもう時間なく、彼女の個が死んでしまう。

 ならば、そうなる前に確実に私を殺してくれと。それなら、せめて自分の尊厳を守れる……、本当に守りたい佐々木三太を守り切ることが出来る。

 

「進むも地獄、退くも地獄……」

 

 私の表情を見て……そこに浮かんだ感情を正しく読み取って、彼女は困ったように微笑み返してきた。

 

 

 

 

 

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