光る風を超えて   作:黒兎可

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毎度ご好評あざますナ
 
科学の力ってすげー!(脱げビーム)


ST95.死を祓え!:空を飛ぶ猫!

ST95.Memento Mori:The Power of Science Is Amazing!

 

 

 

 

 

「苦悩あるところに物語あり、物語あるところに意志があり、意志あるところに魂は宿る。業腹だが、あのエヴァンジェリンとその点は意見が合うからな。

 ……あとほら、そんなみすぼらしい折れた剣をいつまでも使っているな面倒女」

 

 言いながら、ニキティスは担いでいた剣を夏凜に投げる。折れた髭切を仕舞いながらちょっと受け取り辛そうにキャッチした夏凜だが、そのあまりの見た目のボロボロさに無反応、無表情。外見上はほとんど鉄を適当に打って作ったような棒のような剣と言えば良いか、日本だと古墳とかから発掘されそうな古いとかそういう次元じゃないやつである。それを見て、どういった顔をすればいいのか、というところだろうか。再度ニキティスを見る目は、やや訝し気なものだった。

 

「これは一体……?」

「名もない、ただの剣だ。見た目通り『超が付くほど骨董品』の、な? だがお前の使う神聖魔法を思えば、『神聖魔法』を剣に上乗せするならこっちの方が今は相性が良いだろう。なにせ紀元前から存在してる『だけ』の、只の剣だからなぁ」

「…………嫌がらせかと思いましたが、年代が正しいなら確かに否定はできませんか。では、感謝を」

 

 夏凜はどこからか取り出したロザリオを巻き付け、両手で構える。ハンマーの姿はどこへやら、腕を組んで「影から」無数の腕を出現させてニヤニヤ笑うニキティスと、私や三太とに並ぶ。なお背後では「頑張れってあんま言えんなぁ、個人的に色々……」と苦笑いするこのちゃんの声が飛んできてるが、それはともかく。

 ちらり、と私と三太を見たニキティスが、ニヤリと笑う。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト――――冥府の氷山(ホ・ボーノゥ・アークラ・トゥ・ハイドゥ)

 

 そして、少女ディーヴァの詠唱が引き金となり、全員が動く。

 

 今度は最初から聖属性全開の夏凜が、斬りかかってくるせっちゃんのそれを「神聖魔法」の魔力をまとった光る剣で受け。地面から突如盛り上がるように現れる剣山のような氷の数々を「腕で」軽くひねって蹴散らし足場を確保するニキティスは――――。

 

「はい?」「えっ」

 

 そのまま「影の腕」で私と三太を捕まえると、後方へと放り投げた。

 文句を言うよりも先に、投げられた先の「巨大なパチンコ」のような黒い何か、おそらく影で作った発射台もどきだろうそれに私たち二人を取り付け、そのまま後方に引いて「威力を溜める」。オイオイと思っているとこのちゃんが「あわ~」と目を真ん丸にして(「ネギま!」的には黒い真ん丸おめめである)大丈夫かな~、という風に見てきているのがこうお可愛らしいのだが、それどころではない。

 

「ゲホッゲホッ……」

「オイちょっと待て、さっきのどう考えても俺も三太もディーヴァあたりに斬りかかる流れだったろ、一体どうした!?」

「?」

 

 心底不思議そうな表情を浮かべるニキティス。いや、そういうのいいから。

 

「さっきのアイコンタクトで『お前たちは先に行け』と言ったではないか」

「「わかるか!」」

「何故わからんッ!」

「いや、っていうかアンタ一体全体どういう距離感で俺達と接してるつもりなんだよ……」

「一度拳を交えたらこう、なんというか、こう、色々あるだろう? こう……、ともかくよくあるヤツが僕との間に出来るはずだろうッ!?」

 

 色々と前提条件が食い違いすぎていたので無理では?(断言)

 そのことを言おうとした瞬間、ものの見事に私と三太はぶっ飛ばされ。

 

 去り行く先で、眼下に見えたのは…………、またもや目を真ん丸にして「えっ!?」って感じに顔を少し赤くしてるせっちゃんと、あわ~といったままのこのちゃん、アイコンタクトに失敗してたことに憤慨してるニキティスと、半眼でぼけーっとした遠い目をして何故か私の視線から胸元を隠すディーヴァと――――。

 

 

 

 何故か満面の笑みの夏凜だった。

 いや意味不明すぎて怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!(白目)

 

 

 

『――――あっ、そうだ。「教えてやろう」と思っていて忘れたことがあるから、後でまたそっちに行くぞ? コノエ・トータ』

 

 いや念話を投げ出されながら送ってくるのはどうでも良いのだが、やっぱり彼がやると噛ませというか、一種の負けフラグなのでは?(震え声)

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

「さて、いい加減飽きてきたところだし……。どうもあちらが本拠地みたいだから、向かおうか」

「えぇ! ダイゴくん、どこか行っちゃうのー?」

「…………別に逃げる訳じゃないのだから、そう変な目を向けるのを止めてもらいたいのだが」

 

 俺の言葉に、従兄妹の成瀬川ちづが「えぇー?」と嫌そうな目を向けて来た。確かに、彼女にとっては面倒な相手、なのだろう。学校の教室のみならず「人が居る場所」、特に「大勢いる場所」にわんさか湧いてくるような小型妖魔の群れ。俺だって狗神を使えるからさほど苦戦している訳ではないのだけれど、豪徳寺さんのように割と物理方面のみに寄っている人では対応は難しいし、それはちづとて同様だ。西洋魔術と「あちらの」祖母方の実家から柔術まがいの古武術を習っている彼女は、「他の子供たち」や「俺の両親」同様に狗神への適性が低い。

 少しそばかすが浮かぶ頬をぷくっと膨らませる姿は年齢以上に幼く見えるけれど、まぁ、これだって仕事だ。異変の発生源というより「世界樹」に何かあるというのは、近衛(ヽヽ)から聞いている。である以上、やはり肉眼でも見えるレベルで世界樹にまとわりついている妖魔の群れの具合からして、発生源、「震源地」はあそこなのだろう。

 

「犬上流獣奏術・狗音(くおん)ノ波(ゲットライド)――――」

 

 言いながら弓で「俺自身の」身体を撃ち出すような姿勢を作り、両足に狗神の「黒」を収束。ギリギリまで回転させてから、弦をはじくと同時に「俺自身を」打ち出す様に射出した。

 なんというか、ポーズとしては毎度毎度締まりがない。……一応アーティファクトの効果を発揮するには、どうしても必須な動きなのだけれども。

 

 この赤い大弓、余壱の重藤弓(ヨイチノシゲトウキュウ)は、名称からおそらく那須与一に由来をもつタイプの武具のレプリカか何かなのだろう。いわゆる「揺れる舟上の扇を射る」伝説に由来する能力を持っているのだけれど、それは命中精度が凄いとか、そういうものではない。

 その能力は「推進力の増強と安定」。使い手のコントロールなど関係なく「狙った獲物」に対して撃ち出した矢(対象)が、命中するまでその推進力、移動能力を落とさないよう魔法的に安定させるというものだ。本来弓矢に限らず、ライフルとかの遠距離狙撃でもそうだけれど。わずかな風の乱れや重力、空気抵抗、摩擦、様々な要因から、撃ち出された弾丸ないし矢の対象は、ある程度の加速をもって「落ちる」。それが、このアーティファクトを使用している際には発生しない…………、理屈の上では数千倍に引き伸ばされている。

 もちろん、あまりにノーコンすぎる場合はそもそも全然遠くに飛んでいくことも無いのだけれどね。

 

 ただ俺の場合は、弓術に関しては一切できない。というよりそもそもセンスがないと祖父に言われた。「なんでこんなケッタイなモン出て来てるんやろ……」とか「夏美みたいに地味でもめっちゃアレなやつの方が……」とか言って祖母にまくらで何度も叩かれていたっけ。

 

 まあ、だからこそ狗神を「矢」に見立てて撃ち出すというのを、アーティファクトを併用した場合には行っているのだけれど。

 

「…………やっぱり楽だね」

 

 現在、俺の両足に渦を巻いている狗神の維持に、ほとんど「気」を使用していない。

 これは別に俺が物凄い生命力を持っているから気を消費していないとか、西洋魔術的に魔力を取り込んだりしてやっているとか、そういった事情ではない。アーティファクトの力で、「撃ち出された」狗神自身の状態が安定しているためだ。

 つまり、何と言ったらいいか…………、俺の場合、このまま世界樹近くまではずっと「等速直線運動」のように、速度が減衰することもなく安定して着弾(ヽヽ)することが出来るってことかな。

 

 とはいえ、これにも弱点らしい弱点はあるのだけれど――――。

 

「ッ!」

 

 突如、下方向から現れた妖魔…………、いや、シルエットで言うと普通に悪魔の類だろう。精霊的な匂いを「感じる」けれど、その「巨大な手」が、俺の行く手を阻みながら掴もうと手を開いた。

 現在、アーティファクトの魔法推進力で「軌道を変えられない」。やむを得ず「去れ(アベアット)」とアーティファクトを召還(もど)し、「等速直線運動」まがいのそれを停止させた。

 

 とはいえ空中でいきなり止まれる訳もなく――――その推進力を利用して、俺は自分の両腕に狗神を集め「爪」とする。

 

「――――犬上流獣()術・狼牙突貫(ドリルガルー)

 

 ………………何というか、流派の技名がことごとく漢字と横文字(しかも言語適当)で構成されているというのは色々と祖父の正気を疑う所なのだけれどもね。

 構えた爪を中心に、更に狗神をドリルのように展開、回転させて巨大な腕を貫通、切り裂いた。

 

 その余波で速度が落ち、俺は停止する。

 

来たれ(アデアット)―――― さて。一体、お前は誰なんだい?」

 

 俺の目の前に現れた、ローブ姿の男。独特な模様というか、デザインの感じは火星方面のデザインの流行だったっけ。前に祖母に見せられた覚えがあるけれど。肌は浅黒く、髪は黒く……少しだけ目尻に皺のある、疲れたような男だった。

 

「…………その頭の犬耳は、犬上小太郎の血筋だな?」

「おっと?」

 

 言われてから気づいた、ニット帽がない。思わず頭を触ると、申し訳程度に飛び出た「狼の耳」が逆立っている。さっきの突貫の時に飛んで行ってしまったのだろうか……、まぁ今は別にクラスメイトとか一般生徒もいないだろうし、問題はないけれどもね。

 

「そうだと言ったら?」

「そうか。…………いや、君個人に恨みがあるという訳ではないのだがね。何とも妙な縁だと思ったまでよ。まさかスプリングフィールドの血筋よりも先に、そちらが私の前に駆けつけることになるとは思っていなかったからな」

 

 スプリングフィールド――――嗚呼、忌々しい名前ッ! 思わず脳裏に思い浮かんだ、祖父の「狼や、お前は最強の狼になるんや!」「あの一番にキラッと輝いた星がお前が目指す男の一等賞や―――――アッ! 流れてもうた!」「どうして諦めるんや! もっとやれば出来る出来るお前ならできるでマジで!」などと妄言まがいのことを言われながら、「黒」と「白」両方の狗神の操作のために痛めつけられた日々が思い浮かぶ。けれど、その話は一旦は「収めることにした」のだから、俺は頭を左右に振って気を改めた。

 

「生憎、そっちも来ているようだけれどね。この場に来ていないのなら、何かしら手間取っているのではないかな? 俺は知らないけれども」

「ほう、君は仲間ではないと」

「仲間ではないよ。勘違いしないでもらいたい――――彼個人はともかく、その血筋には色々と思う所があるのでね」

 

 それを私怨だと理解はしているけれども、だからといって納得できる話じゃない。

 

 そんな俺に、彼はくつくつと肩を震わせて笑った。

 

「そうかそうか、奴め。どうやら後継者の育成には失敗したと見える。祖父同様の残念さで好都合と言うべきか、それとも想定外の事態を疑った方が良いのか――――まあ何にしても、手遅れだ」

「何?」

 

 ぱちん、と指を弾いた男の背後。集まっていた妖魔たちが「吸い上げられる」ように、世界樹の上部に集まっていく――――。

 

 まるでそれは、一つの卵。うごめく魔力、いくら低級とはいえ「おぞましい数の」妖魔が、世界樹よりもはるかに大きいサイズの卵のように。あるいは「心臓のように」鼓動していた。

 

「どうやら君は事情を知らないらしい。だが、懇切丁寧に語る悪役などそれこそ八十年前のコミックや大衆娯楽にすら存在しないだろう。訳も判らず、消え去るが良い―――――」

 

 

 

 ――――目覚めよ、「ダイダラボッチ」。

 

 

 

 その男の一言と共に、解ける、あるいは「生まれる」何か――――。それは、神々しく輝くそれは、かろうじて女性の、俺のような同年代くらいの少女の様なシルエットをしていると判断できるけれども。そこに細かい造形らしいものはなく。ただ蠢いていた妖魔たちが、その全身にまとわりついていく――――。

 

「……もしや、蟲毒?」

「ほぅ、知識はあるのか。肯定も否定もしないがな」

 

 ニヤニヤと半眼で笑う男は、それ以上は特に何もしていないけれども。その少女のような姿にまとわりつく妖魔たちは、そこから感じる圧力は、徐々に、徐々に強くなっていって――――。

 段々と、その女性のようなシルエットも変容していく。生物的な特徴として、それは例えるなら「ゾンビの巨人」のような姿。細かいシルエットはまだ完全に形成されていないけれども、まるでその白い輪郭の巨大な少女を「骨格」、あるいは「エサ」とするように、まとわりついた大量の妖魔が、その形をグロテスクなものに変化させていく。

 

 変化と同時に質量を得たのか、脚を踏み下ろし学園の建物が崩れていく…………、どうしてか古い旧本校舎の方は全然崩れている気配がないのは、狙っての事なんだろうか。

 人が逃げ遅れているかどうかまでは流石に確認はできないけれども、状況的に宜しいとは言えない。どう考えても近衛たちが出て来たのは、これが原因だろうと思わせるくらいの「わかりやすい」事態だった。

 

「…………事情は分からないけれども、止める方法を聞き出す以外になさそうだね」

「無駄だとも。そんなものはない――――それこそ『八十年前』からなぁ」

「やけに拘るね、八十年って数字に」

「フッ。それを知らない時点で、君はやはり多くは聞かされていないのだろう――――おっと」

 

 無言で撃ち出した狗音(いぬがみ)を、彼は「素手でつかみ取った」。その腕のシルエットはどこか肥大化しており、指先の造形を含めて人間的なそれではない…………。

 

「やれやれ。どうにも『孫世代』ともなると、人の話を聞かないのか? 私も話すつもりはないが――――アレが『生まれた』時点で、この学園は、この国は、この世界はもう終わりだ」

 

 

 

「――――フォッフォッフォ。果たしてそう上手くいくかの?」

 

 

 

 俺も、目の前の男も、突如降ってわいた「若い男の声」に思わず周囲を見回す――――居た。時計塔のような建物の上で、こちらを見てニコニコ笑っている「少年」の姿。真っ白な切りそろえられた髪を、後頭部でチョンマゲのように結っている。恰好はどこか修験者のようでもあり、狩衣のようでもあり、独特な東洋魔術師らしい意匠の「幽霊」。……ついでに言えば、その顔立ちはなんとなくのレベルだけれど、近衛刀太に似ていた。

 

「ホウ、ここで出て来るか『近衛 近右衛門(このえ このえもん)』。今更『浮遊霊』にすぎない貴様に何が出来るというのだ」

「ホッホッホ。いや、ワシはこう、今日は見学に来てるだけじゃから。昔のエヴァみたいにの。

 後それに、色々言っておったが『こっちの』布石は既に打ち終わっておるからの」

「何?」

 

 ホッホッホ、とにこにこ笑いながらペットボトルの緑茶を飲み、まるで男を揶揄うように笑うコノエモンというらしい幽霊。その言葉に「馬鹿な、あり得ん」と鼻で笑う男だったけれども――――。

 

 

 

「――――来たれ(アデアット)空とび猫(アル・イスカンダリア)

 

 

 

 いつの間にか、俺たちの足元に現れた「緑髪の女性」が取り出した、猫のような玩具のような何か(アーティファクトだろうか)を構えて「叩き潰し」。

 天から光の柱。ダイダラボッチの全身にまとわりついていた禍々しい気配が、その光線一発で綺麗に消し飛んだ。

 

 言うなれば、こう、グロテスクな鎧のない白い少女のシルエット、全裸みたいな状態だった。脱げた? と表現するのが一番簡単かもしれない。

 

 

 

「「…………」」

「ホッホッホ」

 

「状況終了です、マスター(ヽヽヽヽ)

『そうか。良くやった茶々丸。フフフ、ぼーやが居たらさぞ感謝と共にネジ巻き(魔力供給)を沢山してくれることだろうなぁ』

「えっ!? あ、いえ、その、たとえ想定だけとはいえ、それは大分久々なので色々と危険と言いますか――――」

 

 

 

「お、お、おのれ白き翼(アラ・アルバ)7人の渦(ボルテックス・セブン)、いや、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルウウウウウウウッ!」

 

 

 

 強い怒りの念による絶叫だったけれども。いや、何と言うべきだろうか……、そもそも誰だろう、その妙に名前の長い人は。驚きすぎて、ちょっと聞き逃してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

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