もし一夏の夢が宇宙飛行士だったら   作:益荒男

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 共に笑って考えた兄貴達に感謝を


Prologue:1

「ISが大好きな皆さーん!お元気ですかー!」

「「「「はーい!」」」」

「ほらほらそこのお兄さんも元気な声で!ISが大大大好きなみんなー!お元気ですかー!」

「「「「はーーい!!!」」」」

「は、はーい‥‥・」

 

 想像してみてほしい。

 

 小学生(主に女子)が引率のお姉さんの定番ご挨拶に元気よく手を上げ大声で返事しているところに、思春期真っただ中の男子中学生が混ざっているこの事態を。

 

(やっぱりきついって!弾のやつなにが『気分転換でもしてこいよ☆』だよ!これ確かに中学生以下のIS博物館案内ツアーだけどさ、俺意外はみんな小学生だし!そして当たり前のように女子だし!周りの一般客とか親御さんの視線が刺さるんだけど!?)

 

「ねーねーお兄さん」

「‥‥う、ん?どうしたの?」

 

 頭の中の親友の仕打ちに身もだえているとズボンのすそが小さな力で引っ張られていた。下を見ると何人かの女の子たちが俺を見上げている。

 

(やべっ!話しかけられた!あぁ待ってこの子のお母さん!屈んで目線を合わせたのはただの癖で、決して不埒な真似をしようとした訳では!あっやめて!隣の人に耳打ちしないで!皆さんどうか誤解しないで下さいぃぃぃ!!)

 

 切実なる思い届かず、彼らの俺を見る目が一層厳しくなた気がする。これもあのバンダナを巻いた赤い悪魔のせいだ、そうに違いない。おのれ定食屋の息子、今度妹の蘭ちゃんにあることないこと吹き込んでやる。

 

「お兄さんはなんでツアーにきたの?」

「え?」

「お兄さん、おとこの人」

 

 頭が急速に冷めていく。言われてハッとした。そうだ、当たり前だ。

 

 ここは女性のものであるISを学ぶ場所、そんなところに男である俺がいるのだから怪訝な目で見られるなんて当然の事だろう。

 本当は自分がここにいる意味なんてないんだと、心のどこかで理解している。

 

「ねーねーどうして?」

 

 悪意の欠片もない、ただ純粋な興味を宿した瞳が俺の心を蝕んでいく。

 

「そうだね」

 

 だからせめて、

 

「諦めきれないから、かな」

 

 最後くらいは潔くいこうと思ったのだ。

 

 

 

「まずはみんな『IS』って本当はどういう名前か、しってるかなー?」

「しってるよー」「かんたんじゃん!」「あたりまえだし!」

「それじゃみんな、せーのっ」

「「「「「インフィニット・ストラトス!」」」」」

「正解!ISの正式名称はインフィニット・ストラトス。『無限の成層圏』を意味するこれは日本の科学者、篠ノ之束博士が基礎理論を構築したパワードスーツ。最初は宇宙開発を想定した設計施行をしていましたが、時間がたった現在のISの使用目的は主に競技、スポーツの一つとなっています。」

 

 

 織斑一夏、中学三年生、男。

 

 好きことは運動と読書と料理。嫌いなものは特になし。背は平均よりちょっと高いぐらいで、筋肉がそれなりにあるから体重はちょっと重め。頭は模試で家に近い進学校の判定がAあるから悪くはないと思う。彼女はいない。

 家族は姉が一人だけ。親のことは顔もわからない。千冬姉に聴いてもいつも「いつか話す時が来たら話す」とはぐらかされてばかりだから、きっとあまりいい人ではなかったのだろう。親がいない二人暮らしは物心がついた時からずっと続いている。千冬姉が学生の頃は近くの神社の家にかなりお世話になっていたけど、千冬姉が社会人になってからは生活に困ることは一切なくなった。

 

「じゃあ、ISの大会で一番大きな大会の名前は知っているかなー?」

「モンドグロッソ!」

「そう!4年に一度開催されるISのISによるISのためのオリンピック、それがモンドグロッソ!しかも第一回の総合優勝者は何とまたまた日本人なのです!彼女のお名前はー?」

「ちふゆさーん!」「ちふゆさまー!」「ちふゆおねーさまー!」

「あはは‥‥」

「そう!あの有名な織斑 千冬選手ですね!彼女が優勝された際に国民栄誉賞が授与されたのは記憶に新しいです。残念ながら第二回モンドグロッソでは途中棄権という結果に終わってしまいましたが、今でも最強のIS乗り『ブリュンヒルデ』の称号は誰がふさわしいかと聞かれれば、多くの人が織斑 千冬選手を思い浮かべるでしょう。現在は第一線からは引いたみたいですが、是非とも再び大舞台で彼女の勇姿を見たいものですね!」

 

 その通り、千冬姉はIS乗りだった。それも滅茶苦茶強い。どのくらい強いかっていうと、初めて開かれた世界大会の決勝で相手を瞬殺できるくらいには強かった。しかも強いのはISだけじゃなく生身でも滅茶苦茶強い。昔お世話になっていた神社は剣道・剣術の道場もやっていて、姉は高校生の頃には両方で師範代に免許皆伝を許されていたのだ。

 

 そんなどこに出しても恥じることのな‥‥生活面以外は恥じることのない千冬姉のことを、俺は心の底から尊敬しているし感謝もしている。俺がこんな風に何不自由なく暮らしていけるのは、偏に千冬姉が俺の分まで頑張ってくれている他ない。千冬姉を支えることを俺は誇りに思ってるし、これからもそうありたいと思っている。

 

 だけど───

 

「これまでの言った通り、今や世界の中心ともいえるISですが、他のどんなものにも見られない唯一の特徴を持っています。それは

 

「女性以外は扱うことが出来ない」

 

 ───はい?」

 

 ガイドのお姉さんの声を遮って、歳月を感じさせる重みがある声が彼女の言葉を引きついだ。

 

「それでも、だからと言って男性にISは関係ないのかと問われれば答えはノーだ。技術者やスポンサー、またISパイロットのトレーナーなどISの男性関係者は探せばいくらでもいる。主体は間違いなく女性だが、男性がISに興味関心を抱くことについて、どこにも懐疑心を抱くところはないのだよ」

 

 そんな風に続けて筋骨隆々な体でスーツを折り目正しく着こなしな階段を下りてくる男性に、俺は見覚えがある、というか懐かしさが感じられた。確か、最後に会ったのは第二回モンドグロッソでの観戦席だった…

 

「財前さん!?」

「やあ一夏君。二年ぶりかな?元気そうだね」

「あ、いえそちらこそ。ていうか‥‥」

 

(あの人、たしかもうすぐ定年だったよな?なのに、こう、全身から出るオーラがすごいというか、エネルギッシュというか。こんな人、箒のお父さんくらいしか見たことねえよ)

 

 片手であいさつしながらもう片方をポケットに突っ込んで、財前さんは階段を下りていく。威風堂々とした佇まいにこの場にいる全員が目を奪われていた。

 

「財前大臣!こんなところにおられたのですか!」

「ん?ああ、館長申し訳ない。散策ついでに見知った顔があったものですから。それとお客様の前ですからお静かにお願いしますよ?」

「え!あぁ、すいません‥‥」

 

 後ろから財前さんを呼び戻しに来たであろう館長と呼ばれた小太りなおっさんが、周りの客に対して平謝りしている。そのあと、財前さんの下へ近づきかろうじて俺くらいにしか聞こえない声で彼を窘めた。

 

「護衛の方も探しておられましたよ‥‥!次のご予定の為にもお早く戻られたらいかがですか」

「なあに、彼らは私の我儘には慣れていますよ。それに散策といったでしょう、この科学館から出るつもりはありませんよ。しばらくは彼とお話を楽しもうかと」

「は、はあ」

「あははは‥‥」

 

 財前さんは俺にウインクしながら肩を組み、館長は訳が分からないといった風に俺を見つめた。

 

(いやほんと、この破天荒さには困りますよね)

 

 そんなことを本人を前に口に出すことは出来ないので、乾いた笑いをこぼすことしかできない。ここはどうか館長さんの胃に穴が開くこと程度で済まさせて下さいとお願いするしかなった。

 

「しばらくすれば戻ると護衛には伝えておいて下さい。館長ご自慢の展示品の数々、じっくりと拝見させていただきますよ」

「ううん‥‥わかりました。彼らには私から伝えておきましょう。おい、君!」

「は、はい!いかがいたしましたか館長!?」

「IS見学ツアーコースの子だね。このお方、財前大臣が飛び入りでこのツアーに参加していただくことになった。くれぐれも!粗相のないように」

「ええぇ!!?」

「ハッハッハ!どうぞ、私にはお構いなく。のびのびとやってください」

 

 どうやら胃に穴が開く被害者はガイドのお姉さんも追加されたらしい。ほんと、俺のせいですいません。けどこの人、俺が小学校の頃からそうなんです。年配でお偉いさんなのにフットワークが軽いというか庶民感覚というか、正に風来坊といった出で立ちで。だからこそ、同じ男として憧れるというか。俺の中で将来年を取ったらこんな大人になりたい人ナンバーワンなのである。

 

 

 

「このひとしってるー!」「テレビでみるひとだー!」「おじさんおかしちょうだい!」

「おお、ならおじさんが大好きなこのキャラメルを上げよう!みんなで分けて食べるんだぞ」

「「「「「わーい!」」」」」

 

 こういう人物だからか、財前さんはメディアでの露出が多く、こんな小学生の子供達にまで顔が知れ渡っている。もしこの様子を誰かが撮影してSNSにアップしたらここは大変なことになるだろう。それはどうやら周りの黒服の人たちが対処しているらしい。

 

「やっぱりいつでもキャラメル持ってるんですね」

「もちろんだとも。何せこれと子供が私の大好物だからね」

「俺、小学生の頃から一度も自分で食べるとこ見たことないんですけど」

「それはもちろんさ、こんな大男にキャラメルなんてイメージが崩れてしまうだろう?」

 

 彼は財前 宗助

 日本の現防衛大臣で今年で59歳。年からは考えられない体躯と感性を持ち合わせ、20年近く政界に身を置き続ける傑物である。世間での呼び名は「護国の風雲児」俺の親とは古い仲らしく、俺がずっと小さいころに援助をしてくれていた恩人の一人。性格は見ての通りの破天荒、だがユーモアに溢れ子供が大好きという一面を持ち合わせることから支持が厚く、選挙があるたび総理大臣候補に上がるような大物政治家なのだ。

 

「え、えーと。それではツアーを再開しますね!初めてISが使用されたのは十年前の『白騎士事件』です。世界各国からミサイルが日本に発射されるという未曽有の大事件!誰もが諦めていたその時!突如として現れた謎のIS『白騎士』が全てのミサイルを撃墜し悲劇を未然に防いだのです!」

「すごーい!」「かっこいいー!」「きれいだよねー!」

 

 

「さっきはありがとうございました」

「ん?なんのことかね」

「俺を助けてくれたんでしょう?男でツアーに参加してるっていうので白い目を向けられてたのに気づいて」

 

 この人は政治家をやっているだけあって、場の空気を掴む能力がずば抜けて高い。小学校の頃には何も思わなかったが、モンドグロッソの会場での財前さんの会話や立ち回りを見て、改めてこの人の偉大さが身に沁みた。

 だからすぐに分かったのだ。あのとげのある言動には、遠巻きに俺へ向けられていた視線へのけん制なのだと。実際にさっきに比べてだいぶ居心地がよくなった。割り切っていたとしても、内心つらい物はやはりつらかったのだろう。

 

「ただ私が個人的に腹が立っただけさ。特別なことは何もしていないよ」

「そうですか、なら勝手に感謝しておきます」

「ああ、そうしたまえ」

 

(やっぱり、こういうところがずるいんだよな)

 

 ISが登場してからというもの、世の中の風潮は明らかに女尊男卑へと傾向き始めている。女性権利団体による活動が過激化していたり、一説によるとISが登場してから女性による異性に対しての軽犯罪告発が爆発的に増加しているらしい。もちろんそんなことは一側面を切り抜いただけでしかない。だけど女性に対して男性はより気を遣うようになり、女性はそれを受け入れ始めていた。

 

「ISには心臓となるコアが存在し、これには2つの種類が存在します。ひとつはIS生みの親である篠ノ之束博士が自ら手掛けたアーキタイプ。もう一つが各国が合同でアーキタイプを解析し、その一部を再現したオリジナルタイプです。

 この2つの最も大きな違いは形態移行(フォームシフト)が可能かどうかだと言われています。アーキタイプコアには自己学習能力が備わっており、実戦経験を多く積むことでISを搭乗者に適した形態へと変化させる能力があるとされています。

 オリジナルタイプには形態移行の機能こそ備わっていませんが、国ごとに様々な特色が存在します。例えば日本の倉持技研のオリジナルコアでしたら軌道計算に優れたもの、フランスのデュノア社のコアでしたら拡張領域(バススロット)が豊富といった特徴があります」

「うーおおいよー」「むずかしいよー」「なんでおなじにしないのー」

 

 そんな中で、財前さんは自らを歪めることなく、気に食わないことは気に食わないと叫び、女性であっても糾弾するべきはしてきている。世間では一部から猛烈な批判を受けながらも絶大な支持を集め続けているのは、彼のその一貫性を持ったスタンスに他ならないだろう。その逞しさ、男らしさは小学生時代からの俺のあこがれだった。

 

「千冬君は元気にしているかね?」

「ええ、最近は帰ってくのがいつも遅いですけどね。一体どこで何してるんだか」

「ん?もしかして千冬君がどこで働いているのか知らないのかい?」

「ええ、なんか聞いてもいっつもはぐらかしてくるんです。千冬姉の事だから心配はしていませんけど」

「そうか‥‥一夏君は今年で確か15歳だったね。今は受験期だろう?勉強は頑張っているかい?」

「一応志望校A判定もらえるくらいには頑張っていますよ。本当は進学する気はなかったんですけど」

 

 距離感としては多分いとこのお父さんくらいのものだろう。実際に親戚がいるわけではないが、弾からは「とにかく親戚は久しぶりに会ったらなんでも聞いてくるもんだ」と聞いているから多分間違っていない。

 

「ほう!それはいかなる心境かな?」

「だって、俺たち二人で生きていくんだったら、俺だけが負担になってるわけにはいかないじゃないですか。体力とか力とかには自信あるし、早朝バイトなんかで経験も積んだから、俺だってもう子供じゃないんだ!って言ったんですけど────」

 

『この馬鹿者が(ドゴッッ!!)』

『イッタアア!!今、絶対人の頭部からしちゃいけない音がしたよな!?』

『お前が馬鹿なことを言うからだろう』

『イテテテ‥‥だって、もう義務教育は終わりなんだし、俺もさ、働けるんだぜ?ならさ!』

『今のお前が働いたところで、大した稼ぎになるわけがないし、今生活が切羽詰まっているわけでもない。余裕は充分にある。いいからお前は進学しろ。次また馬鹿なことを宣うのなら‥‥』

『なら‥‥?』

『ふっ、それなりの覚悟をしていることだな』

 

「────って思いっきりシバかれました‥‥」

「はっはっは!千冬君らしいな。相変わらずのようで何よりだ。私も彼女の拳だけはくらいたくない」

 

 そんな感じでしばらくは近況報告や昔話に花を咲かせることになった。箒が県道で全国優勝したことや久しぶりに道場に行ったこと、中学の友達が転校したことや、束さんと財前さんの息子さんのこと。とにかくいろんなことを話した。

 

 ただ一つの話題だけをずっと避けて。

 

 

「時に一夏君、最近星は見ているかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 
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