皇帝のライバル   作:喜怒哀LUCK

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遅くなってごめんなさい
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    遅くなってごめんなさい
     ポケモンSV楽しすぎる
      遅くなってごめんなさい
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        遅くなってごめんなさい
         遅くなってごめんなさい


菊花

 菊花賞、最も強いウマ娘が勝つと呼ばれるこのレースは、なんといっても3000mという未経験の距離への挑戦である。長距離で戦うということはスタミナの消費が多いだけでなく、相手との競り合い、駆け引きの回数が増えることでもある。より良いポジションの確保、仕掛けるタイミング、周囲からのプレッシャーを受けながら走ることで思考は鈍り判断を間違える。最後まで冷静に状況を把握し自らのレースを行える”強さ”が必要になる。

 それを理解しているウマ娘は、レースが始まる直前までイメージトレーニングをしている。勿論展開によってはそれも無意味となるのだが、自分の理想を思い描くことで自らを鼓舞しているのだろう。

 

「いやー短いようで長かったけど、やっぱり短かったなぁ」

 

 それでも私は全く違うことを考えていた。

 1年目はやること覚えることばっかりであっという間に時間は過ぎていったし、クラシック期が始まってからは内容が濃かったからか短く感じた。それでもトレーニングの日々を思い返せば長くも感じ、これからまだ続く私のレース生を考えるとまだ1年半くらいしか過ぎてなくて短いとも思う。

 

「クラシック3冠も、これで最後かー」

「いつになく緊張というか、レースに集中できていませんね」

「んー、始まったらそんな余計な事考える余裕もなくなるだろうけどさ。菊花賞が終わったら次はどうするんだろーなって考えちゃうんだよね」

 

 私の目標であるクラシック3冠は今日で終わる、そして次からはシニア級の猛者たちとのレースが始まる。それはそれで盛り上がるんだけど、今の私にとって3冠に勝るレースはなくて、それが終わるとなると名残惜しさというか、先が見えない状態で走る不安がある。GⅠレースは数あれど、このレースに出たい勝ちたいというものがなく、なーんかモヤモヤしたままだ。メジロ家のウマ娘なら春の天皇賞を獲るって目標があるらしいから、年中それに向かって調整していくんだろうけど、今の私にはない。

 

「……それでは、世界を目指しませんか?」

「へ? 世界?」

「最終目標にはなってしまいますが、世界最高峰のレースの1つ凱旋門賞、これに出て勝つというのはどうでしょう」

 

 凱旋門賞は未だ日本のウマ娘が勝利したことのないフランスのロンシャンで行われる国際レースの1つ。文字通り、世界最強を決めるレースと言っても過言ではない。出走するウマ娘が強いのは勿論、コースの芝も日本より長くなっていて不慣れな状態で走ることになる。ぶっちゃけ日本のウマ娘の勝てる見込みはない。

 

「本気で言ってる?」

「勿論。私はリリーさんならと思いますよ」

「へぇー。うん、良いね、アガってきた」

 

 世界最強のウマ娘の称号、良い響きだ。世界各国から選ばれた最強の相手と走るレース、しかも日本のウマ娘なんて歯牙にもかけない連中と走るなんて、想像しただけで最高の気分だ。

 だったら、少なくともこのレースでは最強になっとかないとね。

 

「じゃ、行ってくる」

「応援してます」

 

 皐月賞と日本ダービー、私はシンボリルドルフに負けた。負けたことに文句はないし、悔いのない走りはした。今まで走ったどのレースも勝つつもりで走ってきた。クラシック3冠も残すは菊花賞のみ、だからって特に勝ちたいってこともないけど、一つの節目としてシンボリルドルフとの走りにケリをつけたい。ここで勝って、私がシンボリルドルフに勝てるウマ娘なんだって知らしめて、堂々と世界に挑戦する。

 

『京都レース場、ついにこの日がやってきました。クラシックレースも大詰め、3冠レース最後の菊花賞がここで行われます。1番人気に押されるシンボリルドルフは未だ無敗の2冠を達成しており、今日勝利することで前人未到の無敗の3冠ウマ娘の称号を手に入れます。その歴史的現場をこの目で見ようと客席は超満員、私解説員で良かったと心から感謝しています。しかしそれを阻むのは2番人気シンフォニアリリー。シンボリルドルフとは2戦して2敗ですが、その末脚は本物、魅せられたファンはシンボリルドルフを切り伏せるのを今か今かと待ちわびています。この二人だけの勝負じゃない、皐月賞やダービーでは実力を出すには短すぎるステイヤー達が菊花賞に参戦しています。世代の2強はお前たちではないと、このレースで分からせるという気迫を感じます。まさに『最も強いウマ娘が勝つ』レース!』

 

 勿論一番警戒すべきはシンボリルドルフなんだろうけど、他のウマ娘もGⅠに出るだけの実力者だ。皐月賞、ダービーを走りながら少しづつ距離を伸ばした私と違って、最初から長距離を走ることを前提にトレーニングを積んできたステイヤー達、なんなら3000mよりも長い距離を走ることも視野に入れた彼女たちが、数少ない長距離GⅠを獲りに来た。ぶっちゃけ今までよりも距離も相まって厳しいレースになるだろうね。

 そんな彼女たちが、コースに入場した私を一瞥する。

 

『あぁ、なんだ、お前(シンフォニアリリー)か』

 

 まるで眼中にないかのように、冷たい視線を受けた。こんなのは入学してすぐの選抜レースの時以来だ。この娘たちは、それこそ中距離じゃ短すぎて自分の長所を出す前にレースが終わってしまう娘たちばかりなのだろう。だけど長距離なら自分の実力を余すことなく発揮できる、それができれば私だろうが、シンボリルドルフだろうが相手にならない、そう考えているのだろう。皆が皆、勝つ気に溢れている。

 最高じゃん、どれもこれも実力は申し分ないし、変に私を意識してないから、本当の実力勝負ができる。強い相手とのレースは望むところだけど、あくまでシンボリルドルフとの対決って印象が強かった。それがなくなるのはシニア期に入ってからだと思ったけど、まさかこんなタイミングで走れるとは。これは俄然やる気になるね。

 

「どこを見ている、シンフォニアリリー」

 

 不意に声を掛けられる、十中八九シンボリルドルフの声なんだけどさ。だけどそこには若干の怒気が含まれていて、同時に刺すようなプレッシャーも襲い掛かってきた。

 

「お前の相手は私だろう、他所見なんかするな」

 

 やっぱりこいつは別格だ。一番警戒すべきとかなんとか思ってたけど、そうじゃなくて結局シンボリルドルフに勝てるかどうかなんだよね。他の娘も強いんだけど、その延長線上にこいつがいる。シンボリルドルフだって他のウマ娘を、警戒しなくてもいい娘だって思ってもないのに、その目は私だけを見ている。

 

「私を夢中にさせるような走りをしてみたら?」

「そちらこそ、がっかりさせる走りをしてくれるなよ?」

 

『各々がライバルへ向けて火花を散らしながらクラシックレースの最高峰である菊花賞が始まります。シンボリルドルフが無敗の3冠を制するのか、シンフォニアリリーがその手を阻むのか、二人を差し置いて最強へと名乗り出るウマ娘が現るのか。観客たちが期待と想いで見守る中ゲートイン完了……スタートしました! おっとこれはどうしたことか、シンフォニアリリーがスタートから出遅れ最後方に取り残された。他のウマ娘より2バ身程後ろを走る、長距離レースでいくらでも取り返す機会はあるが、最後まで脚は残っているのでしょうか!?』

 

 ん-、やっぱりシンボリルドルフには見破られたか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。出遅れた私をじっくり観察して、焦ってるかどうかを判断していた。恐らく追込でいくだろうことはバレたけど、どう対抗してくるかな。

 

『さぁ最初のコーナーを回りまして先頭は4番、その後続いて10番、その内から2番、14番、1バ身離れて11番、その外並んで18番と17番、内に9番、3番、5番シンボリルドルフはこの位置です。1番、6番、7番が並び1バ身離れて13番と16番、その外15番、内から12番、17番、最後方に8番シンフォニアリリーの並びです。手前正面そのシンフォニアリリーがさらに1バ身距離を開けたがどうしたのか、このプレッシャーに負けてすでにバテてしまったか』

 

 ……あっぶねー。直線に入って分かりづらかったけど、全体的に前との差が詰まってた。シンボリルドルフが違和感を感じないぐらい少しづつ差を詰めていたんだろう。この長丁場でほんの少しでもペースを崩されたら私じゃ最後まで走り切れない。コーナーを抜けるのが最後だから横からバ群を見て違和感に気付いたけど、もうちょい前だったらわかんなかったぞ多分。よくこんな作戦思いつくな。

 そして他の娘たちも、思ったより消耗している。となると勝負のポイントはやっぱりあそこかな?

 

『ホームストレッチに入りまして先頭僅かにスピードを上げています。シンボリルドルフが少し前へ出たことで差を保っておこうと考えてのことでしょうか、スタミナを最後まで切らさないかが鍵でしょう。そのシンボリルドルフは今日はいつもより後方に構えています、やはり長距離を意識して足を温存しているのでしょう。後を追う集団の後ろにシンフォニアリリーですが、まさかこれは追込で来ているのでしょうか。シンボリルドルフと同じ考えでしょうが、その差を覆す走りはできるのか? さぁ先頭第1コーナーを曲がります』

 

 皐月賞やダービーでは割と早めに小競り合いが始まっていたけど、菊花賞ではここにきてようやく始まる。最後の直線の前には上り坂と下り坂があって、上っている最中に抜きに行くのは脚を消費するし、下っている最中だと加速しすぎて外に大きく逸れてしまう。だからこのコーナーから直線で位置取りが決まると言っていい。

 私は目の前の競り合いには関与せず、ずっとシンボリルドルフとの距離を測っている。大体4バ身くらい。それを確認して、私は外目に位置を定めた。本来なら内を陣取るのが定石だけど、前に私以外のウマ娘がいる都合上、その間を縫って進むのは難しい。

 そんな私を確認して、シンボリルドルフは加速を始めた。

 

「やっぱり気づくよなぁ!」

 

 第3コーナーに侵入する手前50mくらいから、私はスパートを始めた。

 

『外目に着けたシンフォニアリリー、コーナーを目前にしてスパートを始めました、内を陣取るウマ娘の横を駆け上がりドンドン順位を上げていく。それを事前に察知したか加速を始めたシンボリルドルフに押されるような形で先頭集団もスピードを上げてきた!』

 

 私とシンボリルドルフは、ある意味信頼していて、通じ合っていて、互いを認めている。だからこそシンボリルドルフは外から並ぶという私の考えに対して距離を稼ぐ選択肢を取った。「もしかしたらシンフォニアリリーなら最後の直線で領域を超えるスピードを見せてくるかもしれない」という思考が少しでも過れば、直線までに差を付けておきたいと思う。

 だからこそ先手を取って距離を稼ぐし、シンボリルドルフの思考に反応してか或いは負けん気か、前方の集団も速くなる。後方集団は外に着けた私や、スパートをかけ始めた先頭集団相手に「血迷った」「焦った」と自滅する未来を想像し動かない。

 隙間が生まれ、私はそこに滑り込む──

 

「──だけじゃ、まだ足りない」

『最高峰だったシンフォニアリリーは13番手まで順位を上げて坂へと突入しましたが、さらにここでスピードを上げて先頭集団へと迫る!』

 

 シンボリルドルフが考える領域を超える速さが、そう簡単に身に着けられるものではない。長距離を走ることによる脚の疲労や追込で走ることでの残した脚、スタミナやその他諸々で、私は同じぐらいだと考えている。今ある4バ身を縮めるには程遠く、先頭集団の後ろに着いて最後の直線を待っているようじゃ遅すぎる。

 なら今駆け上がっている坂で加速を止めて脚を温存する定番の選択を取った先頭集団及びシンボリルドルフに並ぶには、ここしかない。

 坂に入ったことで体にかかる負荷が変わり、足取りが重くなり後ろに引っ張られるような感覚がある。だけどそんなものは合宿で経験済みなんだよね。

 

『シンフォニアリリー坂でも落ちない!坂を上る先頭集団へと差を縮めていく!しかしすぐに下り坂が待っているぞ、そのままのスピードで大丈夫か!?』

 

 ゴメン無理!流石にこのまま突っ込んだら外周にぶつかる!すこーしだけ速度を緩めるがこれで十分。大きく外を回ることになるけど視界が広がるからスパートには問題ない。シンボリルドルフとは1バ身半あるけど、あとは気合で何とかするしかない。

 ……問題は、最後まで脚が保つかどうか、か。

 

『最終コーナーを回り先頭集団が直線へと入ります。先頭は10番、2番手に14番、4番、4番手5番シンボリルドルフ、5番手9番、6番手8番シンフォニアリリーが最後の直線に入った!ここから壮絶なデッドヒート!最強のウマ娘の称号を手にするのは、無敗の2冠シンボリルドルフか、それとも他が3冠の行く手を阻むのか!』

 

 右前方のシンボリルドルフから力が膨れ上がっているのを感じる。それに負けないように私も全力でターフを踏みしめる。

 

 汝、皇帝の神威を見よ

 領域の展開と同時に、加速する。

 

『最後の直線抜け出してきたのはシンボリルドルフとシンフォニアリリー!10番、14番、4番、9番を牛蒡抜きにしていく!クラシックレースの最後を飾るのは、やはりこの二人だ!双方譲らない、差は広がらない縮まらない!』

 

 予想通りとはいえ、本当にコイツはっやいな! こっちはこの最後の直線のために合宿でどんだけ努力したと思ってんの!? 最高だねやっぱり! それでこそシンボリルドルフ!

 とはいえ、ダービーと違って菊花賞の消耗は比じゃないくらいに大きい。いくら領域でもシンザン会長が言っていたように、身体が出来てなければ発動できない。今の消耗具合なら、出力が落ちるか最後まで持たないでしょ。流石のシンボリルドルフでも、限界が近いのは見えてる。

 

 そして残り200m寸前で、ついにシンボリルドルフのスピードが落ちてきた。

 

『あぁっと!ついにシンボリルドルフが落ちてきた!残り200mというところで失速していく!シンフォニアリリーが差を詰める!その差はすでに半バ身まで迫った!』

 

 それでもまだシンボリルドルフの目は死んでない、少しはスピードが落ちるかもしれないが後ろの連中には追い付かれることはないだろう。

 ゴールはもうすぐそこだ。

 ありがとうシンボリルドルフ、この勝負……お前の勝ちだ。

 

 ガクっと膝が支えを失くしたかのように崩れる、同時に腕の振りも甘くなり、フォームがバラバラになっていく。こっちも、もう限界を迎えた。

 

『シンフォニアリリーもここで失速!並びかけた差は1バ身まで広がった!』

 

 流石に、無理があった。ほぼ1000mのスパートに、定石を無視した上り坂での失踪、その上領域と同じ速度まで生み出した私の脚は限界を超えてしまった。シンボリルドルフに勝つにはこれしかなかったから、万が一の可能性に賭けてみたけど、やっぱり駄目だったかぁ。

 これ以上はないってくらいに努力はした。妥協せず、自分なりに考えた全部を出し切った。それでも届かなかった。

 悔しい。悔しいけど、顔を上げろ、よく見ろ。自分に勝った相手の姿を焼き付けろ。

 限界を迎えても、堂々とした走りを崩さない、その雄姿を見届け──

 

 

 ──頑張れシンフォニアリリー、諦めるな!

 

 

(……いつもリリーさんって呼ぶくせに)

 崩れていたフォームを戻す

(スカウトの時も自信なさそうにしてたのに)

 しっかりと一呼吸する

(他のウマ娘には目もくれないなんて言っちゃってさ)

 走る以外は考えるな

(期待に応えなきゃじゃん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だ」

 

 まさか漫画のこのセリフを言うことになるとは。

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