投稿頻度を上げるために短めにまとめて話を書いていきます
人生の中で一度は言ってみたいセリフを言えた感動から、はや3日過ぎた。現状としては私はレース中に意識を失いながらゴールしても走り続けて、力尽きる所をシンボリルドルフに支えられて、転倒することなく事なきを得た。しかしそれだけの負担をかけて走ったことによる異常がないか病院で検査が必要らしく、少しの間だが入院している所だ。その間に南坂Tは当然として、親やクラスメイト、リギルのメンバーなのにフジちゃんやエアグルーブちゃんまで見舞いに来てくれた。そして意外にもフルフライトも見舞いに来てくれた。「確かにアンタに任せたけど、ぶっ倒れるまで走れとは言ってない」と頭にチョップされたのは解せないけど、彼女なりに心配してくれた証拠だから甘んじて受けた。
世間ではシンボリルドルフの無敗の3冠という話題で大盛り上がりだ。連日新聞の1面を飾るし、雑誌でわざわざ特集を組まれたりもしている。独占インタビューなんかもテレビでは流れていて、違う意味でアイツも大変だなと思う。レース後で疲れているだろうに真摯に対応するのは次期シンボリ家当主としての宿命みたいなものか。
私は検査の結果特に異常はなかったみたいで明日にでも退院する予定だ。そして今後のことを考えなければならない。
「見舞が遅くなってすまない、シンフォニアリリー」
「何でお前がここにいるのかなぁ」
史上初の無敗の3冠様が見舞いにやってくるなんて聞いてないんだけど。取材とかで忙しいんじゃないの?
「取材は一段落着いたよ。元々見舞いにはいく予定だったのだが、時間がなかなか取れなくてね。シンプルで申し訳ないがフルーツの盛り合わせで良いかい?」
「明日には退院なんだけど、貰えるものは貰っておく」
病室(一応個室)にフルーツ特有の甘い匂いが充満する。病院食は味気ないものばっかりだったし、フルーツゼリーぐらいしか甘いものを食べてなかったから、こういう新鮮味のある匂いは食欲がそそられる。じゅるり。
「んで、何の用?」
「大した用じゃないんだ、ただ次のレースは何を走るのか聞いておきたくてね」
次と聞かれて私は、胸に穴が開いたような感覚を覚えた。3冠を目標としていた私は、あの日は世界なんて大きな目標を目指したけど、結局負けてしまった。シンボリルドルフが世界を口にするなら分かるが、私が言ったところで無謀な挑戦だと笑われるのがオチなんじゃないか。
「菊花賞、あの日君は最高の仕上がりを見せてくれた。私の領域と張り合うために追込を選び、長距離のスパート、何か一つでも違えていたら負けていたかもしれない緊張感。最後にまさかハナ差まで縮められるとは思わなかった。今思い出しても高揚する、とても心地いい時間だった。君もそうだろう?」
「そう、だね。あのレースは最後の最後まで全力で走り抜けた、お前と競い合えたって思える、良いレースだったよ」
「私はまた、あの最高の気分を味わいたい。それにはライバルである君が必要なんだ」
私をライバルと呼んでくれた。全身が痺れるようなこの感覚を今後忘れることはないだろう。シンボリルドルフ本人に、自分と肩を並べる存在だと認められた。その事実がとても心地良いのに、胸の穴は広がっていく気分だ。
私はシンボリルドルフに勝ててない。肩を並べる? 違う、シンボリルドルフは私の一歩前を進んでいる、そして私より早く勝利を掴む。今後もシンボリルドルフと走り続けて、私は何度屈辱を味わえばいい。
勝ちたい。シンボリルドルフに勝って私が最高のウマ娘だって、私を選んで良かったってトレーナーに言わせたい。
このまま2番に甘んじ続けるのなんて、嫌だ。
「……悪いけど、お前とはもう走らない」
「っ?! 何故? 君も私と走りたいと思っているはずだ」
「走りたいと勝ちたいは違うんだよ、ルドルフ。私はお前に勝つために、世界に行く」
「世界……」
日本でシンボリルドルフは最強格だろう。でも世界で通用するかと言われたら疑問に思う人も大勢いるだろう。日本のウマ娘の海外レースの戦績は芳しくない。シンボリルドルフならという期待はあるだろうが、それでも不安のほうが大きいだろう。
そんな世界に身を置いて、私は強くなる。勿論シンボリルドルフだって強くなる。もし戦うとするなら、世界最強の称号を獲った後、改めてお前に挑戦状を叩きつける。
「私は凱旋門賞を勝つまで、お前とは走らない」
「勝てると、思っているのか?」
流石のシンボリルドルフも私が勝てるとは思ってないらしい。それでも、お前に勝つために必要なら、それで勝つことが出来なくても、後悔はない。
「首洗って待ってろよ皇帝」
「そうか……なら、私は日本の頂点で座して待とう」
そう言ってシンボリルドルフは病室を後にした。
せめてトレーナーに相談しとくんだったなと思う。