皇帝のライバル   作:喜怒哀LUCK

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プロローグ

 ウマ娘として生を受けた、けれど走りたいという欲は持たなかった。

 テレビでレースをしている姿を見ても少しも心が高めかず、逆にレースに勝ったウマ娘の側で、負けて辛そうに息を吐いているウマ娘を見て、なんでこんなことをしているんだろうと思った。

 走ることの何がそんなに楽しいんだろう、ずっとそう思っていた。

 ある日、私は同じ歳くらいのウマ娘に、会って早々勝負を仕掛けられた。

 親は走ることに興味を示さない私を考えてか、小さなウマ娘用のコースに連れて行ってくれた。そこには結構な人数のウマ娘達がいて、元気に走り回っていた。そこで私は少し走ってみたけど、やっぱり何も感じられなかった。

 

 おいお前、私と勝負しろ。

 

 不意にそんな言葉を投げ掛けられた。

 勝負と言われてもなぁとか考えていると、そのウマ娘はなんやかんやレースの説明を始めた。そのコースは一周800mで、それを先に一周できた方の勝ち、らしい。

 さっさと準備しろと言うその娘が煩いので、一回だけ付き合ってやればもう構ってこないだろうと思い、一度だけ走ってみることにした。

 

その娘はとてもスタートが上手かった。始まって一瞬でかなりの差をつけられ、焦って追いかけた。別に勝ち負けにこだわりはないが、どうせ走るなら勝った方が気分もいいだろうと、真面目に走った。

 走りに興味がない私とは違い、その娘はコーナーの走り方も上手くきっちり内側を走るのに対し、私は外に大きく膨らんで行く。最終コーナーを曲がる頃には、すでに5バ身の差ができていた。

 最後の直線勝負、私は生まれて初めてであろう、本気の本気で走った。

 

 周りの景色が後ろへと流れていく。

 

 そのことにとても驚いた、まさか私が本気で走るとこんなにスピードが出るとは思ってもいなかった。さっきまで前を走っていたのに、後ろを振り返り目を見開いているあの娘がもうすぐ隣まで来ていた。

 いくら800mとはいえまだ子供で、本気で走ることなんて初めての私は、息も荒く、心臓が大きく脈打ってるのが分かった。肺が痛い、もう走るのを止めたいという身体の悲鳴とは裏腹に、身体が熱くなり、興奮が収まらなかった。

 残り100m、あの娘も負けじと加速するが、私の方が少しだけ速い。ジリジリと迫るゴールに、あと少し、あと少しで追い越せる。わずかにだが、私が先にゴールした。

 走り切って、倒れそうになるのを膝に手を着いて我慢する。

 

 辛い、苦しい。だけど、なんか凄い。

 

 走ることは、こういうことだったのか。レースをするというのは、こういうことだったのか。知らなかったとはいえ、まさかこんなものがあったなんて。なるほど、皆がレースに興味を持つのも頷けた。

 

 ……お前、名前は。

 

 そうだ、すっかり忘れていた。私は勝負をしていたんだった。名前を聞かれて、そのことを思い出した。

 その娘は泣きそうな顔をして私に指を刺していた。親から人に指を刺すなと教わらなかったのだろうか。

 

「シンフォニアリリー。リリーかシンフォニーって呼んで」

「シンフォニアリリー、覚えたぞその名前」

 

 リリーかシンフォニーって言っているのに、この娘は少し頭が悪いのかもしれない。

 私の名前はーーとなんか言っているが、私の興味はもうその娘にはなかった。

 あの興奮をもう一度、次はもっと多くのウマ娘と、ちゃんとしたレースで。

 これが私のウマ娘としての、本当のスタートになったのだった。

 

 そして月日は流れ、12歳の春。

 

日本ウマ娘トレーニングセンター学園へ、私は入学した。

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