オベイユアマスターと名乗ったウマ娘は私とそんなに背が変わらないのに、割と幼い顔立ちをしている。日本にもまるで小学生かと見間違うような娘もいるが、その娘は体も小さい。オベイユアマスターは身体はそれなりだから、チグハグとした印象だ。
『オベイはまだエレメンタリーの5や。早くに本格化が来てしまったさかい、学校のほうが頼んできてな。まぁ無理はしん程度に面倒見とるんや』
アメリカの学校制度はよくわかんないから東条トレーナーに聞くと、日本でいう大体5年生くらいらしい。
それでもその年で才能を認められて指導を受けているなんて、凄いな。日本だと名門がお抱えの専属トレーナーが教えるくらいでしかありえない。アメリカだとこれが普通にあるんだろうか、そりゃ経験の差が出るよなぁ。
『どや嬢ちゃん、交流も兼ねてオベイと少し並走でもしてみるか?』
「えっいいの?」
「クリス氏とシンフォニアリリーが良いなら。あまり無理しないのよ」
走るのは明日からだと思ってたからこれは嬉しい誤算だ。アメリカのウマ娘が走る姿を見てうずうずしてたんだよね。ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
更衣室を貸してもらいトレーニングウェアとシューズに履き替える。柔軟運動を十分にしていると、周りに多くのウマ娘達が集まってきた。トレーナーらしき人もチラホラ見かけるし、ここに集まっているチームが興味深さに見学に来たって感じかな。
『とりあえずこのコースを一周してもらおか。ほないくで~? スタート』
クリスさんが上げていた手を下したのを合図に走り出す、のだが。早々にバランスを崩した。このコース走ってみるとわかるけど、結構重めっていうか、あんまり手入れされてない?
アメリカは芝よりダートが主だって聞いたことあるけど、それにしてもここまで差があるものなの?ある程度は手入れされてるけど、日本のトレセン学園みたいに毎日されているわけじゃないってことか。
私が戸惑っている間にオベイユアマスターはどんどん前に進んでいっている。並走なんだし、多少無理してでも追い付かないと。
そう思ってバランスを崩しながらもなんとか後ろに着けることができた。っていうかなんか速くない、逃げ馬を相手にしてるくらいのペースで走ってるけど、このペースでまさか最後まで持つの?私は走り切ることはできると思うけど、オベイユアマスターは本格化を迎えたとはいえまだ小5だよね。そこまでスタミナがあるとは思えないんだけど。
そう思いながら着いていくけど、ペースは落ちる気配を見せない。多少疲れは感じてるだろうけどまだまだ余裕って感じだ。つまりこれがこの娘の普通ってことか。
「(とはいえ、ついて行くのがやっとだなぁ)」
オベイユアマスターに合わせて行こうと思えば、私の走りはまだこっちに慣れていない分遅れが出るし、スタミナを多く削っていく。私のペースに巻き込めばそうはなくなるけど、それは可哀そうだしな。仕方なく合わせて行くけど、並走が終わるまでに上手く慣れたらいいんだけどね。
『……ねぇ日本のウマ娘』
「? どうしたの?」
『貴方の実力って、こんなものなの……?』
そこには明らかに落胆の色があって、小5にして本格化を迎えて自分よりも2年以上先に生まれたウマ娘と鎬を削りあっているオベイユアマスターにとっては、トレーナーの指示とはいえ、日本から来たウマ娘に多少の期待と身になる何かを求めたのに、それが走るのに悪戦苦闘していちゃ、そうもなるか。
でもねオベイちゃん、喧嘩売る相手間違ってるよ。
「OK、クリスさんには悪いけど、並走はここまでにしてあげるよ」
今度はこっちのペースで走ってもらうから、覚悟してね。
ターフをぐっと上から潰すように踏み込み、体勢を今よりも前に倒す。そうすることによって蹴り上げた時の推進力を無理やり前へと変える。次の脚が着く前に浮き上がった身体を戻し繰り返す。
上体が上下する不格好な走りだけど、今の私が思いっきり走るなら、とりあえずこれだ。
オベイちゃんについて行くのがやっとだった私が急にスピードを上げ、並ぶどころか追い抜き突き放そうとするのを見て、オベイちゃんは驚きながらも加速し始めた。
「くっそ走り難い! 全然スピードに乗れないし最悪だよもう!」
『(なんてバラバラな走り方! それなのになんでこんなに速い!?)』
最高速に達しても、それは今までの私からしたら不満の残る速さでしかない。それでもオベイちゃんは着いてくることさへ出来ずに、じりじりと離されていくのがやっとだ。それもスタミナが尽きるまでの間で、私の速さに合わせてしまったせいで急にペースが乱された代償に最後はガクッとスピードが落ちていた。
最終的には4バ身程の差で私が先に1周した。
一応本気で走ったけど、4バ身か。並走と競争の違いがあるとはいえ、夏の合宿でのルドルフと同じ差か。勿論他にも違いがあるけど、ポテンシャルは間違いなく高い。
「凄く速いねオベイちゃん。また並走お願いしてもいいかな?」
『皮肉かしら? 勘弁して欲しいね』
とりあえずの目標は、トレーナーが来るまでにこっちでの走り方を身に着けて、いつもの速さを出せるようにすること、かな?