皇帝のライバル   作:喜怒哀LUCK

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自覚

 ゾーンに入ったことがある、そう聞いて私は南坂Tに今まで私が走ったレースの映像を送ってもらった。実感がないとは言われたけど、後になって気づくどころか誰かに言われて気づくくらいって、どんだけよ。

 まぁ取り敢えずメイクデビュー戦から見ていく。でもデビューしたばかりの頃はレース経験が無さすぎてあれこれ試しながら走ってたから違うと思うけど、一応ね。……うわ〜、スタート下手くそすぎない?周りの動向探ろうとしてキョロキョロしてるしレースに全然集中できてない……走り方雑ぅ、げっそんなところで前に出るの?コーナリング下手すぎて外に膨らみまくってるし、あっでも直線は早い……、えぇ……なんであれで勝ててんの私……。

 今の私が見たら恥ずかしくて顔真っ赤になりそうなくらいの走りしてるのに、満面の笑みでライブ踊ってるし、頼むからお前やめてくれ。

 

『リリー、何やってんの?』

「無視してくれると嬉しいかな……」

『そう?』

 

 悶えすぎてオベイちゃんに怪訝な目をされた、くっコロ。

 気を取り直して次々レースを見ていくけど最初の方、ホープフルくらいまではまだレース慣れしてないのがわかる、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。ホープフルは囲まれてどうにか抜け出そうとしてたし、考えすぎて絶対ゾーンには入って無さそうなんだよなぁ。

 となったらやっぱり3冠か。

 皐月賞、初めてルドルフと走ったレースだからか、お互い意識しまくってたし、ルドルフに勝つために良い位置でスパートしようとしてたから前半は入ってない。後半すぐにルドルフがスパートを始めて、追いかけるように私もスパートしたけど、最終直線はバチバチに隣で競い合ってたから無理として、それまでの間だけど、特に変わった様子は見られない。

 東京優駿、ほぼ序盤からルドルフとバチバチに競い合って、ルドルフの一挙手一投足を見逃さないようにしてたから、ゾーンには入ってないだろう。強いて言うなら最終コーナーで私はアウトを、ルドルフがインを走ってた時くらいはお互いの場所くらいしか意識してなかったからと可能性はあるけど、ゾーンに入っていたかと言われたら疑問に残る。

 菊花賞、初めて追い込みを選んで走ったレース。立ち回りは他より脚質より難しくはなかったけど、ルドルフのレース運びの影響を受けた娘達が目の前にいるから、反応を早くしないと後手に回ってしまうし、そうならないようにルドルフの意図に集中してたから前半は少なくともない。後半坂を上る前くらいはペースやポジションは安定してたけど、特に変わった感じはなかった。坂でもスピードの出し過ぎに注意してたからなぁ。

 そういや菊花賞では最終直線で意識失ってたっけ。よくよく考えたら危ないよなぁ。いくら勝ちたかったからって行っても、ゴール超えてまで走るって、どんだけ走りに集中してたんだか。

 

「でも、1バ身は離れていたのに結果はハナ差だった」

 

 ルドルフも疲れていたし領域も切れていたけど、それはこっちだって同じだし、差が縮まる要素なんて見当たらない。

 

「……可能性としては、あるけど」

 

 試すにしても、ちょっとリスキー。少なくとも隣で制御できる娘がいないと。

 

「あ、いるじゃん。ヘイ!オベイちゃんちょっといーい?」

『悶えたり急に真剣な表情になったり忙しいのね、どうしたの?』

「ちょっと並走して欲しいんだけど」

『? いいわよそのくらいなら』

「ありがと。もしぶっ倒れそうになったら支えてね!」

『……は?』

 

 というわけで、練習の時間になってある程度のトレーニングを済ませた後、個人トレーニングで私はオベイちゃんに並走してもらう。あの時を再現するために私は3000m走るけど、オベイちゃんにはまだキツいと思うから私が1000m走るくらいで合流できるように流してもらって、それから本格的に並走する。

 2人で走るくらいなら特に何も考えなくても良いから走ることに集中できる、最終直線なんかは特にだ。むしろそこまでに走ること以外考えられないくらいスタミナを消耗させなくちゃいけない。まぁ2000mを超えたあたりから結構キツくなって、まだ余裕があるオベイちゃんと並んで走るだけでも割とギリギリまで追い込んでる感じがする。

 そして最終直線、スパートを初めて2人で加速する。スタミナが尽きかけてる私とオベイちゃんでは、元々の差があって同じくらいのスピードになる。ゴールに近づくにつれて徐々に差がつき始めてきた。

 

(ここで、崩れていたフォームを直す。一呼吸入れる、前を向く……)

 

 そして、そのままゴールする。結局2バ身差遅れて私がゴールしただけ。特にゾーンに入った感覚も、意識が飛ぶくらいまで集中することもなく、3000mを走り切った。オベイちゃんは息を整えながら何がしたかったの?という視線をぶつけてくる。折角転ばないように隣で走ってくれてたのに、ごめんね。

 ゾーンに入っていないのは、まだ何か足りない要素があるのか、私が集中し切れていないのか、どちらかだろう。流石にこの練習は1日1回が限度、あんまりやりすぎると負担が大きくなりすぎて、まだ成長期のオベイちゃんには申し訳ない。まぁ毎回付き合ってもらうけど。

 だけど2週間経っても、ゾーンに入る気配はなかった。勿論スタミナをもっと追い込んだり、距離も変えて試したけど一向に兆しが見えない、集中力を鍛えるために針穴に糸を通すとか迷走もしたけど。

 これ以上はオベイちゃんに無理に付き合わせるのは可哀想だし、実入のないことを続けてもしょうがない。クリスさんは実力が上の相手をするだけでも成長は見込めるってオベイちゃんに言ってたけど、流石にね。

 今日でラストにしようって思いながら走る、既に集中し切れてない気もするけど。基本最終直線で以外では使えないだろうから、それまでは多めにみて欲しい。

 その最終直線で、恒例となった深呼吸、フォームを直す、前を向く。そして走ることだけを考え

 

 

「あっ、リリーさん」

 

 

 南坂Tじゃん。うっわ久しぶり、元気してた?って電話してるから知ってるけど、でも今日来るなんて言ってなかったじゃん。

 最終直線の向こうのラチの外で手を振っているトレーナーを見て、テンションが上がる。サプライズのつもりって言うよりはこっちに来る準備ができたから一刻も早く来ようと思って連絡忘れてたパターンでしょ。どんだけ私に会いたかったのよ。

 

「トレーナー久しぶり。来るの遅いよー」

「これでも頑張ったつもりなのですが。リリーさんもお変わりないようで安心しました」

『ちょっ……リリー……』

「あっオベイちゃん、紹介するよ。これが私のトレーナーの」

『待って……ちょっとだけ……貴女……急に、速すぎるのよ……』

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