皇帝のライバル   作:喜怒哀LUCK

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目標

 息を整えていたら不意に声をかけられた。声の方向へ顔を向けると、若い男性がふわりと笑いながら佇んでいた。胸にはトレーナーバッヂを付けているところから、トレーナーなのだろう。

 

「はい、何でしょう?」

「少し聞きたいことがありまして。今お時間よろしいですか?」

「トレーニングもこれで終わりですし、どうぞいくらでも」

「まず貴女は今年の新入生ですよね。一応全員とは言いませんが、この学校に在籍しているウマ娘は大体顔を見たことがあるので。貴女は初めてだったと思います」

 

 その問いに頷いて答える。それにしても凄いな、名前と顔が完全一致している訳ではないだろうが、それでもほとんどのウマ娘の顔を覚えていることになる。

 私が新入生かと聞いたのは、つまり私がまだスカウトのされてないウマ娘かの確認だったのだろう。基本トレーニングはトレーナーが付いているものだが、放任主義なトレーナーも一部居るので、念のためと行ったところか。

 

「では。貴女は来週の選抜レースに出られますか?」

 

 選抜レース。トレーナーやチームに所属していないウマ娘が、日頃の成果として模擬レースを行い、自分の長所などアピールしてスカウトを待つもの。ほとんどのウマ娘がそこでスカウトされるか、もしくはチームへの加入レースも同時に行われることがあるので、そちらで入りたいチームのレースへ出走し、目に止まれば加入することができる。

 勿論私も出走するつもりだ。チームはまぁ、それぞれのやり方があってそれが肌に合わないこともあるし、もし自分に合いそうなチームがあれば行きたいとも思うが、今のところ前者で考えている。

 そう伝えると、トレーナー(多分)さんは、なるほど、と頷いた。

 

「芝ですよね。距離は、マイルですか?」

「なぜ芝やマイルだと思ったので?」

「今走っていたコースが芝なので。それに最後の末脚、スピードはマイラーのそれだと。新入生は長距離を走ったことがない方が多いので、中距離か迷ったのですが」

 

 あぁ、この人本当に良く見てるな。確かに私は長距離を走ったことがない、精々2000mまでだ。別にスタミナがないわけではないが、距離が伸びれば伸びるほど足への負担は大きくなるし、まだ身体ができてない内にそこまでする必要はない。

 

「いえ、中距離を走ろうと思ってます」

「理由をお聞きしても?」

「私の目標がクラシック3冠だからです。マイルも走るとは思いますが、中長距離をメインに考えてます」

「なるほど、3冠ですか」

 

 3冠ウマ娘。スプリンターマイラーのウマ娘以外が憧れる、というか伝説に残るような偉業だ。今までに3名しかその偉業を成し得ていない、達成難易度があまりにも高く、厳しい。現生徒会長のシンザン会長や2つ先輩のミスターシービー先輩が獲ったことで有名である。

 こう聞くと割と獲れるんじゃないかと思われるが、この二人が別格に強かっただけで、本当はめちゃくちゃ難しいんだから。

 

「わかりました。これで聞きたいことはありません、お時間いただきありがとうございました」

「いえいえ」

「それでは来週の選抜レース、頑張ってください」

 

 そう言ってトレーナー(多分)さんは、去っていった。

 なんだスカウトじゃないのか。

 

「ま、そう簡単じゃないよねー」

 

 選抜レース、そこでできれば専属ないし少人数担当(チームとして認められるのは5人以上受け持っているトレーナーのみ)のトレーナーさんにスカウトされれば嬉しいのだが、皆それは同じだろう。まだ入学したばかりで周りの皆の実力もわからないし、いざ走ってみるとなるとレース展開次第ではどう転ぶかわからない。

 

 それでも、負けるつもりは一切ないけどね。

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