皇帝のライバル   作:喜怒哀LUCK

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初陣

 それから私とトレーナーとの生活は順調に過ぎていった。トレーナーはレース経験の浅い私に、私に似た脚質のウマ娘のレース動画を何本も持ってきてくれ、細かい解説までしてくれた。勿論私もレースの動画は見たことがあるが、それはテレビで大きなレースをやっている時に見たくらいなので、その本数は絶対的に少ない。コースごとに特徴があるため、いつどのレースを走るときでも覚えておいて損はないものだ。

 私はどちらかというと感覚派なので動画を見ても全部理解したことにならない。その度にコースへ出て試しに走ってみるというのを繰り返した。地道な作業だが、この積み重ねの先にシンボリルドルフがいると思うと、根を上げてはいられない。

 そうそう、そのシンボリルドルフだが、結局チームに所属したとトレーナーから聞いた。何でも東条という優秀なトレーナーを輩出している名家出の女性が立ち上げた、リギルというチームらしい。有名な所属ウマ娘で言うと、マルゼンスキー先輩かな。

 名家のトレーナー×名家のウマ娘、強くならないわけがない。油断するつもりはないが、より一層気を引き締めてトレーニングに臨まないといけないみたいだ。

 トレーニングの締めには、2000mを一本タイム層する。デビュー戦でも2000mを走るつもりだし、その調整と追い込みをかける。動画で見て得られた知識を実際に試してみて、どうしたら早くなるのか、どのタイミングで使うべきか、把握しておくためだ。

 これが私たちの1日のルーティーンである。

 

「今のタイム1:58.2、上がり3ハロンは32.2、素晴らしいタイムです。そしていつも思いますがとんでもない末脚ですね」

「ふっふーん、何てったって私の1番の武器だからね!」

「この調子ならデビュー戦も問題なさそうですね」

「えっ申請通ったの!?」

 

 デビュー戦と聞いて思わず心が躍る。何戦もする以上、デビューは早いうちにしておいた方が良いので、早めにレースへの出走登録申請を出していた。

 

「えぇ、2週間後の中山レース場の第10Rに、メイクデビュー戦としてリリーさんの出走が決まりました」

「そっかぁ……私もついにデビューかぁ」

 

 中々申請が通らなかったのだが、ようやく私のデビュー戦が決まり、思わず顔が緩んでしまう。トレーナーと契約してウマ娘としての一歩は踏み出していたが、大事な3年間を歩むのはデビューが決まってからである。競技者としての人生は今から始まるのだ。

 そうと決まればこうしちゃいられない。

 

「トレーナー、もう一本走りたい!」

「一本だけですよ、それ以上は明日に疲れを残します」

「オッケー!いつでもいーよー!」

「それでは、スタート!」

 

 

 そして私のデビュー戦の日がやってきた。私は6枠、選抜レースの情報が入っているからか1番人気に押されていた。そのことは嬉しいが、その分他のウマ娘にマークされやすくなる。少しやりにくさを感じるだろうが、レース経験を積むには良い練習になるだろう。勿論勝つ前提でだけど。

 レースへは動きやすい体操服へ着替える。短パンかブルマかを選べるが、私は短パン派だ。というかブルマって古くね、それになんかえっちぃし。絶対上の人たちの趣味でしょ、知らんけど。

 パドックで観客にお披露目タイムがあり、コースへと繋がるトンネルを抜ける。トンネルから出てすぐの観客席に、トレーナーはいた。

 

「リリーさん、緊張はしてますか?」

「少し。やっぱり本番は違うね、なんかこう、雰囲気が違うよ」

 

 空気が重くピリッと張り詰めている。どのウマ娘も鍛えられた身体をしていて、一筋縄にはいかなさそうだ。デビュー戦でこれなら、逆に言ったらこういうウマ娘しかいないということだ。私がこれから挑むのは、こういう世界なのだと伝わってくる。

 しかしそれ以上に興奮する。きっとここでなら私と本気で走っても競ってくれる、楽しませてくれるだろう。

 

「トレーナー」

「はい」

「勝ってくるね。お祝いよろしく」

「はい。いってらっしゃい」

 

 

『さぁいよいよ迎えます第10R、新進気鋭のウマ娘たちがこの時を待っていた。ここから彼女たちの一歩が始まる。勝って弾みをつけるのはどのウマ娘か』

『8人中1番人気は6枠6番シンフォニアリリー、前情報では凄い切れ味の末脚を持っているとのこと。デビュー戦でも緊張せずに実力を発揮できるでしょうか』

『最後の1人がゲートに収まりまして……スタートしました。全員揃って綺麗なスタートを切った、さぁここからハナを奪っていくのは2番サンデーサタデーと4番シーサイドブルー、この2人の競り合いです。そこから2バ身1番8番5番3番と続いて1番人気シンフォニアリリーがその先頭集団の1番後ろに陣取っています。そこから3バ身離れて7番が最後尾を進みます』

 

 レースが始まり、私は先頭集団の後ろに着けた。選抜レースと違うのは、離れず真後ろにつけることで前へのプレッシャーと、風除けにして余計なスタミナを使わないようにするためだ。真後ろにつけているウマ娘は1番人気の私を気にしてか落ち着いてない様子。このままだとバテて下がってくるかもしれない、そう思って少しだけ距離を取ることにした。

 

『さぁ第2コーナーをまわります、2番サンデーサタデーと4番シーサイドブルー、気持ちよくハナを進みます。6番シンフォニアリリー、外に回って少し順位を上げる先頭集団と並んだぞ』

『順位を振り返っていきます。2番サンデーサタデーのすぐ後ろ4番シーサイドブルー、2バ身離れて3番と6番、内に5番と1番、少し後ろに8番と7番、各ウマ娘まとまって団子状態の展開だ』

『第3コーナーに入りました、ここで8番と7番が差を詰めてきた、それに釣られて3番5番1番もスピードを上げていく。押されるように先頭2人も合わせてきた。しかしまだシンフォニアリリーは動かない、果たして間に合うのでしょうか』

 

 私の末脚のことを知っているのか、皆早めにスパートをかけて少しでも差を広げておこうとしている。このまま行かれると外に広がり過ぎて私がスパートをかけようとしても、壁になっていることだろう。

 でもさぁ、そんなにスピード上げて大丈夫?

 

『最終コーナー回って最後の直線へと最初に入ってきたのは2番と4番、懸命に逃げる!外に広がって3番5番1番、1バ身差で8番と7番が横に並んで熾烈なデッドヒートを繰り広げているぞ!1番人気シンフォニアリリーは……あっとこれは、最内から飛び出してきたのはシンフォニアリリーだ、一体どうやって内からやってきたのか!?』

『他のウマ娘たちはコーナーでスピードを上げ過ぎましたね、外に膨らんで内が2人程の幅ができています。そこを綺麗に突いてきましたシンフォニアリリー、さぁ期待の末脚を見せてくれ!』

 

 横目にチラッと見ると、しまった!という表情が見て取れる。今から私の進路を塞ぐのは妨害行為と見なされる。つまり私の目の前に壁はない。練習してきた外に寄らないコーナリングで加速もバッチリだ。

 あとはこの足を解放してやるだけ!

 

『シンフォニアリリーがその末脚を爆発させる!一瞬で最高速まで加速して突き進む、先頭となら、なら、並ばない!並ばずそのまま差を広げていく!それにしてもなんという末脚、まるで銃弾のような走りだ!』

 

 一歩毎に踏み込んだ足がターフを蹴り上げて、さらなるスピードへと誘っていく。すでに先頭は抜かしたが、選抜レースの時よりも遠ざかる足音がゆっくりだ。そしてまだ諦めんとばかりに息を荒くして追いかけてくる。そうだよ、その熱さを待っていた。私に競り合おうと、喰らいつこうとするその想いが、私を興奮させてくれる。

 まだ、まだもっと、もっと私を楽しませて!

 

『各ウマ娘必死に追い縋るが、シンフォニアリリー止まらない!ドンドンと差を広げて、今ゴールイン!勝ったのは6番シンフォニアリリー!2着には4番シーサイドブルー!』

『いやはや、とんでもない切れ味とは聞いていましたが、まさかここまでとは思いませんでした。勝って弾みをつけたのはシンフォニアリリー、今から次走への期待が高まります』

 

 まだまだ続いて欲しかったが、レースは終わってしまった。少し物足りないが、このレースへは課題を持って望んでいる。ラストスパートで壁を造られないように立ち回ることだ。デビュー戦でやることではないが、これは達成できたと言っても良いだろう。

 ゴールの先でトレーナーが手を振って笑っている。あれちょっと泣いてない?初めての担当ウマ娘が勝利したんだから当然っちゃ当然か。

 こちらも手を振ってやると観客席から歓声が上がった。皆、凄かったや、次のレースも観にくると言ってくれる。直接的な称賛に照れるが、ここはちゃんと答えてあげないといけない。

 

「シンフォニーかリリーって呼んでねー!次も勝つから、応援よろしくぅ!」

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