皇帝のライバル   作:喜怒哀LUCK

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結局勝負服の挿絵は描けなかった、画才がない……

それで1ヶ月強待たせてしまって申し訳ないです


GⅠ

 ホープフルステークス。デビューして1年未満のジュニア期と呼ばれるウマ娘達が出走できる3つのGⅠレース、その1つに私は出走することが決まった。デビュー戦から重賞レースを含めて5連勝だから当然と言えば当然なのだが、やはり重賞でもGⅠともなれば格が違うのか、周りからの視線も明らかに変わった。同級生からは憧れと悔しさ、先輩たちからは敵愾心と威圧感を感じる。

 そりゃ確率的に言えば、全ウマ娘が競技ウマ娘生の中で一生のうちに一回出られるかどうかってレースなのだから、そうなる気持ちもわかるが、そんな視線を毎日浴びせられるこっちとしては堪ったもんじゃない。私は隠れるようにトレーナー室に逃げ込んだ。流石にここまでは他のウマ娘たちも追ってこないだろう。

 

「そういえばトレーナーは会議だっけ」

 

 トレーナー室に行けば大抵いつもは居る南坂Tが居ないことに気づき、そういえば会議があると行っていたことを思い出す。トレーナー業も担当ウマ娘を育てるだけが仕事ではなく、トレーニングのために使うコースやジムの貸し出し、遠征、情報交換等、やることは多い。そういったことをたまに会議でまとめ合う日が今日らしい。

 まだトレーニングの時間にはなっていないので、それまではゆっくりさせて貰おう。

 

「おっ、これってもしかして」

 

 テーブルに丁寧に包装された箱が置いてある。ある予想を立てて開けてみると、私の勝負服が入っていた。

 勝負服はGⅠレースでのみ着用が許可される、着るウマ娘を表したデザインとなっていて、これを着ることも全ウマ娘の憧れの一つであり、かくいう私もその1人だ。G1出走が決まってからある程度要望があれば聞き届けられるらしく、少しだけ注文しておいたのだが、それを踏まえてできたのがこの勝負服なのだろう。

 本来ならトレーナーに聞いてから着るのだが、ちょっとだけならいいだろうと思って着替えてみた。

 

「うん……いいね。なんか力が漲る気がする……!」

 

 侍や新撰組をイメージした羽織と袴、私がお願いしたデザインだ。

 なんでこんな感じにしたかというと、シンボリルドルフが関係してくる。あいつは強い、同世代のみならず上の世代と比べても間違いなく最上位に入るほどにだ。比べて私はかなりの成績を残しているけど、見劣りするのは間違いない。それでも私はシンボリルドルフに勝つ、圧倒的強者に寒門のウマ娘が下克上をする、そう言った意味があってこのデザインにした。

 ジャイアントキリングと下克上、どっちかで迷ったのだが、コイントスというのは便利なものだ。

 

「何この帯、頭に巻くには長いし……あぁ、サラシか」

 

 羽織と袴は割と簡単に着付けることができたが、箱の中に入っていた白い帯に戸惑った。鉢巻かと思ったが、その長さからして胸に巻くサラシなのだと理解する。身体に巻き付けて行くのだが、最後に結ぶために位置を合わせたいけど、それが中々うまくいかない。解いては巻き直し、解いては巻き直しを繰り返すが、位置が合わなかったり、背中の届かないところで結ぶことになったり、意外と難しい。誰かが手伝ってくれればありがたいのだが。

 そうこうしていると、不意にトレーナー室のドアが開く。

 

「…………え?」

「あぁちょうど良かったトレーナー、サラシ巻くの手つ」

「す、すみません!!」

 

 まぁこのトレーナー室に入ってくるのなんて南坂Tしかいないのだが、トレーナーは私を認識すると顔を真っ赤にして勢いよく飛び出した。

 ふむ。状況を整理しよう。私はサラシを巻いていた。ただ結び辛かったので羽織を半脱ぎ状態になっていて、上半身はほぼ現わだった。そこにサラシを巻いていた(当然ノーブラ)。

 なるほど、謎は解けた。

 

「トレーナー、別に私は気にしないから入ってきていーよー」

『気にするのは私なんですけど!?というかリリーさんも女の子なんですから少しは気にしてください!』

「や、でもさ、サラシが上手く巻けなくてさ、手伝って欲しいんだけど」

『誰か女性を呼んでくるので待っていてください!』

 

 数分後、トレセン学園の理事長秘書であるたづなさんが来てくれて手伝ってくれた。そしてトレーナーと一緒に、もう少し情操観念を持てと説教された。

 

 

 12月某日、いよいよホープフルステークスの日がやってきた。

 

『年末の大一番、ジュニア級のウマ娘が目指すレースの最高峰のその1つ、GⅠホープフルステークス。観客席は超満員、誰もが歴史に名を残すその瞬間を目に焼き付けようとしています。さぁ勝って歴史に名を刻むのはどのウマ娘でしょうか』

 

 コースへと続くトンネルを抜けると、割れんばかりの歓声が身体に叩きつけられた。GⅠレースともなれば注目度も段違い、トップエンタメとされるウマ娘のレースを生で見ようと駆け付けた人たちで観客席は満員となっている。同じ重賞でもGⅢではここまでじゃなかった。やはりジュニア級とはいえGⅠというのは、それ程に価値があるということだ、それこそ勝ったウマ娘に惜しみない賞賛と栄誉が与えられるのだろう。

 そう思えば、そろそろ喧しくて仕方がないこの歓声も我慢できるというものだ。というかそう考えないとやってられない、ウマ娘は人より五感が優れているのだ、ちょっと気を抜くと頭が痛くなる。

 しかしそんなことも言ってられない、なぜなら私がコースへ入った瞬間から、刺すような視線を幾つも受けたからだ。

 

『4番人気7番フルフライト、逃げの名手、豊富なスタミナで今日もハナから全開を見せてくれるのか』

『3番人気3番マーチングキャップ、小柄ながらもパワフルなウマ娘、有利なポジションを意地でも譲らないその根性で勝ちをもぎ取るのか』

『2番人気11番ハッピーストライク、掛かりやすさはあるものの、その実力は他と比べて頭一つ抜けています。冷静なレース運びができれば1着もありえる私一推しのウマ娘です』

 

 彼女達はこのホープフルステークスに出走し、皐月賞にも出走表明を出していて、別々のレースに出ればそれぞれ1番人気は間違いない、確かな実力を持っている。

 

『そして1番人気18番シンフォニアリリー、見る度に度肝を抜かれる驚異の末脚、その切れ味は日本刀を思わせます。勝負服も相まって正にサムライといった出立ち。最終直線での牛蒡抜きは彼女の代名詞、観客も彼女に期待しています』

 

 そんな彼女達が揃って私を見ているのは、一度私に負けているからだ。フルフライトはデビュー戦の次に、マーチングキャップはその次、ハッピーストライクは前走の京都ジュニアステークスで戦った。その全てで私は1番人気で彼女達は2番人気、最後に全てを捲ってしまう逆転劇は世間ウケが良い、そういった面もあって人気になりやすいのだろう。

 そう、彼女達にとってはリベンジマッチであり、皐月賞へのいい足掛かりとなるのだ。

 

『各ウマ娘ゲートへと収まります……スタートしました。ハナを奪っていったのはやはり7番フルフライト、最初から飛ばしていきます。続いて6番と8番が先頭を行くのを諦めたかフルフライトとは2バ身程離れて進みます。2番人気ハッピーストライクと3番人気マーチングキャップはその後方2バ身の所で一団を形成しています、ハッピーストライクは掛からずに済むのでしょうか。1番人気シンフォニアリリーは8番手、バ群の中で脚をためています』

 

 今回私は大外からのスタート、距離を走る分スタミナをより多く使う。いつもならバ群の後ろで動きを観察するのだが、それよりも内に入ることで少しでも消耗を抑えることを選んだ。

 それにしてもフルフライト、前回やった時より速くない?トレーニングを積んだから速いってレベルじゃ説明できないくらいに逃げている。あれじゃ遠からずスタミナ切れで下がってくるでしょ。

 

『第1コーナーから第2コーナーへ。先頭を進むのは7番フルフライト、掛かっているのでしょうか凄い勢いで逃げていきます、最後までスタミナは保つのでしょうか。6バ身程離れて6番と8番、そこからさらに2バ身離れてハッピーストライク、すぐ外マーチングキャップ、後ろに12番、9番、内にシンフォニアリリー、外に1番、5番が一体となって進んでいきます。1番人気シンフォニアリリー、この位置につけていますが、どうでしょうかこの考え』

『最終直線で捲るために脚を貯めていますね。フルフライトはそれまでにどれだけ差を広げられるか注目していきましょう』

『さぁレースは1000mを通過したところです。タイムはなんと57.9!しかしフルフライト辛そうだ。それを見てハッピーストライクとマーチングキャップが前との差を詰めてきたぞ、向正面慌ただしくなってきました』

 

 第2コーナーを抜けるとき、フルフライトの横顔を見たけど、かなり辛そうな表情をしていた。あのペースで走り続けるのは大変だろう、保って1400mくらいまでかな。ハッピーストライクとマーチングキャップもそれを分かって位置を上げている。これ以上2人との差が開くと直線で差しきれないかもしれない。スタミナはこのままいけば十分だし、そろそろ私も上がっていこう。

 そう思って前の12番と9番の内を突こうとすると前を塞がれ、外から行こうと思えば1番が真横にピッタリとついて邪魔してくる。仕方ないから多少距離は走るけど、一度後ろに下がろうと思えば、5番が後ろも塞いで完全に囲まれている。

 

「いやいや……え?」

 

 こんなあからさまにこっちの動きを封じてくること、普通ないでしょ。いや、これは慢心か。デビューから5連勝して、重賞も勝った。今日も1番人気に押されている私を脅威に思わないわけがない。そう思った娘が何人もいて、私を封じ込めようと意思を統一した。そういう可能性があるって想像してなかった、私の失敗だ。

 とはいえ、これはキッツイ。どうにか抜け出そうとするけど、どれもキッチリブロックされる。あんまり無理してこじ開けようとしたら降着、最悪レース結果から除外されるかもしれない。

 

『さぁ直線から第3コーナーへと入っていきます先頭は変わらずフルフライトですが、流石に速度が落ちてきたか、リードは8〜9バ身あるが大丈夫か?6番と8番はまだ動かない、少し差を詰めてハッピーストライクとマーチングキャップが位置取り争いをしながら上がっていく。このまま差をつけると捲り切れるか心配になるシンフォニアリリー、そろそろ上がって行きたいが、バ群から抜け出せません』

『完全に囲まれてますね、どうにか抜け出さないと、これはひょっとするかもしれませんよ』

 

 コーナーに入っても私を出すつもりはないらしい。徹底的に私を抑え込みたいようだ。拘束が少しは緩くなるかなって期待したんだけど、無理か。だとしたら少し分が悪いけど、一か八か掛けに出るしかない。

 最終コーナーに入って、私はスパートで速度が上がり外に膨らんでいく前2人の空いた内側を狙う。それを見て12番と9番は多少速度を落としてまで内を閉めてきた、このままだと抜くことはできない。1番もそれに合わせて真横にピタリと着いてくる。それでも私は内側を狙う姿勢を止めない。敢えて外から抜こうとする動きを微塵も見せない。

 外から来ないならって少しでも思わせるために。

 最終コーナーを抜ける直前、私の外を抑えていた1番は速度を上げ、12番と9番に並ぶ。そりゃそうだろう、私を抑えているだけじゃ前の連中を抜くことなんてできない。勝ちたいのは皆一緒だ。けどそれは私の拘束を緩めることになる。

 勝つ為に私を抑えてきた、しかしこのまま抑えていては抜け出すことはできない。抜け出さないと勝つことはできないが、私を解放することになる。

 

 その矛盾から生まれた崩壊を、待っていたよ

 

 空いた外に向かって走り出す。スパートをかけながら少しずつ外に移動するのではない、それでは前の3人が揃って塞ぎにくるだろう。だからその気がなくなるくらい文字通り外ラチに向かって走る。3人がギョッとしているが、外に膨らむのと外に向かって走るのでは移動距離に差がある。勿論前との差は開いていくが、それでも構わない。

 そしてここからなら壁を作りに来ても、私の方が速い!

 

『さぁ最後の直線!最初に上がってきたのはフルフライト!差がなく6番と8番、外からハッピーストライクとマーチングキャップも上がってきたぞ!続いて12番、9番、1番が揃って上がってきた!そして大外からシンフォニアリリーだ!中山の直線は短いぞ、先頭との差は5バ身!果たして間に合うのか!?』

 

 確かに5バ身はかなり厳しい、けど同時に私は熱くなった。あの窮屈な檻も作戦の一つだ、このGⅠという舞台で勝つ為に思考を重ねた結果なのだろう。私もそれを抜け出す為に一か八かの策で切り抜けた。皆が皆策を巡らせ、そうして生まれたのが勝つか負けるかわからない、このギリギリのレース、こういうレースを求めていたんだ、熱くならないわけがない。

 一つ違うとするなら、私は別にこのレースに勝ちたいわけじゃない。私が勝ちたいのは、このレースの先にいるアイツにだ。アイツと肩を並べて走る為に、ただ負けられない(・・・・・・・)だけだ。

 

 だから勝つ!

 

『大外からシンフォニアリリーが上がってきた!1人、また1人と斬り伏せていく!粘るフルフライト、しかしハッピーストライク、続いてマーチングキャップに差し切られる!そしてシンフォニアリリーだ!脅威の末脚がフルフライトを捉えた!そして次はマーチングキャップ、ハッピーストライクに並んで、ああいや並ばない!躱した!差し切った!そしてそのまま1バ身、2バ身着けてゴールイン!勝ったのはシンフォニアリリー!あれだけ囲まれていながら最後はいつもの牛蒡抜き!苦しい戦いでしたが見事1着を手にしました!2着にはハッピーストライク、3着はマーチングキャップ!』

 

 本気の本気、全力中の全力で走ったのはいつぶりだろうか。息は荒くなるし手を膝に着かなければ立っていられない程だ、それだけギリギリの勝負だった。

 どうにか息を整えて顔を上げる、そして腕を天に突き上げた。途端に湧き上がる歓声。その音の振動は今までと段違いだ。疲れた身体に響き渡るような、溢れんばかりの歓声と拍手が降りかかる。

 そっか、勝ったのか私。

 

「……よっしゃー!」

 

 思わずガッツポーズする。GⅠだからって今までと変わらないと思ってたけど、実感が湧いてきたら身体が勝手に動いた。凄いレースだった、皆が知略を張り巡らせた、GⅠに相応しいレースだった。誰が勝ってもおかしくないような、そんなレースで勝てたことが、身にしみて嬉しかった。

 

「結局、負けちゃったか……おめでとうシンフォニアリリー」

「フルフライト……やー、まぁかなりギリギリだったけどね」

「2着に2バ身着けたくせに嫌味か。まぁいつものアンタだったらもった差をつけてただろうし、そう思うのも仕方ないか」

 

 勝利の余韻を噛み締めているとフルフライトが話しかけてきた。そこにレース前の剣呑な雰囲気はなく、純粋に賞賛の言葉をかけてくれた。

 こちらこそ、良いレースが出来たのはフルフライトのお陰でもあると、握手で応える。

 

「アンタに負けるのは、これで2度目。それも色々試した上で。これだけやってダメなら、諦めもつく」

「え?」

「皐月賞に出るの、やめとくわ」

 

 なんで? 確かに今日のフルフライトはいつもよりかなり飛ばしてたから途中でスタミナ切れてたけど、いつも通りならちゃんと走り切れてたし、皐月賞を諦める程酷い負け方をしたわけじゃないと思うけど。

 

「わかってないね、あれだけ抑え込まれてたアンタに負けるようじゃ、どの道皐月賞でも負けるってわかる」

 

 まぁ確かに今日の私はスパートの位置もタイミングも最悪の状態だった。未だに勝ったのが不思議なくらいだ。私に勝つにはこれ以上ない条件だったのにも関わらず勝てなかったのは、これは自惚かもしれないけど相当な実力差があるからと言えるだろう。

 それでも皐月賞でまた同じような展開にならないとも限らないし、諦める理由にはならない気がする。そう思っていると、悔しそうな顔をして話し出した。

 

「私もそうだけど、ハッピーストライクも、マーチングキャップも、シンボリルドルフに何回か負けてんのよ」

「え、そうなの?」

「デビューしてからじゃなくて、市や県で開かれた大会でだけどね。その時は散々、何バ身開いたかわかんないくらいにボコボコにされたわ。けど絶対にリベンジしてやるって思ってトレセン学園に入学して、トレーナーと努力したら勝てるって思ってたのよ。それなのに、ルドルフとやる前にアンタに負けた。どこの大会にも顔を出してなかった、無名のアンタに負けたのよ?ルドルフは兎も角、他の誰にだって負けるつもりはなかったのに、ポッと出のアンタに負けた。そうなったら先にアンタにリベンジしなきゃ、ルドルフに挑むなんて夢のまた夢。色々作戦考えて、アンタのあの末脚に対抗するには、最初からガンガン飛ばして、その開いた差で逃げ切るしかない、そう思ってたのに結果はこれよ」

 

 フルフライトはそう言って電光掲示板を指し示した。フルフライトの番号である7番は、そこには載っていない。

 

「走り切るためにスタミナは補強したつもりだけど、それでも足りなかった。できる限りのトレーニングはしたし、今日の調子もこれまでにないくらい良かった。それでも負けたんだから、どう足掻いてもアンタには勝てないって思った。勝てないのにレースに出走するほど、私もバカじゃないわ」

「でもレースに絶対はないし、まだ皐月賞まで時間もある。諦めるにはまだ早いんじゃない?」

「別に皐月賞を諦めたって言っても、走るのを諦めたわけじゃないわ、桜花賞だってある。あの走りをするなら桜花賞の方が合ってるでしょうしね。勝ったら皐月賞、負けたら桜花賞って、心のどっかで決めてたのよ」

「そっか……」

「だから、シンボリルドルフを倒すのはアンタに任せた」

 

 アンタには、その可能性があるから。頑張って、と肩を叩きフルフライトは去っていった。叩かれた肩が少しだけ重くなった気がする。

 私は、クラシック3冠を獲るために1番の強敵となるのがシンボリルドルフだと思っていたから、アイツに勝ちたいと思っていた。でも今、勝ちたい理由が1つ増えた。

 

「こりゃ無様に負けたら何言われるかわかったもんじゃないなぁ」

 

 

 GⅠを勝利した私には、多くの報道陣が駆けつけた。眩いカメラのフラッシュと賞賛の言葉、そして多くの質問が寄せられた。

 

『まずはGⅠの勝利おめでとうございます。かなり苦しいレースだったと思いますが、今の気持ちを率直にお願いします』

「嬉しいです、レースが大変だった分その気持ちも大きいと思います」

『途中意図的に行動を阻害されていましたが、それについては?』

「レースに勝つ為の策で、それが反則でないとしてもあまり良い気分じゃないですね。でもその勝ちたいという気持ちが最後、外へと抜け出す要因になったので、そこまで責めるつもりもありません」

『次走の予定は?やはり皐月賞でしょうか?』

「そうですね、クラシック3冠を目標としていますし、多分獲得賞金額ももう充分ですよね?だったらそれまでトレーニングしようと思います」

 

 インタビューに無難に返していく。これは南坂Tと予め考えていたことで、ここで変に気が大きくなったり消極的な返事をしてアンチがついてしまうより、万人受けする応えでファンを増やした方が、応援してくれる人も多くなるだろう。あまり私はそういう考えを持っているわけじゃないが、応援が力をくれる事もあるだろうって南坂Tは言ってた。

 クラシック3冠を口にした時からカメラのシャッターを切る音が増えた気がする。近い年代でシービー先輩がいるから、そういう期待もやはりあるのだろうか。

 その後も何個か質問が来て、ライブの時間も押してきたので、これで最後の質問にとURA職員から声がかかる。

 

『それでは最後に何か一言、よければ皐月賞に向けてお願いします』

「皐月賞に向けて、か」

 

 皐月賞と言われると、どうしてもあいつの顔が思い浮かぶ。まだ出走登録すら行っていないのに想像するだけで、私とあいつが競り合ってる姿が想像できた。

 私とあいつは似ている所がある。多分あいつも速すぎて、走ることに冷めていたんだと思う。上には上がいるんだろうけど、同年代では敵なし、好敵手というものがいなくて、走ることから熱を奪われていた。

 けど、もしかしたら自分に届きうる牙を持ったウマ娘を見つけた。しかしまだ相手にはならない、だから強くなって戦える日を待ち望んだ。

 あいつは自分と同じ舞台まで、競い合えるまで強くなれ、という意味で言った。GⅠを獲ったんだから、その約束は果たした、文句は言わせない。だから私は、今度はお前が私と戦うために勝てという意味を込めて言う。

 

「上がってこい」

 

 この意味を理解できた人は私と、トレーナーと、おそらくこのレース場で今のレースを見ていたもう1人だけ。インタビュアー達はわからないコメントに首を傾げるだけだったが、私としては言い切ったのでこれ以上話すことはないと、壇上を降りた。

 私はもうほぼ間違いなく皐月賞に出走できるだろう。だからこれ以上他のレースに出ることはない、これからはトレーニング漬けの日々だ。実際にレースで走ってみなければ、あいつの強さは測れないけど、それでもまだ少し先に行かれてる気がする。その差を埋めてすぐに追い越してやる。

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