いや戦闘シーンの練習もしなければ・・・。
唐突にこんなことを言うのはなんだが、四谷恭介くんのセンスは少し独特である。
「お母さんこれ似合うかな、どう思う恭介?」
『ふむふむ、確かにこれ系のフワッと系のが似合いそうーーー』
「もっとライオンの刺繍とかあったほうが可愛いと思うんだ」
『うそだろ・・・・・?!』
「(絶句してる・・・)うん、わかったごめんね」
そう言って参考として手に取る巨大なライオン刺繍のワンピースを持った恭介くんに愕然とする。
今回二人は透子さんの誕生日プレゼントを買いに割と遠くにあるデパートまで来ていた。ちなみに真守さんも行きたそうにしていたが動けない以上仕方なく留守番だ。
『いや〜昔は僕も母さんにプレゼントしてたな〜』
『仲良し家族ですもんね〜。何プレゼントしたんですか?』
『確か最後にプレゼントしたのは・・・カピバラのTシャツ?』
『⁈』
恭介くんの服のセンスはどうやら真守さんから受け継いだ物のようだ。みこちゃんのファインプレーによって元の場所に戻されるライオンを横目にほっと一息つく。
よかった・・・。
あのまま放置していたら透子さんが勇者ロボみたいな格好になるところだった。
「よかったらご試着も出来ますよ」
「ああ、姉ちゃん母さんと体型ほぼ同じだし着てみれば?」
「うーん・・・」
みこちゃんはそのまま一度試着を行うらしく手に持ったワンピースと共に更衣室に入っていた。
『さて、俺も一旦離れるか』
店員と同じような格好で横に抱えた首が捩れまくっている何かを抱え店の入り口まで行く。こいつは何故か更衣室の中で待機していた奴でみこちゃんが入る前にとっ捕まえておいたのだ。
突然話は変わるが自分は変身を行うと姿が変わるが、ある意味当然ではあるが身体能力が急激にアップする。確かめたことはないものの、おそらくは数トン以上の力を発揮することができる。
『せーの・・・・・せい!』
『◾️ァァ◾️ァアアアアアアーーーーーーーーー
何をやったのかというと、襟と腰の部分を掴んで長く続くデパートの廊下に向かってカーリングの要領で吹っ飛ばしたのだ。
自分は着替えだとか風呂だとか無防備な場所で待ち構えるやつが苦手だ。何故ならそういうタイプの奴らは大概が変質者的なムーヴでくるからだ。
ドップラー効果を残しながら床を滑っていく何かはたまたま廊下を歩いていた他の何かを巻き込みながら飛んでいき、やがて見えなくなっていく。
『全く、一体どんな未練なんだよ・・・』
あんな状態になってまで待ち構えるのが更衣室ってふざけているのだろうか。
確かに更衣室に入っていきなり知らないやつがいたら恐怖だろうがそれはそもそもジャンルが違うだろう。
『ん?みこちゃん着替え終わったのかな。どんなかーーー』
その時後ろの更衣室のカーテンが開く音が聞こえた為振り向きながら言葉を紡ぐ。
しかしみこちゃんが視界に映った瞬間、自分の口は自然と言葉を止めていた。
「・・・・・」
「あ、終わった?やっぱ姉ちゃんも似合うな」
「わぁっ、すごくお似合いですよ!」
そこにいたのは普段ラフな格好のみこちゃんには珍しいある意味王道のワンピースを纏った姿だった。淡い水色のゆとりの持ったそのワンピースは綺麗な黒髪と相まって清涼なイメージを感じさせる。
『・・・・・』
つまりとてもよく似合っていた。普段あまり見ない事というのも相まって思わず動きを止めてしまうほどに。
(どうだろ・・・・)
みこは動きを止めた彼に少し視線を向けてわずかな緊張を抱きながらその場でターンする。
普段はあまりこう言ったタイプの格好をするのは珍しい方だと思う。ラフな格好の方がやりやすかったしキャラ的にも照れ臭さの方が勝るというのもある。
(固まってる・・・も、もしかして合わなかったかな・・・)
彼はこちらの方を見つめ今も固まっている。普段のマスク姿のままなので表情はわからないし変身を解くと姿は一瞬しか映らない。
なので今の条件的に似合ってなかったのではという不安が頭をよぎった。
『◾️◾️◾️◾️・・・』
仮面越しの表情はわからない。だがやがて何かを呟くとあたふたとしながらチラチラとこちらを見始めた。
そしてそれも落ち着くと、今度は頬の部分にあたる部分を指で照れ臭そうに掻いた。
(〜〜〜〜っ!!!!)
「こ、この服このまま買います・・・」
「え?母さんのプレゼントじゃないの」
「はい!かしこまりました〜」
(弟くんが ほめたから気に入ったの?キャー お姉ちゃんもカワイイ!)
反射的に言ってしまった。
しかしあのようにわかりやすい反応を見せられるとこうなることも仕方ないだろう。
なんだあれは。あんな表現これまで見たことないぞ。
何やらニヤニヤ顔をしている店員さんに案内されレジへと向かう。そんな私の後ろを見続ける彼はまだ立ち尽くしたままだ。
(・・・えへへ)
そんな様子に心の中で笑いながら私は会計を済ませるのだった。
「これ似合う?」
nokogiriei
『∑(゚Д゚)』
「ちょー似合う」
『(;゚Д゚))⁈』
尚その後ヴィレバンでの恭介への評価によって色々吹っ飛んだ様子だった。
いや、あくまで適当だから・・・。
お母さんへのプレゼントの用意も終わり、それぞれの買い物も済ませた私たちは帰りの電車に揺られている。
こう言ってはなんだが、電車内というのは実は数少ない安らぎの空間の一つでもあったりする。というのもーーー
『あ、この人多分ついてる』
『◾️◾️◾️◾️◾️ッ!』
ここには彼の知り合いがいる。
見た目こそおそろしいし禍々しいものの電車内で心に住み着く悪いものを倒して回っており、取り憑いた物をやっつけたあとの人は穏やかな表情をするのだ。
実は案外どこの電車にもいてこうして倒して回ってくれているから穏やかに電車で過ごせるのかもしれない。
『多分もうここには居ないな。あとは三両目に4体いるから頼む。人少ないしすぐわかるよ』
『◾️◾️◾️◾️◾️』
グッと剣を握る拳と斧を持つ拳がぶつかり合う。やがて大量のあいつらを押し込んだ袋を引きずってからの知り合いは次の車両へ向かった。
(一体何を話してるんだろう・・・)
私達と初めて出会った際はそれはもうとんでもない死闘を繰り広げていた。電車という閉鎖空間に飛び交う弾丸、走る剣軌、響く打撃音。
スルーするのが大変だった。
(そこから仲良くなれるんだから世の中わかんない・・・)
とはいえ今は軽い知り合いのようのように接している。どちらもフードを被っているのもあってまるで兄弟のようである。
『到着まで後20分か・・・』
手すりに捕まり時計を見る彼の姿は変身したもののそれだ。
彼が変身を解く瞬間というのは割と少ない。当たり前ではあるが彼にとって外に出るということは戦闘開始の合図でもある。なので普段はお父さんの前とかで普通の姿に戻っている。
(とはいえわたしには見えないけど・・・)
と、ここまで考えた時ふと疑問が浮かぶ。
そういえば彼はなぜ変身を解くと姿が消えるのだろう。
一瞬だけなら見える。変身を解く瞬間わずかな間のみ見ることが出来ている。しかしその後は透明となってしまう。
(でもいることは確かなんだよね・・・)
お父さんの幽霊とよくボードゲームをやってるのを見るしあくまでわたしから認識できなくなっただけのようだ。
(うーん、見れないのってわたしだけなのかな・・・)
今度学校でミリアちゃんに会ったら聞いてみようかな・・・。
一応彼の姿見えてるっぽいし・・・
(でもなー、脅かしすぎてなんだか気まずいんだよね・・・)
でも仕方ないではないか。明らかに見えているのにわざわざ危険な場所に連れてきたと思ったのだ。彼に傷ついてほしくないと考えた矢先の出来事でもある。
思わず苛立ちが表に出てきてしまったのだ。
(わたしもまだ話しかけれてないのに・・・!)
その時のことを思い出しながら思わず頬を膨らませる。本当は色々喋ったりもしてみたいのに彼の戦いの邪魔にならないよう我慢してるのだ。なのに急に現れた人が普通に話しかけてるのもイラッとする。
「・・・今考えても仕方ないか」
ついこぼれてしまった独り言にため息をついた後改めて彼を見る。どうやら変身を解くらしくベルトを開けて例の目玉を取り出そうとしているようだ。
電車内ではもうやることもないだろうし一息吐こうとしているのだろう。
(お疲れ様・・・)
心の中でそう呟き携帯を取り出す。まだ帰るまで時間はあるしわたしも時間を潰すことにしよう。そう考えてインターネットを開こうとした際
「きゃっ!」
『あっぶなッ!?』
強烈な振動と共に電車内が揺れる。電車が急ブレーキをかけたことによるものらしく座っているわたしですら思わず体を揺らしてしまった。
荷物と携帯を握りしめて落としてしまうのを防ぐ。
そしてびっくりして閉ざしていた瞳を開けた時その目の前にはーーーーーー
『・・・・・』
「・・・・・」
ここまで他人に近づいたのは生まれて初めてだろう。目の間にいたのは普段あまり見ることのない彼、真の姿になった状態の彼がわたしの顔から10cmに呆然とした表情のまま立っていたのだ。
「・・・・・」
『・・・・・』
なんでベタなのだろう、なんて考える余裕はなかった。目の前に広がる彼の顔とわたしの顔の横にある彼の腕。
おそらく変身を解いた際に襲った電車の揺れによりふらついてこうなってしまったのだろう。
普段であれば変身解除を行うとすぐその姿も消える。しかし今この瞬間だけは何故か、スローモーションにかかってしまったかの如くとてつもなくゆっくりに感じられた。
そして彼も今の状況に気がついたのだろう。驚愕のような表情、こうしてじっくり間近で顔を合わせるのは家族でもなかった。
ましてやそれが普段見ることのない彼である。
その瞬間はやがて過ぎ去りその場には目をわずかに見開いたままの私と、急ブレーキによって目を覚ました俊介だけが残された。
「っあせった〜。急にブレーキかかるんだもんな」
「・・・・・」
じっくり見る機会のなかった彼の綺麗なオレンジの瞳。仮面で覆われ見ることのない白い肌。
もし彼が生きていたのなら体温と吐息も感じるほどの距離。
思わず自分の口元に指を当てる。そして起こったことを飲み込んでいくに連れて体の奥から湧き上がってくる体温。
・・・・・ッ〜〜〜〜〜〜⁈!?⁈
「?姉ちゃんどうした」
横で俊介が問いかけてくるが今の私に何かを答える余裕はなかった。
こんな、こんなベッタベタな展開を彼と行うことになろうとは。ましてや普段滅多に見れない彼の素顔のまま行われたのだ。
そうして目にした彼の顔は整っていて、それでシミとかも全然なくて、仮面の時とは違ってわかりやすい表情で、お互いの吐息がかかるほど近くて、それで、それでーーーーーーー
「マジでどうした姉ちゃん?顔なんか覆って」
「い、いや、ちちょっと目にゴミがが」
「いや何があった⁈」
完全に出来上がってしまった顔を隠す為に両手で隠す。そんな様子の私に恭介が話しかけるがまともな返答は出来なかった。
改めて髪を伸ばしていて正解だった。お陰で真っ赤になった耳を見られずに済んだのだから・・・。
姿を消した武命もないはずの心臓が激しく動悸するような感覚に陥っていた。改めてじっくり見たみこの顔は艶があり透き通った金の瞳は神々しさすら感じる。
そして息が届きそうなほどの距離感に激しく心動かされていた。
ッ〜〜〜〜〜〜⁈!?⁈
気づいてなかったものの、そのリアクションはみこと同じもので誰も見ているはずなどないのに熱のないはずの顔を両手で覆い隠す。
(〜〜〜ッ!アアーーッ!)
心の中でみこに謝罪しながら電車の床で足をバタバタさせる。「こんなこと帰ってからどう伝えればいいんだ。でもみこちゃん初めて近くで見たけどすごく綺麗で・・・いや見えないことをいいことに俺はなんてことをー!」と叫ぶ武命とプルプル震えながら湯気を出すみこ、そしてひたすら困惑する俊介を斧を持った何かだけが見つめていた。
尚急ブレーキの原因はこいつだったりする。動機は世話になった礼とのことだ。
これで合ってるんだろうか汗
次回からまた話が進みます。