放課後17時半
snsによって里親の募集をかけたみことハナは現在公園のベンチにて子猫とともに座っている。それなりの時間を過ごしていた為かハナは買ったドーナツをつまみながらあたりを見渡す。
「どんな人なんだろうその豪塚さんって人?」
「一応写真見たけど丁寧に猫を飼ってた人らしいよ?飼ってた2匹とも老衰したらしいし。ただ写ってる写真は少し怖いけど」
「・・・え?大丈夫?なんかヤのつく人みたいな感じするけど・・・」
横から写真を覗くとハナは少し汗を掻きながら不安を表に出す。同じく後ろから覗き込んだ武命はというと、そんなハナの不安とは真逆の意見を出していた。
『おお!猫又だ。よく見つけたなこんな人』
武命の瞳には厳つい形相のスキンヘッドの男性―――だけではなくその両肩に着いている二股に別れた尻尾の猫、猫又が写っていた。
猫又とは妖怪の一種で人に飼われた猫が老衰する事で変じる怪異である。一般的に猫又とはあまり良くないものと思われがちだが少し違う。飼っていた動物が怪異となるのは二つのパターンがあり一つは人の善意、信仰とでもいうべきか。それらを十分に浴びたものはその人に福を齎す守り神となる。
逆に歪な悪意や数多の雑念が混ざったままだと恐ろしい化物に変ずることもある。
見分け方自体は簡単だ。
『こんなに綺麗に猫又になるなんてよっぽど大事に育てられてきたんだな〜』
それは見た目である。正当な方法で妖怪となった動物の見た目は文献に記される妖怪達とほぼ同じ見た目をし、逆に雑念だらけだと歪な・・・それこそ周りにたくさんいる化け物と似たような存在となるのだ。
(・・・相変わらず聞き取れない・・・。でも悪い反応ではないっぽい?)
「みこ耳赤いよ?風邪?」
「・・・なんでもない」
彼に覗き込まれたことで耳元でする声に少し恥ずかしさを感じたのは内緒だ。
そのあと暫くして自分達のベンチに向かってくる人影に気づいたみこはSNSの写真と同じ人相であることを確認するとハナから猫を預かり手渡した。
「へ〜じゃあ結構慣れた感じなんですね」
「あぁ。それで暫くは飼育はいいかなって思ったんだがやっぱり1人だと寂しくてな・・・」
最初こそ警戒していたハナだったが少し話してみると人相が恐ろしいだけで見た目によらないと気づいたのか饒舌に話しかけていた。それを眺めながらみこは男性の手を舐めている子猫の頭を軽く撫でながら横の幽霊に視線を向ける。
(・・・めっちゃ光ってる)
武命の周りにはぼんやりと光り輝く2匹の猫又がぐるぐると走っておりそれを見ながら戸惑いの様子を浮かべている。
やがて慣れたのかそっと鎧で覆われた手を伸ばすと猫又は腕から肩に着地しオレンジに輝く仮面を舐めた。
(やっぱり悪いのじゃない・・・)
その様子を見ながら誰にも気づかれないように微笑むと立ち上がり男に礼を言う。
「その子のこと、よろしくお願いします」
「それじゃあ、大切にするから。今日はありがとう」
「また会おうね〜」
ハナは名残惜しいのか子猫の頭を涙目で撫でたあと離れてゆく男性の背中に向けて声をかけた。
「みこのいう通り人って見かけによらないね。すっごくいい人だった!」
「そうだね・・・。あ、あの人のSNS教えとく。多分写真載せると思うから」
「え!教えて教えて!」
手を振っていたハナにそう呟きスマホの画面を見せて先ほどの男性のアイコンののったものを見せる。投稿された写真にはこれまで飼っていたであろう猫の写真が幾つも投稿されておりそれを見てハナは目を輝かせながら自分のスマホでアカウントを探す。
「ちょっといいかな?」
ふと
そんな2人に話しかける男がいた。
「君たちが里親募集の人?子猫引き取りたいんだけど・・・」
そんな問いに2人は顔を上げると話しかけた男に視線を向ける。
男はほわりとした雰囲気を纏っており整った顔立ち、清潔感のある服装。先ほどの男性とはまた別の優しそうな印象を抱かせる男だった。
「あー!ごめんなさい!実はさっき引き取られちゃって・・・」
ハナは申し訳なさそうに離れてゆく男性に指を刺し頭を下げる。みこも咄嗟に同じく頭を下げようとして―――――――――
『やばい!』
衝撃音とともに目の前に立った武命が何かを弾いた。
(え・・・?)
彼が何を言ったのかはわからない。ただ妙に焦りを感じさせる言葉を叫んだと同時に手に持った妖剣を振り上げみことハナを何かから守った。
それと同時にみこは目の前に立つ男性の背後を見た瞬間。
一気に冷や汗を浮かべた。
(この人・・・・・!)
『マジかよ・・・!この男、何を拗らせたらこんなことになるんだよ⁈』
男の背後にいたのは先ほど見た猫又とはまるで正反対な見た目の存在だった。これまで見たような人型の化け物たち、そしてそれらと同じ印象を浮かばせる異形の猫の化物がぐちゃぐちゃに混じったものが取り憑いていた。
そしてそんな怪物が幽霊に対して幾つもの爪を伸ばして攻撃を加えていた。
「えぇ・・・もう子猫いないの?」
「ほんとごめんなさい・・・。私たちが見つけた時子猫は1匹だけだったので」
「そっか、残念。もっと早く来るんだった・・・」
男は肩を落として2人に背を向けて離れようとする。しかしそんな中でも猫の化物たちは尚も武命に攻撃を加える。否、武命にではない。
(私たちを狙って・・・!)
『ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!』
武命が足に炎を纏って蹴りを放つ。その攻撃により猫の化物の一匹を消し飛ばすと同時にもう1匹に対して同じ炎を纏った拳を叩き込もうとするが――――――
ミルナ
巨大な腕が掴んだ。
次の瞬間武命の鎧に幾つもの蜘蛛の爪が突き刺さり、みこたちのすぐそばまで吹き飛ばした。
『うがぁあああぁあぁッ・・・・!?!!』
身体から黒い血を流しながら膝立ちをする武命。そんな様子を見たみこは目を見開き驚愕する。
(そんな・・・彼が敵わない・・・!?)
これまで彼は自身やハナ、家族を化物から守ってきた。時には家のように大きな化物と戦ったことすらあった。だが彼はそんな相手をものともせずに勝てる程強い。そんな彼が血を流している。
改めて男の背中を見る。そこには先ほどまでなかったはずの蜘蛛の足のような何かがいくつも飛び出ておりさらに奥の暗闇からこの世のものとは思えない二つの眼光がのぞいていた。
『ち、ちく・・・しょう・・・!このままやらせるか・・・!』
2人を守るように立ちはだかる幽霊。幸い追撃はなく黒い影は男が離れるとともにゆっくりと消えていき見えなくなる頃には完全にいなくなっていた。
それを確認すると幽霊は剣を突き膝立ちになりながら息を荒くする。その様子にみこも焦りを浮かべる。
(どうしようどうしようどうしよう・・・!救急車、は無理だし・・・早くしないと!)
涙目になりながらあたりをキョロキョロするみこ。
そんな様子に気づいたハナは心配した様子で話しかける。
「みこどうしたの?何か無くしたの?」
「あ、いや・・・ちょっと・・・・ッ!」
そして気づく。
みこは自分の持っていたドーナツをハナに差し出して言い放った。
「ごめんハナ!いきなりだけどこのドーナツ食べて!」
「ええ!ほんといきなりどうしたの?」
「いいからお願い!」
急なみこの様子にオロオロするもハナは受け取ったドーナツをパクリと一口齧る。
すると次の瞬間、幽霊の傷がゆっくりと塞がり始めた。よく見るとその傷口がわずかながら発光していることに気づく。
それを見たみこはほっと胸をなで下ろす。
「ごめん・・・なんか死にそうだったから」
「私そんな死にそうな顔してた?!」
ドーナツを頬張りながら心外だと言わんばかりに怒るハナ。
武命は以前昼食の最中に襲ってきた化物からみこたちを庇った際傷を負った。しかしハナのそばに近寄った際その傷口が塞がって治ったことを咄嗟に思い出したのだ。
(よかった・・・!よかった!ちゃんと治った!)
「ええ・・・。私飢え死にでもしそうだったの・・・!」
治ってゆくのを確認しながらみこは涙目で武命を見つめる。そしてそんなみこを見たハナは手鏡を取り出し自分の顔色を確認するのだった。
そして息を荒くした武命はバックルから目玉を取り出しその姿を消していった。
深夜0時
体に包帯を巻かれた武命は屋根の上で星空を眺め夕方出会った化物を思い浮かべていた。
『あの化物・・・多分女郎蜘蛛だな・・・』
女郎蜘蛛
日本各地に様々な伝承があり、糸で人間を操ったり、動けなくして捕食する存在である。美女の姿とされる事が多く、必ずしも人間を殺すとは限らない。 しかし今回出てきた女郎蜘蛛は明らかに壊れていた。
『周りの猫又の様子を見るに・・・母親か、それとも恋人か・・・』
最初に彼に取り憑いていた猫又はおそらく殺されたのだろう。あの周りの怪物たちを取り込んだ姿からそれらは容易に想像できた。しかしその割には男に対して攻撃しておらず完全に取り憑いているだけといった印象だ。そこから考えるに―――――――
『あの女郎蜘蛛に取り憑いてる』
しかし女郎蜘蛛の思念の方がはるかに強いがためにあの猫又はおそらく逆に取り込まれてしまったのかもしれない。今回戦った女郎蜘蛛はこれまでとは比べ物にならないほどの強さを有していた。そしてあの執着の強さ・・・。
『あのままだとあの男の魂まで混ざってしまう。どうにかしてやりてぇがな・・・』
立ち上がりながら武命はポケットの中から黒い炎の縁取りのついた目玉を取り出しながら月を眺める。みこのそばから離れるのは難しく、あの男がどこにいるのかももはやわからない。
『オレは何もできなかった。今日は2人には助けられたな・・・』
その上今日は2人に助けてもらった。本人たちはきっと無意識での行動だったのだろうがそれでも自分にとってあの場でのあの行動は本当に助かった。情けないやらありがたいやらと色んな言葉が頭の中を行き来する。
そんなやるせない思いを抱きながら武命はその夜を過ごすのだった。
深夜0時半
彼があんなに傷ついたのを見たのは初めてだった。
「・・・・」
布団を頭から被りながら今日起こったことを考える。
あの時私たちを庇いながら戦って、そして傷ついてしまった彼。それを思い浮かべながら考える。もし彼がいなかったら私はどうなっていたんだろう。未だに化物に害という害を受けたことはないが、それもこれも見えるようになってから彼が守ってくれていたからだ。
ごろんと寝返りをして窓の外を覗く。月夜に照らされた外にはこれまでのような化物たちは見えず、あんな怪我の後でも戦って私を守ってくれていたことが窺える。
「無茶・・・しないでよ・・・」
みこはそう呟くと頭から布団をかぶってくるまった。そしてしばらくするとわずかにその布団が揺れ始める。そんな様子を窓から入る月の光だけが覗いていた。