守護霊はゴースト   作:修司

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倒さないという事

今日は休日。

みこはバスに乗って街に来ていた。

ハナと遊ぶというのも目的の一つではあるが、今回の目的は数珠を買いに行くことである。

 

(私も自分で身を守れるようにしないと・・・・・)

 

みこはおととい起こったことを思い出しながらネットで数珠やパワーストーンのことについて調べていた。

彼女の守護霊こと武命はその日手も足も出ずに敗北した。女郎蜘蛛から受けた傷はとりあえず塞がったものの未だ鎧の装甲には跡が残っている。いつも自分や家族、友達のために戦ってくれている彼のためにも。そして自分自身で身を守るためにも出来ることをしようと考えたのだ。

 

(ブレスレットの方がいいかも。周りから見るとわかりにくいし。あと可愛い)

 

待ち合わせのカフェでパワーストーンの効果などを調べながら横に立つ彼を見る。

バスに乗っていた時も後ろの席に座っていた首がいくつもある怪物を外から引き摺り出して追い出していた。あんなことがあったにもかかわらずまたすぐ戦い始める彼の仮面からは、何を考えているのか読み解けない。

 

(てかバイクとか持ってたんだ・・・いや、あれってバイクなのかな?)

 

彼は今日バイクに乗って私の後をついてきていた。バイクと言ってもそれはあくまでらしきもの。フルカウルの前面に何故か口がありタイヤが凄い勢いで炎を上げていた。もしかしたらあれも怪物の一種なのかもしれない。

 

(・・・そういえば私、彼について何も知らない。)

 

(元々人だったのかな・・・。いつも消える時一瞬人の姿が浮かび上がるからそうだとは思うけど・・・)

 

(たまに横着で、あとベルトで変身したりバイクみたいなのに乗ったり・・・なんかのヒーローみたい。見た目は悪者っぽいけど・・・)

 

 ふと浮かんだ疑問から次々とわからないことが浮かんでくる。彼が自分に取り憑いてからだいぶ時が経ったが未だに自分を守ってくれているということしかわからない。

彼に話しかけようにもなかなかその機会が訪れずいつも悪いタイミングで怪物は襲ってくる。とはいえ話しかけたところで彼の声は聞き取れないのだが。

 

(もしかして調べたらなんか出てくるかな・・・)

 

そうして一度気になったのかみこは手元の携帯を操作して彼について調べ始めた。こんなに色々特徴があるのだ。もしかしたら何か守り神とかそういった類の情報があるかも知れない。

 

(キーワードは・・・乗り物、マスク、ベルト・・・)

 

 

 

三つのキーワードから検索をかける。Wi-Fiの接続が良くないのかなかなか表示されず白い画面のままの状態が続く。

携帯画面を眺めながら抹茶ラテを飲む。少しずつキーワード検索結果が表示されていきついに結果の表示――――となった時。

 

 

 

「嘘じゃないってば。うん、オレも楽しみにしてる。愛してるよ」

 

 

 

 

ふとそんな声と共に男性の声が聞こえてきた。その声に反応して顔を上げたみこはすぐさまそんな自分の行動に後悔する。

 

(うわぁ・・・・)

 

目の前の整った青年。

その隣に居たのは女性の異形だった。パッと見た目人型をしているが纏っているワンピースはボロボロでその肌の色は生きている人間では決してみない色をしていた。

そんな異形が男性の耳元で仕切りに愛しているという単語を壊れたスピーカーの如く呟き続けていたのだ。これには色々見慣れているはずのみこですらドン引き。というか隣の彼すらもドン引きしていた。

 

 

『うわぁ・・・このあいだとは別ベクトルでひどいな・・・。何やったんだこの男』

 

その様子に何かを呟きながら少し後ろに下がる彼。仮面の下の表情はわからないもののきっと今彼は自分と同じ表情をしているんだろうと思った。

そんな風に見過ぎていたためだろうか。唐突にその男性と目があってしまった。

 

 

(あ、ヤバい・・・)

 

咄嗟に目を逸らすみこ。そんな様子を見て勘違いしたのか男はその整った顔でにこりと微笑みみこを見る。

瞬間、先ほどまで男しか見ていなかった女の異形がグルリと首をこちらに向け凄まじいまでの眼光で睨みつけてきたのだ。

 

 

(変な勘違いされた・・・・!)

 

みこはそのままそちらを見ないようにするため携帯を再び起動させ画面をスライドさせる。

だがそんな事は知らないとばかりのみこの前方からヒタリ、ヒタリと足音が聞こえてきた。急いで何か気をそらせるための画面を起動しようとする。しかしWi-Fiがやはり遅いせいなのかなかなか動画に繋がらない。

 

(なんで毎回こんなことに・・・・!)

 

心中怯えと理不尽に対する苛立ちで涙目になるみこ。しかしそんなことは関係ないとばかりに音はすぐ近くまで迫りみこの視界に異形の足が映る。

それに思わず強く目を閉じた瞬間――――――

 

 

 

 

 

『この子は俺のだ。手を出すな』

 

 

 

 

その声に思わず視線を横に向けると自分の隣に彼が座り込んでいた。私の肩を抱き寄せ私の右手に自身の手を重ねていた。するとそれを見た異形は先ほどまで進めていた足を止めて私の隣に座る彼に視線を向けた。

 

 

『悪いなデート中に。この子はただ声が聞こえて気になっただけなんだ。普段そういう機会がなかったからな』

 

やはり聞き取れないが彼は異形と会話をしているらしく横に座っていながらその視線はこちらに向いていない。しかし感触こそないものの肩に添えた手には力がこもっている様子だった。 

 

『この子があんたの恋人に手を出す事はない。だから安心してデートを再開しな。それでも手を出すと言うのならこっちも黙っちゃいないぞ・・・』

 

再び何かを呟く彼。その言葉を聞いた異形は私と彼を交互に見つめたあとやがて大丈夫だと思ったのか男の横へと戻っていった。

 

 

『・・・バレたらおじさんに怒られるな』

 

彼はそれを見て何かをつぶやくと立ち上がり再び私の隣に立った。

しばらく静寂が続く。男の方はまだ勘違いをしているのかチラチラとこちらを見てくる。

すると入口の方からベルの音と共に聴き馴染んだ声が聞こえてきた。

 

「みこーッお待たせ〜」

 

どうやらいつのまにか時間が来ていたらしく私服姿のハナがコチラに向かって手を振っていた。それに対してみこも「今行くー」と返して席を立ちハナ元へと近づく。

 

「ハナ遅いよ」

 

「ごめーん急行乗っちゃって」

 

申し訳なさそうに頭を下げながらこちらに近づく。それを見計らったのか先ほどの男も立ち上がりこちらへと近づこうとする。

すると彼はどこから出したのか銀の玉、パチンコ玉を取り出して男の足元に向かって投げつけた。パチンコ玉はコロコロと男の足の裏へと転がっていきそれに気づかず踏みつける。

 

「うお?!」

 

歩き出そうとしていた為か立ち上がってすぐ転び再び椅子に座る男。視線をみこに向けようとするが既にその頃には店にはおらず向こうへと去って行った。

 

「くそ、しまったな。タイミング逃した」

 

「おまたせユウくん」

 

 

悪態をつく男のそばに整った容姿のーーーーしかしその背に幾つもの人型の異形を背負った女が近づいて話しかけた。

 

「ねぇさっきの子知り合い?話しかけそうになってたけど?」

 

それを見て男はわずかに眉を顰めるがそれに気づかれない様明るい口調で話すのだった。

 

 

「みこまた風邪?顔真っ赤だよ?」

 

「いや、ほんと・・・・なんでもないから・・・!」

 

ハナに付き添われたみこは先ほどのことを思い出しながら赤面していた。みこは生まれてこの方男子との親しい関係など築いた事はなく、通っているのも女子校であった為接触に慣れていないのだ。

そしてみこの守護霊である武命は普段は変身しているものの変身を解いた際一瞬見える素顔はそれなりに整っており、親しみもあったことも含めて突然の行動にびっくりしたのだ。

 

「と、とりあえずドンキ行こう。買い物終わらせて早くご飯食べたいしハナもまだ何も食べてないでしょ?」

 

「え、そんな早く終わらせていいの?」

 

「いいからいいから・・・・!」

 

ハナの背中を押して先を急がせる。そんな様子を見てハナと武命は疑問符を浮かべるもすぐに気を取り直し目的地へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・おとなげない』

 

2人の背中を見つめながら思わずそうつぶやく。

いくら男の軟派な態度を目にし苛立ちを覚えたとしてもわざわざ攻撃するほどのことではなかった。

みこちゃんのことだからきっとスルーしてそのまま買い物に出かけただろう。

だが取り憑いた化け物に目をつけられた時思わず気が立ってやってしまった。

 

『怪我がないとはいえ・・・』

 

今回のように幽霊としての立場を利用し自身の感情に任せて行動するなどそこらの化物と一緒だ。自分は奴らとは違うと自分自身に決めた以上たとえ小さなことでもやり過ごす精神を持たなければならない。

 

『とはいえ、お互い怪我もなく終わったのはよかった。向こうの化物もなんとか引き下がってくれたし・・・』

 

そう言って武命は先ほど目にした化物について考える。

自分の役割は守護霊だ。

そうである以上みこやその周囲の人間を化物から守らなければならない。だが今回目にした悪霊は、みこが襲われそうになっていたにもかかわらず退治する気にはなれなかった。

 

『・・・・・』

 

 

 

確かに奴は化物だ。このまま男が変わらなければきっといつか生きる人に仇なす存在となるのだろう。だが、それを知ってもなお攻撃しなかった理由。

 

『涙の跡・・・』

 

 

変色した皮膚であるにもかかわらず武命にはそれが涙を流した跡だと言うことがはっきりわかった。

彼女は男の耳元でずっと愛を囁いていた。しかし男はそれに気づく事なく別の女性との話に夢中。彼女が生きていたものが変じたのか、それとも元々の怪物がおかしかったのか。どちらなのかは武命にもわからない。

 

どれほどの長い間憑いていたのだろう。

 

どれだけの想いが募り、にもかかわらず届けることができなかったのだろう。

 

ただ決して届くことのない想いを伝え続けると言うその行為に、武命はどうしようもなく胸を締めつけられた。

 

 

『・・・俺はどうして死んでいるんだろう』

 

 

先ほどみこと重ねた――――否、触れることすらできなかった自分の手を眺めながら、武命は2人の後を追いかけた。

心に一抹の寂しさを抱えながら――――。

 

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