(煙水晶の数珠4つ。これで少しは身を守れる・・・はず)
煙水晶の数珠4つを腕に通しみこは心の中で呟く。
あれからドンキに着いた2人はそれぞれ買うものを物色していたがその中でみこはアクセサリーコーナーにて4つの数珠を購入した。
(煙水晶・・・破邪の効果がある、とか書いてあったけど・・・)
「ドンキってほんとなんでもあるねー」
「またそのぬいぐるみ買ったの?」
ハナも買い物を終えたのかこちらに寄ってくる。その手の中には彼女が集めているウサギのぬいぐるみがあり彼女の家でたくさんあるのを思い出したみこは呆れた様につぶやく。
「家に腐るほどあるんでしょ?」
「たくさんある方が可愛いの!みこも数珠4つもつけてるじゃん」
「いっぱいあった方が強いでしょ・・・」
「強い?」
頭に疑問符を浮かべながら2人は店を出て次にどこに行くかを物色しながら大通りを歩く。
「ほんとに数珠って流行ってるの?つけてる人ほとんどいないけど」
「うん、最先端だから・・・。これから流行り出すはず」
「ふーん、私も買っとけばよかったかも」
ハナがそうつぶやくと同時にみこはふと頭にこれまで出会ってきた化け物たちを思い浮かべる。普段一緒にいる時は彼が守ってくれる。でも自分と彼がいない時にハナの身にもしものことがあれば・・・。
そんな不安が沸々と湧いてきたみこはつけていた数珠のうち二つを外しハナに差し出した。
「え、くれるの?ありがとー!」
「うん(ハナの防御力も上げとかないと・・・)」
お揃いだー!と喜ぶハナを横目にみこは後ろにいるであろう彼に意識を向ける。
彼はふわふわと浮かびながら電線に止まるカラスを眺めている。そんな時ふと思い出した疑問。彼について調べていたことを思い出した。
(そうだ・・・検索結果出てきたかな・・・?)
先ほどの喫茶店ではWi-Fiが混雑していたのか繋がりにくい状態だったが今ならいけるのではと考え改めて検索する。そして検索結果の一番上に出た記事をながめたみこは目を見開いた。
(都市伝説・・・・?仮面ライダー?)
その記事は都市伝説について様々なことが書かれたオカルト掲示板で,そんな記事の中の端っこにそれはあった。
(仮面ライダー・・・悪の組織の怪人と戦うヒーロー。バイクに乗って、ベルトで変身する・・・!)
そこまで読んだみこは改めて彼に目を向ける。
仮面ライダー
1970年代より世で噂される都市伝説。
仮面をつけバイクに乗るその存在は日夜悪の秘密結社と戦い続けているというものだ。
確かに彼はベルトの様なものを腰に巻き化け物と戦っている。その上今日はバイクに乗って私の跡をついてきていた・・・。
みこはまだ情報はあるかと携帯の画面をスライドさせ、そこに目撃イラストと題されたものを見つけるとそのイラストをクリックした。
(全然違うじゃん・・・)
しかしそこに描かれていた者は彼とは大きくかけ離れたデザインをしたヒーローだった。そのイラストのヒーローはバッタに似たデザインでクビにマフラーをつけているし目も昆虫の様に複眼で色も赤だ。ベルトのデザインは似ているがとても彼とは同一と思えなかった。
(・・・期待して損した)
「お礼にお尻大福奢るよ〜」
「お尻大福・・・?なにそれ?」
「もちもちふわふわで美味しいんだよ〜。こっから行くと近道になってるの」
ハナに話しかけられて咄嗟に返したみこ。
それが災いしてからハナは人気のない路地裏へと踏み合ってしまった。こう言った場所に化け物が集まりやすく以前も彼に助けてもらった。
「ちょっと待って・・・」
「早く早く!いちごお尻大福もあって美味しいんだけどこれは限定のやつだから早くしないと売り切れちゃう」
「ていうかお尻大福ってすごい名前だね・・・」
だがいざ入ってみると周りにいた化け物たちは2人を避けるかの如く離れていく。そんな様子にみこは数珠に目を向けほんとに効くんだ、と心の中で漏らす。
効果を実感して安心したのかみこは軽やかな足取りでハナと並んで路地裏を出るのだった。
2人の少女の背中を繋ぎを着てクビに鎖を巻いた化け物が覗く。
かゆい
かゆい かゆい
かゆい
化け物は2人と入れ違いになる様に壁を路地裏のビルの壁から現れた。あとほんの少しみこが歩くのが遅れていたら遭遇したであろう化け物は2人の後ろをつけようとゆっくりと足を動かす。
距離は段々と縮まっておりこのままいけば2人の背中にピッタリ辿り着くだろう。
『ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!』
キン
ふと、怪物の耳に謎の音声と高い金属音の様なものが響いた。
怪物は後ろを振り返る。
そこにいたのはパーカーを纏いオレンジの顔をした火の玉の様な存在――――武命だった。
『これでもう痒くないだろ?』
そう言われて化け物は自身の首に鎖が巻かれていないことに気づいた。下をみると自分の首を締め上げていた鎖は地面にバラバラに砕けており、長い間締まり続けた首が楽になっていた。
・・・・
『もう迷っちゃダメだぞ』
武命はそう言うと手に持った妖剣を蝋台に変化させ、みこの後ろに戻っていく。
それをしばらくの間眺めていた怪物はやがて頭にかぶっていた頭陀袋をゆっくりと脱ぎ、武命の背に一礼をした。
その顔は、もう化け物ではなかった。
下町のゴットマザーこと、タケダミツエは先ほどの客に目配せをした後、異様な存在を連れた二人組を見た。
(あれは・・・・!)
自分もそれなりに長い人生を送ってきた。かつては上から数えてもいいほどの力を持った霊能力者であった。しかしあの事件以降、自身の力は少しずつ衰え今では詐欺まがいのことをやりながら生計を立てる生活をしていた。
そんな自分が鳥肌を立てるほどの存在・・・まるで死神の様な格好をしたそれに思わず目を疑った。
(ここまではっきり見えるとは・・・!)
額に冷や汗をかきながらその存在を見て、それに取り憑かれている少女たちに視線を向ける。少女たちは特に変わった様子もない者たちで、茶髪の少女は凄まじい生命エネルギーを発していたことから黒髪の少女に憑いているのだと気づいた。
(・・・見捨ててはおけん!)
孫ほどの年頃の娘を見捨てるほど腐りきってはいない。
全盛期の頃に生成し、使うことはもうないと封印していた特注の数珠。先ほど歩いて行った少女を追いかけようとその数珠を片手に準備するミツエ。
『あの・・・』
ふと、そんな彼女の背後から声が響いた。
全身に冷や汗が湧き出る。ゆっくりと首だけ振り向くと、そこには先ほどまで少女たちの後ろにいたはずの死神が蝋台を片手にこちらに語りかけていた。
『もしかして、俺のこと見えたりします?』
・・・・・
「あ、あんた、喋れるのかい?!」
『え、あ、はい。喋れますけど・・・』
「ねぇハナ。ちょっと見ていかない?ここ気になる(どうしたんだろう・・・?占いの館に入っちゃった・・・」
「あ!ラムラビあった!よくこんなとこ見つけたね!」
「なるほどね。それであの子の守護霊をしていると」
『はい、なんかあの子色々取り憑かれやすくてほっとけなかったんです。それにあの子から離れられないし・・・』
武命は現在、占いの館にて初めて自分を認識できる人間と対話をしていた。
タケダミツエはどうやら霊能力者らしく、自分の姿をじっと見ていたのはみこを助けようとしていたのことだったらしい。
「それにしてもそこまで変質しておいてよくまだ人の意思を保ってられるね・・・」
『あ、いや。この姿ってこのベルトで変身してるんです。こんな風に。』
ベルトから目玉を取り出して自身の通常の姿を見せる。ミツエはそれを見て驚いたのか、大きく目を見開いた。
「?!・・・」
『その、ミツエさんはこのベルトについて何か知っていますか?俺自身も記憶が無くて何もわからないんです・・・』
武命は持っていた目玉をミツエに差し出す。彼女はそっと受け取ると様々な角度から眺める。
「・・・まず、この目ん玉はお前さん自身だ。この目ん玉からはお前さんと同じ霊気を感じるし、何より変身を解いた時気配がこの中に吸い込まれていた」
『え?でも俺ってここにいますよね?』
「それについてだけどね、お前さん『ドッペルゲンガー』というのを知ってるかい?』
『それって・・・自分と同じ姿をしてて見たら死んでしまうとかいう?』
「大体合っている。その正体は自身の魂、又は精神で出来ており、なんらかの影響で身体から抜け落ちる事で現れる。そしてそれに出会ったら死ぬんじゃなくて再び一つに戻る。その瞬間の記憶も本体に入るから死んだと感じるのさ」
『・・・ということは俺の記憶がないのも』
「おそらくその目ん玉の中だろうね・・・」
それを聞いた武命は思わず目玉を凝視する。
(これがもう1人のオレ?!そんなプラナリアみたいなことになっていたのか?!?)
「そしてベルトについてだけどね。悪いがそれについてはよくわからない。だが、一つだけ言えることがある・・・・」
『? それって一体・・・・・』
ミツエは一瞬ベルトに視線を向け、少し間を置いてから武命に言った。
「そいつは人の手によって作られたもんだ。つまりお前さんは人の手で生み出された存在である可能性が高いんだ・・・」
『・・・ん?』
武命は三枝の言葉を聞き、わずかの間沈黙するとすぐに疑問符を浮かべた。
『え?このベルトの話ですよね。なのに俺が人の手で生み出された存在?』
「ああ・・・・」
改めて聞き直しても間違っていない様でそのことで余計に訳がわからなくなる武命。しかしそこを補足するかの様にミツエは答えた。
「わかんないかい?いや、生きた人間と会話をしたことがないから仕方ないか・・・・・・これまであんたが出会ってきた奴らを見ても分かるとおり、霊の変質ってのはごく自然に起こることなんだ。」
『は、はぁ・・・』
「なのにお前さんは変質と反転をそのベルト1つで行うことができる。そんなもん誰かが意図的に手を加えないと出来るもんじゃあない。」
『・・・・・あ、』
そこまで聞いた武命はミツエが何を言いたいのか察した。
「つまりだ、お前はどこぞの霊能力者によって改造された幽霊である可能性が高いということだ・・・・・」
自分で呟きながらなんて酷いことをする奴がいるのだろうとミツエは思った。自分と同じ霊能力者による死者の改造。死者全てに安らぎが訪れることはない、そんなことはとっくに知っている。
しかしそれはあくまで当人たちの問題である。それが生きた人間によって弄ばれる筋合いはない。
勿論論理的な問題だけではない。
(ベルトに魂を封入した目玉を入れてそれを使った者に纏わせる。ならこいつを作ったやつは、この小僧に何を纏わせようとしたのだろうか・・・)
そう、つまるところそこである。そんな大層なものを作り上げた者がただ己自身の魂を纏わせるだけで終わらせるはずがないのだ。
武命が持っているものはおそらくまだ完成品ではない。
本来何を目的としていたのか・・・
呆然とする武命を前にミツエはかつての弟子を一瞬思い浮かべるも、すぐに考えを改める。
いくらなんでもそこまで落ちることはないはずだと。
そしてミツエは自身の掌を見つめると心の中で決心するのだった。
(どうやら、まだまだ腐るには早すぎる事情に出会っちまったようだね・・・)