守護霊はゴースト   作:修司

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普通の日常

何処か古風な雰囲気の城を背に迎え入れる様に彼は立っていた。

 

 

 

(ここは・・・・・)

 

彼は右手に持った蝋台に左手をかざすとそこに青い炎が灯り私をそっと照らす。私はそんな彼に手を伸ばすと彼も手をそっと差し出して私の掌に添えた。

 

(え!さ、触れる・・・あっ、ちょ、ちょっと・・・!)

 

ゆっくりと足を進ませ城の中へと入る。中は薄暗く、彼が手に持った蝋台と同じ青い炎を灯した蝋燭が辺りを不気味に照らしていた。真ん中のホールに着く。彼は側にあった小さい机に蝋代を置くと私のもう片方の手を握った。

突然のことに混乱する私をよそに彼はホールの中心へと私を連れ歩き、やがてその真ん中で今度は私の腰に左手を添えた。

何処からか音楽が鳴り響く。

そこからの私は、ただ彼に導いてもらいながら暗いホールで踊り続けた。最初こそ混乱したもののやがてそれも気にならなくなり今は音楽に合わせて身体を動かすのが楽しい。

 

(私・・・ここで何して・・・)

 

 

 

どのくらいの間踊っていただろうか。

音楽が消え辺りを静寂が包む。

 

 

(最後まで踊れた・・・!)

 

 

息を荒くしながら改めてみこは達成感も相まって周りを見渡す。しかし周りは相変わらず隣の彼しか見当たらず、夢中になってしまったことに対して恥ずかしさを覚える。彼はそんな様子を見せる私の顔を眺めながら赤く火照った頬に手を添えた。

 

(ひゃっ!つ、つめたい)

 

その手は冷たく鎧のせいでゴツゴツとした感触を感じる。しかしその手が彼だと考えるとその冷たさをかき消す様に余計頬に熱が宿る。

しばらくされるがままの状態が続き、ふと左手で私を抱き込んだ。

 

 

(ふひゅ!?ちょ、まって!私、心の準備というか覚悟というかちょっと――――)

 

仮面とパーカーで覆われた彼の顔が近づく。未だに言葉を交わしたこともない仲であるはずなのに、みこはそんな大胆な行動をする彼に対して驚きと照れを自覚した。

 

ま、まって・・・!

 

わ、私まだ

 

あなたと話も―――――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

ん・・・・ふッ。やぁ・・・・・・ダメッ!!!」

 

 

 

目覚ましのベルと共に意識が戻る。

勢いをつけて起きたみこは、そこが自分の部屋であることに気づく。

 

 

 

(・・・・・・)

 

 

状況を把握したのか、みこはさっと頭を抱えると先ほど見た夢を思い返して夢と同じ様に頬を赤く染めた。

 

(・・・・ッ!?・・・・!・・.!!)

 

 

「姉ちゃんご飯できたぞ・・・ってどうした?」

 

 

 

 

みこは弟が話しかけてくるにも関わらずその場を動かず、やがて弟に肩を揺すられるまでの一分間ベッドの上で顔を押さえながら固まり続けた。

 

 

 

四谷みこ、若干の人外フェチに目覚め始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在武命は屋根の上で空を眺めながら物思いにふけていた。

 

(記憶喪失の改造幽霊・・・・か)

 

日課である化け物退治も終わり、武命は昨日出会ったミツエとの会話を思い出す。最後に言われた自身が何者かの手によって魂を改造されたという事実。あの時ミツエは憐れむような目つきで自分を見ていたが・・・。

 

 

(属性盛りすぎだよなぁ・・・)

 

武命は全然ピンときていなかった。

当然と言えば当然である。彼の暮らしている日本はサブカルチャーの溢れかえった国であり、昭和前期とかならまだしもそこかしこに様々な魅力を発信する媒体があるのだ。それゆえに寧ろここまで色々な設定を乗せてしまって大丈夫なのだろうかとすら考えていた。

改めて変身した自身の姿を見つめる。

これがそこいらに湧き出ている化け物達の様にグロテスクさを醸し出す見た目になったのならまだショックを受けるかもしれない。しかし武命の本来の姿は人間の姿であり、その上変身したとしてもその姿はダークヒーロー然とした姿である。

 

(というかそもそも幽霊って時点で困ってるし・・・)

 

今の自分は誰とも触れ合うことはできないし食事も楽しめない、夜も眠れないし常にグロテスクなものが見える。

そこにいまさら改造なんて要素が追加されたところで大して変わらないだろう。

 

『みこ、またあの商店街のところ歩いてくんないかなー。ミツエさんにもう少し話聞きたいし』

 

あの後みこが店を移動したことで身体がゆっくり引っ張られていき、武命はミツエに向かってまた困ったことがあれば聞きに来ますと叫んで去って行った。この体になってそれなりの時間を過ごしてきたが初の見える人との遭遇に武命はワクワクしているのだ。

 

『・・・お、みこ起きたかな』

 

 

ふと身体が引かれる感覚を感じた武命は屋根からジャンプするとそのまま庭へと着地する。そして玄関へと回り中へ入るとちょうど階段から降りてくるみこを見つけた。

みこちゃんは何故か一瞬足を止めるもすぐにリビングの方へと向かう。

 

 

『・・・・?風邪でも引いたのかな・・・』    

 

 

顔を赤らめた様子を見て疑問符を浮かべるも自身の後ろから聞こえたエンジン音を聞きすぐさま振り向いた。

 

『お!終わったんだ。周りの化け物退治。ご苦労さん』

 

武命の振り返った先にいた物。それは先日武命が乗り回していたバイクであった。声をかけられたバイクは武命に対してヴヴンというエンジン音にて答えるとそのままベルトの中へと消えていった。

 

 

『いやー、まさかバイクまで手に入るとはな。妖怪ってほんとなんでもありだな・・・』

 

バイクの正体。それは付喪神を媒体に武命がエーテルを分け与えることで生まれた妖怪『カシャ』である。

カシャとは漢字で火の車と書き、悪事を働いた人間が地獄へ落ちると、地獄の入口にて乗せられて地獄中を駆け回る存在である。本来であれば聖霊馬とするつもりであったが、今回の場合死者を運ぶ乗り物である事、戦う乗り物が必要であることも相まって妖怪化の方を選択した。

ガソリン代わりとしてこいつは周りの化け物を食ってくれるためとても重宝している。

 

『蝋台といいカシャといいこのベルトってド○え○んのポケットみたいだよな〜』

 

変身を解いて元の姿に戻った武命はそのまま真守さんのいる仏壇に向かおうとするが、リビングでその姿を見かけたことでその足を止めた。

 

『おじさん今日はリビングなんだ』

 

『あぁおはよう。ちょうど良かった、実はちょっと聞きたいことがあってね』

 

そう言って新聞を読む真守さんは手招きをする。なんだか表情が焦りを感じていることに気づくが次の一言でそれらはどうということではない事だと知る。

 

『・・・みこにはまだ彼氏、居ないよね・・・?』

 

『・・・え、いや、自分それなりに取り憑いてますがそう言ったものは特になかったかと・・・』

 

『そ、そうだよね!うん、みこに彼氏はもう少ししてからだよね!』

 

そういうとわざとらしく声を上げて笑う真守さん。娘さんを心配するお父さんというのは色々大変なのだろう。

 

『あーでもこの間ナンパされそうになってたので確かにその内出来ても不思議ではないですね』

 

『え!なにそれ?!お、追い払ったよね!そのために君のストーカーを許しているんだからもちろん追い払ったよね!?』

 

『ちょっ、人聞きの悪いこと言わないでください!ちゃんとあしらいましたよ・・・』

 

それを聞いた真守はほっと息をなで下ろすと手に持った新聞をたたみ机に置く。

 

(・・・お父さんはなに言ってるのかわかるんだ。その内生きてる人との違いがわからなくなりそうで怖いな・・・)

 

2人のやりとりを見ながら冷や汗をわずかに流したみこはそれを悟られないよう椅子に座り焼けたトーストに手をつける。

 

「冷蔵庫に入ってたプリンって姉ちゃんの?」

 

「あ、あれ食べないでよ。お供えするやつなんだから」

 

「あー、そういえば前お父さんとそれで大げんかしてたもんね」

 

「もう、今はもう気にしてないよ」

 

そう言って苦笑を浮かべるみこを見ていた真守は嬉しそうに笑うと武命に向かって自慢げに言う。

 

『いやーやっぱりうちの娘最高だ!聞いたかい今の!』

 

『よく出来た娘さんですよね〜』

 

『ほんと、僕には勿体無いくらいだよ。・・・・・生きてた時、もっと話せばよかったなぁ』

 

 

『大丈夫、きっと通じてますよ』

 

やりとりを聞いていたみこはなにもない様に見える空間に向かって話す幽霊の父を見ながら思う。

彼が自分の守護霊となってからしばらくして、仏壇の前に立っている父の姿を見た時は涙を堪えるのに必死だった。しかし彼と話す様子はほぼ毎日見受けられ、そのうち何処から持ってきたのかボードゲームまでし始めた。

 

 

かつてはいつも思っていた。今日こそは見えなくなってます様に―――と。お父さんが亡くなって、そんな情緒不安定な時に見え始めた幽霊や化け物達。いつも怖がっていた。心を落ち着かせる時間や暇もなく、段々と近づく自身の限界。そして油断して、ついに自分が見えるということがバレてしまった時。

 

それは雨の日―――――私に迫ってくる化け物―――――そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう大丈夫・・・』

 

 

 

 

 

 

彼の声を聞き取れたのは、あの日だけだ。

あの日以降私の周りを、周りの人たちを守ってくれる彼。何故彼が助けてくれるのか、それは今もわからない。ただ私はその日から周りに怯えなくても良くなり、前よりも視界に入る化け物が少なくなった。

 

 

冷蔵庫のプリンを取り出して仏壇に置き、鞄を持って学校に行く準備をする。その背中をお母さんが心配そうな目で見つめる。

 

「みこ・・・」

 

私は振り返ってお母さんの顔を見る。お母さんは少し目を見開くとすぐに安心した顔を浮かべ手を振った。

 

 

「行ってきます!」

 

私の顔には笑顔が浮かんでいた。

 

 

かつてはいつも思っていた。今日こそは見えなくなってます様に―――と。

でも今は、それが少しだけ惜しいと思う。

 

 

 

 

 

『じゃ、俺も行ってきますね〜』

 

『・・・・・』

 

『真守さん?』

 

『渡さないよ?』

 

『?プリンですか?』

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