魔法少女さくら☆マギカ-偽書ゲッターロボ ダークネス・ファンタズマ-   作:凡庸

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第6話 幸せな離別

「ん…」

 

 

 少年が呟いた。

 頭がもぞりと動き、壁に視線を送る。

 据え付けた時計の時間を見た。

 

 

「七時間、か」

 

 

 そう言って、再びシーツの中へと潜り込む。

 少しだけの動きであり、彼の位置は変わらない。

 顔を戻した先には、真紅の髪と瞳を持った美しい少女の顔があった。

 二人の距離は殆ど無い。

 特に、ある部分では。

 

 

「サクラさん、疲れた?」

 

「         ?」

 

 

 了、疲れた?

 

 

 彼女はそう尋ねた。

 全くの同じタイミングで、互いに同じ言葉を述べていた。

 異なるのは、言葉の中の名前だけ。

 心と魂の奥底から愛する者の名前。

 

 

「フ…くく…」

 

「     」

 

 

 二人は顔を見合わせ、そして笑った。

 笑った後に、気恥ずかしい気持ちになった。

『疲れた』という原因に至る行為は一つであるからだ。

 

 ただ実際のところ、二人は疲れてはいない。

 確かに水分は減ったし随分と動いた。

 しかしそこは続けながら補充したし、続けながら休んだ。

 

 またそもそも、体力は共に無尽蔵に近い。

 しかしながら、互いに今が終わり時かなと思っていた。

 飽きたのではなく、相手を思い遣っての事だった。

 

 自分は疲れていない。

 しかし相手はどうか分からない。

 ならば、負担をかける行為はしたくない。

 その想いから、ここで終わりと二人は決めた。

 

 鼻先が触れあいそうな距離で、相手の息と鼓動が感じる距離で、二人は眼を合わせながら頷き合った。

 そして彼は、ゆっくりと彼女から離れた。

 「つながり」が解ける感覚を、彼女は味わった。

 

 途中で何度か、生きるための行為をする為に離れた事はあった。

 だがそれは終わりの為のものではなく、一時の離別。

 この交わりを続けるための離別であった。

 

 今度は違う。

 終わりの為の離別。

 初めての、終わり。

 

 互いに感じるのは、少しの寂しさと大きな喜び。

 

 離れ離れになるというコトは、一つになれたことの証。

 

 そして遂に二人は離れた。

 サクラの身体はゾクりと震え、彼もまた彼女の熱と外気との温度差を感じた。

 少しだけ離れると、互いの身体に纏われた匂いに気付いた。

 

 どちらも汗や体液にまみれていたが、嫌な臭いではなかった。

 二人とも相手に対してのみ嗅覚が鋭敏になり、僅かな変化にも敏感になる。

 

 特にサクラの場合は、彼の全てを記憶しようと可愛らしい鼻を小さくも忙しなくヒクつかせた。

 彼は少し恥ずかしかったが、彼女の好きにさせた。

 その様子がとても可愛く、愛おしいが故に眼を奪われていたという理由もある。

 暫くして、サクラは言った。

 

 ―――終わる前に、あなたの方からキスして欲しい……。

 

 そう口の開閉で言い終えてから、恥ずかしさに耐えかねるように目を瞑った。

 彼は何も言わずに、彼女の唇へ自分のそれを重ねた。

 柔らかく温かく、そして少し塩辛い。彼女と自分の汗の味だと彼は思った。

 

 一瞬だけ重なり合い、すぐに離れた。

 だがそれだけでも、充分過ぎる程に愛しい時間だった。

 

――あたし達は、これからずっと一緒なんだよね?

ああ、そうだよ。

 

――嬉しい。了、あなたを愛してる。

ありがとう。俺もサクラさんを愛してる。

 

 

 そのまま互いにじっと見つめ合う。

 サクラの真紅の瞳には彼の紅と黒の二重の瞳が映り、彼の二重の瞳にはサクラの美しい真紅の瞳が映る。

 自分と相手の境界線が曖昧になる。

 そんな気がした。

 それを嬉しく思いつつも、二人は言葉にはせずに互いに同じ事を想った。

 

 

『今のままがいい』

 

 

 一つにはならず、為るとしても一時でいい。

 二人は別々。

 だから一緒に笑い合ったり、触れ合えたり出来る。

 だからそろそろ、離れよう。

 

 

「シャワー…どうしようか」

 

 

 先に行く、とは言いにくかった。

 互いが互いに纏った相手の匂いと、存在の残滓。

 それを払う行為を行うという事は、身体に触れた相手のそれが汚いと云う事に繋がらないかと。

 ほんの些細な事でも、二人は互いを思い遣る道を選んだ。

 

 如何なることでも、二人は互いを傷つけたくなかった。

 肌を重ねる中で、お互いに相手から何かを奪っていたから。

 了はサクラの中から血を流させ、サクラは了から命の一部を肉で啜った。

 

 互いに命に触れる行為をしていたと、これが初めての二人は思っていた。

 

 

「          」

 

 今度もあたしが先に待ってる。

 

 

 微笑みながらサクラは言った。ありがとうと了は告げ、彼女の言葉に従った。

 何度か替えたシーツの最後の一枚から抜け出て、彼はサクラの顔の右半分に鋼の右手を添えてから浴室へと向かった。

 小さく華奢にも見えるが、逞しい背中を彼女は彼が浴室の中に消えるまで見送った。

 

 彼の義手に触れていたサクラの火傷は、ひんやりとした心地よい冷たさを宿していた。

 しかしやがて、冷気の奥から熱が湧き始めた。

 消えてゆく冷ややかな感覚を、彼女は最後まで楽しんだ。

 

 シーツを抱きながら上半身を起こし、彼を待つこととした。

 そして壁の時計を見て、彼女は少し驚き、やがてクスリと笑った。

 最初に彼が言った事は事実だった。

 二人が肌を重ね始めてから、七時間が経っていた。

 

 だがしかし、彼は時間の下の日数のカウントを見忘れていた。

 その抜けたところにも、サクラは彼への愛を見出した。

 可愛いと思い、可憐な頬を綻ばす。

 日付の数は、彼女が最後に見た時から数えて7日、増えていた。

 

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