魔法少女さくら☆マギカ-偽書ゲッターロボ ダークネス・ファンタズマ-   作:凡庸

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第7話 赤を覆う白

「………」

 

 

 少年は、了は黙っていた。

 瓦礫を加工しての簡易的なテーブルの上には、缶詰や保存食を並べた食卓が広がっている。

 彼は爪楊枝で缶詰のフルーツを食べていたがその眼は若干伏せがちで、更には時折左右に向けられていた。

 美少女としても十二分に通じる可愛いに過ぎる顔の頬は赤みを帯び、気恥ずかしそうな表情となっていた。

 

 そんな彼の顔を、二本の繊手が優しく抑えた。

 左は尋常であったが、右手は至る所に赤桃色の火傷が広がっていた。

 彼の頬に添えられた手は、彼の視線を上へと向かせた。

 力が籠められていたのではなく、顔に触れられて彼が力を抜いたのだった。

 

 赤黒の二重螺旋の瞳の先には、彼が愛する美しい少女がいた。

 彼がサクラと呼ぶ真紅の髪の少女は、白い輝きを纏っていた。

 彼女は身体に、新品のシーツを巻いていたのだった。

 その姿はまるで、古代文明の貴婦人のよう。

 或いは、

 

 

「お嫁さん…みたいだね」

 

 

 了の指摘に、サクラは眼を細めて微笑んだ。

 彼もまた美しさに見惚れていたが、気恥ずかしさは残っていた。

 その理由は、彼女の肌面積の広さであった。

 

 シーツは確かに彼女の胴体を覆っていたが、下は鼠径部より少し下程度に留まっていた。

 つまり、サクラの太腿はほぼ露出していたのであった。

 サクラが正座をしていることもあり、彼女の美脚が露わになっていたのだった。

 

 また裸体の上に巻いている為に、身体のラインもくっきりと浮き出ている。

 露出に関しては裸体の上に包帯が巻かれていた時よりも抑えられてはいるが、それだけに肌が見える部分が強調される形となっていた。

 

 肌を重ねたとはいえ、彼には刺激が強過ぎたようだ。

 

 

「        ?」

 

 

 サクラが顔を近付け、尋ねた。

『シたくなったの?』という問い掛けだった。

 

 彼の顔が一気に紅潮した。額から耳までが赤く染まる。

 それを見て、サクラも顔を赤らめた。

 火傷の部分も色が濃くなり、満開の桜の如き色合いとなる。

 互いに相手を求めて重なり合った時のことを、鮮明に思い出してしまったのだった。

 

 こつんと、サクラは了の額に自分の額を触れさせた。

『ごめん』という意思表示だった。

 

 それを受け入れた事を示すべく、彼は彼女と肌が触れあう額に少しだけ力を込めた。

 互いの意思を僅かな動作で交換し合い、二人は今の話題から離れるように食事に勤しんだ。

 正直に言えば再び愛を交わしたい。

 だがそれをずっと続けてはいけない。

 

 愛を感じるのは、なにも肉体と体液の交わりだけではない。

 今こうしているときも、または何もしていない時でも相手の存在を感じれば尊い気持ちになれる。

 常に性欲に振り回され、己の赴くままに行動していては獣以下では無いか。

 言葉にはしなくても、二人は欲望を制御する必要性を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!あーー!あーーーーー!」

 

 

 了は叫んでいた。

 あたふたとしながら、赤と黒の瞳をぐるぐると渦巻かせながら狼狽している。

 その様子を見てクスリと微笑み、右眼でウインクをするサクラ。

 相変わらずの白シーツ姿であったが、腕は捲られ、腰から下に下がったスカート部分も裾をまくり上げられて縛られていた。

 脚の可動範囲を広げた分、当然ながら露出は増えている。

 それに心奪われる余裕も無く、了は彼女の身を案じていた。

 

 

「サクラさん、危ない、危ないってば!!」

 

 

 彼がそう叫ぶのも、無理はない状態であった。

 サクラの裸足の下には、黒い光沢があった。

 それは、愛する彼の愛機たるゲッターロボ。

 それの覚醒形態であるゲッターロボダークネスの肩の上に彼女はいるのであった。

 

 サクラが彼と、実際に初めて会った場所。

 ゲッターロボの格納庫に二人は来ていた。

 何をするんだろう?と眺めていたら、サクラは跳躍してゲッターの肩に着地し、何時の間にか手に持っていた長柄のデッキブラシでダークネスの凶悪極まりない貌を磨き始めたのであった。

 ゲッターロボダークネスの全長は約60メートル。了が心配するのも無理はない。

 

 それに対して『大丈夫だよ』と微笑み、彼女はテキパキとブラシを振ってダークネスの装甲の汚れを落とし、狭い足場を器用に使って移動していく。

 その様子に、彼も思わず感心してしまった。

 特にブラシの旋回のさせ方や使い方などは、どうも手慣れ過ぎているように見えた。

 まるで熟練の槍術遣いのような、長柄が体の一部としか思えない様子だった。

 あっという間に、漆黒の装甲が磨き上げられていた。

 猫科動物を思わせる傾き方の、槍穂を思わせる鋭さの二本の角も、根元から先端までが眩い闇色で輝いている。

 

 次いで彼女は、剥き出しとなっている多数の牙をブラッシングし始めた。

 有機体で構成された歯茎と、無機物と有機物両方の性質を持つ牙を丁寧に磨いていく。

 その中で彼女は、ダークネスの牙の一本を軽くとんとんと指先で叩いた。

 どうやらきっちり磨くために、角度を変えたいらしい。

 

 

「ああ、ちょっと待ってて」

 

 

 意図を察し、彼は言った。

 乗り込んで動かすからと続ける気だった。

 だが、彼は言葉を発しなかった。

 くいっと、ダークネスの顔が横を向いたのだった。

 全くの予期していない様子に、彼はポカンとなっていた。

 驚きの余り、言葉も発せなかった。

 

 一方のサクラはといえば、動きを終えたダークネスの顎を軽く手で撫でていた。

 ゴロゴロという音が聴こえた。

 それは機嫌を良くした猫が発する喉鳴らしの音に似ていた。

 そしてその音源も、ダークネスの喉だった。

 

 このゲッターに乗って既に約三年あまり。

 初めての現象の連続に、了は驚いていた。

 だが、その表情からすっと驚きが消えた。

 代わりに、納得と笑顔が浮かぶ。

 

 

「そっか…そうだよな」

 

 

 その感情を彼は言葉にした。

 難しい事なんて何も無い。

 あんなに可愛いサクラさんが顔を撫でてくれたんだから、ゲッターも嬉しいに決まってる。

 それが、彼が出した結論だった。

 

 

「度を越えた可愛さは無敵だ………だから、不可能なんてないんだ!」

 

 

 思わず彼は叫んでいた。

 それを聞き、サクラは少し恥ずかしそうに笑った。

 彼も笑顔で返す。

 こうしちゃいられない。

 俺も手伝わねぇと、と彼は周囲を見渡した。

 サクラの持つブラシは見当たらない。

 

 何かで代用できないかなと思った時に、サクラは手を軽く鳴らして了の注意を引き、彼がこちらを見てから何かを投げた。

 受け取ったそれを確認すると、サクラが持っているブラシと同じ存在だった。

 自分が持っていたのを投げたのかと思ったが、サクラも同じものを持っている。

 何処かに置いてあるのかなと思い、彼は礼を言いつつ彼女の元へと跳躍せんと軽く足を撓めた。

  

 だがその瞬間、けたたましい音が鳴り響き、降り注ぐ白い照明が深紅へと変わった。

 響き渡るのは警戒音と、全てを染める色は危険のシグナル。

 それが意味するものは唯一つ。

 敵襲の報せであった。

 

 

「ヤロォ………」

 

 

 深紅に染まった顔で、彼はそれよりも色濃い怒りの表情を滲ませていた。

 何が襲ってきたかなど、考える必要も無い。

 対して自分が取る行動はたった一つである。

 

 そしてそれは、彼の愛機もまた同様だった。

 磨き上げられたばかりの牙が、獲物を求めて獰悪に揺れて蠢いた。

 砕けたガラスの様な鋭い眼も、煌々とした闇色の輝きを放っている。

 それは自らの主が瞳の中に浮かべた色と同じ、殺意と怒りの色だった。

 

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