あたしの名は、ナイスネイチャ。
素晴らしい素質という名前負け感が凄いのが、玉に瑕。
そんなあたしは、中央トレセン学園の生徒なんだ。
本来だったら、周囲のみんなのように1着目指して頑張ろうってなるんだけど、
ここに入ると本当に自分自身の才能の無さに嫌気がさしてくるっていう。
入る前はそれなりに上位入賞としてたんだけど、やっぱり日本中のウマ娘が
競って入ってくるということもあって、非常にレベルが高い。
あたしは地元の小学校から推薦で入ったこともあって、普通に入れたんだ。
だけどそんな推薦も、名門學校から入ってきたウマ娘に比べると本当に能力がない。
最初はこなくそと思って真剣に頑張ったんだけど、やっぱりやる気というか連対率が
徐々に下がってきてからは諦めるようになってきた。
それで色々あって、掲示板に入って怪我無く卒業できればいいかなーなんて考えるようになってしまった
わけで。はぁ……送り出してくれた先生や友達、町のみんなに申し訳が立たないねぇ……。
半年過ぎてメイクデビューをするんだけど、この学園に来てから色々とやっぱり周辺の散策をするじゃない?
その過程で、トレセン学園周辺の商店街に行ったりするわけで。
そこへ食事に行ったり、ついでに手伝いや迷子の捜索をしたりと、
もともと困ってる人は見捨てられない性分だからお人好しMAXな感じでやってると、
何故かあたしを応援するみたいな人が出てきちゃったんだよね。
しかもどこから聞いたのか、明日にあるという選抜レースまで見に来るという始末。
一体誰があたしの事を言いふらしたんだか。
まあ考えられるのは、あの主人公感あふれるトウカイテイオーか他のデビューを
におわせているウマ娘が、出場バを言いふらしたんだろう。
まったく厄介だなぁ。
なんでこんな才能がないあたしなんかを応援してくれるんだろうかね。
あたしよりも輝いている子なんて、いっぱいいるというのに。
「あ」
そうだ。出ないとしらばっくれよう。
そしてそれを誰に言ってもらおうか。
既定の時間まで時間があるから、正門前付近にいる用務員さんにでも頼もうかな。
「そこの人、すみません。ちょっといいですか?」
「ん?」
なんか清潔感溢れる男性だなぁ。さすがにお外の人がくるから、来賓対応みたいな服装してる。
「あの~これから選抜レースが始まるんですけど、もしネイチャ出ますかーいますかーって聞かれたら、でませんいませんって―――」
そう言った時、商店街の見知ったおじさんやおばさんたちが大挙して押し寄せてきた。
たくさんの希望や好意をぶつけてくれるんだけど、それに応えられるほどあたしは強くないっていうか……。
なんか申し訳ないけど、ほんとあんまり期待しないでくださいよ。
あたしはせっかく来て下さった商店街の方々に詫び入れた。
でも皆さんはそんなあたしに、レースを楽しんで来いよって言ってくれたんだ。
勝つ勝たないって事を深く考えないように言ってくれたのはありがたいし、
なんなら勝つ気でいるんだけど結果は兵家の常だし。
「えーっと、放置しちゃっててごめんなさい」
「随分好かれてるんだね」
「好かれているっていうか、顔なじみと云いますか」
あたしは用務員さんにそう話していると、ふと胸元に光るものを見つける。
それはトレーナーバッジ。つまり、この学園おかかえのトレーナーだということだ。
えーと、やっちゃったかな? やっちまいましたね。やばい。
「あのー、そのバッジはまさか……」
「ああうん。トレーナーバッジだね」
「やっば、逆アピールしちゃった」
「そう? いい自己紹介じゃないか。ところで、キミをスカウトしたいんだけど、いいかな?」
「へあっ!? なんで!?――<第一選抜レース10分前です。予約されたウマ娘の皆さんは……>―― っていうか、もう選抜レースじゃん! お話はまたこの後でお願いします! 失礼します!」
あたしは驚きであふれかえっていたところ、選抜レースを開始するアナウンスが聞こえたので、すぐにトレーナーさんに謝って踵を返した。
アタシの出番はすぐじゃないけど、着替えるのに時間がかかるから悠長なことは言ってられないんだ。
それにしてもあのトレーナーさん、あたしでほんとによかったのかな?
まさかと思うけど、才能の無い子をああやって弄んでいるとかないよね?
ないとは思うけど、見たことあるからやだな……。
スカウトじゃなくて、名義貸しとちょっとしたメニューを与えるだけで、
メンタルケアとか基本的なやるべきことをやらずに放置するっていうの。
「さて! スカウトされるために頑張りますか!」
結果三着。
結局こんなもんよってね。才能ないなぁ。
トウカイテイオーみたいに、大きな夢も能力もない。
でもまあ、掲示板内に入れたからいいかな。
「ナイスネイチャ!」
「うわあ!?」
いきなり朝会ったトレーナーが、外から大声でアタシの名前を呼んだ。
いやいやいや、ありえないでしょ。3着だし、テイオーっていう将来性の塊がいるんだよ。
なのにそれを歯牙にもかけず、あたしを指名するって控えめに言っておかしいでしょ。
「とうっ!」
って、なんでトラックに入って来てんのさ!
レース終わってるけど、入っちゃダメじゃん。ああもう!
「ナイスネイチャ! 君には才能がある、スカウトする!
ああ、照れなくていい。君には、テイオー以上の才能があるんだ。謙遜しなくていいぞお!」
「照れてないし、謙遜もしてないですって!
トレーナーさん、トラック、トラック入っちゃってるから!」
「入っちゃってる? 入れてんだよ、こっちはよお」
あーあー先生が来てトレーナーに注意し始めましたよ、やばいよこれ。
このあとトラックの外に出て、トレーナーと話し合いました。
結果、テイオーに睨まれながらトレーナーと一年間の専属契約と、それ以降のチーム契約を結びました。
トレーナーは書類整理してくるとか言って去ったけど、このあとテイオーの相手するのはアタシなんだけど!
夢も希望も持ってなくてほどほどでいいアタシが、テイオーっていう皇帝の次代にめをつけられてしまった。
何てことしてくれちゃってんの、ほんと。
まあせっかくだし、トレーナーの手腕を見せてもらいましょうか。
謎の上から目線しちゃったけど、普通に不遜だし失礼だよね。
アタシのキャラに合ってないからやめよう。