「テイオーの泣き顔こそ、そこに華がある。イイ……ハッ! 誰かに見られている?」
やっば。
授業が終わって午後からトレーナーさんと身体づくりをしようと、筋トレルームに向かおうとした矢先ナニカ得体のしれないものを感じて寄り道したと思ったら、藪蛇つついちゃったよ。
あーあーあー、しかもテイオーがみせてくれたトレーナーの写真にそっくりだから、
何してるのか見てみようと思ったりもしたから、好奇心ネコを戮す的なことに!
しばらくしたら霊圧が消えたので、こっそりかつ最速で移動した。
あぶない。あれは非常にあぶないところだった。
ま、テイオーも癖が強いけど、芯はあるし大丈夫でしょ。
何なら意見書ということで、投函しとけばいいし。
アタシはそう結論付けてから、トレーニングルームへ向かう。
そしてそこでアタシは専門的なものを受けた。
まずはパワーと持久体力をつけるらしい。
アタシの筋肉は、死んだ。
「やー、もう動きませんわー。やっぱ、専属のトレーナーは違うんだねー」
「そうか? 全体トレーナーさんも上手くやってんだろ」
「んー、でも流石に体全体を数値化して全体のコンディションを測るのは、
中々厳しいところがあるとおもうんですよねー」
「これぐらいはな。うーし、これで終わりな」
「え、でもまだ二時間だけど。走らないの?」
「最終直線で垂れてるのを直したいだけだから、今しばらくはパワーとスタミナだ。
走るなら30分以内かつジョギング気味でいいよ」
「割と大雑把?」
「ははは。メイクデビューまでには仕上げるから、期待して日々努力してくれ」
いやートレーナーさんは朗らかに笑ってるけど、目が笑ってないから
きっとすごいことやってくんだろうなあ。
それに見た目は若いけど、結構やりてだろうし。
アタシと違って、トレーナーの世界でいうとテイオー位の猛者なのかも。
ほんと、周囲の環境だけはよかった。
だけどアタシが直面する現実は、こうもいかないんだ。
「さ、明日は模擬レースだ。ちゃんと走りこまずに寝ろよ?」
「はーい」
そういうわけでアタシは、トレーナーのマッサージを受けてから
寮に帰って明日のために準備して寝た。
そーいえばマッサージだけど、意外と気持ちいいもんだね。
さすがに患部やられたら痛いけどさ、そのあとの回復効果が高い。
こりゃ専属じゃないとやってらんないでしょうな~。
さて次の日、模擬レースをやったんだけど、やっぱ3着だ。
入着はできたけど、連対はなかなかいかないね。
やっぱ世代の壁が高いや。
「よく頑張ったな、ネイチャ!」
「頑張ったって……いやー3着だよ?
全体でいえば下の方だし、そこらのウマ娘よりも意欲なさすぎでしょ」
「勝つ気持ちがあるなら十分さ」
「何をおっしゃいますかー。誰でも持ってるものしか持ってないのがアタシなんですよ。
でも与えられた環境で、十全を尽くさないで言い訳するようなウマ娘にはなりたくない。
たとえ、1着になれないような限界値が低い脚をもっていたとしても」
アタシはトレーナーの顔を見てそう伝えると、彼はにかっと笑ってアタシの頭をなでてくる。
「卑屈になるなよ! さあ終わりだ。一緒に商店街に行って、何か腹の足しにしようじゃないか!」
トレーナーさんは、アタシの暗い気分を強引に晴れさせて商店街に向かう。
ここはあたしもよく知ってる商店街だ。前の選抜レースの時応援してくださった方々がいるのが、この商店街。
しばらく歩くと街のあちこちからあたしとトレーナーさんを呼ぶ声が聞こえる。
あたしは別になれたものだから、手を振って挨拶している。
でもトレーナーさんも商店街でお世話になっているなんて、ちょっと意外だなーって。
「ところで、あんたはネイちゃんの何なんだい?」
「専属トレーナーになりました」
「ふぁ!? お前さん、やっと独り立ちしたんかいな!
いっつもべそかいてたのに、立派になったもんだねえ!」
バシイ!
「ブッ」
いい音入ったねえ! って、えええ!!?
トレーナーって、最近担当持ったばかりなの!?
「べそかいてたって?」
「ネイちゃん、こいつはね、もともとサブトレーナーやってて、いっつもいろんなところでやけ酒してたのよ。酒に弱いくせに、いっつも煽り酒やって。
やれトレーナーがうざいとか、あの人間今度こそうちの子が仇を取ってくれるとか、
色々息巻いてたのよね。いやー、懐かしいわー」
「ほんともう、お恥ずかしいばかりで」
「あんちゃんもようやっとメイントレーナーか! 三年間、長かったなあ」
なるほど。だからかぁ。凄く熱心で、マッサージも上手くて、しかも訓練内容と目的もちゃんと教えてくれる。ほんと、アタシにはもったいないトレーナーだね。
でもトレーナーはあのスカウトしてくれた時と変わらずに、アタシの事を”才能がある”とか”キミだからこそ意味がある”とか浮ついた言葉を常に言ってくれる。
アタシはそんなに素直じゃないから、トレーナーの甘言は卑屈をもって返してるんだけど、徐々にその甘い言葉も悪くないっていうか……。
「つ、疲れた。とにかく、なんかつまんでくか?」
「そうですなぁ、ホルモンってのはどう?」
「お、いいねぇ」
少しして解放されたトレーナーは、アタシと一緒に顔なじみのおっちゃんのお店でホルモンを食べた。
最近の子は、ホルモンは苦手とか聞くけどお母さんの影響もあって、ずいぶん慣れちゃったな。
ホルモン・酒・たばこって、お母さんのスナックから出ると大体そんな感じ。
「ネイチャはホルモンもいける口か」
「うん。うちの家がスナックでもあるからね、すっかり慣れてしまったもんで」
「そりゃ近所付き合いも幅広くなるだろうな」
トレーナーってば、焼酎まで頼んじゃって何してんだか。
「トレーナー。明日も平日なんだから、お酒は控えめにね」
「酒を飲まんでやってられっかよ」
「こりゃのん兵衛ですわ。さすがに二日酔いはシャレになりませんって」
あーあーあー、となりのおっちゃんと酒盛りやっちゃってるよ。
いつの間にかどんちゃん騒ぎで、あたしまで巻き込まれてしまった。
未成年にお酒はダメって云うのはわかっているみたいだけど、
完全に成人になってるトレーナーは空気に呑まれているね。
あのおばちゃんにもいわれたように、トレーナーは下戸らしくて
顔真っ赤でへべれけだぁ。
大丈夫かな?
大丈夫じゃなさそう。呂律も回ってない。
そんな帰宅途中のサラリーマンじゃないんだからさー。
仕方ない。おぶって帰ろうか。
「じゃ、お暇します」
「応! アンちゃんをよろしく頼むぜぃ!」
さぁて、たづなさんふくめなんて言い訳するかな。
それもあるけど、酔いつぶれてる最中にアタシの事をあることないこと言うのはやめてほしいね。
三冠までは言わなかったけど、菊花賞はとってやるとかばっかじゃないの?
や、まあ、アタシもトレーナーに期待されるのはやぶさかじゃないってゆーか。
むしろ嬉しい。
だって皆アタシを気遣ってる言葉ばかりだし……。
実家からもちゃんと学園は卒園しなよ!と告げられた。
つまりそういうことだと思う。お母さんはわかってたんだと思うな。
というわけで、酔ってながらも心の中ではアタシに勝ってくれると思っていてくれるのはうれしくて、ついついトレーナーに言ってしまうんだよね~。
「トレーナー」
「んぁ?」
「菊花賞バにして」
「よっしゃわかった」
酔ってるくせに安請け合いしちゃって~。
「いや~今年でもよかったんだけど、まさかネイチャから来年もG1に挑みたいって聞けるなんて。俺の戦略脳が疼いちゃうぜ~!」
「はいはい、暴れない暴れない」
いくらヒトでも背負ってるから暴れられると、バランス崩すでしょうが。
アタシはこのままトレーナーを、桐生院っていう人に渡して自分の部屋に戻った。
なお、後日。
このことをトウカイテイオーに問い詰められるとは思わなかったね。
びっくりしたよ。