軽巡洋艦天龍はその日もいつものように随伴を連れて遠征に出ていた。安全が確保された海域を通って資材が沸いて出る島(原理は不明)に向かい、資材を持って帰投するだけ。そのはずだった。
帰投中に敵艦隊に遭遇。それも水雷戦隊程度ならまだよかったのだが、あろうことかあのレ級がいた。レ級は単体ですら並大抵の艦隊では逃げ帰るのが精々で、討伐となればそれこそ四大鎮守府以外は連合艦隊を組む必要がある。そんな奴が随伴艦を連れているのだ。戦艦ヲ級(flagship)、重巡ネ級、軽巡ツ級(elite)、駆逐ロ級(elite)が2隻と、各々が一筋縄ではいかない存在だが、それらが艦隊を編成して現れるなど質の悪い夢の方がマシである。
対してこっちはそれなりの練度はあるものの所詮は水雷戦隊。せめて周りに島があればまだどうにかなっただろうが生憎目に見える範囲には島一つない大海原のど真ん中。おまけに太陽はまだ真上にあり、当分夜はこなさそうだ。
まぁつまるところ深海棲艦が気まぐれで見逃すか、余程の奇跡が起こらない限り彼女らの命運は尽きているということである。当然天龍も提督に報告ついでに援軍を求めたが、早くても到着するのは夕方になるため、ないも同然である。しかし、それでもせめて一人でも生き残れるように自分より足の速い駆逐艦たちに一刻も早く逃げるよう命じた。
「お前ら、合図したらなりふり構わずに鎮守府まで逃げろ。俺が殿になる」
「天龍さん、そんなの無茶よ!私も――」
「ダメだ!今ここで皆が沈むより俺だけ沈んだ方がマシだろうが!!」
「でも!天龍さん一人で戦うより皆で戦った方が援軍が来るまでの時間も稼げるじゃない!」
「それに天龍ちゃん一人で時間を稼ぐって言ってもレ級が相手じゃすぐ沈められてその後逃げた私たちも各個撃破されるのがオチよ?それに、もう逃げる時間もないわよ~?」
龍田の言うとおりだ。レ級相手に俺一人じゃ碌に時間も稼げずに全員沈む。それにここで言い合っている間に敵に距離を詰められている。
「っ…仕方ねぇ!全員、戦闘用意!!」
あれから、どれくらい時間が経った…?太陽を見てみると、さっきより少し西側にある。時間にして、一時間くらい、か…。まだそれだけしか経っていないのか…。ったく、一隻くらいは道ずれにしたかったんだがなぁ……。
砲弾が大気を切る音が聞こえる…ここまでか…。
……?待て、音の方向がおかしい。敵の方に向かっているような……?
瞬間、轟音が空気を揺るがした。爆炎でよく見えないが…敵に命中したのだろう。煙が晴れると、さっきまでいたはずのヲ級とネ級、ツ級が沈んでいるのが見えた。レ級も中破しており、それも兵装の殆どをやられたらしい。俺はボロボロの身体に鞭を打ち、声を絞り出した。
「っ…お前ら、気張れぇ!!今のうちに畳みかけるぞ!!」
その声に、俺と同じくボロボロだった龍田や六駆の主砲が火を吹く。弾は吸い込まれるように大破していた二隻の駆逐艦に当たり、海の藻屑に変わった。
だが、
「ああもう!往生際が悪いわね!」
肝心のレ級に当たらない。砲を撃っても、残っていた魚雷を放っても当たらない。だが、レ級の攻撃も当たらない。砲身が割れたのか、砲弾が明後日の方向に飛んでいく。
すると、また砲弾が飛んでくる音が聞こえた。飛んできた弾は全てレ級に命中し、レ級は木っ端みじんになって海に沈んだ。
ほどなくして異常にデカい主砲を持った一人の艦娘が現れた。