佐天の眉毛がようやく消えたころ。
ジャッジメント177支部では、安倍と固法の2人が相談をしていた。
「どうしますか?」
「そうねー」
「前回の重福もレベル4でした。前の銀行強盗のパイロキネシストもレベル1だったのに、レベル3でしたしね。あまりにレベルが合わない人間が多すぎます」
「そろそろ、白井さんや初春さんにも教えるべきじゃない?」
「そうですね。次にレベルが合わない人間が出てきたら、教えるべきですかね」
「どう思う?どうしてこんな現象が起きているかについて」
「作為的なものを感じます。レベルが上がる簡単な方法が見つかった可能性もあり得ますが、それにしてはあまり出回ってないことを考えると、あまり表ざたにできないものでしょうね」
「何か副作用がある、または、まだ実験段階の試作品ってとこかしら」
「ほかには、彼らが能力開発を頑張った可能性もあります」
「にしては・・・」
「そうですね。彼らがそんなに頑張るタイプとは思えませんし」
「あまり―――」
「「こんにちわー」
「失礼しまーす」
「こんにちわですわ」
いきなりドアが空き、初春、佐天、美琴、白井の4人が入ってくる。
「あら、4人もそろってどうしたの?」
「よかったね、佐天、ちゃん。眉毛、消えて」
「安倍さん、笑いながら言わないでください」
「ごめんごめん」
「で、どうしたの?」
「今からやるんですよ」
「ごめん、佐天ちゃん。主語が抜けてちゃわかんない」
「都市伝説ですよー」
「「は?」」
真っ暗にしたジャッジメントの支部に佐天の声が響く。
「これは、先輩の友達の彼氏が、実際に遭遇したっていう話です」
「ある蒸し暑い日の夜。その彼氏さんが、人気のない公園を歩いていた時のこと。一人たたずんでいた女の人に、駅までの道のりを聞かれたそうです。その彼氏さんが、快く駅までの道順を説明していると、どこか虚ろなその女の人が・・・ふわーっと手を上げて・・・」
「「「「ん」」」」
佐天以外の女子4人が、息をのむ音が聞こえる。
「突然ガバーッと!」
「ガバーッと!?」
意外と苦手なのか、美琴が過剰反応する。
「ブラウスを脱いだんです」
「「「「「うん?」」」」」
固まる一同。
「って、全然全く怖くないじゃん!!」
あまりのおちに、美琴が叫ぶ。
「せっかく雰囲気を作っても、そんな話じゃ興ざめですわね」
「え、でも、実際遭遇したら、怖くないですか?いきなり脱ぎだす都市伝説!脱ぎ女!」
「怖くない!と、いうより、それってただの変質者じゃない」
美琴、白井、佐天が話している間に、初春はパソコンを起動させる。
「じゃあじゃあ、こんな話はどうですか?」
「「「「「ん?」」」」」
「風力発電のプロペラが逆回転するとき、街に異変が訪れる!」
「あ、これなんかいいじゃん。夕方4時44分に学区をまたいではいけない。幻の虚数学区に迷い込む!」
「使うだけで能力が上がる!
「はあ、そんなくだらないサイトを見るのはおよしなさいな」
「だいたい、都市伝説なんて非科学的な話、ここは天下の学園都市よ」
盛り上がる初春と佐天に、白井と美琴はあきれているようだ。
「もう、ロマンがないなあ」
「それに、本当に起きた出来事が形を変えて噂になっている場合もあるんですから」
「そうだね、1番目のは本当だよ」
「安倍君?意外とこういうもの、信じるの?」
「だって犯人知っているもの」
「「「「「へ?」」」」」
皆の視線が安倍に集まるが、安倍はそこからは喋らない。
「あら、これなんか、いかにも学園都市って感じじゃない。どんな能力も効かない能力を持つ男なんて」
固法がページの一か所を指す。
「確かにー。いかにも学園都市らしいですねー」
美琴は何か険しい顔をして考え込む。
「そういえば、こんなうわさを知ってますか?」
「どんなものですの?」
「学園都市に、現れる
「知ってます!!」
「「「「亡霊?」」」」
佐天の言いだした言葉に、初春以外が首をひねる。
「どんな噂なんだい?」
「なんでも、今まで学園都市で死んだ人たちの霊の集合体なんじゃないか。って噂なんですけど」
「そのほかにも、ファントムとかドッペルゲンガーなんて呼ばれてます。現れる時の服装が、白いコートのフードを深くかぶり、仮面をつけていることから、そんなあだ名がついたようですね」
「うわ、変質者くさいですわね」
「でも、不良なんかに絡まれた人たちを助けるらしいんです」
「それ、ただのいい人じゃない」
ようやく考え事を終えた美琴が、佐天と初春の説明に首をかしげる。
「でも、その時に使う能力が、いつも一緒ってわけじゃないんですよ!」
「いままででも、火を放ったり、重力を操ったり、テレポートしたり。何でもかんでも使えるらしいんですよねー」
「まさか、実現不可能と言われた、デュアルスキルですの?」
「さあ?でも、すべての能力を使えるって噂なんですよ!」
「だから、死んだ人の霊の集合体なんて噂されてるんですよねー」
「本当にいるんだったら、レベル5も超えるんじゃないかって!」
「ふーん。本当にいるんだったら、勝負してみたいわね」
4人が興味津々で話す中、安倍と固法は黙っている。
「あ、いけない。今日、用があったんだ!それじゃあね!」
突然美琴がカレンダーを見、ジャッジメントの支部を出ていく。
「あんなに急いで、どうしたんでしょう」
「今日は雑誌の販売日ですからね。大方、立ち読みにでも行ったのでしょう」
「ずいぶんと子供っぽい理由だね」
「まったくですわ」
「それより、安倍先輩はどう思います?」
「どうって、何が?初春ちゃん」
「ゴーストさんの事ですよ!安倍先輩って、能力に詳しいじゃないですか!」
「うーん・・・。例えば、学園都市の第2位の能力なんてどうかな?」
「第2位ですか・・・?」
「佐天ちゃんは知らないか。未元物質(ダークマター)って能力で、この世に存在しない物質を操る能力なんだけど、例えば、引力を発生させる物体や、そのものが発火する物体なんかを作れる」
「なんですか、それ!反則じゃないですか」
「佐天さんの言う通りです。例えば、どんな攻撃にも耐えられる物質とかを作ることができますよね」
「うーん。そんなに万能ってわけじゃあないと思うんだけどね。それに、起こった現象がリアルじゃないんだったら、第5位とか?」
「まさか、うちの学校にいる、あの方のことですの?」
白井はちょっと嫌そうだ。
「そうだね。
「なるほどー。さすがですね、安倍先輩」
「生き字引みたいなものよ」
「固法先輩。それって年寄りに似合う言葉ですからね。僕はまだ若いですから」
しかし、固法は安倍の言葉を聞いているような様子を見せない。
「それに、一番ありうる可能性は、一人の人間が複数の能力を使うんじゃなくて、複数の能力者が一人の人間なんだと思うけどな」
「なるほどね。グループだってことね」
「確かに一番ありえそうですわね」
「えー!そんなの夢がなさすぎですよー」
「初春の言う通りです。夢がないですね」
そんなこんなでいろいろな話をしていると、佐天の携帯が鳴る。
「はい。佐天です。ああ、御坂さん?どうしたんですか?はい。『脱ぎ女』ですか?」
「まさか、御坂ちゃんが遭遇しちゃったとかだったりして」
「いやいや、流石にないと思いますよー」
「そうですわ。お姉さまはレベル5。そんな変質者一発で―――」
「マジで、突然服を脱ぎだしたんですか!?」
「おいおい、あたりかよ?」
「あら、御坂さんも大変ね」
「佐天さん、スピーカーにしましょうよー」
初春に促され、佐天がスピーカーモードにする。
『プープープー』
「あれ、切れちゃいました」
「一応かけなおしといたら?」
「そうですね」
『おかけになった電話は、現在電波の届かないところか―――』
「留守電になってます」
「まあ、お姉さまなら大丈夫ですわ」
「いやいや、やばいんじゃないですか?」
「まさか、御坂さんも脱ぎ女にやられちゃったのかもー」
「それはあり得ませんわ」
佐天と初春が白井をあおるが、白井は毅然と言い返す。
「まあ、御坂さんからかけなおしてこないことには、どうしようもないわよね」
「固法先輩の言う通りだよ。心配してても仕方ない」
「そうですわね」
「そう言えば、今度個の近くにできたケーキ屋なんですけど―――」
◆
「しかし、まだお姉さまにはつながりませんわね」
「なんだかんだ、白井さんも心配なんじゃないですか?」
「そーですよ。『お姉さまなら大丈夫ですわ』とか言ってたのに」
「ちょ、初春。誰のまねですの?」
「まさか御坂さん、脱ぎ女に襲われていたりして!」
「だからそんな世迷いごとを」
「あら、脱ぎ女について、たくさん書かれたサイトがあったわ」
「固法先輩。ノリノリですね・・・」
「どれですか?」
佐天が固法のパソコンをいじる。
「なぁー!」
「ど、どうしたんですか?佐天さん?」
芝居がかった佐天に、初春も乗る。
「白井さん。脱ぎ女に襲われた人は、叫び声を最後に、連絡が取れなくなるって」
「ま、またそんなことを」
「白井ちゃん、汗が出てるよ」
「そこは突っ込んじゃダメよ、安倍君」
「大体、お姉さまは、常盤台が誇る、無敵の、電撃姫、ですわ。そんな、ただ、脱ぐだけの、脱ぎ女に、やられるなんて、ありえませんわ」
「―――いいえ、白井さん。もっと恐ろしいことが起きているのかも」
佐天がちょっとトーンを落とした声を出す。
白井は引き込まれたのか、前のめりになってつばを飲み込む。
「ど、どういうことですの?」
「ぬ、脱ぎ女って、伝染するって」
「伝染・・・」
「ちょ、なにこのシリアスな感じ・・・」
「脱ぎ女に襲われた人は、その呪いで自らも脱ぎ女になるって!」
「ぶっ。それじゃあ御坂さんもあっちこっちで服を!」
「待って、初春ちゃんも乗らないで・・・」
「そんな!ま、まさか、お姉さま・・・」
「固法さん、収集つけてくださいよ」
「無理よ」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫しながら、白井がデスクに頭をぶつけはじめる。
「お姉さま!おやめになってぇぇ!」
「し、白井さん?」
初春に声をかけられ、白井はがばっと顔を上げると、初春の両肩をつかむ。
その眼はもはや開き切っているし、充血もしている。
鬼のような形相だった。
「初春!呪いを解く方法を探しなさい!すぐにぃぃぃ!」
「そ、そんな、ほ、本気に・・・」
初春の肩を前後に大きく揺さぶりながら、白井は初春に指示を出す。
さすがに、仕掛け人の佐天も、ちょっと引いている。
「そ、そうですよ。ただの都市伝説ですよ」
「それでもはやくぅ!」
解除法を見つけると、白井は寮へとテレポートで帰っていく。
「まったく、本気であんな事しないよな」
「いや、今の白井さんならやるかも」
「ど、どうしましょー」
「私が盛り上げちゃったから・・・」
「ま、どうしようもないってことで」
その夜、脱ぎ女の解除法という噂の『頭からパンツをかぶる』を美琴に行おうとした白井は、縄でぐるぐる巻きにされ、朝まで寮の廊下に放置されたらしい。