第11話 とある日記
今日は、面白い出会いがあった。
それは、私がジャッジメントの支部にいた時に起こった。他にもそこには、男の先輩が2人、女の先輩1人の3人いた。
そこに、アンチスキルからの応援要請が入った。内容は、スキルアウトが暴れていて、アンチスキルが対応しているが、制圧できないので助けてほしいとのこと。
「どういうことさ、ったく。アンチスキルもちゃんとしてほしいさ」
「愚痴を言うな、宗禅。我らが一番近くの治安維持組織なのだ。我らが呼ばれて当然だろう」
「あーあ。とっとと終わらせたいわ」
愚痴を言う宗禅先輩。それをいさめる黄道先輩。だるそうに伸びをする三枝先輩。その3人に、私も一緒になって4人でアンチスキルのところに向かった。
アンチスキルがいるはずの裏路地に着いたが、そこにはアンチスキルが、ヘルメットのまま壁にたたきつけられたのだろう、銃を持ったまま壁に寄りかかる形で倒れていた。
道のところどころにもスキルアウトも倒れている。
「へえ、随分やるようさ」
「そうだな。油断は禁物だ。これは少々、厄介な相手のようだ」
「ったく。アンチスキルがやられちゃどうしようもないじゃない」
「そう言うな、三枝。アンチスキルに能力者はいないのだ。固法、奥を見れるか?」
「はい」
私が能力、
「おい、増援か?いるんだろ。俺に用があんだったら、正面からこいや!」
突然叫び声が中からかけられた。そんな中、私はクレアボイアンスを発動させる。
「こいやぁ!」
「どうするんさ、班長」
「どうだ、固法」
「奥のところに立っている男が一人いますね。他の人間は倒れています」
「えー。一人も残らずやられちゃったの」
「ほかはちょっとわからないですね」
「そうか」
「どーすんの?黄道」
「どうするんさ、班長」
「そうだな。やるしかなかろう。宗禅、三枝、いつも通りの連携でたたくぞ。固法はサポート」
「OKさ」
「りょーかい」
「分かりました」
「標的にはどうやって近づくさ?」
「うちの能力でも使う?」
「いや、人数まで把握されているということは、隠密行動は不可能だろう。正面から普通に行くぞ。油断をさせて、一気につぶすぞ。ただ、相手からの不意打ちへの警戒として、固法、頼むぞ」
「分かりました」
「了解さ」
「りょー」
私たち4人は奥まで進む。
道中、やられたのであろうアンチスキルやスキルアウトが何人も倒れているが、うまく避けて進む。
「あぁん?んだよ、今度は自己満連中のジャッジメントかよ」
奥にいた少年が、吐き捨てるように言う。
冬だというのに、学ランもセーターも着ず、ワイシャツ一枚で1人のアンチスキルの襟をつかんでいる。もう、意識はないだろう。
「ふむ。貴様が暴れている者か」
「どう考えてもそうだろぅが」
武器は特に見当たらない。素手だけで、または能力を使ってアンチスキル10名ほど、スキルアウトを多数つぶしたのだろう。
だとすれば、随分な手練れか、相当な能力を持つ能力者である。
「で、自己満連中が何のようだ」
「貴様をつかまえに来た」
「はん。テメェらにできんのかよ」
「おとなしく投降しろ。そうすれば傷つけん」
少年は一度、下を向く。
「おいおい、随分上からな言い方だなぁあ!」
叫んだ瞬間、地面を蹴った少年は黄道先輩の懐に潜り込む。黄道先輩の顎に向かって、少年がアッパーを放つ。
しかし、不意を突いたようなアッパーの一撃は、黄道先輩には当たらなかった。
懐から放たれたはずの一撃は、黄道先輩の目の前を通る。
逆に、黄道先輩の右ストレートが少年へと放たれる。
ストレートが当たる直前、少年が後ろへと飛ぶ。それによって、ストレートの射程圏外へと出る。
だが、次の瞬間、少年の頬にストレートが入る。そのまま飛んでいく少年。
「あぁ?」
少年は見事に受け身を取り、地面に着地する。
避けれないはずの攻撃が当たる、避けたはずの攻撃が当たる。
「なぁるほど。距離操作系、またはテレポート系の能力者か」
一瞬でこっちの作戦を読める当たり、少年も能力者ではあるようだ。
「流石、自己満連中、能力はあるってわけか。ただ、テメェ自身ではねえな。そこの3人の誰かが能力者か」
少年はこちらを見る。
「なぜ、我ではないと思った」
「距離能力、テレポート系能力、双方ともに、随分な集中力が必要になる。そんなん戦いながら、正確にやっているならば、少しは攻撃が中途半端になるはずだ。さっきのパンチにはかなりの体重がかかってたからなぁあ!」
少年は狙いを変え、壁を三角とびの要領でジャンプしながら、黄道先輩の上を通る。彼の狙いは、黄道先輩の陰にいる、私たち。
しかし、通り過ぎる際、何かを察知したのか、黄道先輩に向けて、ガード体制をとる。
その体が、何かに当たったかのように、上へと飛ぶ。そのとんだ体制から、壁を蹴り、元の場所へと着地する。
「なるほど、テメェ自体はエアロハンドってところか」
「なかなか良い読みをしているな、貴様も。ならば、こちらも本気でかかろう」
黄道先輩が、手を小さい子がよくやるような拳銃の形にする。そこから、連射せれるように風を固めた球が少年を襲う。少年は、体の前で腕をクロスさせ、防御に徹する。
「おいおい、俺も忘れちゃ困るさ」
ガードに徹する少年のかなり後ろに宗禅先輩が現れる。
「くっ」
かなり遠いはずの宗禅先輩は、使用者のスピードを上げる、アロースピードで少年に一瞬で近づく。
宗禅先輩の蹴りが少年の背中に入る。かなりの助走をつけられた蹴りに、少年は飛ばされる。
しかし、前から来ているのは黄道先輩の風の弾丸。
「がっ」
自分のスピード分も合わさり、風の弾丸の威力が増す。これこそ、このトリオの必勝パターン。
黄道先輩の遠距離攻撃。ガードに徹すれば宗禅先輩の近接格闘。攻撃に転じても、宗禅先輩のスピードには追いつけないし、黄道先輩へは、三枝先輩のフリーディスタンスで外される。
固法が入ることで、相手の隠し武器などがすべてわかるようになり、さらに安定的な逮捕ができるようになった。
弾丸で飛ばされた少年に、風の弾丸は休みなく襲いかかる。
「ちっ。なかなかやるじゃねぇか!」
「おとなしくお縄につけ。さすればこれ以上はやらん」
驚いたことに少年は、弾丸と宗禅先輩の攻撃、同時によけながら会話を続ける。
「そりゃぁ、できねぇ相談だ!」
「ならば、このまま削りきってやろう」
少年は壁などを使い、立体的に回避を続ける。それに対し、黄道先輩は一歩も動かずに弾幕を張る。時々、宗禅先輩の蹴りが空を切る。
避けられているとはいえ、少年が攻撃できない、完全なるワンサイドゲームだった。
「なかなかしぶといな、貴様。しかし、ここまでだ」
黄道先輩の言葉とともに、宗禅先輩が距離をとる。
宗禅先輩の最速は、助走を十分につけた時だ。だからこそ、助走をつけてロックオンをするために、はなれる。
黄道先輩の弾丸は途切れることなく続く。
立体機動をやめ、少年が地面に着地するその時。
「相手が悪かったさ!」
宗禅先輩の姿が消える。宗禅先輩の助走が十分についた蹴りが、矢のように少年へと向かう。
完全にとどめを刺すための一撃。
でも、その攻撃は少年へと突き刺さらなかった。
少年は、黄道先輩の弾丸に当たることを構わずに、宗禅先輩の攻撃に対する回避を行った。宗禅先輩は、攻撃を避けられたせいで、少年の懐に無防備で入った結果になる。
「邪魔だぁ!」
ガッ!
少年の拳が、宗禅先輩の頬へと入る。
「ガハッ!」
そのこぶしの威力で吹っ飛ぶ宗禅先輩。
「「「なっ!?」」」
吹っ飛ぶ宗禅先輩は、地面で2、3回バウンドすると、そのまま地面を滑る。
黄道先輩と宗禅先輩のコンビはかなりの安定感がある。なぜなら、黄道先輩の連射で、宗禅先輩まで手を回せる人間がほとんどいないからだ。
だが、彼は、黄道先輩の攻撃より、宗禅先輩へと意識を割いた。
私も、三枝先輩も、黄道先輩も、固まってしまった。
その一瞬は、一瞬だが、大きな意味を持っていた。
宗禅先輩を殴りとばした少年は、いつの間にか黄道先輩の懐に潜り込む。
少年は、先ほどと同じようにアッパーを放つ。
「くっ。三枝!」
黄道先輩の呼びかけに答えて、三枝先輩の能力が発動する。少年のアッパーは、先程と同じく黄道先輩の鼻さきを通過する。
しかし。
「ぐっ」
そう、さっきもあったことだ。どのような対処をするか、すでに見せてしまっている。
少年のアッパーはおとり。
左手を地面に着いた状態で、体ごとの右回し蹴りが黄道先輩のお腹に入る。そのまま、黄道先輩のお腹に入った足を軸にして、開脚が行われる。その左かかとは、黄道先輩のこめかみに入った。
「終わりだ。そこの奴の能力は、自身のスピード操作。レベル2じゃ直線しか使えねぇ。ならばカウンターは簡単だ。そこの女の距離移動系もレベル2じゃ、動かせる距離があまりに少なすぎる」
少年は、倒れている黄道先輩に声をかける。
「テメェの能力も、集中しているからの連射速度だ。レベル3じゃ、一度揺さぶられりゃあ、すぐに使えなくなるだろ。その証拠に、連射している際は動いてすらいねえ。」
あまりにも正確にこちらの能力を把握している。それだけではない。彼は能力を使っていない。
格の違いというものをせつけられているような気がした。
「わ、我らは・・・」
倒れていた黄道先輩が地面に手をつき、顔を上げる。
「我らは正義を背負っている!負けるわけにはいかない!」
叫びとともに、黄道先輩が能力を完全に開放する。
レベル3の黄道先輩のウインドガンの本質は、空気の圧縮。
周りの空気が圧縮され、気圧が一気に上がる。この中で空気を吸おうとすると、肺がやられる。
そんな中、少年は息を止め、黄道先輩との距離を詰める。気圧が高く、押しつぶされそうになりながら、それでも少年は前へと進む。
振りかぶった少年の右ストレートが、黄道先輩へと延びる。しかし、三枝先輩の能力で、黄道先輩との距離があく。
だが、それを知っていた少年は、右足を一歩前へと出す。
体中の回転を使って出された一撃で、黄道先輩が飛ぶ。
黄道先輩が地面を転がり、意識がなくなることで、能力が解除される。
「・・・てめぇらの正義もさぞ重かろうが、こっちもいろいろ背負ってんだよ」
少年はそうつぶやくと、私と三枝先輩の方へ向く。
「で、おれとしちゃあ、女とガキを無駄に殴る気はねぇんだ。戦闘に不向きな能力なんだろう、テメェら。このまま見過ごししてくれるといいんだがな。どぉする?」
「・・・ジャッジメントとして、見過ごすわけにはいかないわ。ねぇ、固法」
「そうです」
「それじゃぁ、仕方ねえ―――」
「ま、待ってください!」
拳を握りしめた少年の前に異様な女の人が立つ。いや、変なのは服装なのであって、外見が変という訳ではないのだが。黒い髪のストレート。前髪は右側に流すようにしている。目がたれ目なこともなり、少しのんびりしているようなイメージがある。
しかし、服がセーターに学ラン、しかも胸があるため、上から2つのボタンは留められていない。その服装が印象を変な人にしている。
「こ、この人は、わ、悪い人じゃ、な、ないんです!」
「「・・・え?」」
少年を背にかばいながらの女の人の言葉に、私と三枝先輩はあっけにとられる。
「おい、あんた!隠れてろっつったろーが!」
「で、でも!」
少年が女の人を横にどかそうとする。その動きは、あんな喧嘩を知る人間とは思えないほど、相手に気を使っている動きだった。少年と女の人は顔を見合わせる。
「とりあえず、説明してくれますか?」
「は、はい!」
女の人が、こちらを向く。少年はこの場を去ろうとするが、女の人に手をつかまれており、その場にとどまり、不機嫌そうな顔で立っている。
「わ、私はチャイルドエラーの施設のもので、ふ、
その呼びかけに答え、裏路地の一本、建物のドアが開き、男の子が6人、女の子が4人出てくる。
「か、買い物が終わりまして歩いていたら、こ、この子が食べたいたアイスが、そ、その、少し素行の良くない方に当たってしまいまして、べ、弁償しろと言われたんです」
古水さんは、そういって、近くの男の子の頭に、空いている方の手を乗せる。
「で、でも、お金を持ってなくて、む、無理ですというふうにつたえたら、か、体で払えと言われまして」
古水さんは男の子においていたの方の手で、自分の体を抱きしめるようにする。たぶん、怖かったことを思い出したのだろう。
それを見た少年は、古水さんの頭をなでる。そんな行動をする中学生だろう少年は、暴れていた時とは違い、優しい印象を与える。
それに励まされたのか、古水さんは言葉を続ける。
「そ、そんなときに、この人が助けてくれたんです。わ、私の服は破けてしまっていたので、自分の服を貸してくれましたし。そ、それでこの人がスキルアウトの人たちと、け、喧嘩をしていたら、アンチスキルの方がやってきて、も、問答無用で撃ってきたんです。そ、それで私たちをそこのドアに押し込んで、か、隠してくれたんです」
「・・・状況はわかりました。しかし、アンタはアンチスキルも攻撃しているわね。なぜ?」
古水さんの言葉を聞き、三枝先輩は改めて少年に問う。
「・・・問答無用ってのがただ気に入らなかっただけだ。深い理由なんてねぇよ」
「う、嘘です!あ、あなたは、私達に当たりそうになったゴム弾を全部かばってくれました!そ、そんな理由じゃないでしょう!」
「うるさいな。気に入らなかっただけだっつってんだろ!」
少年をのぞき込む古水さんから目をそらし、少年は言う。
「もーいいだろ。俺は帰る。じゃあな」
少年は、いたたまれなくなったのか、古水さんの手を優しくほどき、踵を返して帰ろうとする。
その際に、振り返り、笑いながら子供たちに手を振る。
その行動でわかった。この少年は、本当に人をかばうためにこんなことをしたんだと。そして、何の罪もない人にゴム弾と言えど、発砲をしたアンチスキルが許せなかったんだと。
「ちょっと、待って!」
思わず私は少年を止める。
「んだよ」
意外と少年は足を止める。
「ねえあなた。ジャッジメントで働かない?」
「固法!?」
「あなたの戦闘能力は見せてもらったし、どれほど自分の正義を貫いているのかも見せてもらった。だから、スカウトしたいの」
少年は無表情でこちらを見つめ続ける。
「だから問うわ。ジャッジメントで働かない?」