とある異能の少年   作:エスパーラ

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第2話 研修

 5月、ゴールデンウィークも終わった月曜日、大抵の生徒の部活や委員会も決まったころである。

 ここ、ジャッジメント177支部にも、新しく入ることになった生徒が何名かいた。

 人数の上限はなく、各チームに配属されることになっている。

「うちには何人来るんですか?」

「うーん。上の話だと2人らしいわ」

 室内にいるのは安倍のほかに177班班長、黒のショートカットと眼鏡が特徴的な、固法美偉である。

「去年3人やめましたから、3人来ると思っていたんですけどね」

「まあ、うちは学年が偏っていたしね。この機会に直したいんじゃないかしら」

「そうでしょうね」

 コンコン

 ノックの音が響く。

「「どうぞ」」

 二人して返答する。

「失礼しますわ」

「し、失礼します・・・」

 入ってきたのは、茶髪にツインテールで、常盤台の制服を着ている女の子と、黒髪ショートカットで、花の飾りのついたカチューシャをつけ、セーラー服の女の子だった。

「どうぞ。そっちのソファーの方に座って」

 固法のススメに従い、二人がソファーに座る。

 机を挟んだ向かい側のソファーに、固法と安倍も腰を下ろす。

「それでは自己紹介から始めましょう。私は高校2年の固法美偉。177班の班長よ。これからよろしくね」

「僕も高校1年、安倍龍善。よろしくね」

「常盤台中学1年の白井黒子ですの。能力はレベル3のテレポーターですわ」

「さ、柵川中学1年の、初春飾利です。レベルは1ですが、皆さんのサポートができればと思います」

「レベル1・・・ですの?」

 初春の自己紹介に白井はまゆをひそめる。

 ジャッジメントはその治安維持という職務から、基本はある程度能力の高い人間がなる傾向が強い。

 能力が低い場合、十中八九体術がすごいパターンだ。

 初春は体つきを見ても、力が強いようには見えない。

「まあ、いいんじゃない?僕なんてレベル0ってことだし」

「レベル0!?なぜそのような方が―――」

「も、もしかして、その刀!安倍先輩って、あの『剣豪』ですか!?」

 安倍の発言に新人2人はそれぞれの反応を示す。

「『剣豪』?なんですの?それ?」

「ジャッジメントにいる、最強のレベル0ってうわさですよ!能力を使わずに、刀だけですべて片を付ける姿から、『剣豪』って称号が付いたんです!」

「あら、安倍君。ずいぶんといかつい通り名を持っているものね」

「僕も初めて聞きましたよ。自分にそんな名前がついているってことを。もう1つの方は知っているんですけどね」

「ああ、あの通り名の方?」

「はい」

「うわー、都市伝説だと思ってたのに!そんな有名人と同じジャッジメントの班なんですか。嬉しいなー」

「・・・」

 白井はちょっと怪しむような顔をする。

「それに、初春さんの強さは能力でも体術でもないわ。パソコン能力よ」

 固法のフォローに、白井は怪訝そうな顔を向ける。

「パソコン能力ですの?」

「そうよ。彼女は超一流のハッカー。だからこそ、サポートをすると言っているんでしょう?」

「は、はいっ」

「とまあ、自己紹介はそんな所にして、さっそく研修に行ってきてもらえないかしら」

「研修、ですか?」

「そう、ジャッジメントの研修。安倍君と白井さん、初春さんの3人1組で研修よ」

「それじゃあ行こうか」

「はいっ」

「了解しましたわ」

 

 ◆

 

 一週間後の夕方。

 今日も研修ということで、初春、白井、安倍の三人でパトロールをしていた。

「はい、今日の巡回はここまでな。なんか質問は?」

 夕方になったため、安倍が二人を振り向いて聞く。

「それではひとつお聞きしたいのですが・・・」

「なんだい、白井ちゃん」

「なんでジャッジメントになって1週間なのに、わたくしはレベル3なのに、パトロールには先輩が付くんですの?」

「し、白井さん」

 少し苛立ったように聞く白井に初春は焦る。

 今までに2人が受けた研修は、いろいろな犯罪に対する座学、戦闘訓練、パトロールの3つ。

 しかもパトロールのルートは、座学を受けている間に安倍が回り、何もないと確認したところだけである。

 先週1週間はそれでも仕方がないと思っていたが、今週になっても先週と変わり映えのしないことしかしていない。

 白井は不満であった。

「レベルの高い自分が半人前扱いなのは不満かい?」

「そ、そういうわけではありませんが・・・。わたくしはきちんと自分で・・・」

 自分の不満を言い当てられ、少々言いよどむ白井。

「白井ちゃんの場合、ポテンシャルはある分、すべてを自分一人で何とかしようとする傾向があるからね。もうちょっと周りの人間を見ないとな」

 その諭すような言い方に白井はカチンとくる。

「子ども扱いのしすぎですわ!」

「白井さん!」

 初春が注意するが、白井の耳には届かない。

「先輩なんてレベル0ですわ!わたくしはレベル3なのに、何を先輩から学べと!」

「言いすぎです!」

「事実でしょう!」

 ヒートアップをする二人。

 それでも安倍は笑みを崩さない。

「まあ、とりあえず小腹もすいたし、のども乾いた。喫茶店にでも入りながら話そうか。ちょっとお金をおろしてくるわ」

「聞いてますの!?」

 噛みつく白井をそのままにして、近くの銀行へと入っていく。

 2人もそれに続いてはいっていった。

 

 銀行の中は平日ということもあって閑散としていた。

 ATMに並んでいる安倍を待ちながら、白井と初春は言い合いを続ける。

「白井さん、なんであんなことを言うんですか!」

「レベル0なのに、能力がない人間なのにジャッジメントというのがおかしいんですわ!」

「レベルがすべてじゃないじゃないですか!」

「まあ、初春もレベルが低いですものね」

「今はそれは関係ありません!」

「ちょっと2人とも」

 口論を続ける二人に安倍が声をかける。

「なんですの?」

「あそこの男」

 安倍は目線だけで銀行中央にいる男に注意を向けさせる。

「あの男がどうかなしましたか?」

「初春ちゃんはなんかわからない?」

「別になにも」

「そうか」

「どうかしましたか?」

「目線の運び方が不自然だ。局員の位置や目線、他の客の立ち位置ばかり見ている」

「「えっ」」

「座学でやっただろ。銀行強盗の可能性ありだ。それになんか、火薬のにおいもするしね」

「強盗ですの?」

「局員に言ってくる。2人は万が一の時の利用客の非難の誘導の準備を」

「逮捕しませんの!?」

「馬鹿なことを考えない。アンチスキルの方がそういうことに慣れている」

 そういって安倍は局員の方へと歩いていく。

 その消極的な姿勢が白井をいらだたせる。

 結局、能力がないからこういうことになるんだと白井は思った。

「―――ということで、大至急アンチ・・・」

 

 ズドン!

 

 カラカラカラ

 事情説明中に、男がポケットから鉄砲を取り出し、天井へ向かって打つ。

 局内が静かになり、空の薬莢の転がる音が響く。

「お、おかしなことをするなよ」

 男は鉄砲を局員へとむける。

「ひっ」

「お、お客もあんまり騒がないでくれよな」

 くそ。安倍は舌打ちする。

 先に動かれてしまっては打つ手が減る。

 そんな安倍の目に、強盗へと走る人影が見えた。

 訓練通りにやれば大丈夫だと白井は思っていた。

 駆け寄って、強盗の足を思いっきりふむ。

「のあっ!んだてめえっ!」

 不意を突かれた強盗の膝へと回し蹴りを入れる。

「がっ」

 そのまま倒れた強盗の鳩尾に、かかとをおもいっきし入れる。

「がはっ」

 カラカラカラ

 強盗の手から鉄砲が滑り落ち、強盗は気を失う。

「はあ、はあ、はあ」

 極度の緊張から息が荒くなった白井は、一度息を整える。

「なんだ。簡単ではありませんの」

 意外と簡単だったことに、白井は勝ち誇った笑みを浮かべる。しかし。

「きゃあっ」

 上がった叫び声にそっちの方を見る。

「まったく、アホか」

 そこには、初春の首にナイフを突きつけた、もう一人の銀行強盗犯がいた。

「なにガキにのされてんだよ。つかえねーな」

 強盗犯はナイフを更に初春へと突きつける。

「ひっ」

「初春っ!」

「なんだあ?テメェら知り合いか?フーン。こりゃちょうどいい」

「ぐっ」

「おい、動くな!」

「ひっ」

 初春にあてられていたナイフは、頬の方へと移動する。

 初春が顔をのけ反らすが、刺さりそうになるまで近づけられる。

「お前、ジャッジメントか?ジャッジメントが人質見捨てるわけはねえよなあ?ましてや自分の知り合いをよぉ?」

「うっ」

「ほかにも仲間がいるんじゃねえのか?出てくんなら今の内だぞ」

 最悪のパターンだ。安倍は思う。

 人質を取られ、他にも犯人の仲間がいるかどうかを確認できないこの状況。

 今はいつもの目立つ刀を学ランの下に入れているから気づかれていないが、もしこれがばれたら。

 一応、犯罪者に恐れられている・・・・・・・ジャッジメントである自分の存在がばれれば、人質の無事は保証はできない。

 ジリジリジリ

「あぁん?」

 突如警報機が鳴りだし、シャッターが閉まりはじめる。

 さらに最悪だ。安倍はもう嫌になる。

 こんな状況で警報を鳴らすとは。

 客の命より金の方が大事なのか。

 ウィンウィンウィン

『セキュリティー信号ヲ受信シマシタ。侵入者ヲ排除シマス。武器ヲ捨テテ床ニ伏セテクダサイ』

 警備ロボが動き出す。

「ちっ。面倒くせぇ」

 強盗は右ポケットに手を突っ込む。

『警告完了。実行シマス』

 警備ロボが強盗へと向かうのに続き、白井も警備ロボの背後に身を隠しながら、強盗へとダッシュする。

 にやりと笑った強盗が何かをはじく。

 はじかれたものが警備ロボに当たるのと、安倍が白井と警備ロボの間に体を入れるのは同時だった。

 警備ロボが爆発し、白井と安倍が吹き飛ばされる。

「しらっ・・・!」

「おっと」

 思わず2人の方へとした初春を強盗はホールドする。

「フフン。やっぱりまだ仲間がいたか」

「何が・・・起きましたの・・・?」

 吹き飛ばされて、壁に頭を打った白井が目を開く。

 ズルリ。と、白井の体に覆いかぶさっていた安倍の体がずり落ちる。

 警備ロボの方へとむけていた背中は、爆発した警備ロボの破片が刺さっていた。

「先輩っ」

「おいおい・・・強盗は・・・仲間がいるかを確認する・・・これが鉄則だって・・・教えたよね・・・。それに・・・手の内が・・・わからない・・・相手に・・・突っ込むなって・・・」

 壁にうった額や背中から血が流れる。

 それでも、息も絶え絶えに白井を注意する。

「1人じゃ・・・ないんだから・・・まったく・・・」

「どうして・・・?」

「おい」

 ドガッ

「ぐっ」

 安倍との会話に意識を向けていた白井を、強盗が蹴る。

「白井さんっ!」

 初春が叫ぶがどうにもならない。強盗は初春の片手を持つと、ぶら下げるように持つ。

「おい。おめーもだ。出て来いっつったよな」

 ドガッ。バキッ

 倒れている安倍を、強盗は執拗にける。

「安倍先輩っ!安倍先輩っ!」

 強盗の蹴りにも、初春の叫びにも、安倍は反応を返さない。

「それにそこのガキ」

 強盗は安倍を蹴るのをやめ、床にうつぶせになっている白井に近づく。

「あのバカみたいに俺もやれると思ったのかよぉ!」

 倒れている白井の背中を踏みつける。

「ぐうっ。ぐっ。あああっ」

「白井さんっ。白井さんっ。しら―――」

「舐めやがって」

「もうやめてくださいっ!白井さんっ!」

 初春は暴れるが、強盗は手を放そうとしない。

 白井は悔しかった。

 すべて自分のせいだった。

 自分の軽率な判断で、初春も安倍も傷ついている。

 何てざまなのか。

 あれほど1人前に見られたかったのに、半人前以下である自分が悔しかった。

「ったく。余計な手間を」

「白井さんっ。白井さんっ」

 白井はせめてものために初春へと腕を伸ばす。

 バキッ

「ぐうっ」

 せめてもの抵抗のために伸ばした腕は、無情にも踏まれる。

「しつけえな。何にもならねえよ」

「もうやめて!」

「お前の考えがわかったぜ」

 そういって、もう片方の手をも踏みつける。

「ぐっ」

「お前、テレポーターだろ。そんなに人質に手を伸ばすなんてな。自分を飛ばせねえところから、レベル3以下か?警報が鳴ってからずいぶん経つ。人質をテレポートで飛ばし、他の人質を取れないように足止めをすれば自分の勝ち。とか思ってんだろ?でもよ」

 そのまま右手をポケットに入れ、取り出したパチンコ玉をシャッターに向けて投げる。

 そのパチンコ玉は、なぜか放物気道を描かずに、シャッターへと到達する。

 

 メキメキメキ

 

 シャッターが音を立てて壊れる。

「なっ!」

「俺の能力は絶対等速(イコールスピード)。能力を解除するか、投げたものが壊れるまで何があろうと同じスピードで動き続ける。残念だったなぁ。俺はここから逃げれるんだよ」

 白井は思惑を読まれ、外れ、呆然とする。

「時間がねぇな。・・・おい」

「うっ」

 顎へと蹴りが入る。

「お前の力で金を取り出せ。俺を手伝えば、全員解放してやる」

「え・・・?」

「いや。俺と組まないか?俺とお前が組めば無敵だぜ?なぁ、どうだ?」

「今日は・・・」

「ん?」

「最低の初仕事でしたの・・・。勝手に先走って、皆さんを巻き込んで・・・。でも」

 白井は強盗を立ち上がり、睨み付ける。

「ぜえっったい、お断りですの。あいにく人質なんかを取る、ちんけな泥棒はタイプじゃありませんの!それに、自分の信じた正義は、決して曲げないと決めていますの!」

「そうか。残念だ。なら」

 強盗は右ポケットからパチンコ玉をつかみ取る。

「ここで死ね!」

「えっ・・・!」

 白井に向かい、ばらまかれるパチンコ玉。

 白井の勝算は、スピードのないパチンコ玉をよけ、相手を制圧するというもの。

 弾幕を張られてはどうしようもない。

「一度に一つしか投げられないとは言ってないぞ!」

 白井があきらめたその時。

 

 斬!斬斬斬斬斬!斬!

 

 白井の前に、刃がかなりのスピードで線を描く。

「なっ!」

 鉄球はすべて真っ二つにされていた。

「さてと、後輩にばかり、いい恰好をされてもね」

 そこには、血を流しながらも、刀を腰にぶら下げ、柄に手をかけている安倍がいた。

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