銀行強盗の事件から2日後。
初春、白井、安倍はジャッジメント訓練場に来ていた。
「さてと、今日もやりますか」
昨日から、ここで訓練をしている。
「白井ちゃんは、昨日と同じく、自分が飛べるようになるように練習。初春ちゃんは、体力をつけようか」
「はいっ」
「はいですの」
二人から返事があったので、安倍は手をたたく。
「それじゃ、各自でトレーニング!」
今回は研修ではないので、自主トレの様なものである。
初春と安倍は建物へと歩いていく。
「そうだ、白井ちゃん。はじめは、自分を手でつかんでおくといい。人を飛ばす要領だよ。そっちはできるでしょ。できるようになったら実戦場に来てね」
「はい」
「先輩は、けがをしてるんだから無茶をしないでくださいね」
「そういう初春ちゃんこそ、昨日みたいに、僕に連絡がこないようにね」
「・・・はい」
昨日初春は、頑張ってトレーニングするあまりに、体力切れで倒れたのである。連れてきた責任者ということで、安倍に連絡が行き、その帰りはおんぶされる羽目になったのである。
「それじゃ」
「はい」
初春はトレーニングマシンなどのある棟へ、安倍は室内実戦場に行く。
室内実戦場とは、ホログラムでの敵や、ロボとの戦闘が行える場所である。フィールドも変化させることができるので、本番さながらの戦闘ができる。
昨日からの安倍のトレーニングだった。
◆
昨日。
ジャッジメント177支部にいて、安倍はコーヒーを片手にくつろいでいた。
正直、前日の銀行強盗はなかなかいいタイミングで起きてくれた。
彼は彼女たちの研修を本来設定されている期間より、ちょっと長めにやっていた。
なぜなら、白井の傲慢なところが、危うく思ったからである。しかし、あの事件で、彼女は自分の弱さと向き合うことになった。すぐに変わるかはわからないが、仲間がいるという大事なコトにも気づけたようだし、チームプレーにも慣れていくだろう。
それに、彼が大けがを負ったという設定も手に入れた。これで、パトロールから自分がいきなり抜けても不自然じゃなくなった。
そんなもろもろの副産物が手に入ったのだ。なかなかいいタイミングと言わざるを得ない。
(今日から二人でパトロールしてもらおうかな)
学年が同じものが班にいると、よくコンビとなることがある。
安倍は高1、固法は高2と2人とも学年が違うため、コンビは存在していないが、先輩たちは組んでいた。
故に、早めに2人で仕事をすることに慣れてほしい。
そんなことを考えてしたら、ガチャリ、とドアが空き、固法が入ってくる。
「こんにちは」
「あら、ちょうどいいところにいたわ」
安倍はなんか嫌な予感がする。
「なんでしょうか」
「白井さんから頼まれたことがあるんだけど、丸投げしてもよいかしら?」
「・・・念のために聞きますが、何ですか?ついでにオブラートに包むって言い方は知らないんですか?」
「昨日の1件でね、白井さんは自分の未熟さを思い知ったらしいの。だから、強くなる訓練をしたいんですって」
「ちょっと待ってくださいよ!なんで僕に丸投げなんですか!?」
「私よりあなたの方が強いでしょ?それに・・・」
「それに、なんですか?」
「教育係はあなたじゃない」
「はぁ」
安倍は深いため息をつく。
もうこうなったらどうしようもない。
「じゃあ、あそこにでも行きましょうかね」
「あそこ?ああ、なるほど。頑張ってね」
「先輩がやってくれればいいのに・・・」
結局丸投げされた安倍であった。
◆
そんなことがあったため、昨日から3人はここでトレーニングしている。
(まあ、白井ちゃんももっと強くならなきゃいけないか)
実戦場の内の開いているブースに入る。実戦場には、上半分がガラス、下半分が鉄の壁で区切られている1辺50mほどの8個のブースがある。それぞれのブースの入り口にある端末で、出てくる敵の想定を変更したりし戦闘訓練をすることができるのである。
実戦場のわきにある階段を上ると、2階から各々のブースを眺めることができる観客ゾーンがある。
今日は、観客ゾーンにもブースにも人はあまり多くなく、3つのブースが稼働しているだけであった。
(さてと・・・)
『登録IDを入れ、指紋、声紋認証を行います』
自分のIDを入れ、認証を終わらす。
『フィールドはどれにしますか?』
迷うことなく、『更地』を選ぶ。障害物がないため、自身の回避力に大きく左右される。
『相手の人数を決めてください』
少々考え込んで、10人とする。
『相手の能力の内訳はどうしますか?』
その問いになにやらピコピコ打ち込んだ後、画面に出てきた『10秒後に開始します』という文字を見て、安倍はブースの中央へと進む。
宙に浮かぶホログラムの数字が一つずつ減る中、安倍は学ランを脱ぐ。
その下は、ワイシャツと制服のズボン、何より目立つのは、普段から刀をぶら下げている左腰だけではなく、右腰、右肩、左肩の4か所に固定されている、4本の刀の鞘である。
数字が0になり、部屋の10か所に同時に人型が出る。それと同時に、シャラン、と音高く左腰の刀が抜かれる。
右奥隅にいた、発火能力者(パイロキネシス)が、大きな火球を投げつける。
それが開戦の合図だった。
◆
3時間後。
「できた・・・?」
白井は呆けていた。
「できましたわ!」
白井の大声にグラウンドにいたほかのジャッジメントが驚き、彼女を見る。
「うふ。できましたわ!できましたわぁぁぁ!!!」
叫びとともに白井の体が幾度も幾度もテレポートする。はたから見ると、笑う妖怪が瞬間移動している、不気味な光景だ。
「コツさえ、つかめれば、行けますわね!これで、わたくしも、レベル、4ですわ!」
できるようになったことがうれしくて、何度もテレポートを繰り返す。
(しかし、安倍先輩は何者なんでしょうか?言われた通りにやったら、今まで幾度も練習して失敗していたのに、できるようになりましたわ)
テレポートをやめ、白井は考え込む。
レベル0のはずなのに、よっぽどの能力者より、能力を理解しているようだ。
「と、そんなことより・・・」
跳べるようになったら来い。と言われていたことを思い出し、彼女は実戦場の方へと歩き始める。
実戦場へと歩いていく途中、トレーニングルームなどのある棟から、ふらふらとした人影が歩いてくる。なんか、水分のないミイラのようにカピカピの人影だった。
「し、白井さん・・・」
「初春ですの!?」
「は、はい・・・」
「とりあえず早く飲みなさい」
白井は初春に水を渡す。
「ああ、生き返りますぅ・・・」
「ほどほどにしておくのですよ」
「はい・・・。って、ここにきてるってことは、跳べるようになったんですか!?」
「そうですの」
初春の手前、さっきまでの大はしゃぎが嘘だったかのように白井は冷静に言ってみる。
それでも、口元はニヤニヤしていたが、初春は気づかない。
「すごいじゃないですか!これで白井さんもレベル4ですね!」
「そうですの」
白井は照れて、髪の毛をいじる。
「と、とりあえず、呼ばれていることですし、行きましょう」
「そうですね」
2人で実戦場へと入っていく。
「わあ。私、ここに入ったのは初めてなんですけど、広いですねー」
「どのブースにいるかわかりませんから、上から調べましょう」
「そうですね」
2階への階段を上がる。
「えーっと?いませんねー?」
「おりませんわね」
8つあるうちのブースのうち、2つは未使用で、6つのブースは使用中だ。
3つは1人の人間がおり、それぞれ1人のホログラムを出している。
2つはグループが多人数対多人数の戦闘練習をしていた。
もう1つはホログラムばかりが50人以上いる。
「あっ、あれっ!あれですよ、白井さん!」
初春の指した先には、そのホログラムばかりのブースを指さす。
そこに目を向けた白井は異様な光景を見た。
本来、安倍は刀を一本しか持たなかったはずだ。
それなのに、そこには4本もの鞘を身に着け、1本の刀を抜刀している安倍がいた。
一本の刀で目の前のホログラムを切りながら、右足を軸にして、左足の回し蹴りを後ろから迫るホログラムに叩き込む。
そのまま刀を両手で持ち、前に突き出して突進し、相手を突き刺す。
相手の真ん中へと飛び込み、電撃や炎が飛ぶ中、身を伏せるようにして低くし、そのまま自分を中心とした円形に相手を斬る。
ここまでで既に、10人ほどのホログラムが消えている。
「あら、2人ともこんなところにいたの?」
安倍の戦いを見ていた2人の後ろから声がかけられる。
「あら、固法先輩。どうしたんですの?」
「今日は班長を集めた会議だったのよ。早めにすんだから、トレーニングに行くって言っていた、あなたたちの様子を見に来たのよ」
「そうだったんですか」
「で、何を見ているの?」
固法は2人の見ていた先を見る。
「ああ、安倍君。相変わらずね」
「すごいですねー」
斬る、殴る、蹴る。
時には刀を捨て、素手での肉弾戦へと変更する。
ある程度の周りの相手を素手で捌き、周りの人間が減ると、別の刀を他の鞘から取り出す。
もう既に、ブースの中のホログラムは10人ほどしかいない。
「彼は肉弾戦大好きっ子だもの」
「それにしても・・・」
白井は言いよどむ。
目線の先には、刀を納刀し、柄に両手を当てた体勢の安倍がいる。
安倍の前のホログラムから、電撃がほとばしる。電撃が安倍の刀の攻撃範囲に入った瞬間、雷が安倍を迂回するように金子を避ける。そのまま前へと突撃し、ホログラムを切る。
飛んできた炎ですら、当たる前に刀に斬られたように消える。
囲んだ3人もジャンプで飛び越え、後ろから切りつけ、倒す。
安倍の後ろに回り込んだテレポーターには、まるで後ろに目があるかのように振り向かないまま、刀が突きさされる。
「すごいですわね」
「本当にすごいです」
「それじゃあ、そろそろ下に降りましょうか」
固法は階段の方へと歩き始める。
階段を降り、安倍が使っていたブースへと行くと、ちょうど使用中のランプが消えた。
「お疲れ様」
固法が声をかけながらブースに入る。
そこでは安倍が疲れたのか、仰向けに寝転がっていた。
「あー。固法先輩ですか」
安倍は寝転がったまま、顔をこっちの方に向ける。
「おろ。白井ちゃんは飛べるようになったのか」
「はい。おかげさまでできるようになりましたの」
「意外だね。もっとテンション高いと思ったけど」
「淑女ですから」
そう言っている白井の頬はひくひくと痙攣している。
初春と違い、それに気が付いた固法と安倍はあきれたような表情を浮かべる。
「まあ、ともあれおめでとう」
そう言って安倍は立ち上がり、地面に転がっている刀を拾いに行く。それをみた初春が首をかしげる。
「あれ?なんか、本数が多くありませんか?」
「安倍君は本来、複数の刀を携帯する流派なのよ」
「いえ、そう言うことではなくて・・・」
「なにがおかしいんですの?」
「刀と鞘の本数が合わないなと」
そう言われて、白井も地面に転がる刀の数を数える。そこには5本の刀があった。
「本当ですわね」
「ああ。この刀たちは特殊でね。1人の刀匠が作ったシリーズものなのさ」
「シリーズ、ですの?」
「そう。1刀流のための雪月花シリーズ、雪の刀『吹雪』、月の刀『闇夜』、花の刀『桜花』」
安倍は左肩の鞘以外に、拾った刀を順番に納刀しながら言う。
最後に2本の刀を拾い、言葉を続ける。
「そして、2刀流のための刀、鳥の刀『鳳凰』。これは、1本の鞘の両サイドから1本ずつ刀を収めることができるのさ。これを合わせ、『吹雪』が風の刀となって、花鳥風月シリーズとなるのさ。いわくつきの刀だから、性能がいいしね」
刀は左肩と、右腰から納刀される。
「なんか・・・」
「何?初春ちゃん」
「仰々しすぎますね」
「酷いな!結構お気に入りの武器なのに!」
「というより、なぜ一介の中学生が、そんな日本刀なんて持ってますの?」
「仕方ないじゃん!親父が護身用に持ってけって言うし!戦闘中に能力を使えないんだから!」
「まあまあ2人とも。私もずっと思ってたことだけど、安倍君が傷つくからやめときなさい」
「待ってください!そのセリフの方が傷つきます!」
「さあ。帰りましょうか」
「いや、待ってくださいよ、固法先輩!」
その日、白井と初春の研修は終了した。