とある異能の少年   作:エスパーラ

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第5話 VS 超電磁砲

 6月にも入り、梅雨時。

 ジャッジメント177支部には、例のごとく、安倍と固法の2人がいた。

「はあ、久しぶりに晴れましたね」

「そうね。ここのところずっと雨で、洗濯できなくて困ってたもの。助かるわ」

「そうですよね」

 そんな世間話をしていると、扉があく。

「こんにちわー♪」

 所属のジャッジメント、初春が鼻歌を歌いながら入ってくる。

「あら、今日は機嫌がいいのね、初春さん」

「なんかいいことでもあったのかい?」

「うふふふふ。実はですねー・・・」

 にやにや笑いを止めることなく、初春は自分の回転いすに座り、くるくると回転し始める。

「今までずっと会いたかった人に会えるんですよ!白井さんの紹介で!」

「ほう。それは良かったね」

「はいっ」

 鼻歌をやめずに、初春はパソコンに向かう。

「あ、それで、ここに来てもらうことになるんですけど、いいですか?あと、私の知り合いも来るんですけど」

「んー。いいんじゃない?いいですよね、固法先輩?」

「私も別に構わないわ。急ぎの案件があるわけじゃないし」

「わーい!」

「本当に子供みたいにはしゃいでいるね」

 あまりのはしゃぎように、安倍は孫を見るおじいさんの様な、固法はちょっとあきれたような表情を浮かべている。

 コンコン

 そんなとき、ドアがノックされる。

「あ、私の知り合いです!どうぞー!」

「失礼しまーす・・・」

 恐る恐るというようにドアを開けて入ってきたのは、随分と長い黒髪ストレートの女の子だった。

 ドアを開け、入ろうとしたところで固まっている。

「どうぞどうぞ、佐天さん!先輩たちの許可もおりましたし!」

「ほら、そこのソファーでもどうぞ」

「あ、失礼します」

 安倍が勧めたソファーに、おっかなびっくり少女が腰かける。

「あたし、佐天涙子って言います。初春のクラスメイトです。よろしくお願いします!」

「あら、礼儀正しいわね」

「こちらこそよろしく。佐天ちゃん」

 2人の先輩が自然体だったからだろう、佐天の肩の力が抜けたようだ。

「いやー。初春もいい先輩に恵まれたみたいじゃないの。怖い人だったらどうしようって思ってたのに」

「いやだなー、佐天さん。優しい先輩たちだって言ったじゃないですか」

「この後に会う御坂さんも、このくらい気さくだといいんだけどね」

「絶対大丈夫ですって!なんたってお嬢様ですよ!常盤台の!」

「だといいけどねー」

「・・・ちょっと待って。初春ちゃんの会いたかった人って、『超電磁砲(レールガン)』ちゃん?」

 気のせいか、ほんのちょっと安倍の顔色が悪い。

 いつもの安倍から感じる余裕の様なものはなく、ちょっとせっぱつまったような感じがする。

「そうですよ!学園都市に7人しかいないレベル5の第3位!『レールガン』の異名を持つ、御坂美琴さんです!」

「絶対高飛車な人に決まってますよね。なのに、お嬢様ってだけで初春は―――」

「絶対いい人ですって!」

 安倍の余裕のなさにも気づかない2人。

 まあ、佐天は今日初めて金子と会ったのだ。

 いつもの様子がわからないのはしょうがないだろう。

 安倍は椅子から立ち上がり、荷物をまとめてドアに向かう。

「固法先輩。僕、早退させ―――」

 がちゃり。

 安倍の言葉の途中でドアが開く。

「もう。アンタの先輩とかもいるんでしょ。恥ずかしいじゃない」

「大丈夫ですわ。ささ、お姉さま、お入りになって」

 嫌がる美琴を、白井が無理矢理、部屋にいれる。

 美琴が顔を上げ、安倍と目があう。

「あっ」

 驚きの声を出す美琴に対し、あちゃーという顔をする安倍。

 しかし、美琴が呆けた顔をしていたのは1瞬だった。

「アンタねぇ・・・」

 美琴の額から、青白い電気が出始める。

「ここであったが100年目よぉ!!」

 美琴から出された雷が、槍の形を作って、彼女の手に収まる。

 

「やめろ」

 

 低く、威圧するような声。

 この部屋をよく使う、白井も初春も、誰の声だかわからなかった。

 しかし、その言葉とともに、体にたたきつけられるプレッシャー。座っていなかった白井と美琴は、たじろいて一歩後ろに下がる。

 美琴の手の中にあった雷の槍も、その動きで消えた。

 雷の槍が消えた瞬間に、フッ、という擬音語が似合うくらいに、体にかかっていたプレッシャーが取り除かれる。

「はぁー。まったく」

 安倍はため息をつき、机にもたれかかる。

 固法以外の人間は、いまだに固まったままだ。固法は慣れてでもいるのだろうか、すでにお客さん用のコップを出して、お茶を入れ始める。

「ここにはパソコンとかもあるし、室内なんだから。そんな大出力の電撃を使ったらどうなるのか、考えてほしいな。一般人だっているんだよ」

「うっ」

 安倍の言葉に美琴も言葉が詰まる。逆上してやってしまったが、確かに危ないところだった。

「そんなこと言っているけれど、安倍君もやりすぎよ。全員を巻き込むことなかったじゃない」

 固法がお茶を佐天の前に置きながら言う。

 ようやくほかの人たちも動き始める。

「やはり今の、安倍先輩ですの・・・?」

「あー。そういや、僕が戦闘するときに、近くによったことなかったよな」

「安倍君は、ちょっと本気モードになるとあんな感じなのよ」

「びっくりしましたー」

 初春は胸をなでおろす。

 いままで、どんな時でも安倍は優しい先輩だ。

 命令なども、される側の同意をとるような先輩だ。

 さっきの姿とは、ものすごいギャップがある。

「そう言えばお姉さま、安倍先輩と知り合いでしたの?」

「そうよ!コイツとコイツの知り合いは、アタシが倒せなかった奴なのよ!」

「お姉さまが!?」

 白井とともに、初春や佐天も驚く。

 『レールガン』といわれる美琴は、学園都市の第3位。

 立った7人しかいないレベル5の上位なのだ。

 レベル0の人間がどうあがいたところで敵うはずがないのである。

「まさか安倍君・・・」

 固法ですらいぶかしげな声を出す。

「女の子を殴ったの?」

「そっちですか!?」

 ちょっと思っていたのと違う質問に、初春は大きな声を出してしまう。

「ちがいますよ。負けてもないし、勝ってもいない。避けてばっかりです」

「そうよ!戦おうともしないのよ!」

「しかし君も元気だねえ。当麻にもかなりの回数挑んでいるでしょう?」

「そうよ!ともかく勝負しなさい!」

「全戦全敗だけど」

「負けてないわよ!あっちも逃げるのよ!」

「いえ、そんなことよりお姉さま・・・。本当にかなわないのですか・・・?」

「ぐっ・・・」

 白井の言葉に御坂は不承不承という形でうなづいた。

「えっ。安倍さんって第1位かなんかなんですか?」

 金子がレベル0だということを知らない佐天は、別の解釈をしたようだ。

「違うよ。僕はバンクのデータ上は、レベル0―――」

「ならば勝負しなさいよ!」

「嫌だ」

「アタシに勝てるって証明しなさい!」

「証明する気もないんだって」

 美琴は今にも安倍の胸ぐらをつかみそうな勢いで近づく。

「ああ、もうっ!勝負ったら勝負なのっ!」

 もはや第3位とは思えないほど子供っぽい。

 まあ、中学生なのだから子供なのだが。

「仕方がないわ。相手をしてあげなさい。安倍君」

「固法先輩。この状況楽しんでませんか?」

「そんなことないわよ」

 安倍にジト目で見られ、口元を隠す固法。正直楽しんでいることがばればれである。

「はぁ。ついてないな。仕方ないか・・・」

「よしっ!そんじゃ―――」

「ここじゃなくて河原でやるよ」

 安倍は美琴の方を見もせずに部屋を出ていく。

「ちょっと!待ちなさいよっ!」

 美琴も安倍を追いかけて出ていく。

 残された4人は顔を見合わせ、笑みを浮かべると、2人の後を追って河原へと出ていった。

 

 ◆

 

 河原で、御坂と安倍は向かい合って立っていた。

「勝負はどっちかが負けを認めるまで!能力の仕様はありよ!」

 ビシィッ。と安倍を指す美琴。

「はいはい。ただ、この刀の使用も許可してくれないと困るね」

 今回の安倍は、腰に一本の刀を差しているだけだ。

「いいわよ」

「助かるよ。これが商売道具なものでね」

 安倍は左腰の刀の位置を微調整する。

「それでは両者、準備はいい?」

 この試合の審判をする、固法が二人に声をかける。

「いいわよ」

「OK」

 美琴は臨戦態勢に入りながら、安倍は自然体を取りながら答える。

「それでは、用意―――」

 美琴の額から雷があふれ出る。そのまま、雷の槍を右手に作り出す。

 それを見た安倍は体を前傾姿勢とする。その右手は刀の柄へと伸ばされる。

「はじめっ」

 その掛け声と共に美琴が雷の槍を打ち出す。バリバリと雷をまき散らしながら、槍は安倍のもとへと飛んでいく。

(確実に当たる!さあ、どうする?)

 槍から出る放電により、安倍の逃げ場がなくなったことに、美琴は必中を予感する。

 次の瞬間、安倍の右腕がぶれる。当たるはずだった雷の槍は、安倍の体を迂回して、後ろの地面を弾けさせる。

 チンッ。刀を納刀する音が響く。

(絶対に狙ったのに!)

 必中だったはずの雷撃が外れた、ということに美琴は慌てる。

「どういうことですの?」

「さー、何が起こったのでしょう?」

「ふふ。さすが安倍君」

「え、御坂さんが外したんじゃないんですか?」

 見ている4人はそれぞれの感想をもらす。

「どう言うことよ!今のは確実に―――」

「この世に確実なことなんざないよ」

 慌てる美琴の言葉は、余裕のある安倍の言葉に打ち消される。

「・・・そうね。ならっ」

 美琴にまとわりつく雷の量が増える。

「これならどうよっ」

 美琴の周りの空流に雷が棒状になったものが10個ほど浮かぶ。10個がそれぞれ別の軌道を描いて安倍の方へと飛んでいく。

 しかし、さっきの攻撃と同じように、安倍の腕がぶれた瞬間に、雷はまとまり、安倍を迂回するように後ろの地面に落ちる。

「無駄だよ」

 安倍の言葉は、余裕たっぷりというような雰囲気がある。

「・・・そうね。どういう理屈か知らないけど、雷はすべてダメのようね。ならばこれはっ」

 美琴の額から出る電撃が、彼女の周りの地面へと放電される。その電撃に誘われ、黒い粉が地面から舞い上がり、美琴の周りに浮き始める。

「ふーん。砂鉄かい?」

「それだけじゃないわっ」

 黒い粉は美琴の手で剣のような形をとる。剣はブーンというような低い音を響かせる。

 安倍の頬を冷汗がつたう。

「・・・振動かい?」

「そうよ!ちょっと切れ味がチェーンソーみたいかもねっ」

 美琴はその剣を持って、安倍へと切りかかる。

「いやいや、それはちょっとどころじゃないって!」

 安倍はバックステップで美琴の攻撃をかわす。その他にものけ反りやしゃがみなどの、最小限の動きだけですべての攻撃をかわす。

「それならば、これでどうよ!」

 砂鉄は一回剣の形を崩し、美琴の右手で球体になる。

(やばい!)

 なんか危険を察知した安倍は、一気に後ろへと回避を図る。

 球体になった砂鉄は、球体から大きな針を何本も発生させて、前方を穿つ。

 回避先もギリギリと射程に入りそうになった安倍は、回避後の体勢からの無理な回避を試みる。

 前傾になりすぎて、右手を地面についている安倍の回避先は、後方ではなく、上空へ。

(来たっ!)

 美琴は球状から剣状へと戻す。

 美琴が狙っていたのはこの状況。

 安倍が上空へと移動し、逃げ場のなくなったこの状況。体勢も崩れ、日本刀も機能しない。

「これで終わりよっ」

 美琴が安倍の方向へと剣をつくと、剣が伸びる。

(やばいね。伸びるのか、これ)

 空中ではろくな回避ができない。

 刀を振り回すにしても足場がない限り、あまり安定はしない。

 美琴の攻撃は避けられないものだった。

(ならばっ)

 空中で体を回転させる。美琴の剣の切っ先が迫る。

 切っ先が刺さるかのように思えた時、安倍の右足はその腹を蹴る。

 空中にはないはずの足場。

 美琴の攻撃こそがその足場となる。

(マジ!?どんな運動神経してんのよ!?)

 美琴の剣の腹を蹴った安倍の体は、地面に向かって加速する。

 その着地際をたたこうと、美琴の剣は、着地予想点へと伸びていく。

「さてと」

 安倍は真面目な顔をして、刀に手を当てる。

「悪いけど、ゲームセットにしよう」

 美琴の剣が追いつくより早く、地面に着いた安倍は一気にダッシュをする。

 美琴の剣の横を進み、美琴へと接近する。

「そう簡単に、やられないわっ」

 刀はまた、球状へと変化する。

 ニヤリ。安倍の口の端が上がる。安倍はさらにスピードを上げ、美琴に刀が届く距離まで近づく。

(やば、これじゃ、間に合わな―――)

「終わりだね」

 安倍の刀が鞘に入れられたままで、後ろへと大きくひかれる。

 まるで、斬るためにスイングするかのように。

 思わず反射的に美琴は目を閉じる。集められた砂鉄が、能力が切られたのか地面に落ちる。

 それでも、美琴の体には何の衝撃も来なかった。

 

 トン

 

 目をつぶる美琴の頭の上に手が置かれる。

「はい。僕の勝ち」

 安倍はそれだけ言うと、美琴から離れ、見ているギャラリーの中の4人のもとへと歩いていく。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 戦闘の終了を告げる安倍に美琴はくってかかる。

「なんだい?」

「アタシは負けてないっ!」

「でも、打つ手がなくなったよね」

「それでもアタシは倒れてないっ!」

 叫ぶ美琴を見て、安倍はやれやれというように首を振る。

「それじゃあ、審判さん。今の判定はどうですか?」

「うーん。テクニカルノックアウトってところかしらね」

「さすがに今のは、お姉さまの負けですわね」

「黒子まで!?」

 納得いかないというように叫ぶ美琴。

 しかし、美琴にしても、負けたと思っていた。

 雷は外され、砂鉄の剣では、もともと剣術が得意な安倍に有効打を与えられない。

 あるとしたら、鉄の塊を銃弾のように打つか、レールガンだろう。

 しかし、あの実力では、鉄塊は斬られるだろうし、レールガンは避けられるだろう。

 打つ手がないのである。

「それじゃあ、まあ、行こうか」

 そんな安倍の発言にみんなクエスチョンマークだ。

「仲直りのしるしにどっかの喫茶店にでもさ」

 

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