第7話 鴉
ドォォォン!!
銀行のシャッターが爆発する。
わぁぁぁぁ。と広場が一気にざわめく。
「やっぱりか!」
安倍はガードレールを飛び越す。
白井は自分の手に残っていたクレープを急いで平らげる。
「な、なんなの?」
「初春!アンチスキルに連絡と、けが人の有無の確認!急いでくださいな!」
耳を抑えた佐天の横を突っ切りながら、白井はポケットからジャッジメントの腕章を出す。
そのまま、ガードレールを乗り越え、安倍の隣に並ぶ。
「OKだ。白井ちゃん」
安倍は白井の指示に合格の意を示す。
「ただ、もう1つ。固法先輩!先輩の能力で銀行内のけが人の確認も急いでください」
「わかったわ!」
「バックアップは初春ちゃんに固法先輩。ファーストアタッカーは白井ちゃんだ。OK?」
「「「OK!」」」
4人とも、腕章をつけ終わる。
「黒子!」
「いけませんわ、お姉さま」
叫ぶ美琴を白井は止める。
「学園都市の治安維持はわたくしたち、ジャッジメントのお仕事。じっとしていてくださいな」
ドゴォォォン!
もう一度爆発が起き、銀行から7人ほどの犯人と思える人物が出てくる。
「ぐずぐずするな!さっさとずらかるぞ!」
「お待ちなさい!」
白井は強盗犯たちの前方へとテレポートする。
強盗たちは思わず足を止める。
「ジャッジメントですの!器物破損、および強盗の現行犯で拘束します!」
強盗犯たちはあっけにとられる。
そしてそのまま顔を見合わせる。
白井が怪訝に思うのと、強盗犯が笑い出すのは同時だった。
「あはははは!なんだあの餓鬼!」
「ジャッジメントも人手不足か!クハハハハ」
「いってやるなよ!バハハハハハ」
ひとしきり笑った後、太めの強盗犯の一人が白井に突進する。
「おら、お嬢ちゃん。とっととどかねえと、怪我しちまうぜぇ!」
そう言って振るわれた拳を白井はかわす。
「そう言う三下のセリフは―――」
強盗犯の突き出された腕を取り、足払いをかける。
強盗犯はきれいに宙を1回転し、地面にたたきつけられる。
「死亡フラグですのよ」
「がっ」
地面にたたきつけられた強盗犯は気を失う。
「なっ」
「てんめぇ!!」
驚く残りの強盗犯のうち、一番後ろの強盗犯が宙を舞う。
「ぐっ」
「1人じゃないんだよねぇ」
そこにはしまわれたままの日本刀を振り回す安倍の姿。
宙を舞った強盗犯に向かってジャンプをして、追撃の一撃をかけて壁にたたきつける。
「すごい・・・」
「流石ね」
「すごいでしょう」
佐天と美琴は驚くことしかできない。
なぜか、初春が自慢げだが。
そんな3人の横から、言い争う声が聞こえてくる。
「だめですよ、今、広場から出ては!」
「でもっ!」
そこでは、固法とバスガイド風のお姉さんが言い争いをしていた。
美琴はそっちへと近づく。
「どうしたんですか?」
「それが―――」
「男の子が一人足りないの!」
「「「えっ」」」
「少し前にバスに忘れ物を取りに行ったっきり!」
「じゃあ、アタシ達も探しましょう!」
「そうね・・・。手分けしましょう」
4人は分散して探しに行く。
「今更後悔してもおせえぞ」
白井の前の犯人は、左手のひらを上に向けると、炎を出す。
4人を安倍が、3人を白井が担当しているような形だ。
すでに1人ずつ、片付いているのだが。
(パイロキネシスト・・・)
「お前には消し炭に―――」
白井は犯人の周りをまわるように走り始める。
「逃がすかよぉ!」
その手から、炎が放たれる。
「誰が―――」
追尾してくる炎が当たる瞬間、白井の体が消える。
「消えた!?」
驚く犯人の前に白井の体は現れる。
「―――逃げますの?」
「えっ!?」
もう一度、白井の体が消える。
次の瞬間、犯人の頭にドロップキックが決まる。
「ぐっ」
這いつくばる犯人の前にもう一度テレポートする。
そのまま、太腿にまかれた金属の矢のホルダーケースへと手を伸ばす。
それらがテレポートされ、倒れた犯人を縫い止めていく。
さながら、虫の展翅のようだ。
「て、テレポーター!?」
「これ以上抵抗するなら、次はこれを、体内に直接テレポートさせますわよ」
白井はにこやかな笑みを浮かべる。
犯人は抵抗する気も失せたようだ。
「そっちは?」
「だめです!」
美琴の問いにも、初春の残念な答えが返ってくる。
「どこに行ったのよ!もぉ!」
「なんだお前、ちょうどいい!来い!」
「あっ!」
少しみんなとは、離れた茂みを探し、四つん這いになっていた佐天の後ろから、声が聞こえた。
振り向くと、男の子の手を、男がひっぱっていくところだった。
「何?お兄ちゃん、誰?」
「いいから来い!」
皆のいる方を見るが、随分と遠い。
(あたしだって・・・)
佐天は立ち上がる。
「なんだ、てめえ!」
安倍も制圧が終わり、任務完了だと思っていた安倍と白井の耳に、叫び声が聞こえてくる。
「離せよ!」
「だめぇ!」
そちらへと目を向けると、男の子をかかえ、地面に膝をつきながら、強盗と引っ張り合いをしている佐天がいた。
「くそっ!」
ドガッ
強盗の蹴りが佐天の方を打つ。
「畜生!」
強盗は近くの車に走り出す。
地面に倒れこんだ男の子と佐天だが、佐天の体が不自然に浮かぶ。
まるで見えない手に運ばれているかのように、車の中に入る。
車の運転席に、強盗は乗り込む。
「佐天さん!」
初春が叫ぶ。
白井は、車の方へと駆け出そうとする。
「黒子ぉ!」
その叫び声で白井は止まる。
そこには、電撃を纏った美琴がいた。
美琴はポケットからコインを取り出す。
しかし、その美琴の前に、腕が突き出される。
「アンタ!」
「それをやったら2人が巻き添えを食らうだろうが!」
そこにいたのは、前のような雰囲気をまとう安倍。
安倍は腰の刀へ手を伸ばす。
「まて、そこにいる野郎って!」
縫い付けられた強盗は、慌てたように叫ぶ。
既に強盗の車はこっちをひこうとして、かなりのスピードで突っ込んでくる。
「何事においても刀一本!学ランの下のワイシャツは黒!!全身真っ黒な銃刀法違反の剣士!!!ついた異名は、『
「ハメェ外して!いいよなぁ!」
腰を落とし、下を向いた安倍が叫ぶ。
すでに車は、かなり近づいている。
腰から刀が抜かれる。
そのまま、だらりとぶら下げるように持つ。
その眼は、怒りに燃えている。
「たたっ斬るぜ!『桜花』!」
金子は車へと突っ込んでいく。
車に当たると思われた瞬間、安倍の剣が神速で上へと持ち上げられる。
信じられないことに、車が縦に真っ二つに斬られる。
その振動のためか、斬られた断面から佐天が落ちてきそうになるのを、安倍が受け止める。
そのまま、お姫様抱っこされる佐天。
車は、2つに分かれて、それぞれガードレールへと突っ込んだ。
「危ない目に合わせてすまなかった」
元の雰囲気になった安倍が佐天に声をかける。
遠くで、アンチスキルの警報の音がした。
◆
「は、早く乗ってくださーい・・・」
眼鏡をかけたアンチスキル、鉄装が犯人たちを護送車に促す。
「そこの貴方」
護送車に乗ろうとしたパイロキネシストに、白井から言葉がかけられる。
「なかなかの能力ですわね。レベル3というところでしょうか。ただ―――」
パイロキネシストは、白井の方へと目を向ける。
「大きな能力にのまれて、道をたがえたようですわね」
その言葉に、パイロキネシストは、ふっ、っと笑う。
そしてそのまま、護送車へと乗り込んでいった。
佐天は道のわきにおろされていた。
その目線は、アンチスキルと会話をする安倍達、ジャッジメントに注がれていた。
(かっこいいなぁ。あの人たちは)
佐天とあまり年齢が変わらないのに、犯罪者に1歩も引かない。
特に、能力者でもないのに戦う安倍は、とてもかっこよくて・・・
(違う、違う!そんなんじゃない!)
佐天は首をぶるぶると振る。
「大丈夫?」
隣にいた美琴が声をかける。
返事を返そうとする佐天に声がかかる。
「大丈夫かい?」
「ふぇ!?」
顔を上げると、アンチスキルとの引継ぎが終わったのか、安倍が前に立っていた。
「ありがとう、佐天ちゃん。男の子を守ってくれて。かっこよかったよ」
「いえ、そ、そんな」
「それと、大変申し訳なかった」
安倍は頭を下げる。
隣の白井も頭を下げる。
「わたくしの不注意ですの!わたくしが犯人をひとり逃がしたからっ!」
「いいんです。助けてもらえましたし、何もありませんでしたしね。それに―――」
佐天はその先を言いよどむ。
5人は首をかしげる。
「皆さんの方がかっこよかったですよ」