とある異能の少年   作:エスパーラ

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第9話 0

 ビィー!ビィー!ビィー!

 

 部屋の中にアラームが響く。

「どうしたの!?」

「まさかっ」

 固法の慌てた声に初春がキーボードをたたき出す。

「どうしたんですの?」

「何があったの?」

 あまりの警告音に、白井や美琴も何が起きたのかと初春を見る。

「っ!ハッキングです!」

「嘘でしょ!?初春のガードシステムを入れてるんでしょ!?」

 信じられない言葉に、佐天は驚く。

 しかし、次の瞬間9つの画面がすべて水色に染まる。

『あひゃひゃひゃひゃ!』

 そんな下品な笑い声とともに、青い画面が黒くなり、そこに文字が浮かび上がる。

 小さな小さなゼロの文字がいくつも。何行にもわたり、大きな零の形を作る。

『どーもー!ゼロでぇえっす!』

「まさか・・・!」

「何?心当たりがあるの?初春!」

「聞いたことがあります。世界ナンバー1のハッカーの噂。確かその名前がゼロだったような・・・」

『あっらー!俺のこぉとぉをぉ、知っている人がいるぅ!』

 スピーカーから出てくる声は、まるでふざけて脅迫状を警察に送る犯人の様なテンションだ。

『なぁかぁなぁかぁ、いいガードォだったぁねぇ。だぁーれが作ったのかぁなぁ?』

「私です」

『やぁっぱりぃ、じぃさーくーかぁ!いい腕してんねぇ!おれぇとくまぁねぇ?』

「遊んでねえで、とっとと本題を話せ」

 唐突に今まで黙っていた安倍が、荒い言葉遣いで言う。

『だぁってぇ、いきなりぃなんかぁ、依頼をしてぇきたのあー。そぉっちだろぉー』

「ハッキングはやりすぎだ、バカ」

『ちょぉっとぁ、遊ばないとぉねぇ?』

「親父に言いつけんぞ」

『OK。それだけは勘弁』

 いきなり、話し方が普通になる。

「どういうことですか?安倍先輩?」

「んー。要はさ、初春ちゃん。僕がさっき電話していた相手がコイツだってことなんだけど」

『僕!?あひゃひゃ!あのきぃみぃがぁ!?あひゃひゃひゃひゃ!僕なんてたまでぇすぅかぁ?』

「うるせぇ」

「でも、なんでこんな人とアンタは知り合いなのよ?」

 額に青筋を浮かべている安倍に、美琴はこの場の全員が疑問に思っているだろうことを聞く。

「いやぁ、親父は何かを助けるのが趣味でね。居候させてるんだ」

『そー。おやっさんはいい人だぁからねぇ。怖いけど』

「で、依頼は済んだのか?」

『ばぁっちりぃ!』

 その言葉が部屋に響いた瞬間、固法、安倍、白井、初春、4人の個人的なノートパソコンもいきなりスイッチが入る。

 9つのパソコンのモニターだけではなく、それらにも学園都市のカメラ、すべての映像が映っていた。

『あ、わすれぇてたぁ』

 モニターの一つだけ、元の書庫(バンク)のものへと戻る。

『でぇ、この人を探したいのかぁ?』

「そうだ」

『OK』

 しばらくゼロが沈黙する。安倍とゼロの会話に口を挟まなかった人たちが、ようやく話しはじめる。

「なんで、学園都市にハッキングなんてできる人間が、偶然居候なんてしてるのよ!」

「お姉さまの言う通りですわ。安倍先輩って、なかなかにきな臭いのですわね」

「そうですよ!初春にすらできないのに」

「それに、なんでダミーチェックなんてマイナーな能力を知ってたんですかー?」

「う、あ、う」

 4人の言い分はもっともだと思っているのか、安倍は言葉に詰まる。

 固法は助け船を出そうとしない。

「あー。それは、あれだよ。あれ」

「「「「答えになってない(ですわ)(です)!」」」」

「いろいろ事情があるんです!」

「「「「答えになってない(ですわ)(です)!!」」」」

 ふざけて軍隊式の敬礼などをしながら答える安倍だったが、それが火に油を注ぐ。

「まあ、人にはいろいろ事情があるんでしょう」

「「「「でも・・・」」」」

 固法のフォローに、それでも何か言いたそうな4人。

 しかし、4人が何か言い出す前に、ゼロが遮る。

『はぁーっけーん!』

 1つの液晶に、ある1つのカメラの映像が出る。

「う、うし。んじゃ、捕まえに行きますか!」

 安倍はこれ以上何か言われる前に、ジャッジメントの支部を出ていく。

「それじゃあ、初春さんはここでモニタリング。御坂さんと佐天さんは、これをつけて」

 固法は美琴と佐天にインカムを渡す。

「それじゃあ、行きましょう」

「待ってろよ!前髪女!」

 佐天は意気込みを新たにする。

『それじゃあぁ、犯人がうつっている監視カメラはぁ、勝手に追跡されるぅからぁ』

「ありがとうございます」

 ゼロに感謝を言って、固法も出ていく。

「それでは、安倍先輩も逃げてしまいましたし、先輩はあとで事情聴取するとして、常盤台狩りの犯人捕獲作戦開始ですわ!」

「「「おおー!」」」

 

 ◆

 

 重福は、また新たな標的を見つけ、あとをつけていた。

 標的は人通りの少ない裏路地に入る。

 右手に持ったスタンガンの調子を確かめる。問題なく作動をすることを確かめ、思わず笑みがこぼれる。

 意を決して、路地裏に入った、その時。

「みぃーつけた」

 ビクリ。思わず驚いてしまう。

 声の主を見ると、黒髪にロングストレートの帽子をかぶった女。

 今日、すでに標的にした人間だった。

「アタシの可愛い眉毛の敵、きっちり取らせてもらうからね」

「くっ」

 その瞬間、能力を発動させる。

「えっ」

 追手は、驚いたような声を上げる。

(大丈夫!能力はばれてない!これならつかまらない!)

 駆け出した重福は、追手のその後の言葉を聞いていなかった。

「ほんとに消えた・・・」

『感心している場合じゃありません!追ってください!』

「おっとそうだった」

 

 

 

 安心していた重福だが、思いもがけないことが起きた。

 追手が正確に自分のことを追ってくる。

 裏路地を出、大通りで逃げ始める。

 途中、仲良く友達と歩く3人組とぶつかるが、重福の見えない3人には、何が起きたのかわからない。

 後を追う佐天がかき分けた時に、文句を言っただけだ。

(見えているわけじゃないのに)

 再び裏路地へと走りこむ。

 ジャッジメントの腕章をつけた女が、前方には壁に寄りかかっていた。

 重福が近づくと、なぜか女が壁から離れる。

 それでもその横を通り過ぎようとしたとき。

 ジャッジメントの女が出した右足に、引っかかる。

 思わずこけてしまい、能力が解除された重複を女は見下ろす。

「なっ」

(まさか、こいつも・・・!?)

 焦る重福に、女は腕の腕章を見せる。

「ジャッジメントですの!おとなしくお縄に―――」

「くっ」

 その言葉を全部聞かないうちに、重福は能力を発動させながら立ち上がり、逃げ出す。

「って、つくわけないですわね。初春!」

『はいはーい』

「ナビをお願いしますわ」

『それじゃあ、路地を出て左、三番街に入ってください』

「了解ですの」

『初春!』

『はーい』

 

 

 

「はぁ、っはぁ、っはぁ」

 重福は必死で街を走る。

 そんな中、彼女の目に留まったのは、ショッピングセンター。

 ここなら、人が多いからつかまえられないだろう。

 そう思い逃げ込もうとする彼女の目の端に、黒い塊が落ちてくるのが見える。

 思わず足を止めると、2階の窓から飛び降りてきただろう、学ランの男子高校生が目の前に立ちふさがる。

「君に恨みはないんだけどね」

 そんな言葉が聞こえた瞬間、重福は身をひるがえす。

「あら、まだ何も言ってないのに」

『安倍先輩!のんびりしすぎです』

「はいはい」

 

 

 

 次に目に留まったのは、地下鉄の駅。

 この学区から逃げよう。

 そう思った重福の目に、地下へ下りる階段の途中に立っている、眼鏡をかけたジャッジメントの姿が目に入る。

 ジャッジメントが見えないはずのこちらを見る。

(あいつも!?)

 重福は進路を変更する。

「あら、私まだ、何も言ってないのに」

『まあ、階段での戦闘は、危ないですしね』

「そうね。結果オーライということで」

 固法は次の場所へと向かう。

 

 

 

 重福は必死で街を駆け回る。

 それでも、いつでも追手だと思われる4人の誰かに鉢合わせる。

(なんで?)

 路地から出ようとして顔を上げると白井がいる。

(なんで!?)

 いつの間にか後ろを振り返ると、佐天が走ってくるのが見える。

(なんでなの!?)

 どこか建物の中に逃げようとすると、安倍が上から降ってくる。

(どうなってるの!?)

 交通機関を使おうとすると、固法がそこにいる。

 そろそろ能力を維持できなくなりそうだ。

 そうしようもなくなった重福は、近くの児童公園へと転がり込む。

「ふう、ふう、ふう」

 膝に手をつき、荒い息を繰り返す。

 いくら頑張っても追手の誰かと会ってしまうため、能力を切るわけにもいかず、走り続けたため、頭も体も酷使していたのだ。

 そのために、音が鳴るまで気が付かなかった。

 キィ、キィ、キィ。

 錆びた金属がこすりあうような音が耳に入る。

 そちらの方へと顔を向けると、そこにはブランコがあった。

 常盤台の制服を着た、茶髪の女を乗せた。

 ジャリ。という音がして、重福の右手に佐天と固法が、左手に白井が、後方に安倍が現れる。

 それとともに、ブランコに乗っていた美琴も立ち上がる。

「鬼ごっこは、終わりよ」

 美琴のその言葉は、重福にとって、絶体絶命になったことを告げていた。

「どうして?なんでダミーチェックが効かないの?」

「さあね」

「いっ」

 目の前の美琴の、その上からな態度が気にくわない。

「これだから、常盤台の連中は!」

 重福は、スタンガンの電源を入れ、美琴に突進する。

「うあぁぁぁぁ!」

 ビリビリビリ!

 重福の絶叫とともに、突き出されたスタンガンは確実に美琴の体に当たる。

(やった!)

 しかし、思わず出た重福の笑みは、すぐに固まる。

 美琴が倒れない。

 思わず美琴の顔を見る。

 美琴は笑みを浮かべる。

「残念。あたし、こーいうの、効かないんだよねー」

 その言葉とともに、重福の目の前に出された美琴の左右の人差し指の間を、電撃が走る。

(エレクトロマスター!?)

「チッ」

 身をひるがえし、重福は走り出す。

 目の前に立っているのは、この場でたった一人の男。

「邪魔するなぁ!」

 スタンガンを突き出し、道を作ろうとする。

 フッ、っと、男の両手が動くのが見えた。

 それとともに、重福の胸に、ばちっ、っという音が走る。

(な、に、が・・・?)

 考える間もなく、重福は気を失った。

 

 

 

 気を失った重福が地面に着く前に、安倍は重福の体を受け止め、近くのベンチに眠らせる。

「初春さん。容疑者を拘束したって、アンチスキルに連絡してもらえる?」

『りょーかいでーす』

「お疲れ様、ありがとね初春」

『後でなんかお返ししてくださいよー。佐天さん』

「はいはい」

『ゼロさんもお疲れ様でした。ってあれ?ゼロさん?』

「どうかしたの?初春さん?」

『いや、ゼロさんから応答がなくて』

「ああ、帰ったんだと思うよ。ゼロは興味がなくなるとすぐに放り出すから」

『残念です。もっとお話ししたかったです』

「あんな人格破綻者との会話なんて、無駄なことこの上ない。ともかくお疲れ様」

『はーい』

「それにしても、流石ですわね、安倍先輩」

「ん?何が?」

「相変わらずの早業だということですわ」

「今、何が起きたんですか?あたしにはわからなかったんですけど」

「相手のスタンガンを、カウンターで返したのよね?安倍君」

「まあ、そう言うことです」

 重福が突撃してきた時、安倍が動かしたのは、両手だけだ。

 突き出された右腕の、ひじの内側を左手の人差し指と中指で押し、右手の掌底で重福の右手の甲を押すことにより、重福のスタンガンを、重福の体に当てたのである。

「さぁーてと、それじゃあ―――」

 佐天が服のポケットから、油性ペンを取り出す。

「ふっふっふっふっふっ。どんな眉毛を書いてやろうかしらねっ」

 重福の前髪をどける。

 

 そこにあったのは見事なゲジゲジ眉毛だった。

 

 ちょうどタイミングよく、重福が起き上がる。

 重福は佐天が髪の毛を上げていることに気が付くと、慌てたように手で隠し、体を反転させる。

「えっと・・・」

 佐天もあまりのことに、悪戯する気も失せたようだ。

「おかしいでしょ・・・」

「はい?・・・、あの」

「笑いなさいよっ!笑えばいいわ!あの人みたいに・・・」

「「「「「あの人?」」」」」

「私の元カレよ!私と別れて、常盤台の女と付き合い始めた!あいつは言ったわ!私の眉毛が変だって!だから別れたいって!」

「「「「「・・・・・・」」」」」

「彼が憎い!私から彼を奪った常盤台の女が憎い!何より、この世の眉毛がすべて憎い!!」だから私は!みんな面白い眉毛にしてやろうと思ったのよ!!!」

「えーっと」

「ごめん。途中から話が見えないよ」

「要は逆恨みかい?」

「安倍君、そんなに笑いだしそうな顔しないの。あなったってそんなに笑い上戸だったっけ?」

 佐天以外の4人が思い思いの反応を返す。

 当の重複と向かい合っている佐天は、ぽけーっとしている。

「なによ」

「へ?」

「どうしたの?笑いなさいよ!」

 佐天が何の反応もしないことに、重福は逆切れしたようだ。

 前髪をかき上げ、面白眉毛で佐天ににじり寄る。

「えー・・・えっとー」

 佐天は言いよどんだ後、言うことが整理できたというように、重福の目を見る。

「変じゃないよ」

「ふっ?」

「そのくらい。そのー・・・。そう!ちょうどいいチャームポイントだって!アタシはそれ好きだなー!」

「へっ?」

 重福の頬が赤く染まる。

「罪な女ですの」

「へ?」

「ごめん。僕ちょっとそういうのは無理だわ」

「えっ?」

「私は別に気にしないわよ」

「固法先輩。横を向いていますけど?」

「ちょっ、皆さん!?」

 佐天が驚くのとは別に、皆は顔をそむける。

 佐天はもう一度前を向くと、そこにはもじもじした重福がいた。

「ええぇぇぇぇぇぇぇー!!!」

 

 

 

 アンチスキルが到着し、護送車へと重福を連れていく。

 護送車に乗り込むため、タラップに乗った重福が振り向く。

「あの・・・。手紙、書いてもいいですか」

「・・・はい」

 重福に見つめられ、思わず佐天はうなずく。

 その言葉を聞いた重福は、嬉しそうに護送車へと乗った。

 アンチスキルの護送車を見送った後、美琴が呟く。

「彼女、完璧に姿を消してたわよねぇ?」

「そういえば、レベル2だという話でしたのに、変ですわね」

「まさか、バンクのデータが間違ってるとか?」

「ま、まさかぁ」

 そんな白井と美琴の会話を聞き、一人、固法だけが険しい顔をしていた。

「そう言えば、安倍さんの件・・・。って、あれ?」

「そうよ!そう言えば、事情を・・・。って」

「安倍先輩はどこ行きましたの?」

 思い出したような佐天の言葉に、白井と美琴が反応するも、金子の姿が見つからない。

 固法は険しい顔をやめ、3人に向かってほほ笑む。

「逃げたわよ」

 

 

 

 後日談だが、佐天に落書きしたインクは、学園都市の発明品であり、1週間も消えなかったのである。

 

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