もうじき死ぬオリ主に稲妻キャラが会いに来る話 作:鍵穴に詰まった埃
あの心臓がギュゥゥゥッっと締め付けられるのがたまらねぇんだわ。
『私が離れた後、あの子を見守ってやってください。
私が傍にいては、あの子が成長できない。だから代わりに、主であり、友人である貴女にお願いしたいのです……この通りです』
数年前のあの日の事を思い出す。
稲妻の一般市民には公にしていない、社奉行の裏組織『終末番』に所属する”嗚呼流”の師範であり、私の部下であり、私の友達である人から頼まれた一人の少女。
同年代の子たちと比べて背が小さく、愛らしい印象を受ける少女は、名を早柚と言った。
人を甚振って殺すような技が多い”嗚呼流”の忍術の中で、早柚は逃走術や身代わり術などの殺しや戦いに向けたものよりも、偵察や尾行といった隠密性が高い術だけを覚え、早柚はそれを利用して事あるごとに『終末番』の任務をサボったり、監視の鹿野さんの目を盗んで逃げだしたりしていた。
『早柚ちゃん、ここにいたのね』
『――――っ!? どっ、どうしてっ』
でも、体が自由に動いていた時の私は、それこそ稲妻で唯一え……将軍と戦える人物として有名、言い方を変えれば悪目立ちをしていた。
だから、まだまだ拙い早柚の忍術を見破って彼女を探すのはとても簡単だったのだ。
……尤も、その嘘みたいな力が
『……仕方がない……任務に――――』
『早柚ちゃん、私と少しお話しないかしら』
『――――え……?』
体の大きさに見合わない巨大な剣を背負ってとぼとぼと任務へ向かおうとする早柚の背を見て、私は思わず呼び止めてしまった。
早柚は『終末番』で鍛えられたれっきとした”殺し屋”だ。
しかし、だからと言って私よりも年齢が下で背も小さく力も大人に比べて十全に振るえない少女が、国の都合のいいように育てられて死地へと赴くのを、なんだか見過ごせない気がして。
『私の部屋にいらっしゃい。偉い人の部屋には、普通の人は迂闊に入れないわ』
その場の感情に流されるという、家を継ぐ者が決してやってはいけない事を何のためらいもなくやってしまったんだ。
「拙は……認めない……」
「ごめんね。早柚ちゃん」
免疫力が低下して、普通の風邪菌でも重症化してしまうような私の体を気にして、『今にも飛びつきたいです』と言った表情をしている早柚は一向に近づいてきてはくれない。
私にだけは、頭を撫でさせてくれた。
私にだけは、眠らないで話をしてくれた。
私にだけは、見つかってもいいと言ってくれた。
……そんな顔を私に向けさせてしまったなんて、嫌だな。
「早柚ちゃん、こっちにおいで。
前みたいに一緒に布団の中で眠りましょう? ここなら、誰にも見つからないわ」
「……」
以前だったら無言で近づいてきてくれたのに、今日は頑なに近づいてこようとしない。
早柚の正座した膝の上に乗せられた拳が、ぎゅっと握られる。きっと、本人も今にでも私の所へ来たいのだろう。
でも、先ほどの私の独り言を聞いてしまった早柚には、それができなくなってしまっている。
「拙は、外に出てるから……悪い菌、いっぱい……持ってるがら゛ぁ……」
早柚の目尻からぽろぽろと涙が零れ始める。
あぁ、あの時一時の感情で早柚を部屋に招き入れていなければ、きっと私なんかの為にこんな悲しい思いをさせなくても済んだだろうに。
今すぐ、その涙を拭ってあげたい。抱きしめてあげたい。そのあと、また一緒に背を伸ばす方法を一緒に考えて実践させてあげたい。
でも、早柚と一緒に森を駆けまわった足は、もう感覚がなくなってしまった。山を登った腕は、力が入らなくなってしまった。教えてもらった安眠スポットには、もう眠れなくなってしまった。
「早柚ちゃん」
「うぅっ……ひっぐ……」
普段感情の起伏が乏しい早柚の、激しい感情の変化がこんなものじゃなければどんなに良かったか。
それでも、私は伝えなければならない。
早柚も気付いていないわけではないだろう。彼女を探しに来た鹿野さんの話声が屋敷の玄関付近で聞こえた。時間は限られてる。
「早柚ちゃんは、十分成長したわ。私と初めて会ったときから、ずっと、ずぅーっと……。
背の大きさなんて関係ないの。今、私の後ろに音もなくやってきた早柚ちゃんの事を見て、とっても大きくなったように感じたわ。
だからね、今度は私、早柚ちゃんが頼もしく仕事をしている所を見てみたいの。
いいかしら? 約束よ。私と……早柚ちゃんの」
「う゛ん……!」
ゆっくりと近づいてきた早柚が、私を布団の上からぎゅうと優しく抱き締めてくれる。
かつては体格差のせいで早柚の手は後ろまで回らなかったけれど、痩せ細った私の体は早柚の小さな体躯で布団を挟んだうえでも簡単に包み込まれた。
「成長のし過ぎには、気を付けてね」
柳色のふわふわな髪を精一杯の力を込めて撫でる。しかしそれでも、ふわりと触れる程度にしかならなかった。
「綾音様、拙、行ってくる」
「ええ。気を付けてね……」
瞬きをすれば、早柚はそこにはいなかった。
でも、私の頬に落ちた少しだけ暖かい雫が、早柚という存在がここにいたことを証明している。
「綾音様、失礼いたします。
……早柚がここに来ませんでしたか? またどこかにいなくなってしまい……」
部屋の中には入らず、襖だけ開けて中の様子を窺った鹿野さんがそう尋ねて来た。
……そういえば、あの時もこんな感じで鹿野さんが探しに来たんだっけか。
「『いいえ、ここには来ていないわ』」
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