もうじき死ぬオリ主に稲妻キャラが会いに来る話 作:鍵穴に詰まった埃
前回の更新から半年が経ってるってマ?? そりゃ小説の書き方忘れるわけだ……。なので今回結構荒いと思います……ほんとすんません……。
「……」
「……」
部屋を支配するのは痛い位の沈黙。
外から聞こえていた一斗の怒声も聞こえなくなっており、ぼんやりと部屋を照らす行灯の明かりが私と裟羅の心境を現すかのようにゆらゆらと揺らめいていた。
ちら、と伺った裟羅の顔には、なんと言葉を掛けたらいいか分からないといった迷いの表情が浮かんでいる。
きっと裟羅に流れている天狗の血は、私に残された時間を正確に把握してしまうのだろう。私の口からその事実を伝えなくて済むと思う反面、否が応でもこの事実を知ってしまう裟羅の事を考えるとまた胸が締め付けられる。
裟羅には、宵宮の時のような意地悪な嘘は通用しない。
彼女の聡明な頭脳にも、親友として過ごしてきた経験にも、裟羅に流れる天狗の血にも、見透かされてしまうだろう。
「綾音……殿……」
静寂を破ったのは、裟羅の方からだった。
「私は、人でなしかもしれない」
「……どうして?」
正座して、膝の上に置いていた裟羅の拳がぎゅうと音を立てて握られる。
裟羅の顔が、先ほどよりも曇っていて、目はきゅっと一文字に閉じられていた。
「私に流れる血が……経験が……綾音殿の命が今日で尽きてしまうと、言っているんだ……。
そんなこと……絶対に許しはしたくないのに……、心のどこかで、納得できてしまう私がいるんだ……ッ!!」
理性と本能は、決して相容れない。
人間として私に生きていてほしいと考えている気持ちを抱いている『九条裟羅』と、天狗として私に残された命はもう残りわずかだと淡々と見極めてしまう考えを持つ『九条裟羅』が、裟羅の中でぐちゃぐちゃになっているのだろう。
「いいえ……裟羅ちゃん。あなたは決して人でなしなんかじゃないわ」
「しかし……!」
私の裟羅の意見を否定する言葉に、裟羅はバッと勢いよく顔を上げた。その目尻には薄らと涙が浮かんでいるようにも思えた。
武力に置いて右に出るものはほぼおらず、天領奉行の天才とも称される裟羅が、私の為に涙を流してくれるのは親友冥利に尽きるし、何よりそこまで想ってくれていたのかと少しばかり嬉しさを覚えた。
だからこそ、そんな涙を流してくれる親友に暗い感情ばかり持たせたままこの世界を去ることだけは、絶対にしたくない。
「あなたのその直感は、間違ったものではないわ。
恐らく……私は今日死んでしまう」
「ッ、そんな……ッ!!」
「でもね、裟羅ちゃん。
「……?」
過去に世界各地の歴史書や文献などを読み漁っていた時に見つけた、スメールの草神が管理すると言われる世界樹の話。
テイワットで起こったすべての出来事が保存されており、その枝葉一つ一つに情報が詰まっているのだ。
だからもしそれを消してしまえば、その出来事自体が『なかったこと』になり、それによって変わったことなどが辻褄合わせのために改ざんされてしまうらしい。
今の私の一挙手一投足全てがその世界樹に保存されているのだとしたら、私は世界樹に、そしてそれを通して形作られている皆に覚えられているのだ。
「私という存在自体が、生きた証ごと消えてなくなってしまう訳ではないわ。
多少の慰め程度にしかならないと思うけれど……裟羅ちゃん、あなたと過ごした時間は、本物でしょう?」
『両親に変わり、代理で社奉行の当主を務めさせていただきます。神里綾音と申します』
『ほう、貴女が……ふん、裟羅、挨拶をしなさい』
『九条裟羅と言います。以後お見知りおきを』
病に伏した両親に変わって私がまだ代理で当主を務めていた時、とある用事で天領奉行を初めて訪れた際に天領奉行の当主であった孝行殿に紹介されたのが、裟羅だった。
『あとは、この裟羅が話を聞きましょう。私はこのあと諸事情で忙しいのです』
当時まだ、社奉行が権力を取り戻していなかった時代。私よりまだ幼い顔立ちの少女であった裟羅を話し相手として置いて行って公務に戻るなどという舐められた対応にも、私は黙っていることしかできなかった。
あまり感情の起伏が表に出ず、立場の差もあって微妙な距離感が続いていたものの、それも何度かの模擬戦と将軍様トークを重ねるうちに段々となくなっていった。
流石に公務の最中には適度な距離は保っていたが、時間を見つけては二人で雑貨屋で将軍様人形を買ったりしたこともある。
『綾音殿、今度また新しい大御所様像が販売されるらしい……一緒に、どうだ?』
『えぇ、ぜひ一緒に参りましょう』
『本当か! 楽しみにしているぞ』
張り合える人がなかなかいない私との戦いに互角とまではいわずとも、『戦い』と呼べるものを見せてくれたり、共に行列に並んでいる所で身バレしてちょっとした騒ぎになって裟羅は孝行殿に、私は綾人に怒られたり、稲妻城で起きた事件を二人で素早く解決したり。
思い返せば、思い出なんて沢山ある。
「月並みな言葉だけれどね……
貴女が私を覚えている限り、私は永遠に貴女の中で生き続けるわ」
「綾音……殿……」
裟羅の表情は、憑き物が落ちたように晴れやか……にはなっていないけれど、少なくとも先ほどまでの顔よりは余程いいものになっているだろう。
人の『死』が与える影響というのは、良くも悪くも大きすぎるというのを私自身の身を持って実感するとは思わなかった。
ともすれば、人伝に聞いた璃月の神の死はとても大きなものなのだろう。
「……裟羅、ちゃん。この後、どれくらい……時間、あるかしら」
いけない。明るく振舞わなくてはいけないのに、先ほどの一斗の件もあって涙が流れてしまいそうになる。
このあと裟羅が告げるであろう時間が、私と裟羅に残された時間なのだと思えば思うほど、私の瞼にある堤防に涙が溜まっては零れていく。
「あと、30分ほど……」
「じゃあ、それまで……、また将軍様の話、しましょう……?」
「……っ、あぁっ、あぁっ!」
私と裟羅の、ほとんど嗚咽だらけの会話。何を言っているのか分からない会話だったが、その時だけは裟羅と何を話しているのか理解できた。
初めて会って、その時には壁があって。何度か戦って肌と肌で互いを感じて、壁が少しずつなくなって、同じ話題で語り合って、壁がなくなって。
そして、きっと、今あの瞬間に私と裟羅は心で繋がったのだろう。
「大変恐縮なのですが九条様、外にて天領奉行の方がお待ちです」
「…………あぁ、すまない。報告感謝する……忍殿」
そうやって過ごした最後の30分は、申し訳なさそうな顔をした忍の声で終わりを迎えた。
一斗は、きっと彼女がどうにかしたのだろう。
「綾音殿」
「……っ、裟羅ちゃん」
そうして、最後。
裟羅は私の枕元にしゃがんで、目尻に涙を浮かばせながら笑顔を浮かべた。それは、一般人からすれば微笑む程度の口角を少しだけあげただけくらいのもの。ただ、裟羅の笑顔は本当に珍しくて、私が呆気に取られている隙に、
「私は、幸せ者だ」
そう言い残して、裟羅は部屋の外へと去っていった。
「……それでは、私もこれで―――」
「忍ちゃん」
「……? はい?」
少し間を開けて部屋を後にしようとした忍を呼び止める。
「……少し、お話をしましょう?」
「…………分かり、ました」
裟羅との会話を聞いていたのか、少しばつが悪そうに忍が部屋の中へと戻ってきた。
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