中継ぎ投手。

酷使される存在。

そんな中継ぎのある投手が緊急登板するお話。



一人称挑戦作品

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ある中継ぎのお話

「まだだ、まだ私は終わらんよ」

 

と昔、あるエースは大ピンチのなかでも叫んだらしい。

しかし、今の自分の状況はそんな事を言えないレベルで、ピンチである

 

バッターは、球界の至宝 大門

ノーアウト満塁

一点リードの12回裏

 

クローザーのヒューイは、死球三連発で退場処分

 

もう投げないだろうと思っていた私にお鉢が回ってきたのだ。

 

 

「ホームラン!!ホームラン大門!!」

 

球場を包む敵のファンのチャンステーマが鳴り響いている。

そして私は、三連投の次の日。

数合わせにベンチにたまたま入っていたにすぎない。

 

「プレイ!!」

 

キャッチャーからサインがきた、外角低めにスライダー

 

まあそこしかない。

首を縦に振る。

 

 

右手に力が入る。

 

相手は、大門。初球から来るに違いない。

 

よし、行ける。

 

 

全力で腕を振った。

 

 

しかし大門は、待ち構えていたかの様にスイング。

 

カキーン!!

 

ポール際へ飛んでいくポール

ざわめくスタンド

だがボールはファールの方へ切れて行った。

 

 

 

 

危なかった…

 

さて、仕切り直し。

 

次の要求は内角高めにストレート

 

これもちゃんと投げないと、危ない球だ。

 

 

ランナーを牽制し、セットの体勢へ

 

 

グラブに右手を隠し、間合いを取る。

 

気持ちが悪いほどの大声援、そしてプレッシャー。

 

これこそが投手の醍醐味でもある。

 

それを楽しめたらもっと上に私はいけるかもしれない。

だが、まだこれと闘うだけでいっぱいの私である。

 

汗は吹き出し、息も自然と荒くなる。

 

まあ、それも楽しめていると言ったら、楽しめているのかもしれないが。

 

さて、構えて、力を込めてコントロール!!

 

 

ズバン!!

 

「ストラーーイーーク」

 

大門は手を出さずにボールはそのまま、捕手の高嶺のミットに入る。

 

おかしい、何を待っているんだ?

 

少し私は考える。さっき振ったスライダーか?

 

しかし、なんにしても2ストライク。

 

追い込んだことは間違いがない。

 

ここを0に抑える。これが私の仕事である。

次で決めたい。

 

高峰がサインを送る。外角スライダーだ。

 

しかし、それは危険な香りがする。

 

首を横に振る。

 

つぎは、内角シュート、空振りは取りにくい。

 

しかし私は、この球が一番好きだ。

 

よし、行こう。

 

構えて、狙って、力の限りに投げ込む。

 

カン!!

 

詰まった音がして、ボールはサードの高坂のミットへ。

 

ベースを踏み、セカンドへ投げて2アウト。

 

全力で走る大門。

 

だが、セカンドからファーストへボールが渡る。

 

ほぼ同時だ。

 

 

審判の判定がちょっと間が空く。

 

アウトに見えたがどうだろう。

 

「アウト!!!!」

 

 

球場に沈黙が落ちた。

 

 

私たちの勝ちだ。

監督たちがベンチから出てきている。

ハイタッチの準備は十分のようだ。

 

 

今日の仕事は、最高だった。



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