機械仕掛けの妖精   作:不可思議可思議

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 いつ、いかなる時にも、他とは違う発想をする人間というのは存在する。

 彼らを総じて天才なんて呼ぶが、さらにその中の極一部を指して、狂人と。マッドサイエンティストなどと褒め祟る。

 

 そんな愚か者の最終傑作――その肉体ならぬ機体に名称をつける間すら与えなかった、生まれながらの殺人機――肉体無き人造人間――後に機械仕掛けの妖精――マキナ・ギアと名を轟かせた。

 

 

 


 

 

 

 駅も無い、日に三度馬車が訪れる程度に田舎な、レンガの町。その端にポツンと佇む白いモルタルの直方体。子供は決して近寄らず、大人であろうと接近を拒絶するらしいその施設は、依頼人曰く()()()らしい。それも随分歴史のあるもので、設立は数十年前とも数百年前とも言われている。

 

 それだけなら、特段大したことのない、ちょっと浮いてるだけの施設でしかなく、わざわざ評議院から魔道士ギルドに調()()依頼なんて出ないだろう。

 

 だからまぁつまり、その研究所が普通ではなく。町の住人か、それとも魔法界か、何かしら都合の悪い部分に不都合があるのだろう。

 

 そしてその不都合というのが一体なんなのか。それも依頼書に記されていた。

 

 曰く、その研究所に人が連れ込まれていくところを町の住人が見たのだとか。そして通報があり、評議院を経由して魔道士ギルドに依頼された。

 

 

 


 

 

 

 魔道士ギルドが一つ、フェアリーテイルの魔道士――グレイ・フルバスター――は、一秒も躊躇せずに施錠された鉄の扉を破壊し、研究所へと調査に入った。

 

 ――が、その足は五歩と進まずに止まってしまう。

 

「し、師匠……っ?」

 

 その研究所は酷く単調な造りをしていた。

 

 中央には床を歪めて作ったような、キノコ型の椅子と机があり、四面の壁には人間と同サイズの人形が直立不動で乱れなく並んでいる。

 その人形達の顔は、一見勘違うほど秀逸に出来ており、――その顔は亡き師、ウルと瓜二つであった。

 

 それは、唯一人間らしい姿勢をとっている、椅子に腰掛けた人形とて変わらない。

 

「……どういうことだよ。ここの研究者がファンだったのか?」

 

 局部の造形が省略されているとはいえ女の裸体が立ち並び、馴染みある顔面が四方に並ぶ光景に顔色を悪くさせつつ、グレイは首を傾げた。

 

 見たところ、留守なのか研究者はいない。これだけ気味の悪い空間では気配もクソもあってないようなものだが、それらしい様子も見られない。

 ひとまず、触れてみるかとグレイが座っている人形に手を伸ばそうとして、すぐにその手を止めた。

 

 何をするでもなく唐突に、その人形は一人でに立ち上がり、そしてその無機質な顔面に歪んだ笑みを貼り付けた。

 

「ギャハッ! ギャハハッ!! ギャハハハハハハ!!!」

 

「なんだ!?」

 

 スピーカーを通したような、人間らしからぬ声音の笑い声。師とは似つかぬ笑いにさらに困惑し、グレイは警戒と手元に冷気を顕にさせる。

 

「あー……。よく寝た」

 

「寝てたのかよ!? つーか人間かお前!?」

 

 否。どっからどう見ても、大きな人形であり、その関節は球体関節で、その者が関節の調子を確かめている様子を見てもその駆動域は明らかに人間の域を超えていた。

 

「あぁ? どっからどう見ても人間だろーが。てか見んなよ、変態」

 

「誰が変態だこの野郎!」

 

「女の前で全裸の野郎なんざ旦那か変態のクソ野郎の二択だろうが!!」

 

「うおわっ! いつの間に!?」

 

 ギルドの面々に周知の事実(というか羞恥の事実)である、病的な脱ぎ癖はこの異質な場でも働いてしまったらしく、もうここに衣服は一枚たりとも存在していなかった。

 

「ギャハハッ! さてはテメェ、氷の魔道士だな?」

 

「……なんで知ってんだ。何者だ?」

 

 全裸の男と、全裸の人形達。そして動くし喋るし笑う人形。殺伐とは裏腹な環境でありながらも、グレイの頭脳は氷塊のように冷めた。

 

「ギャハハハハハハッ!!」

 

 しかし、それでも人形は笑い、どころか出入り口の方へと歩き出した。

 

「おいっ! ――!?」

 

 得体の知れない相手を前に、下手に動けず、グレイは人形を目で追い、そしてその背と腰の中間あたりを見て、息を呑む。

 

 そこにあったのは、己の右胸にあるものと同じ刻印――フェアリーテイルの紋章だった。

 

「軽い冬眠のつもりが寝過ごした。帰る」

 

「自由か!?」

 

 扉と氷の破片を素足で踏み砕きながら出て行こうとする人形を、グレイはツッコミながら引き止めた。

 人形の顔は無機質で硬そうな割に表情は自在なのか、不思議そうにしている表情を、首を百八十度ねじって見せた。

 

「……色々聞きてぇんだが、今は依頼を優先する。――ここはなんなんだ。研究所じゃねえのか?」

 

「んー? まぁ、研究所っつーか、工房っつーか、工場っつーか……。別に研究所って言っても間違いじゃねぇさ」

 

 人形は身も反転させ、さっきまで座っていた椅子に再度腰掛け、グレイに説明を始めた。

 

 

 


 

 

 

 むかーし、むかし。まだ魔法に魔法っつー名前もついてなくて、魔法使うやつが詐欺師扱いされるような時代だったな。

 そんな時代でも天才ってやつはいるもんでな。それも大層頭のおかしい大天才だったんだ。時代が時代なら伝説級だったろーぜ。名前は知らねぇけど。

 

 そいつは元々生物学者だったらしいんだが、なんかあって魔法に取り憑かれた。その辺はオレも詳しくは知らねぇ。

 で、まぁその学者は生物学の研究に魔法を混ぜ込んで、最強の生物を作ろうとした。ぼくの考えた最強の〜〜ってやつだな。

 

 で、まぁいろんなバケモンをそいつは作ったんだが、ある時最高の理論を発見した。

 

 重さ×速さの二乗、イコール破壊力っつー脳筋理論だ。

 

 んで、いざ作るとなると色々と課題があったわけだ。

 

 まず肉体の耐久性。

 音速で走ってぶっ壊れねぇ生き物なんざいねぇだろ?

 こいつは魔導金属やら特殊樹脂やら、あとなんか伝説の武器やらを溶かして混ぜて材料にするのと、関節やら内臓やらを特殊構造にすることで解決した。

 

 次に熱暴走。モーターを爆速で回したら発熱するだろ? それと似たようなことが起きたわけだ。当然、何百度、何千度になれば当然死ぬ。

 これは下手くそながらも氷の魔法が使えた俺を素体にすることで解決できた。……雪山で冬眠してたとこを回収されて、勝手に使われただけだがな。

 

 まぁ、他にも色々あったわけだが、脳髄に意識やら精神やらを残したままラクリマにしてこの頭に詰め込んだり、腹には食ったものを魔力に変換する内蔵かなんかを詰め込まれたり。あとなんやかんやあって、結構昔にオレが完成した。

 

 これがまぁ、フェアリーテイルが出来る五百年前くらいの話だな。

 

 オレの顔がお前の師匠と似てる理由?

 いや、それはマジでなんも知らねぇよ。めちゃくちゃ遠い親戚だったんじゃね? 案外、姉妹の子孫かもな。氷の魔法の家系だったし。

 

 ああ、一応訂正しとくが、オレはフェアリーテイルの魔道士じゃねぇよ?

 

 オレが完成してからすぐに旅に出たんだが、たまたま出会ったメイビスちゃんと仲良くなったりして、設立まで軽く手伝いしたりしてたんだよ。記念入団的な感じで刻印入れたけど、結構すぐに旅に出ちゃったし。

 

「あ、自己紹介忘れてたな。オレはマキナ・ギア計画第七号機。メイビスちゃんたちにはマキとか、マキナって呼ばれてたな。趣味は旅。胸が平たいが、これでも女だぜ」

 

 

 


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