ディストピアゲーに転生したら行政側だった件について   作:我等の優雅なりし様を見るや?

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第十七話 『反抗声明』

 

『模範市民の皆さん、本日の労働を開始致します。戦時下である今、皆様の労働が我が国の血肉となり未来を切り開くのです。模範市民の皆さん……』

 

この国から朝日が消えて久しい。太陽の無い朝の訪れを告げる、重金属を多分に含む黒色の雲の下を飛び回る無数のドローン達の背面に鮮やかに描かれる白地に描かれた赤い円だけがこの国において唯一の太陽であった。神聖ライヒ=ユーロ同盟の猛攻に押される形となったロシア共産連合体が発動した気象破壊兵器は世界から日光を奪い、貧しき者からは温もりある生活を奪ったのだった。

 

乱立する高層ビルの屋上に取り付けられた投影機から上空へと通じ出されるホログラムの中では、見る者に硬質な印象を与えるスーツを着こなした金髪の美女が手を振るい眼下の国民へと熱弁を振るっていた。

 

『諸君!君達は細胞である!この国という大喰らいの生命体を構成する尊き部品だ!其れは総理である私も例外では無い!我々はこの国を存続させねばならない義務がある!我々はこの戦争に正義の名において勝利する義務がある!

だと言うのに、この国を構成する細胞でありながらこの国をより良くする努力が出来ない者は癌だ!私は諸君等がその様な存在では無い事を心の底より────』

 

其れに見下ろされる形で朝の出勤をする群衆達の顔には一様に無表情が浮かべられていた。

多くの民需工場は軍需工場へと姿を変え、生活用品にすら事欠く始末。明らかに過剰な迄の兵器作成が行われ、防衛戦争を謳いながらも無限に広がり続ける戦線は海を越え、果てにはこの世界の人間だけでは無く異界の存在とまで戦火を交える迄拡大を遂げた。

 

凡ゆる情報は封鎖され、インターネットは今や国家の広報センターへと成り果てた。

テレビは国家への礼賛を壊れたスピーカーの様に毎日垂れ流す機械へと変貌し、凡ゆる家庭には防諜目的として監視装置が取り付けられ、其れに反抗した人間は何処かへとその身を消す事となる。

 

世界の壁をこじ開ける異界への門を世界中にばら撒き、日本という国の中枢に巣食う魔神の愉悦の為だけに大戦が引き起こされ、何の意味も思惑も大義も無く、只管に無為に圧政を敷いている事など露も知らずに、ただ黙々と目の前の仕事をこなすだけのロボットと何も変わらぬ者達へ彼等を扇動する者達の言葉が響き渡る。

 

『我々は誇り高き市民なのだ!』

『我々の国は自由と平和を愛する偉大なる国家である!』

『海の彼方にて戦う国防軍は国民の生命財産を守る為ならば如何なる犠牲をも厭わない!』

『我々こそ、この大戦を生き抜き新たなる時代にて人類を導く選ばれた存在である!』

 

繰り返され、疲労に浸かった脳へと刷り込まれていく言葉達。

何故、祖国の防衛を謳いながら国防軍は海を隔てたユーラシア大陸で、北米大陸で戦わねばならぬのか。

一体いつから、あの金髪の美しい総理大臣は我等の上に立っているのか。

そんな疑問は日々繰り返される労働と、農業プラントの大半を軍事用科学プラントへと移行した事による深刻な食糧不足からなる飢えに洗い流され、荒れ果てた心の大地にプロパガンダが染み渡る。

 

『諸君!君達にはまだ未来が残されている!この国が勝利を手にした暁には必ずや君の家族の元へと帰り、共に過ごす日々が訪れるだろう!!』『だから弛まず奉仕し続けようではないか!!我らが祖国の勝利の為に!!!』

 

『『『『万歳!!!』』』』

『『『『万歳!!!』』』』

『『『『万歳!!!』』』』

 

彼等は知らぬままに量産される歯車として消費され続ける。既に大戦は終結している事を、勝者たるこの国には最早戦火への備えが必要ない事を知らされず、この国の為と嘯く政府の声に従い、何も知らぬ傀儡達は自由と幸福を謳うたった一人の魔神の享楽の為だけに酷使され続ける。

 

嗚呼、正しくこの地はディストピアなり───

 

 

時は暫し巻き戻る。

 

「クソっ、自爆のつもりか?!ワシントンのど真ん中で異界に穴をぶち開けやがった奴は何考えてやがる!こちらアイボリー・5!旧連邦庁舎前で異界由来の物と見られる敵対的生命体を発見!道を埋め尽くしながら此方に向かって来てる!至急増援を求む!」

 

アメリカ合衆国。世界の警察と呼ばれる程の軍事力を誇り、世界の覇権を握っていたこの国が存在していたのは遥か昔。

異能保持者への差別に端を発する国家内の断裂は深刻さを増し、遂にはロッキー山脈を挟んでの国家の分裂にまで事は及んだ。

 

一時は平和的に二つの国家へとその身を分けたアメリカ合衆国だが、世界を巻き込んだ大戦の混乱は二度目のシビル・ウォーを引き起こす事となる。

サンフランシスコに首都を置き、アメリカの西側を統治すると同時に異能保持者の人権擁護を主張するアメリカ太平洋共和国は大戦の勃発と同時に日本と軍事同盟を締結。『再び自由なアメリカを』をスローガンにアメリカ東部を統治するアメリカ合衆国へと宣戦を布告した。

 

それと同時に日本は国防軍北米大陸方面軍を組織。未成年の異能保持者を含む5個師団を派遣し、彼等は未だ異能保持者に対するドクトリンが一般的で無い中で猛威を振るいながら共和国軍と共にアメリカ合衆国へと猛攻を加え、ワシントンへと迫る彼等の前に今や勝利は目前と言えた。だが、首都を守る合衆国軍の己の身を顧みぬ必死の攻撃は彼等の進撃を鈍らせていた。

 

にく!にくがある!

 

麻薬を吸引した徹夜の芸術家が創り上げたかのような、生物としての法則を忘れてしまった形状の全身から舌を生やした大型犬が強酸の涎を撒き散らしながら兵士へと突進する。

全身を物々しい黒光りするパワードスーツで覆った兵士達が手にした銃から弾丸をばら撒き、迫り来る犬の形をした悪夢達を挽肉へと変えていくが、空中に揺らぐ鏡面の様な物から津波の様に溢れ出す化け物達の前には砂漠へとコップの水を注ぐ様な所業に等しい。

 

だが、その砂漠へと大海の波をぶち撒けるが如き規格外の暴力がこの兵士達の命を救う事となった。

 

「あーら、こない躾のなっとらへん犬は初めて見たわぁ。何や、異界にはブリーダーの一人も居らへんの?」

 

兵士達を守る様に吹き荒れるドーム状の鎌鼬は触れた怪物達の鮮血を天高く巻き上げながらその規模を拡大していく。

周囲の建造物を切り刻み、瓦礫へと変貌させながら瞬き程の速度で怪物の大群を血煙へと変換したその少女は軍服の腰から赤色の幾何学模様が刻まれた拳銃を抜き放ち、未だ空中で揺らめく鏡面へとその弾丸を放った。

 

風を纏いながら虚空を走るその弾丸は怪物を出現する端から切り刻む風に影響される事なく突き進み、その空間の揺らぎへと突き刺さるや否や赤色の閃光を撒き散らす。

兵士達があまりの眩さに目を覆い次に視界を取り戻した時、その場にかつて悪夢の如き犬達が居た事を示す物は地面に散らばる紫の血液のみであった。

 

「おお、ええ仕事するやないの、大東亜工業。これで異界問題も解決やねぇ。」

 

風に舞い顔へと掛かった初夏の葉を思わせる緑の髪を手で背後へと払いながら、異界へと通じる小規模な歪みを修正する弾丸を撃ち出した銃を腰のホルスターへと仕舞う少女。次の瞬間、静寂に包まれていたその場が兵士達の歓声で溢れかえる。

 

「うおおおおお!!!」

「すげぇな、あの日本人!噂の『ヴァルキリーズ』の一人か?」

「ありがとよ!お嬢ちゃん!」

 

育ちの良さをその上品な所作に滲ませるその少女は年相応の笑顔を浮かべながら照れ臭げに手を振るが、その耳につけたインカムからは深々と溜息が漏れ出る。コツコツと何かを叩く音からインカムの向こう側にいる人物の呆れ具合が見える様であった。

 

『中禅寺中佐、煽られて照れてる暇があったらホワイトハウス前にとっとと来い。そろそろ陥落する頃だ。』

「何やのもう……。もうちょっとええ思いさせてもらってもええや無いの。うち等、まだ未成年やっちゅうんに戦場にまで出張って来てるんよ?こんくらいの得はさせてもらってもええと思うんやけどなぁ。」

 

もう一度手を振り、風を纏いながら地面を蹴って飛翔する少女。

黒煙が立ち上るワシントンの空を気ままに飛ぶ彼女へと合衆国空軍の生き残りが駆る戦闘機が迫るが、搭載した光学式カノン砲が火を吹く前に彼女の指の一振りで爆炎と共にその身を鉄屑へと変えながら墜落していく。

 

『口を慎め、中佐。祖国の為だ。この戦争が終わってからの国家からの賞賛にその照れは取っておけ。』

「はぁい、准将殿。」

 

数度の無人機からの襲撃を難なく迎撃し、地上にスクラップを数体増やしながら彼女は己の上官がいる地点目掛けて飛び続ける。

最早、ワシントンの陥落は時間の問題だ。組織的な抵抗は終結しつつあり、前線へと半ば奴隷の様な扱いで駆り出されていた数少ない異能保持者の軍人も異能を前提とした軍事訓練を受けた日本の異能行使者達によって戦争の初期に掃討されていた。

 

アジアでは日本がユーラシア大陸を東から、ヨーロッパでは同盟国たる神聖ライヒ=ユーロ同盟が西から攻略しており、両軍が出会うのもそう遠い話では無いだろう。もうすぐこの未曾有の戦争も終わる。そうしたら何をしようか。

 

かつては煩わしかった学校での勉強も今では懐かしく、魅力的に感じるものだ。恋もしてみたいし、戦後に払われる軍人年金で一生ごろごろしながら暮らすのも良いかもしれない。

日本の情報はとんと入ってこないが、今はどんなファッションが流行っているのだろう───

 

そんな取り留めもない事を夢想しながら空中を推進する彼女に上空から影がさす。

上空を見上げれば銀色の剣の様な細身の機体が無音ながら凄まじい勢いで上空を駆け、彼女を追い越す所であった。その横腹には所属を示す赤い円。国防軍が誇るステルス機は更に速度を上げ、上空へと大地に垂直にその身を高く運び彼女の視界から消え去るのだった。

 

「変やねぇ……?もう終わるちゅうんに今更出張って来て何のつもりかいな。」

『どうした?何かあったか?』

「何やけったいな速さで空軍の戦闘機が上に飛んでったんよ。何か知っとりはる?」

『ふむ……?既に制空権の大半は抑えているし、宙権*1はとっくの昔に空軍が抑えていた筈だが……。』

「何や、准将やっちゅうんに知らへんの。」

『本土に問い合わせておく。我々の知らぬ脅威への対処かもしれんからな。』

 

彼女達が会話を交わす遥か上空。次世代型国産戦闘機『天叢雲剣』のパイロットが本土と交信を交わしていた。

パイロットの口調からは隠しきれぬ困惑と躊躇の色が滲み、それに対照的な無機質さすら感じさせるオペレーターの声が返答する。

 

「こちらイーグル・1。話が違うぞ。先程友軍をレーダーだけでなく目視でも確認した!」

『イーグル・1、貴官の誤認である。任務を遂行せよ。』

 

空中に投影されたホログラムは地上で動き回る無数の友軍識別コードを赤い点として映し出し、パイロットの判断が間違っていない事を如実に示していた。だが、オペレーターの鉄の様な冷たさを孕む声は無感動に告げる。

 

『繰り返す、イーグル・1。現在、敵首都ワシントンD.C.に友軍は存在しない。これ以上誤認が続く様であれば敵による対認識攻撃を受けたと見做し、感染を防ぐために機体ごとの除染を行う。』

「……子供が居たんだぞ。」

『それが最後の言葉で良いのか?』

「……こちらイーグル・1。友軍は確認出来ず。投下を開始する。」

 

剣の腹に当たる下部の格納庫が開き、虹色の燐光を纏う小さな黒色の物体が投下される。

それは是より眼下に地獄を創り出す物にしては余りにも小さく、そして余りにも呆気なく雲海を通り抜け大地を目掛けて重力の導かれるままに落下する───友軍犇く大地へと一直線に。

 

『キャッスル了解。直ちに帰投せよ。』

「イーグル・1。了解……!」

 

顔を憤りに歪め、衝撃波と共に音速で日本目掛けて飛ばんと操縦桿を握るパイロット。

下を見るまいと努力しながら彼は、これから飛行機に乗る度に罪の意識に苛まれる事を覚悟する。だがそれは杞憂だろう。日本に着いた彼は、そう遠くない内に『事故』に見舞われる。

それが彼が日本でこの機体に乗り込み、命令を受けた瞬間に決定した未来だった。

 

「氷峰准将、中禅寺中佐がお着きになられました。」

「中禅寺中佐、参上しました!それで何や分かりはった?」

「取り繕うなら最後までやれ……。いや、何も。それどころか本部が応答せん。」

 

ホワイトハウスを囲むフェンスはひしゃげ、正面の芝生は鮮血と何かの壊れた部品でかつての景観を完全に破壊していた。

其処に建てられたテントの中、正面に立つ警備の兵士に出迎えられながら少女はぴしり、と文句のつけようも無い完璧な敬礼を行う。

 

だが直ぐにその纏う凛とした雰囲気を霧散させながら、銀髪を後ろに結い上げた少女の座る机へとドンと手を突き、上官に向けるには相応しくない砕けた口調で話しかける。だが周囲の兵も苦笑いしている所を見ると、これはこの戦場に居る者にとっては日常の事らしい。

そんな周囲の反応もお構いなしに話を進める中禅寺と呼ばれた少女は、不思議そうな顔でその顎に思案する様に指を当てながら首を傾げ、周囲に立つ兵士達へと質問を投げかける。

 

「変やねぇ……?こっちのレーダーは問題の機体を確認しとるん?」

「其れなのですが、新型機体で有るらしく此方のレーダーでは捕捉できていません。見間違いという線は……」

「それは無い。こんな巫山戯た奴だが、そんな詰まらん見間違いをする様な奴では無いというのは私が一番知っている。」

「うち、視力2.0やしねぇ。」

 

であれば何故、現地に展開している我々に何の連絡も無しに新型機体を此方へと派遣して来たのか。

謎は深まるばかりであり、アメリカ合衆国の攻略完了を目前にして新しい問題が発生する事が無ければ良いが、と皆が話していたその時、テントの外より兵士達の騒めきが響き始める。作戦の終了を前に気が緩んでいるのかと思えば、その声は次第に切羽詰まった色を帯び始める。

 

「何事だ!」

 

立ち上がり、軍服の裾を翻しながらテントを出た少女の顔が驚愕と戦慄に凍りつく。

何事かとそれを追い、テントから出てきた他の兵士達も一様に空を見上げながら凍りついた。

 

巨大な『黒』が空に浮いていた。

奥行きも何も感じさせぬ、ただ只管に単色の黒き厚みのない円が空へと当然の様に座し、自らを見上げる人々に頓着する事なく刻一刻とその大きさを拡大させていくその様子は何処か薄ら寒い者をその場にいる全員に感じさせるに充分であった。

 

「何やの……これ。」

 

次の瞬間、黒色の円は爆発的にその形を広げる。

早回しで空を撮影しているかの様に天蓋を覆い尽くすその『黒』は太陽光を遮り、一瞬にしてこの地を夜の様な闇で包み込む事となる。それと同時に各所で悲鳴が上がり、何事かとそちらを見ればまるで何かに吸い寄せられる様に天空を目指し廃墟と化した都市内の無数の瓦礫が『落ちて』いく所であった。

 

否、瓦礫だけではない。車両も、兵器も、そして人すらも。

 

皆等しく狂った物理法則に誘われ空へと落ちていく。その先に待ち構える『黒』に接触すれば何が起こるのかは直ぐに分かる事となる。

消えた。消え去った。其処に元から存在しなかった様に消えていった。『黒』に触れた物は一切の痕跡を残さず消えていく。

それは非生物も、生物も変わらない。一切の区別無く大地に犇く全てを消し去らんとするその『黒』は、無慈悲に己へと万物を引き寄せていた。

 

「中禅寺!」

「やっとる!だけど何時迄も保つもんでもあらへんよ!」

 

銀髪をその引力に乱されながらも己が最も信用する副官へと手を振れば、以心伝心の様に周囲へと逆に地面へと吹き付ける風を展開する中禅寺。

一時的にその場にいる者達の延命に成功したものの、永遠に異能を行使し続ける事が可能な訳が無い。これが敵の攻撃であれ、はたまた自然現象であれ、助けられる人間だけでも本土に撤退させるべきである。

氷峰准将は彼等が海を渡るのに使用した転移ポータルの起動を命じるも、それは更なる絶望を生む事となった。

 

「ダメです!本土側のポータル、ロックされています!」

「バカな!再起動してやり直せ!」

「もうしています!反応変わらず!」

 

本来あり得るはずのない反応。それは本土側からの意図的な封鎖であり、彼等をこの場から逃さぬという日本からの意思表示。

あり得てはならなかった。彼等は外敵と戦い、祖国の平和と自由を守る為に血を流し、未だ国家の庇護下に有るべき年齢である者達は己の青春を国家へと捧げ、此処にいるのだ。

 

なのに、なのに。

 

「まさか……さっきのあの戦闘機は……!」

 

何故だ。分からない。本当に分からない。勝利を目前にして、何故敵ごと我等を葬り去らなければならないのか。

私達は、此処で祖国の手で死ぬ為に戦ってきたのか?こんな、こんな死に方をする為に。

 

大地が引き剥がされ地中の地下鉄が天を舞い、半ばからへし折れた高層ビル達が空を目指す鳥の様に天空へと登り行く。

宛ら黙示録の光景の中、展開された風の結界もその効果を減少させつつあった。

少しずつ、少しずつ天空へと浮かびゆく彼等。泣き叫ぶ者も、怒りを露わにする者も。皆一様に死への飛翔の手に捕らえられ、天空へと浮かんでいく。

 

だが、『黒』との接触を待たずして彼等の最期は訪れる事となる。

その天空からの引力に耐えられなくなった大地が捲れ上がり、無数の瓦礫が津波の様に押し寄せる。全てを呑み込みながら、天上へと至る逆転した瓦礫の大瀑布。其れに呑まれ、中禅寺の右手に凄まじい激痛を感じた瞬間。この場に似つかわしくない声がその場に響いた。

 

『ねぇ、助けてあげようか。』

 

そんな幼い少女の声と共に、白色の光が彼等を覆い尽くし────

 

 

「……何やもう、えらい昔の夢見とったわ。」

 

ゆっくりと開かれた瞼の下のエメラルドの様な目から涙が零れ落ち、彼女の顔を伝った。

揺れる護送車の中、両手を拘束具で胴体に固定された快適とは言い難い場所で彼女は目を覚ます。

周囲にいる筈の護送の警備員の姿は無く、運転席に座った一人の男の派手なアロハシャツだけが無機質な護送車の内観から異様に目立ち、彼女は拘束されたまま苦笑した。

 

「おう、お目覚めか。……泣いてんのか?」

「欠伸してしもうただけよ。それで?何の用件かいな、裏切り蝗はん?」

 

男は振り返りながらそのサングラスを外し、両目とも義眼の眼球をぎょろりと彼女へと向けながら笑う。

 

「商談に来たのさ、囚われのレディとね。」

*1
宇宙においての制空権




亜門君が生まれる前までガチディストピアだった模様

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