ディストピアゲーに転生したら行政側だった件について   作:我等の優雅なりし様を見るや?

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第三十一話 欲暴

 

 

「ふんっ!」

「がっ……!?」

 

腹部に炸裂する鈍い痛み。下から迫り上げてくる何かを必死に堪えながら、地面へと膝をつく。

 

痛みを堪えながらも震える足を叱咤し、無理矢理にでも立ち上がろうとしたその瞬間、己の横へと凄まじい勢いで何かが突っ込んできた事による衝撃で再びその体勢を崩す事となる。

 

「げほっ、ごほっ……!」

 

青い髪を汗で額に張り付かせ、その口元には血反吐がこびり着く。痛みに目を見開き、腹へと加えられた衝撃を堪える為に歯を食いしばるその様は無様この上ない。

 

だが、それは己も同じ事。先程まで刃を交わし合った人間と同じ苦境を共有している事実に皮肉めいたことを感じつつも、今はそれに意識を割く(いとま)などありはしない。

 

「あらやだ、随分と軽いんですのね。ご飯ちゃんと食べてますの?」

 

十数メートル先から響くその声へと涙の滲む視線を向ければ、空中で静止した瓦礫の上に立つ少女が一人。

 

紫色の髪はまるで宝石の様に美しく煌めき、引きちぎったかの様にボロボロのミニスカートの裾から覗く健康的な脚は砲弾の様な蹴りを見舞ったそれとはとても思えぬ女性らしい柔らかさと、ある種の扇情的な気配すら漂わせていた。

 

レジスタンス、そして自分。相反する不倶戴天の敵同士。其処に突如として乱入したこの少女は一切の区別なく両者を今に至るまで蹂躙し尽くしている。

 

「調子に、乗るな───!」

 

腕を伸ばし、発動させるは避ける事叶わぬ凍結。街一つを覆い尽くす程の射程距離を誇る己ならば、この距離からでも対象を凍結させる事が可能である。

 

もはや生け捕りなどと言っている場合ではない。生死を問わずに氷の内部に捕らえ、戦闘能力を確実に奪う。その後にレジスタンスを────

 

「貴女はそれに頼りすぎ。何がしたいのかすぐに分かります!」

「が、あっ……!」

 

次の瞬間、回転する視界。それが思い切り顔面を掴まれたまま、後頭部を地面に叩きつけられた故のものだと気づくのに幾許かの時間を要する。

 

これだ、この動きを捉えられない。

 

異能を発動しようとしたその瞬間、こちらの意識の先にある座標から離脱される。殺意を読み取っているのか、未来が見えているのか。しかしこれではまるで……!

 

「お前如きが、あの人の真似を───!」

「おっ?」

 

地面へと叩きつけられた体勢のまま、自身の顔面ごとその手を凍結させにかかる。この距離で自分に触れているならば外しようがない。このまま片腕を貰う!

 

しかしその確信は突如として全身を襲った浮遊感と背中へと打ち付けるように炸裂した衝撃により打ち砕かれた。

 

「うっ……!」

「がっ……!」

 

肺がその衝撃で収縮し、呼吸が出来なくなったその混乱で異能の制御を手放してしまう。捉えたはずの手は顔から離れ、自身の身体が何かに衝突した痛みに喘ぎながら何度目かの血反吐を吐き捨てる。

 

己と同じように呻き声をあげる聞き覚えのある声、そして背部に感じる気配。恐らくは自分を掴んだままに腕を振るい、奇襲を狙っていたレジスタンスの少女へと己を叩きつけたのだろう。

 

「良い、凄く良いですわ!ですがどうせならお二人で同時にいらしても良いんですのよ?」

 

感覚を確かめるように右手の手首を回しながら此方へと歩む少女。その顔に微笑を浮かべ、首の関節を鳴らすその様は正しく生粋の蛮族(バーバリアン)であった。

 

異常な身体能力。そして異能発動までの思考の間隙を縫う様に攻撃を繰り出してくる野生の勘。広域殲滅に特化した自分ではその動きを捉えられず、下手に己の異能を手当たり次第に放ってしまえばこの駅ごと凍結させてしまう。

 

そうなれば下方へと落下していった朱羽調整官を回収する事も叶わないばかりか、自分がここから離脱出来ないという羽目にもなりかねない。

 

明らかに相性の最悪な眼前の相手に歯噛みしていたその時、自分と同じく打ち据えられ倒れ伏していたレジスタンスの少女が蹌踉めきながらも震える足で立ち上がる。

 

「待って……私は、貴女を捕まえに来たんじゃない……!貴女は政府から狙われ───」

「知ったこっちゃありませんわ〜!」

「がっ───!?」

 

その瞬間、顎へとかち上げるように叩き込まれる掌底。

いっそ清々しいまでに綺麗な放物線を描きながら宙を舞う少女を他所にその下手人は高らかに拳を掲げ、高らかに告げる。

 

「もはや語るに及びません。どんな理由があろうと、それはこのひと時をやめる理由にはならない。」

「なに、を……!」

「貴女達は既に獣の道を選んだんですのよ。対話ではなく、拳にて語る道を。」

 

勢いよく背中から地面に打ち付けられた少女が、口の端から血反吐とも吐血ともつかぬ赤いものを垂れ流すのを見ながら暴君は何かを抱きしめるようにその両手を広げる。

 

「どちらも通したい“我”がある様子。ならばそれを私は尊重します。」

「ちがっ、アイツらは貴女を!」

「だまらっしゃい!」

 

その言葉を遮るように勢いよく打ち鳴らされたその手は轟音と共に荒れ狂う風を生み出し、世界を揺らす。

 

無垢であるが故に染まったその理法。彼女が無垢なままに生まれ出でたこの国で最も暗く、人が生きる事に対して最も真摯であるその無法な地で敷かれる『唯一の法』───

 

「この地にて己が我を通したいのならば!力づく(ステゴロ)ですわッ!」

 

穢れを知らぬ野生の理念。単純明快、力ある者が望む全てを手にせよ。

 

自由が奪われ全ての路を国が決定する事を代償に確固たる明日が保証されるこの理想郷で、自由なき事が日常と化しながら知識にしか無い『自由』を求めた不適合者達が流れ着く塵溜め場。

 

その生態系の頂点。人、怪異、その全ての上に立つ純粋無垢な野生の暴君。

 

千の言葉を交わした交渉なぞ、この地の流儀では無い。拳を握れ。強さを示せ。己の中より流れ出るその全てを以て、欲する物を勝ち取るべし。

 

「これが気に食わないのならばまた、力で押し通───」

「シィィッ!」

 

長々とくっちゃべっているその隙へと捩じ込むように放った蹴りによる一撃。それは当たり前のように後方へと飛び退る事で回避されるも、それは織り込みずみ。

 

「なんと!」

「チッ!」

 

足の先から瞬時に生成した氷の刃が薄く頬を掠め、紅の筋をそのきめ細やかな肌へと残す。初めて傷を負わせるも、薄皮一枚を切り裂いたのみに終わった事に舌打ちを漏らせば、少女はペロリと艶かしくその血の筋を舐めとった。

 

「素晴らしい、貴女はそういった事に抵抗が無いようですわね。」

「貴女は殺して持ち帰ることに決めました。とっとと死ね。」

「ええ、どうぞご随意に。それもまた自由ですもの。」

 

両手の先に氷の刃を作り出し、急所を氷の鎧で覆う。遠距離から異能で制圧する方法は使えない。ならば、不慣れだが近接戦闘で仕留めるしか方法はない。

 

体勢は低く、意識を研ぎ澄ませる。異能はよりコンパクトに、身体に沿わせるように……!

 

「私と貴女が戦う必要なんてない!私は貴女を保護しに───」

「貴女は自分が正義で、自分は助けに来た側だと思っている節がありますが、ここに正義はありませんわよ。正義の対極とは不正、すなわち人の敷いた法に反する事。そして此処では人の法なぞ露ほどの意味もなさない。」

 

「私は貴女の助けを必要としておりませんし、その正義に意味はありません。」

 

「此処では悪も、善も、正義も、不正も何もかもが不要!ただ欲を通すのみ!貴女が私を“保護”したいのならば、その欲を力にて遂げなさい!」

 

外野が何かを言っているが、それすらも意識から削ぎ落とす。目指すは己の理想。不要を廃し、ただ殺し突き進むだけの部品───あの人の様に。

 

己の価値を示せ。戦えない部品に、この国の役に立てない者に意味はない。ならば、己の為すべき事は一つだけ。

 

「さぁ!いらっしゃいな、お客人!此れより先に言葉は不要、我が不動の摂理にてお相手致しますわ!」

 

──────任務に忠実であれ。

 

 

 

正義を謳う者。その正義は誰の為のものか。その正義が、その大義が、そのために振り翳した力が独善ではないと誰が言えるのか。

 

部品を願う者。己の価値とはなにか。意思を捨て、思考を捨て、ただ国に奉じるそれは忠義かはたまた白痴のそれか。

 

野生を説く者。むき出しの欲望、それ故に純粋で研ぎ澄まされた摂理は美しい。弱肉強食のその摂理の果てに“弱者救済”の欲を通さんとする魔神よ、その優雅にして自由なる摂理はこの世界において大逆である。

 

 

三者三様の欲、貫くべき何か。その答えを未だ知らずとも、それでも拳は交わされる───────。

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