ディストピアゲーに転生したら行政側だった件について   作:我等の優雅なりし様を見るや?

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第三十四話 おいでよ、どん底村

『周辺の思考反応をスキャニング……反応なし。活動的な敵性存在は感知できません。』

 

俺だけに聞こえる無機質な合成音声が周囲の索敵結果を伝えるのを聞きながら、俺は生身の腕にずっしりと感じる拳銃の重みを確かめる。

 

「……レメゲトンを近接制圧形態に移行する。左腕の電磁パルスエミッターの使用はお前に任せた。」

『私の解析に不信が?』

「こんな前人未到の地下都市で穴熊こいてる連中が生肉とは思えん。機械化兵との遭遇戦を警戒しろ。」

『了解。多重武装義手【金神】の制御開始────』

 

滑らかに動く無数の機構が蠢けば、近未来的な青いラインが輝く拳銃の先に薄らと光る刃が形成される。近接戦闘において用いられるこの実体を持たない刃は何ともいやらしい事に不可視である。

 

何処ぞの超大作スペースオペラに登場するカラフルに光るビームの刃の様な可視光線によるものではなく、俺の網膜に内蔵された特殊なフィルターを介してしか認識できない光の刃である。切られた相手は死ぬ。

 

………これ、フィルター越しでも薄らとしか見えないので刃渡りを見誤る事もまぁまぁある。なので下手すると俺も死ぬ。

 

何とも言えない顔で諸刃の剣(ガチ)を見つめていれば、背後から遠慮がちに声がかけられる。

 

「えっと……誰と話してるの?」

「戦闘補助AIだ。指向性音声だからお前には聞こえないだろうが。」

「あ、そうなんだ。急に壁に話しかけ始めたからびっくりした……てっきりイマジナリーフレンドと話してるのかなって。」

 

こいつちょくちょく失礼だな。イマジナリーじゃない友達だって……と、友達だって……!居ないことも無いし!?べ、別に負けてねぇし?というかテロリストに言われたくねぇし?こっちは公務員だし?俺の方が勝ち組だし!?

 

……ディストピア国家の公務員って言うほど勝ち組か?しかもよく考えたら俺、公務員どころか備品(笑)だったわ。

 

「………。」

「え?嘘、ごめん。」

「良いから静かにしろ。お前、サイバネは入れてないな?」

 

敗北の味を噛み締めながら、俺は先程沈黙させた敵がいると思しき廃ビルの入り口をゆっくりと覗き込む。薄らと積もった埃はこの建造物に長期間人の出入りがないことを示しており、同時に此処にいた存在の正体をうっすらと暴き出しつつあった。

 

「サイバネ……義体部分は無いよ。ナノマシンも殆ど入れてないかな。一応、私一級市民の家族として中心区画に住んでたから。」

 

浄化用のナノマシンを入れなくても良いのは特権階級の証である。それはつまり、汚染区画から離れた場所に居住区画があるという事なのだから。実家が太い奴は良いよな……!

 

まぁ俺は親がこの国みたいなもんなので太さで言ったら一番太いけどな!でも直ぐに子供を労働に駆り出すあたり毒親なのは間違いない。そして特権どころか人権もない。

 

「………行くぞ。」

「ちょっと!なんで聞いたの!?怖い!」

 

ばーかばーか!お前の父ちゃん行方不明!家庭バトルでも負けて不機嫌な俺は心の中で悪態を吐きながら振り返る事なく、降り積もった埃へと一歩を踏み出した。

 

コツリ、コツリと音が反響し、内装も何もかも存在しない廃墟の中に恐らくは十数年ぶりの人の気配が満ちる。

 

「さっきの人達って、なんで此処で待ち伏せしてたんだろうね。貴方は政府の人で、私はレジスタンス。どっちも狙うなんて──────」

「“人達”ではない。床を見てみろ。」

 

素早く左右を見渡し、機械仕掛けの義足による滑る様な歩行で滑らかに周囲のクリアリングを行いながら、俺は銃を持たぬ手で足元を指差す。

 

「俺達以外の足跡がない。ここ数年はこの建物に誰かが入った痕跡はないという事だ。“上”から侵入した事も考えられるが、この建物には屋上が存在しない。」

「……待って、じゃあさっきの人達は……?」

「人達では無いと言っているだろう。」

 

スーツの胸ポケットから取り出した球体を放れば、一人でにコロコロと転がり、埃に一直線の轍を刻む偵察用の小型デバイス。

 

瞬く間に眼前から姿を消し、このビルの一階部分のより詳細な索敵を開始したデバイスに内蔵された各種センサーが、敵影無しの確証を送信して来たのを確認しながら俺は作成された見取り図に従いエスカレーターを目指す。

 

「もしかして怖い話しようとしてる?」

「馬鹿、相手は生身の人間じゃないって事だ。サイバネですらない。恐らくは─────」

 

かつてはエスカレーターだった階段を登れば、一フロアを丸々ぶち抜いた殺風景な大部屋の中にその答えはあった。

 

割れた窓ガラスの前で大の字に横たわり、胸部に大穴を開けて横たわる人間の形をした“物体”。床には縦横無尽に駆け回った痕跡たる摩擦の後が刻まれ、見渡せば同じ様な残骸がいずれも窓の近くで事切れている。

 

()()()()()()()()、それが敵の正体だ。」

 

強固だった胸を覆うプレートは叩き込まれた液体金属の弾丸が炸裂したことにより打ち砕かれ、無骨な四肢は弾き飛ばされた時の衝撃であらぬ方向へと折れ曲がっていた。

 

角ばった身体の中で唯一、流線型のフォルムを持つ頭部は半ば崩壊し、一つの光学センサーがかろうじて赤く点滅しており、胸の傷口の内部から露出させた配線は微かなスパークを発生させ、この殺人兵器が未だ継戦の意思を持っている事を示している。

 

パァン──────

 

乾いた音と共に腕に伝わる衝撃が、その意思を打ち砕く。顔面へと撃ち込まれた弾丸は今度こそ傀儡の兵士の仮初の命を奪い、真なる静寂をこのフロアに齎した。

 

「機械の、人間!?」

「クローンの方が安上がりだから今はあまり見ないがな。」

 

大戦中に開発された機械化兵は、生身の兵士では遂行できない任務を果たす存在としてもてはやされたが、日本により開発されたデザインベイビー……まぁ、俺の様に完全に兵士として調整されたクローンの台頭により淘汰された。

 

機械化した兵士を一人作るのと同じ値段でクローン兵を100人は生成できるともなればそりゃ淘汰されるというもの。

 

それでも大戦末期頃までは実戦運用されていたらしいが……。

 

そんな事を考えながら、俺は崩れ落ちた金属の体を足でひっくり返し、背面に刻まれた摩耗したシリアルコードへと目の焦点を合わせる。

 

「解析開始。こいつもどうせアメリカ……合衆国(ステイツ)の遺産だろう。いや、連合王国(ブリテン)の可能性もあるのか。」

 

摩耗したシリアルコードをAIが復元している進捗状況を示すバーが視界の右下に現れたのを確認しながら、先程目撃したホワイトハウスに斜めにブッ刺さるビッグベンという摩訶不思議にして理解の範疇の外にある映像を思い出していると、背後で指の先で破壊された機械兵の頭を突いていた春音が不思議そうに声を上げる。

 

「さっきも言ってたそのステ……捨て犬?ってなんなの?何かの隠語?」

「大戦前の大国だ。歴史の授業で習わなかったのか?もしやお前、劣等生……」

「違うっ!というか、学校に歴史の授業なんてないよ!そもそも大戦前の歴史についての情報なんて殆どないし!」

 

何やら喚いているのを聞き流しながら、俺は進捗状況を表していたバーが復元完了を示す青色へと変化したのを目線によるクリックで確認する。

 

さて、この時代遅れの人形の生産元は紅茶中毒(ブリカス)か、糖質中毒(ヤンキー)か─────

 

【復元完了:生産元・共産主義連合】

 

「………なんだと?」

「聞いてる!?私、法律のテストはクラスで……」

「静かにしろ。お前はレジスタンスに所属してる時点で法律をダース単位で破っている。」

「なっ、なっ!」

 

共産主義連合。それは日本に近い東アジア、ユーラシア大陸の北部、中東諸国にヨーロッパの一部の国々が参画していた超巨大連邦であり、大戦において日本に一度は上陸するものの、その後に組織的に戦線に投入された異能行使者により敗北した“亡国”の名だ。

 

待て、待て待て待て。じゃあ何か?ここは敗戦国のパーティ会場だとでも?どちらかと言えば残念反省会って感じだろうが。

 

いやいや、そんなことを言ってる場合ではない。どう考えてもおかしい。歴史の闇に消えた亡国がなんで今更新宿の地下で───────

 

その瞬間、割れた窓の外で何かが光った。その正体を確認しようとする暇もなく流れ込んできた赫赫たる業火が俺の肉体を包み込む。

 

それは、全てを焼き尽くすという形容すら生温く感じられる程の灼熱の業火。ガラスが融解する様を水分が蒸発していく眼球で見つめながら、俺は数少ない残された皮膚が火傷により引き攣る激痛と共に意識を手放すのだった。

 

 

 

「聞いてる!?私、法律の─────わっ、何!?」

 

聞き覚えのあるその声が聞こえたその瞬間、俺は春音が纏うバトルドレスの襟首を勢いよく引っ掴み脇目も振らずに走り出した。

 

何が起こったのか、そんな事を確かめる意味はない。何よりも優先すべきは前回の死因を回避する事である。

 

すぐ近くのコンクリートの壁へと義手を叩きつけ、粉砕すると共に無理やりに外へとその身を弾き出したその瞬間、先程まで俺達がいた場所が紅蓮の業火に包まれるのを横目に春音の体を空中で抱き寄せる。

 

2階からの落下。死にはしないが、生身ならば骨折の可能性がある。俺がこの場で優先すべきはこいつ(春音)を死なせない事であり、それならばこれが確実な方法だ。

 

回転する視界、声にならない声で何かを喚く春音の声、そして身体に走る衝撃。元より軍用の肉体、骨折こそないがめちゃくちゃ痛い。脱いだら打撲とか凄いと思う。己の肉体をクッションとしながらゴロゴロと回転しながら抱き抱えていた春音へと視線を向ける。

 

「無事か?」

「私は無事!ありがとう!でも一言事前に言ってくれると嬉しい!」

「保証しかねる。それよりも……。」

 

炎の熱ゆえか顔を真っ赤にしながら叫ぶ春音に目立った外傷はない。それを見て一安心しながらも、俺は廃ビルの一角を巨大な殺人コンロへと変貌させた下手人へと手にした銃を向ける。

 

炎により発生した気流に炎よりも赤い髪を巻き上げながら、羽ばたくは業火の翼。万物を燃やし尽くさんとばかりに爛々と輝く紅玉の如き瞳は殺意に満ち満ちており、どう見ても対話は可能ではない。

 

すらりとした少女らしい肉体を包むは灰色の薄汚れた拘束服。動きを阻害するためのそれはしかし、腕と足の部分が焼き切られておりそこから覗く色白の素足と腕は艶かしく、この状況でなければある種の官能的な美を湛えていたことだろう。

 

「…………。」

 

感情の色のない瞳をこちらへと向ける少女。薄暗かったこの都市は今や燃え盛る炎の光輝に満ち、光と熱が全てを舐め回す。

 

上空に羽ばたく複数の炎の翼。一つ、二つ……いや、五つ。同じ服装に同じ顔、同じ炎を纏いながら羽ばたく不死鳥達は、やはり同じ殺意を此方へと向けながら悠然と空に立つ。

 

「さっきの人形……?」

「いいや、奴等は能力までは模倣しない筈だ。これは………。」

 

よく見知った最強の異能行使者たる赫羽焔、そのそっくりさん達がこれまたそっくりな異能を携えながら、明確な殺意と共に此方へと叩きつけるのを見ながら俺は遥か地上にいるはずの己の上司へと心の中で怨嗟の声を響かせた。

 

 

六つ子なんて聞いてねぇぞ、ツインテ不死鳥!!!!!

 

 




どん底村の住人

①赤い思想が作り上げた機械兵士。末期戦に大量投入された。
②赤い炎に包まれた誰かのそっくりさん。どこかで魔神がてへぺろ!と笑っている。大体こいつのせい。
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