あの日の恋心ともう一度君に出会えるなら   作:南雲悠介

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プロローグ〜君にまた会うことができたなら〜

 二〇〇七年三月

 

 **

 

「──今日で卒業か。三年間なんてあっという間だったなあ」

 

 卒業式──それぞれが高校生活に夢と希望を抱いて中学生活最後を迎える日。三月という日が来る度にどこか哀愁漂う雰囲気を感じ取り寂しい気持ちが湧いて来る。

 そんな日に僕は誰もいない茜色に染まる校舎を一人見上げていた。

 

 校庭には生徒は誰もいない、静かな風が別れを運んでくるんだけど、僕は自然とその状況を受け入れていた、水色に染まる空は何も言わずにこれからこの場所を去る僕を最後まで見送ってくれた。

 

「さてと、もうそろそろ帰ろうか」

 午前中に卒業式が終わってから教室でクラスメイトや先生がさよならの挨拶をする、僕も仲が良かった友達と握手をして彼らを送り出した。

 校門を潜って保護者の車に乗って帰る友達を見送りながら僕は母さんに「一人で帰るから」とだけ伝えて卒業証書と荷物だけを車に積んでもらい学校に残った。

 

「結局、僕の気持ちを咲希ちゃんに伝えることできなかったな……。何の為に“この時代”に来たんだろうな。これじゃあ『あの頃』と同じじゃないか」

 小学生の頃からの片思いをしていた子──彼女とは進路は別々で同じ高校へは進学しない。だから、今日が彼女と会える最後の日だったんだ。

 自分の気持ちを咲希ちゃんに言えなかったのは後悔が残る。どうせ会えるのは今日が最後なのだから言っても良かったんじゃないか? 

 

「恋」をする事に臆病になっていたのかもしれない。もしも、言えたのなら咲希ちゃんはどんな返事をするんだろうなあ。夕暮れの校庭で僕は一人考えていた。家に帰ろうと決めたはずなのに足がなかなか動かない。

 

 もう話すきっかけも彼女の顔を見る機会も無くなる、そんな今が名残惜しいのかな? 

 

「やれやれ、これは校門に行くまでちょっと時間がかかりそうだ」

 

 もう一時間くらい経ったかもしれない。ようやく気持ちの整理がついた僕は後ろを振り返り自分の足で地面を蹴って校門へ向かう。もう振り返る事はないだろう。

 

 ──さようなら、僕の”恋“心の片隅に残る違和感を無理矢理に奥にしまい込んでやっと出口の三メートルくらいの位置まで来ると──

 

「──待って! ……君」

 誰かに呼ばれる声が聞こえた、たった今振り返らないと決心したばかりなのに僕は条件反射で後ろを見た。

 

「……行かないで」

 僕の前には息を切らした咲希ちゃんが乱れた呼吸を整えていた。

 

「咲希ちゃん? どうして今学校にいるの。とっくに家に帰ったはずじゃ」

「私、ずっと探してたんだよ? 校舎の中にもいないし、色んなところを駆け巡って探したんだよ? そうしたら校庭にあなたの姿を見たから急いで来たの」

 走り回っていたのか息を大きく吐いて深呼吸する彼女の様子を見ながら奥底に仕舞い込んだ感情が湧き上がって来るのがわかる。

 

「あのっ! 私どうしても浩之君に言わないといけないことがあるんです」

 咲希ちゃんの言葉に耳を傾けようとした瞬間! 僕の体は金色の粒子を放ちながら消え始める。

 

「どうやら時間がきちゃったみたいだね。ごめん、咲希ちゃん……」

「えっ……!?」

 目の前で起こる出来事を彼女は受け入れられていない。それもそうだ。いきなり人間が消え始めたら誰だって戸惑うだろう。

 

「この時代に僕がいれるのも残りわずかなんだ」

 

 僕の体膝の辺りまで消え始める。咲希ちゃんは動揺してパチパチ瞬きをする、それで僕の体に触れようと手を伸ばすもその手はするりと体を通り抜け空気を掴む。

 

「い、嫌……行かないで! 浩之君」

「こればっかりは僕にはどうすることもできないんだ。元々そういう約束だったからね」

「──約束?」

「ああ、それを君に言ったとしても多分簡単には受け入れることは難しいと思うよ」

 

 もう腰の辺りまで消えかかっている僕の体──この時代に来て、やるべき事は全てやったつもりだ。心残りがあるとすればそれは──

 ──最後に咲希ちゃんに「好き」だと言えなかった事、それに尽きる。

 別れる時、彼女の泣き顔を見たくなくて僕は視線を地面へ向ける。

 咲希ちゃんは今どんな顔をしてるのかな? 僕の為に泣いてくれるのだろうか? あれ? おかしいな? この時代に未練なんてないはずなのになー。

 何故だろう心が満たされていない気がするんだ。

 ついに僕の体は胸から上だけになってしまう……。もうすぐに消えてこの場所からいなくなる。

 最後に一言「また会えるなら」それだけをこの時代に残して僕の体はキラキラとした金色の粒子に包まれながら消えるのだった。

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