あの日の恋心ともう一度君に出会えるなら   作:南雲悠介

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2.「事象の因子が刻み込まれる」

 二〇〇七年 六月十二日

 

「これはどうなってるんだ」

 ポスターに載っている日付──それは二〇二二年ではなく十年以上も前のものだ。

 周りの建物からしても今の時代よりも古い時代に建てられたものだというのはすぐにわかった。

 頭の中がこんがらがって来たぞ……。僕は昨日仕事が終わった後、部屋のベッドで寝たはずだ。

 それなのに今の状況には違和感しか覚えない店の外に置かれておりガラスに映る自分の姿は大人のままだということだ。

 ここが本当に二〇〇七年なのかも疑わしいけど、確かめる手段を探さなくちゃいけない。

「何か探し物ですか?」

 店先から若い女の人が出てくる──僕が店の前でポスターを眺めながら考えている容姿を見に気になって声をかけて来たんだろう。

 

「ああいえ……。すみませんが今は西暦何年か教えてもらえませんか?」

「今ですか? 今年は二〇〇七年ですよ。さっきあなたが見ていたポスターにもそう書かれているはずですよ」

 女の人はポスターを指差しながら答える。僕はお店の人に一枚もらい歩きながら状況を整理する。

 

 家で寝てたはずなのに奇妙な出来事に会ってしまった。二〇二二年から二〇〇七年にタイムスリップするなんて事が現実にあり得るのか? 

 どこかのSF小説で読んだことのある事象が間近に起こっているのだからなかなか気持ちが落ち着かない。

 

 そもそも時代に僕が使っているスマホは充電できるんだろうか? 充電が切れると面倒だな……。何故だか知らないけどポケットにはいつもの充電用のアダプターとケーブルが入っていた。

 コンセントさえあれば充電できそうだ。スマホのホーム画面にお気に入りの壁紙が表示されるけど、文字化けしている箇所は相変わらずか。

 

 この町は僕が昔住んでいた町なんだろうか? 子どもの頃の記憶をたどりながらベンチに座る。丁度さっき通ってきた学校が見える位置だ。

 丁度下校時間らしい。自転車に乗った中学生が横を通り過ぎる。スマホを見ながらベンチに寝転んでぼんやりしていると人の気配を感じたので起き上がる。

 

「……あの、お兄さん。なにをしているんですか?」

「は?」

 どこかで聞いた声僕不機嫌そうに返事してスマホをポケットにしまい込んで体を起こした。

 

「君は──」

 

 頭に? マークを浮かべながら僕の顔を見つめる彼女──そうだ、この子はー。咲希ちゃん、僕の初恋の人だ。彼女の顔を忘れることはない。雰囲気だってあの頃のままだ。

 黒い瞳が僕を捉える。ポニーテールの髪がゆらりと揺れてふんわりとした女の子のいい匂いが鼻腔をくすぐる。

 丁度部活が終わったところだろうか? 咲希ちゃんは体操服姿だった。

 

「ああ、ごめんね。ちょっと君の顔が僕の知り合いに似てたからついつい見いちゃってね」

「そうなんですか?」

 同級生に敬語を使われるなんて変な気分だなあ。けれど、彼女にとって今の僕は年上の男の人にしか見えないんだろう。

 咲希ちゃんは僕の隣に座ると肩に欠けているバッグを下ろしてタオルを取り出した。

 そういえば、彼女は中学時代は卓球部だったっけ? カバンの中から部活のウェアが見えたから徐々に思い出せた。

 

「お兄さんはお仕事は良いんですか?」

「ちょっと訳ありでね……。今は仕事どころじゃないんだ。君は中学生? この近くの学校に通っているのかな?」

 なんていう事を聞いたけど年頃の女の子に尋ねるなんて下手したら変質者に間違われかねない……。

 

「あたしは中学生です。ほら、今座っているこのベンチから校舎が見えますよね? あの学校なんですよ」

 初対面の男性を怖がる事なく答えてくれる。そうだ、昔から咲希ちゃんはこういう子だ、人当たりが良くて優しくていつも周りに癒しをくれるそんな子。だから僕も彼女を好きになったんだ。

 

「お兄さん何を触っていたんですか? ゲーム?」

「ああ、これね。何か知りたい?」

 彼女は興味津々に僕のスマホを指差す。そうか、この時代では当然スマホなんて普及していないはずだから珍しいんだろう。

 

「これはね、最先端のケータイだよ。実はあまり人に見せちゃダメなんだけど、君には特別に触らせてあげる」

 スマホを渡すと咲希ちゃんは興味深そうに画面を触る──そして、その度に目を輝かせてリアクションをとる、感動しているようだ。

 

「すごーい! お兄さん新しい携帯持ってるんですねー。いいなあ、あたしもこれほしいかも……」

「まだ売ってないんじゃないかな?」

「えっ? どういうことですか?」

「さっきも言ったけどこの携帯は最先端の技術が使われているからまだ試作段階で端末が市場に出回るような状況じゃないんだよ、僕は特別に一台貰ったけどこれが発売になるのはまだまだずっと先じゃないかなあ」

「お兄さんって実はすごい人?」

「ははは、そうかもね」

 なんて笑って見せたけど二〇二二年では至って普通の生活をしているだけだ。彼女に見栄をはるようなプライドはない。

 

「あ、そうだ。あたし咲希って言います!」

(うん、知ってる)

「お兄さんとお話しするの楽しいです。もしも。また会えたら今度はお兄さんの事聞かせてくださいね」

「うん。いいよ、じゃあ、とっておきの情報をキミだけに教えるね。もう時期キミの周りでとても良い出来事が起こるから」

「それ本当ですか?」

「ああ、七月にキミが卓球部を引退した後にわかるよ」

「え?」

 僕はそれだけ伝えると立ち上がって彼女の元を去る──これからどこに行くかはわからないけど、とりあえずどこかに潜伏してじっくりと考えようと思う。

 後は振り返らない。もう咲希ちゃんはいないだろうからね。

 

「……あの人、どうしてあたしが卓球部だって知ってるの?」

 

 無数に分かれる事象の因果律に一つの因子が刻み込まれた。現在、未来、過去は巻き戻ることは決してできない、だってそれは木の根の様に分岐する事象の一因でしかないのだから。

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