朝日が照らすピカピカのトレーナ室、パイプ椅子に腰を掛けながら、ゆったりと温かいお茶を飲み干した。
この春からトレーナーになった新人とは言え、流石天下の中央トレセン、待遇はしっかりしている。
椅子を立ち、スーツを羽織い、新調した靴を履く。鏡にはトレーナーバッジの反射光が目立っていた。寝起きにしては割とキマっている気がして満足である。
常備されている時計は午前7時43分くらいを指していた。が、職場が目と鼻の先にあるおかげで、余裕はかなりある。
今日からウマ娘のスカウト期間、及び選抜レースが始まるということなので、適当な散歩も兼ねて、その辺の神社に願掛けに行くことにした。
とはいえ神仏の類いにあまり興味が無かったもので、礼法すらもあやふやなのだけれど何故か今日は気が向いたのだ。
そこそこの神社にしては立派な大鳥居をくぐって、やけに段数の多い階段を登る。
ウマ娘のトレーニングにも使えるようにとのなのだろうが、
生身の人間には幾らか辛いものがある。
ああ、無駄に意気込んでスーツなんか着てこなければ良かった。
のっそのっそと歩を進めて、登り終えたらもうヘトヘトだ。
登った先で、本殿、舗装された道路の先には先客が立っていた。噂さをすればなんとやら、茶髪の個性的な髪型をしたウマ娘だ。
手を合わせ何かを祈っていたようだが、私が歩く音に気が付いて、即座に振り返った。
しかし、こちらを向けばもっと個性的だった。目の中には目立つ色でしいたけ模様が描かれていて、見るだけで騒がしいほどの元気さが伝わってくる。そして何より
「も、もしやアナタが…!貴方が私の運命の人ですか!?」
首を絞められたような声。と気が狂ったとしか思えない言動。どうした急に。
「うわーい!やったー!!シラオキ様のお告げは正しかったんですねー!!!」
何故か分からないが勝手に1人で喜んでいる、本当に心配になってくる。
と言うかシラオキ様って何だ。
「ああっ!待って下さい!せめて話だけでも!」
…恐らくはトレセン学園の生徒なのだろう。
若干身を引きながらも、流石にスルーは可哀想なので聴いてあげることくらいはしてあげようと思った。
「…」
「実は私、シラオキ様からお告げをもらいまして!今日の朝この神社で祈れば、トレーナーバッジをつけたソウルメイト。つまり!一緒にトゥインクルシリーズを駆け抜ける運命の人と出会えるでしょう!と!」
「新興宗教?」
「だから違いますってぇ!!」
どう考えても怪しいウマ娘にしか見えないのだが…
「つまり、要約しますと!あなたは、シラオキ様によって導かれた運命のトレーナーさんなのです!」
「それなら人選ミスじゃないか?俺はあくまで新人トレーナーだよ。そんな技量も才能もあるはずがないだろう。」
「そんなことはありませんっ!だってシラオキ様がそう言っているのですから!!」
「と言うか、そのシラオキ様ってどういうものなの?そこまで偉いというのか。」
「それはもう!シラオキ様は、私の夢の中に出てきてお告げをしてくれる、素晴らしい神様なのです!!シラオキ様の言うことに間違いなんてあるはずが無いのです!」
この子は、本当に大丈夫なのだろうか。
別の意味で放っておいてはいけなそうだ。
「…うん、分かった。とりあえずはね。
でも、シラオキ様に言われただけじゃ俺が君のトレーナーになる資格は無い。正式にスカウトするには一旦選抜レースを抜ける必要があるからさ。」
「うーん…正論ですね…それはそうなんですけど…。」
今度は一転、人格が変わったかのように落ち込んだ。どうやら感情の起伏がとても激しいようだ。
「君が選抜レースで結果を残せば良いだけじゃないか。」
「いやあ…お恥ずかしながら…そこにはちょっと自信が無くてですね…。」
…さっきの自信はどこに行ったんだ?
「…まあ、ともかく、名前を教えてもらわないと何も始まらないだろう。」
「あっ、ハイッ! 私はマチカネフクキタルです!!」
とりあえずメモに取っておこうか。
しかし、なんとも心配なウマ娘である。
頑張って更新します。