「選抜レースの日、すなわち明日の朝、学園から最も近い神社で祈りを捧げよ。さすればそれを合図とし、トゥインクルシリーズを共に駆け抜ける運命の人が現れるであろう。」
あんなに嫌だった選抜レースの日だと言うのに、気分は上々、昨日の鬱屈とした世界は嘘のように澄み、晴れ上がっていました。
シラオキ様のお告げは全くその通りであって、私が祈りを捧げ終わった直後に、後ろにはトレーナーバッジをつけた人がやってきたのです。
話しかけたらかなり引かれてしまいましたが…
でも!シラオキ様のことも一応信じて貰えたようですし。何より今、観客席に座って私のレースを待っています。
「ハウディ、フクキタル!調子は良さそうデスネ!」
「もちろんですとも!今日の私にはシラオキ様が付いていますから!」
「シラオキ様…?…まあ、元気であれば、うん、良かったデス!という事は、今日のレースはフクキタルが勝っちゃいマスカね?」
「いやぁ…それは…どうでしょう…。」
「さっきまでの自信はどこに行ったんデスカ。」
でも、それはそれとしてレースは怖い。
だって相手は早くも世代のマイル王者と言われているタイキさんだ。
事前の練習で走りを見たけど、マイルレースで彼女に勝つことが出来るとは思えない。
それに、なによりレース前の占いが驚く程奮わなかった、気分に反して、曇天の大凶だったから…
「フクキタル、調子はどう?」
「やっぱりダメかもしれませんね…。」
「さっきまでの自信はどこにいったの…。」
人並み、いやウマ並みを掻き分けてやってきたのはスズカさんだ、この後の中距離レースに出るらしいが、私たちを応援しようと少し早めに来てくれたらしい。
期待に応えられる走りが出来るか不安だ。
「まあ、フクキタルらしいと言えばそうかもしれないけれども。」
「あはは…。」
◇ ◇ ◇
そうやって他愛もない会話をしていると時間は思うより早く進むもので、気付けばずらっと並ぶゲートが、目の前にある。
「それじゃあ行ってきますねスズカさん!」
「ええ、タイキも頑張ってね。」
「もちろんデース!」
スズカさんに遠く手を降って、軽く自分の胸を撫で下ろした。周りではもうすでにタイキさんを含んだ色々なウマ娘が準備運動を始めている。
大丈夫、シラオキ様が付いているから。
なるように走ればきっと、道は開けるはず。
そう自分の頭に言い聞かせて、不安を晴らそうとしているが、それでも、どうにも、駄目だ。
ああ、こういう時、お姉ちゃんならどうするのだろう…?いいや、寧ろ圧倒的すぎるあまりに不安すらも感じないのかもしれない。
私とは格が違うから…
…大丈夫。シラオキ様も、それに今の私には運命の人もいるのですから。
「「各ウマ娘、出走の準備が整いました。」」
狭苦しいゲートで、体勢を整えた。
ーーーーー
ーーー
ー
「ああ、あのウマ娘かな?」
今か今かとレースが始まろうとする直前で、やっと彼女を見つけることができた。
始まる前はあんなに騒がしかったのに、いざとなると途端に影が薄くなって見失ってしまう。やっとこちらに向いてくれて、その椎茸のような目で見つけることが出来のだ。
準備運動をしていたウマ娘達がゲートに入りして、出走前のアナウンスが入る。
さあ、いよいよ。
「ガダッ」
大きな音を立ててゲートが開くとともに、この一瞬のみを切り取ればジェット機よりも速いであろうスピードで沢山のウマ娘が飛び出して行った。
…中でマチカネフクキタルは盛大に出遅れる。良く見たら凄く調子が悪そうだ。
目に見えて焦っている。
一方、さっき彼女と親しげに話していたタイキシャトルは、逃げ馬が居ないこともあってか一番乗りで颯爽と駆け抜けていく。
噂通りの強い走りだ。スタートだって完璧だった。
2番手から7番手までは団子になっていて。3バ身差程離れて彼女は追いすがる。
どう、考えてもここからタイキシャトルに追い付けるビジョンは見えなかった。
だが、これは恐らく実力不足と言うよりもどうにも脚質が合っていないようには見える。
どちらかというとステイヤーのような走り方をしている、長い間持続して速いスピードを保つのが苦手なようだ。
マイルレースは展開が早く、気付けばもう第三コーナーを抜けている。
先頭は依然変わらずタイキシャトルであり、さらに後続との差を大きくしていた。
フクキタルは少しペースを上げたようだが、それでも前の集団には追いつけない。
でも、体力に関してはまだそこそこ余っているように見えるし、もう少しスピードを上げれないことは無さそう。という事はきっとラストで勝負を仕掛けるつもりらしい。
とは言えど先頭との差はもう既に8バ身とあるだろう。流石に大丈夫なのか。
考える内に、そのラストスパートに差し掛かる。勿論、予想通り彼女は思いきりギアを上げた。
ーーーああ、杞憂だった。
今までずるずると付いた差が、まるでなかったかのように先頭まで3バ身、2バ身。
真ん中の集団の妨害もものともせず、ただひたすらに力強く捲る。
そして、遂に彼女はタイキシャトルに迫った。
…それまでだ。どう考えてもスパートをかける位置を間違えている。まだゴールまでは200mはあるだろう
この一瞬に全てを使い果たしたフクキタルはブレーキが掛かったかのように減速し、一気に最後尾まで転げ落ちて8着。経験不足が起こしたであろう、「着順のみ」で見るのであれば、残念な結果になってしまった。
しかし、何故だろうか、いや疑うまでもない。あんな走りを見せられて平静を保っているなんて、どう頑張ったって不可能だろう?
私はレースが終わり疲れきった顔をした彼女の元へ走った。
ひどく不安そうな顔をしていた、そんな彼女にこう、一言、言いたくて堪らなかった。
「どうか、私の担当ウマ娘にさせてはもらえないでしょうか。」
打って変わり、彼女は満面の笑みで応えた。